第147話 伝説の武器


コッ。コッ。コッ。



静寂の中。足音だけが響き渡る。



ここはクリスタル帝国ファーストだった島国。



その中心地の帝都【クリスタ】。



空は黒い靄に覆われていて、晴天なのか曇りなのかさえ分からない。



ビルや家、店などは、おぞましい『何か』に侵食されて、近代的な街並みだった帝都は見る影もなく、魔境に近い様相を見せている。



そしてその中央にある一際高く巨大なビル。



皇帝がいた建物も同じ様におぞましい形になっていた。



その最上階。




コッ。コッ。コッ。




その中を一人の美しい女性と執事の格好をした男が歩いている。



コッ。



広いフロアの中心にある、とても大きな椅子に座っている貴族の様な格好をした男の前まで来ると立ち止まる。


男の横には同じ様に執事の格好をしている男性が一人。


そして、その後ろには3mはあろうか、凶暴そうな魔物が数体待機している。



その女性は静かに言う。



「久しぶりと言った方がいいかしら?

 ・・・・・セービット。」



「・・・・・ケイト。」



全てを知っているかのような言い方でケイトはセービットに言う。



「・・・・・それで?」



セービットは遠い目をしながら話始めた。



「ケイト・・・・・私はもうどうでもよくなってしまった。・・・・・・どうでもよくなってしまったのだよ。」



「・・・・・。」



「ケイトは気づいていたと思うが、私は変わった・・・・・この星を守る使命から・・・・・愛する家族がいるこの星を守るという事に。」



「・・・・・。」



「だが・・・・・私は守る事が出来なかった。・・・・・出来なかったんだ。・・・・・私のせいで。」



「・・・・・。」



セービットは天井を見上げる。



「もう・・・・・全てがどうでもよくなってしまった。」



「それで?・・・・・この島を人が住めない様にしてしまった貴方は、これからどうしようとしているの?」



セービットは何の感情もない目でケイトを見ると言う。



「この星に対する感情はもう何もない・・・・・いや、存在自体が私にはつらいのだよ。・・・・・だから消す。・・・・・・何もかも。・・・・・そして全てが終わったら私も消えよう。」



「・・・・・そう。・・・・・貴方とはとても長い付き合いだから、決めた事を曲げない事は分かっているわ。」



ケイトは続ける。



「私はね。セービット・・・・・この星を愛しているの。」



「あぁ。知ってる。」



「私が愛したこの星を・・・・・同胞が命を懸けて作ったこの星を・・・・・消滅させはしないわ。」



セービットはケイトから視線を外し、家族の写真がおさめられているペンダントを見ながら言う。



「半年。・・・・・半年の猶予をやろう。

 それまでにケイト。戦力を揃えて・・・・・・・」








「私を殺してくれ。」








セービットは続ける。



「それが出来なかったら・・・・・私の全ての力を使ってこの星を滅ぼす。」



「・・・・・そう。もうどうにもならないのね。・・・・・分かったわ。私は私の使命をまっとうするわ。・・・・・いくわよ。ロイージェ。」



そう言うとケイトは、ロイージェの肩に優しく触ると、煙の様に消えていった。






消えたケイトを座りながら黙って見ていたセービットは、悲しそうな顔をしながら小さく呟いた。



「・・・・・ケイト・・・・・すまん。」



隣で見ていたメレンは何か言いたげだったが、ぐっとこらえ、主人の横顔を悲しそうに見守っていた。










☆☆☆










「う~ん!・・・・・水がうまい。」



皆で飲んだ次の朝。



僕は泊っている旅館の食堂で仲間と一緒に朝食をとっていた。



二日酔いの最初の一杯の水は何でこんなにも美味しいんだろう。



僕は冷たい水を一気に飲んで一息つきながら思う。



「まったく・・・・・最初に会った時から、これだけは毎回同じよね。レイって。」



隣に座っている白雪が呆れた様に言う。



・・・・・はい。ぐうの音もでません。だって好きなんだもん。お酒が。・・・・・言い訳にはならないけどね。



「で?今日はどうするの?」



アイリが同じ様に呆れながら聞く。



「ん?そうだな・・・・・。」



ノアに任せたから、もうアルバンさんとカロルは大丈夫だろう。



なら、一度家に帰って次の冒険の計画を考えよう。



でもその前に・・・・・。



僕はパンをかじりながら仲間を見て言う。



「ここにあるダンジョンは攻略したし、せっかく『娯楽の国』と呼ばれている所に来たんだ。帰る前に、皆で遊ぼうか!」



僕の言葉を聞くと、仲間達は皆、笑顔になり喜んでいる。



冒険は面白いけど、息抜きも大事だからね。



僕達は軽く朝食を済ませると、ショッピング街の区画へと喋りながら歩いて行った。










☆☆☆










「はぁ~・・・・・・疲れたね。レイ。」



「そうだな。」



僕とカイトはショッピング街の中央にある広場で座って休んでいた。



その広場の中央には噴水が出ていて、この広場を美しく見せている。



僕達の座っている周りには沢山の買い物袋が置いてあった。



カイトはため息をしながら愚痴る。



「まさか女性陣がこんなに買い物をするとは思わなかったよ。しかも・・・・・聞くと何でもレイが似合うって言うから、歯止めが効かないし。」



「ハハハハハ・・・・。」



僕は彼女達がどんどん商品を持ってきて、似合うかどうか聞いてくるので素直に答えただけだ。



まぁ、皆、元がいいから何でも似合うんだけどね。



「しかし・・・・・こんなに皆が楽しそうに買い物をしているのは、初めて見たよ。」



カイトは疲れた顔をしながらも、嬉しそうにまだ買い物を続けている女性陣を眺めて呟く。



「えっ。そうなの?」



「うん。」



・・・・・レイの存在が記憶としてなかった時は、仲間達は、ただひたすらにダンジョンに挑んでいた。そして数少ない休日は、皆で出かけるなんて事はまずなかったんだ。それが、レイが戻ってきてからは、こんなにも雰囲気が変わるなんて・・・・・やっぱり、このパーティはレイがいて初めて成り立つんだなって改めて思ったよ。



「よしレイ!僕が荷物を見ているから、皆の所へ行ってきなよ。そうしないと多分買い物が終わらないよ?」



「ハハハハハ。そうだね。・・・・・それじゃ、行ってくるよ。」



僕は重い腰をあげて立ち上がり、歩き出そうとすると声を掛けられる。



「レイ様。」



声がした方を向くと、そこには執事の格好をした男性が立っていた。


僕はその男性を見ると、自然と笑顔になって言う。



「ロイージェさん!」



僕はロイージェの所へと行くと、笑顔で握手をする。



「お久しぶりですね!ロイージェさん!」



ロイージェも笑顔で返す。



「えぇ。お久しぶりでございます。レイ様もお元気そうで何よりです。」



僕は簡単な雑談をした後に聞く。



「・・・・・所で今日はどうしたんですか?」



「はい。今日はケイト様に会って頂きたく、お伺いしました。」



「えっ?ケイトさんに?」



「はい。」



ロイージェが言うには、大事な話があるので、来てほしいとの事だった。



僕は、仲間達を見て言う。



「今は仲間達とバカンス中でして・・・・・帰ってからではダメですか?」



「すみません。すぐにお会いしたいとの事でして・・・・・転移を使って送り迎えをしますので、そんなにお時間は取らせません。」



僕は少し考えてからカイトに言う。



「カイト。選手交代だ。少しだけ外れるから、暫く彼女達に付き合ってやってくれ。」



カイトはため息をつきながら言う。



「はぁ~。あの中へ飛び込むのか・・・・・。分かった。早く戻ってきてくれよ。」



「あぁ。」



僕はカイトに皆を任せると、ロイージェの後について街の路地裏へと入って行き、そこでケイトのいる未踏破ダンジョン【名のなき孤高の城】へと転移した。










☆☆☆










空間転移すると、目の前には立派な城が目の前にあった。



「懐かしいな。」



僕は思わず呟く。



ここに来て、僕は大きく成長したと思う。



エリアスさんやアイリと親密になったのもこのダンジョンからだ。



「さぁ、レイ様。私の後へ。もう皆さん揃っております。」



「皆さん?」



他にも誰か呼んでいるのかな?



僕は周りの景色を懐かしみながらロイージェの後へとついて行った。






ロイージェは、僕を一階の奥へと案内すると、大きな扉を開ける。



入るとそこはとても広いフロアで、天井には巨大なシャンデリア。壁には様々な絵が飾られている。



そして中央の円卓には、僕の知っている人達が座っていた。



「レイさん!」



「シュバインさんじゃないですか!リンさんも!」



僕が入るのを見ると、シュバインとリンが椅子から立って、僕の方へと笑顔で近づく。



「お二人ともどうしたんですか?・・・・・貴方は・・・・・。」



「やぁ。久しぶりだね。・・・・・シュバインもそうだけど俺も呼ばれていてね。」



シュバインの隣には、同じプレイヤーの最強クラン【ヒート】のクランマスター、アッシュ=レインがいた。



「オイオイオイオイ。なんでジョアンがここに?って貴方はラフィットさんじゃないですか!!」



僕は思わず目をまるくする。



そこには世界一の殺し屋ジョアン=キングと二大犯罪ギルドの一つ【天使と悪魔】の10本指の一人、ラフィットが円卓に座っていたからだ。



ジョアンは優雅に紅茶を飲みながら片手を上げて挨拶をし、ラフィットは笑顔で会釈する。



「ハハハッ。僕もいるよ!しっかし助かったよ~!レイがいなかったら誰も知らない人達ばかりだったからなぁ~。」



突然隣に現れたクリスタル帝国【7星】の一人、そして傭兵仲間のトリック=ミリアが僕の肩に手をまわしながら嬉しそうに言う。



・・・・・何だ、このメンバーは?

関連性がまったく分からない。



皆、この世界ではトップレベルの実力者だ。

しかも、職種はバラバラ。



そんな僕を含めた7人がこの城へと招待されたのだ。



「さぁ、皆さん。ケイト様がもうすぐ来ますので、紅茶を飲みながらお座りになってお待ちください。」



ロイージェはそう言って、僕達を円卓へと座らせる。



そして僕に飲み物を出すと同時に、大きな扉が開き、ケイトが入ってくる。



ケイトはゆっくりと歩き、円卓へと近づくと、ロイージェが空いている椅子を引く。



そこに座ると僕達を見渡して笑顔で言う。




「皆さん。まずは急な私の呼び出しに応じてくれてありがとう。」



「・・・・・ここにいるのは、顔を合わせた事のない人もいますが、私も知っている有名人ばかりです。・・・・・何故私達が呼ばれたのですか?」



シュバインがケイトに聞く。



「フフ。早速質問するとは、シュバインさんは相変わらずね。・・・・・そうね、まずは先にここに集まってもらった理由をお話しします。」



ケイトは出された紅茶を一口飲むと、静かに言う。








「・・・・・この世界は、あと半年で大部分が滅びるでしょう。」










☆☆☆










ケイトは理由を説明した。




丁寧に。




前にシュバイン達が来た時に話した、この星が創られた経緯を。




同胞がずっと守っていたこの世界に裏切られ、憎しみに変わった事を。




そしてケイトとその同胞は、一人で世界を・・・・・この星を滅亡させる力がある事を。






僕を含む7人全員黙ってケイトの話を聞いていた。



ケイトが話し終わった後、シュバインが言う。



「話は分かりました。ただ、そんな強大な力を持つ者を相手に、我々が勝つ事が出来るのでしょうか。」



ケイトは再度、紅茶を一口飲んでから言う。



「仮に、この世界の国の軍隊が全て同胞に挑んだとしても勝つ事は出来ないでしょう。」



「なら、どうすれば?」



ケイトは7人全員を見渡して言う。



「私が貴方達を呼んだ意味が分かるかしら?」



「・・・・・共通点がまるでない。分かりませんね。」



ジョアンが飲んだコップをテーブルに置きながら言う。



「【伝説の武器】・・・・・と言えば分かるかしら。」



僕は最初に愛剣【WHITE SNOW】を持った時に表示された事を思い出す。



確かこう記されてあった。



・・・・・世界に7本しかない伝説の武器の1本。この剣は主と共に成長する。・・・・・と。




「・・・・・皆、気づいた様ね。そうよ。ここにいる七人はその【伝説の武器】の所有者なの。」



「それと何が関係あるのですか?」



シュバインが聞く。



「この武器はね。・・・・・唯一、私達種族を傷つける事のできる武器なの。」




この星を作り上げた同胞達から引き継いだ私達が、いつか間違いを起こさない様に。



ケイトはそんな事がない事を祈って、長い年月をかけて作り上げた7本の武器。



それが【伝説の武器】だった。



ケイトは続ける。



「ただ・・・・・あの男を倒せる確率は、貴方達が仮に一人でも到達して、立ち向かったとしても1%も満たないわ。何故なら、まだ貴方達はその武器を全て使いこなせていないから。仮に使いこなせたとしても・・・・・5%位かしらね。」




・・・・・・・・。




全員その話を聞いて静まり返っていた。



死にに行ってくれと言っている様なものだからだ。




僕が手をあげて笑顔で迷わず言う。




「ケイトさん。話は分かりました。それじゃ、僕はその人を倒しに行きますね。」




ケイトは目を見開く。




「レイ?・・・・・私の話を聞いていたの?」



「ええ。聞いてましたよ。どの道僕達の誰かが、その人の元に到達して倒さないと、この世界のほとんどが滅びてしまうんですよね?」



ケイトが説明した時に、ケイト達種族は、お互い傷つけ合う事が出来ない様になっているのだそうだ。



だから戦う事が出来ない。



ならば、破壊が始まる前に、出来るだけこの星を守る為に力を使いたいと言っていた。



その対象が、別の空間にある、天界と魔界。・・・・・そしてこの世界。現界の全体の1割位。



それが限界だそうだ。




・・・・・この世界には、妹がいる。

・・・・・そして知り合った人達が。

・・・・・・なら、迷う必要はまったくない。




隣で黙って見ていたラフィットが、笑顔で呆れた様に言う。



「相変わらずですね。ゼロ。・・・・・イール様が気に入るわけです。」



「フフフフフフ・・・・・・あ~はっはっは!・・・・・本当に面白い子ね!レイ!貴方は!・・・・・・さて、皆さんはどうするの?」








黙っていた全員が、ラフィットと同じ様に笑顔で、


呆れた様に・・・・・


肩をすくめて・・・・・・・・・頷いた。







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