第144話 ノア



「たしか、ここだよな?」



僕はスマイルスケルトン支部に行ってから、アルバンさんと待ち合わせて首都の西側に来ていた。



高台には、この間利用した温泉街があり、その他にもショッピングモールや劇場、美術館、更にはビーチリゾート施設まである。


ちなみに、スマイルスケルトン支部がある東側には、カジノを中心に、飲み屋街や娼館などがある。



僕達は西側の一角にある大きな建物の前に来ていた。



高い塀に大きな門。

そして門の周りには大柄な男達が立っている。



ここは、二大犯罪ギルドの一つ、

【天使と悪魔】の支部だ。



「あの・・・・・レイさん?ここは【天使と悪魔】の館ですが・・・・・大丈夫なのでしょうか。」



隣にいるアルバンが不安そうに言う。


まだアルバンさんには、スマイルスケルトン支部のボス、クロードとのやり取りについては話していない。



「僕がいますから大丈夫ですよ。さっ、行きましょう。」



そう言うと、アルバンと一緒に門まで歩いて、大柄の男達に言う。



「ちょっとすみません。僕はレイ・・・・・いや、ゼロといいます。ボスと会いたいんだけど時間を作ってもらえないかな?」



「あん?ゼロ?ボスに会いたいって何を言って・・・・・・!!!」



訝しげに僕を見ると、突然何かに気づいたかのように驚いた顔をする。



周りの男達も驚いている。



「あっ貴方はゼロ様!わっ分かりました!すぐにボスをお呼びしますので、応接室にてお待ちください。オイ!すぐにこちらの御方を案内するんだ!」



そう言うと男は門を開けて館の方へと走っていった。



残りの男達の一人が僕達を館の方へと案内する。



「【天使と悪魔】の館にアポイントなしで入れるなんて・・・・・レイさん・・・・・貴方何者なんですか?」



アルバンは隣で歩きながら僕に聞く。



「ハハハ。温泉で話した通り、冒険者でいて傭兵です。それ以上でもそれ以下でもないですよ。」



「はぁ。そうですか。」



ニコニコしている僕を見て、アルバンは何か煮え切らない顔をしながら黙って付いてくる。



しかし、とても大きな庭だ。


館まで相当距離があった。



僕達は、館に入り、広い応接室まで案内されると、出された紅茶を飲みながらボスが来るのを待っていた。



しかし・・・・・ずっと思っていたのだが、この世界にはコーヒーはないのか?


こちらの世界に来て、まだコーヒーを味わった事がない。


ないとしたら、同じ様に地球から来た生産系のプレイヤー達が何とか作ってくれないだろうか。


後でシュバインさんに聞いてみよ。



そんな事を考えていると、応接室のドアが開き、一人の男が入って来た。



「げっ。」



反射的に僕は声を出した。



その男は声を出した僕を見かけると、一気に僕に向かって走ってダイブした。



「ゼロちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!

久しぶりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!

会いたかったわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



僕に抱きつくと、僕の頬に自分の頬をくっつけて、スリスリする。・・・・・ひげがジョリジョリしてて痛い。



「ちょっ、ちょっと待て!」



アルバンは、隣で男に抱きつかれて頬をスリスリされている僕を見ながら唖然としている。



強引に引きはがしながら言う。



「何でノアがここにいるんだよ?ずっと本部にいただろ!」



するとノアは嬉しそうに言う。



「そうなのよぉ~。私もずっとイーサ様のお傍にいたかったんだけどね。ここは重要拠点だからって、信頼するノアに任せたいって。だから泣く泣く来たのよぉ~!」



・・・・・イーサ。前に、いつも絡んでくるから疲れるって言ってたな。自分は静かな方が好きだって言ってたし・・・・・ノアがいると周りも明るくなるからいいけど

騒がしいからなぁ~・・・・・



うん。しょうがない。



「あら。ゼロちゃん?何か変な事考えてない?」



「えっ?いっいや?全然考えてないよ?」



相変わらず鋭いな!



長いソファーに座っている僕の横で、僕の手を握りながらノアは言う。



「で?どうしたの?私がいるのは知らなかったみたいだし、それでゼロちゃんがここに訪ねに来るなんて、何か余程の事かしら?」



「いやいやいやいや。まずは、隣じゃなくて正面に移動しなさい。ちゃんと話せないでしょ!」



「え~!久しぶりにゼロちゃんと会ったんだから、もっとくっついていたいのに~!プンプン!・・・・・しかも、エメちゃんは居ないようだし!」



いたいのに~じゃない!



【天使と悪魔】の本部で会った時から、仲良くしてくれるのはいいけど・・・・・僕はいたってノーマルだ。・・・・・その趣味はないから!


いつもはエメがある程度防いでくれていたけど、今はストッパーがいないからグイグイくるな!



「まぁまぁ。この後、夜に皆で飲みに行く予定だから、一緒に来るかい?ここの生活も聞きたいし、久しぶりに飲もうよ。」



そう言うと、ノアは笑顔で飛び跳ねる。



「ほんと?行く!行くわぁ!」



「よし。んじゃ、正面に移動して話を聞いてくれ。」



「分かったわ!・・・・・あっ、貴方達。お客様に紅茶のおかわりをお願いね!」



やっと僕から離れて正面に移動したノアは、僕達に気遣い、部下に紅茶を注ぐ様に指示をする。



「さて、話を聞きましょうか。」



「ああ。実は・・・・・・」



僕は、アルバンさんと、スマイルスケルトンの事を話した。






☆☆☆






「そう。そんな事があったのね。・・・・・しかし、相変わらずねぇ~ゼロちゃんは。」



話を聞いたノアは、紅茶を飲みながら笑顔で言う。



同時に、とても驚いていたのは隣にいたアルバンだった。



「ゼロさん!スマイルスケルトンの所へ一人で行っていたのですか?しかも、まだ1,000万G以上あった借金を500万Gにして肩代わりするなんて・・・・・。」



僕はノアに言う。



「ノア。僕は冒険者であって傭兵だ。ここに居る事は出来ないから、悪いけど500万Gの徴収はお願いできるかな。後、アルバンさんと娘の保護もお願いしたい。」



「ウフフフフフ・・・・・ア~ハッハッ!本当にゼロちゃんは遠慮がないわよね。・・・・・でもそういう所が、す・き・よ♡ ウフッ。」




ゾクッ。




背筋がゾクッとした。



「ハハハハ。了解してくれたという事でいいかな?」



ノアは肩をすくめて言う。



「ええ。うちのボスの唯一のお友達ですもの。断ったらイールに何を言われるか分かったもんじゃないわ。まぁ、そうじゃなくても貴方なら個人的に助けるわよ。」



「ありがとう。」



僕はノアに笑顔でお礼を言うと、アルバンの方を向いて言う。



「アルバンさん。500万Gです。利息は取りません。期間も無期限です。返せる時にここに返しに来てください。だから・・・・・そんなに無理をしないで、カロルちゃんの事も見てあげてください。・・・・・ね?」



アルバンは目を大きく見開くと、ソファーから立ち上がり、床に頭を擦りつけて泣きながら叫ぶ。



「レイさん!本当に・・・・・本当にありがとうございます!こんなに親切にして頂いて・・・・・私はどうお返ししたらいいか・・・・・うぅぅぅぅぅっ。」



「アルバンさん。頭を上げてください。僕が勝手にした事です。お返しなんかいりませんよ。でもそうですね・・・・・今後僕が遊びに来た時には、カロルちゃんにもっと可愛い服を着せてやってください。」



「はっはい!・・・・・もうカロルには、絶対につらい思いをさせません!」



僕はアルバンの震えた肩に手をやると優しく言う。



「ええ。お願いしますね。・・・・・さて、話も終わった事だし飲みに行きますか!皆との待ち合わせの場所に行きましょう!」



「あっ!ゼロちゃん!私も用事を済ませたら絶対行くから!場所だけ教えて頂戴。」



「はいはい。」



僕はノアに、飲み会の場所を教えると、アルバンさんと一緒に【天使と悪魔】の館から出ていった。










☆☆☆










「かんぱ~い!!!」



僕は乾杯をすると一気にエールを飲み干す。



「かぁぁぁぁぁ!やっぱり旨いな!」



ここは飲み屋街の中心にある【桜亭】。



案内所のスタッフにさりげなくお金を渡して、美味しく飲める場所を聞いたら、喜んでおすすめの場所を教えてくれ、更には予約までしてくれた。



お金の力はやっぱりすげぇな。



ここは首都【ミレミアム】の中でも5本の指に入る程、美味しい料理とお酒を堪能できるらしい。


一般の人は、事前に予約をしないと入れない所だ。



円卓には、アイリとキリア、アルバンさんの4人で先に飲んでいる。



まだ来ていない白雪達は、カロルちゃんに服を買ってあげたくて、服屋によってから来るらしい。



よかよか。とてもいいことだ。



先にアイリ達が来たのは、僕を待たせない様に、ジャンケンで決めたとの事。



気にしないで、皆で行ってくればよかったのに。



ホント、仲間想いでいい奴らだよ。



「しかし・・・・飲めるようになったんだねぇ。キリアも。」



僕の右隣でキリアは両手でエールの入ったグラスを持ってクピクピ飲んでいる。



「おう・・・・・もう大人の仲間入り。」



胸を張りながらえばっている。



それでも小さいから何か可愛いな。



「あら。この料理にワインは合うわね。」



僕の左隣で上品に赤ワインを飲みながら料理を堪能しているアイリ。



「ハハハッ!レイさんは羨ましいですね。とても美しくて可愛らしい女性に囲まれて・・・・・両手に華ですねぇ!」



円卓の僕の対面にいるアルバンさんが楽しそうに、お酒を飲みながら言う。



これから来る仲間やカロルちゃんやノアが座れるほどの大きな円卓だ。



離れて飲めばいいのに、何故か僕の両隣りを占領しているキリアとアイリ。



アルバンさんだけ離れていて、何か申し訳ないような気がするのは僕の気のせいか?



「ハハハ。そうなんですよ。僕は普通の男で、格好も良くないのに、仲間には恵まれていまして・・・・・ありがたい事です。」



すると、クピクピ飲んでいたキリアがじっと僕を見て言う。



「・・・・・分かってない。」



「そうね。」



アイリが同意する。




何が????




「あん~?この店に似合わない男どもがいるなぁ~。」



僕が思わず二人にツッコミを入れようと声を出そうとすると、離れた所からドスの効いた男の声がした。



声のした方を見ると、そこにはアルバンと出会った時に絡んでいた数人の男達だった。・・・・・その中には、リーダーっぽい男はいない。



その男達はズカズカと僕達の方へとやってくる。



賑やかだった店内も、いつの間にか静まり返っている。



一人の男がアルバンの方へと近づくと胸倉を掴んで立たせて言う。



「おいアルバン!てめぇ、金を返せないのに何こんな豪勢な所にいやがるんだぁ?」



「やめろ。」



僕は座りながら静かに言う。



「これ以上、アルバンさんに何かしたら、僕も我慢できないよ?・・・・・元に座らせろ。」



胸倉を掴んだ男は、気迫におされたのか、黙って、アルバンを元の椅子に座らせる。



僕はそれを見て続ける。



「ねぇ。ここはお酒と食事を楽しむ場だ。少しは控えてくれると助かるんだけど。」




ドンッ!




すると、他の数人の男達が僕の座っている後ろに立つと、いきなり僕の頭を掴んで、テーブルへ押し込む。



「ハッハッハァ~!ここはなぁ!俺達スマイルスケルトンの縄張りだ!だからなぁ~、俺達は全て顔パスなわけよ!分かるか?」



「・・・・・。」



「しっかしお前、綺麗な女達を連れてるなぁ~。どうだ?こんなダサい奴置いといて、俺達と遊びに行かねぇか?贅沢させてやるぜぇ~。」



「・・・・・やめろ。」



頭をテーブルに押さえられていた男の腕を掴むと、強く握りながら言う。



「グッ。てってめぇ。放せや!」



掴んでた腕を男は強引に離す。




キリアを見ると、ヤバい・・・・・今にも魔法をぶっ放しそうだ。



アイリは下を向きながら薄ら笑いをしている。・・・・・あっ。これもかなりヤバそう。



これは、早めにお引き取りしてもらわないと死人が出るな。




「あのさ。アルバンさんの件は、君達のボス。クロードさんと話がついているんだ。それなのに、僕達に絡むのはマズいんじゃないかな?」



男達はクロードの名前が出ると、驚いて顔を見合わせる。



すると、一人の男が僕の胸倉を掴んで言う。



「おい。てめぇ。うちのボスの名前をだせば、引き下がるとでも思ってんのか?てめぇみたいな三下、このお嬢さん方には似合わねぇんだよ!」



胸倉を掴んだまま、座っている僕をそのまま床へと投げ飛ばす。




ドンッ!




「あてっ。」




床に倒れた僕を、見下ろしながら言う。




「てめぇは、とっとと消えろ。・・・・・ペッ。」




僕に唾を吐きかけた瞬間だった。




その男の片腕が、突然鋭利な刃物で斬られ、宙に飛んだ。




自分の腕が床に落ちるのを茫然と眺めていた男が我に返り叫ぶ。




「がぁぁぁぁぁぁぁ!おっ俺の腕が・・・・・俺の腕がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



「何をやってるの?」



僕が起き上がろうとした背後に、白雪がとても冷たい目をしながら双剣の一本を握って立っていた。



「・・・・・じゃまだよ。お前。」




ドンッッッッッッッッ!!!




ラフィンはもう一人の男の体に蹴りと入れると、九の字になって壁へと吹き飛んだ。



いつもニコニコしているラフィンも、目がキレている。




はぁ~・・・・・キリアとアイリが暴走しない様に注意してたのに、まさかこのタイミングで白雪達が来るとは。




僕はため息をつきながら立ち上がる。



「てっ、てめぇ!こんな事してただですむと思ってんのか?」



斬られた男と、吹き飛んだ男を助けながら、男達は僕に言う。



「すむと思うわよぉ~。むしろ貴方達が危ないかもねぇ~。」



男達は入口の方を向くと、そこにはノアが立っていた。



「おっお前は!!!・・・・・チッ!・・・・・行くぞ!」



「あっ、ちょっと待ってよ。・・・・・キリア。アイリ。」



僕は、白雪に腕を斬られた男を治してあげようと、二人の方を向くと、そっぽを向いている。




オイオイ、君達。




気づくと、すでに男達は逃げる様に去っていった。



「ハァ~・・・・・。」



僕はもう一度ため息をつく。



アルバンさんの件があったから、正直、穏便に済ませたかった。



だから僕は抵抗しなかったし、キリアとアイリにも目で合図をして止めていた。



僕は立ち上がると、白雪とラフィンに苦笑いをしながら言う。



「白雪。ラフィン。もうちょっと、雰囲気をよんで欲しかったなぁ~。」



白雪は真っすぐに僕を見て言う。



「レイ・・・・・ごめんなさい。貴方があんな輩に倒される事はないのは分かっているわ。でもね・・・・・私も、ラフィンも、どうしようもないの。・・・・・貴方のあんな姿を見て我慢なんて出来るわけがないわ。最初からいて分かっていれば、キリアやアイリの様に我慢できたのかもしれないけど。」



すると、ノアがその様子を見ながら言う。



「フフフ。ゼロちゃん。素敵な仲間達ねぇ。大丈夫よ。貴方が心配する様な事は起きないわ。・・・・・逆に彼らが心配ね。・・・・・ささ!皆さん!もう大丈夫よ!私、【天使と悪魔】のノアが保証するわ!」



そう言うと、静まり返った店内は、安堵の空気が漂い、元の雰囲気へと戻っていった。



その雰囲気を確認すると、ノアは僕に言う。



「さぁゼロちゃん。邪魔が入ったけど、飲みましょう!」



白雪が言う。



「念の為に、外で待機しているエメとカイトとカロルちゃんを呼んでくるわ。」



・・・・・彼らの動向がちょっと気になったけど、ノアが大丈夫と言うなら大丈夫なのだろう。白雪やラフィンも僕を想っての事だしな。・・・・・切り替えるか。



「よし!これで全員揃った事だし、思いっきり楽しんで、飲んで食べようか!」



全員集まった皆と宴会が始まった。










☆☆☆










「ボス!すみませんでした!知らなかったとはいえ、部下に勝手な行動をとらせたのは俺の責任です!」



スマイルスケルトン第一支部の玄関ホールで、膝を付いて構成員のリーダーがクロードに謝罪している。


その後ろには、回復魔法で止血はしたが片腕がなくなっている男や、その他の男達が同じ様に膝を付いて頭を垂れている。


ゼロに絡んで、その仲間に返り討ちにあった報告をボスにしている所だった。




「・・・・・・・。」



クロードは沈黙していた。



「あの・・・・・ボス?」



「・・・・・・・・・・・。」




ピーーーーーーーーン・・・・・・・・・・・・




「あ・・・・・・・?」




ドシャッッッッッッッッッ!!!




血が舞い。肉片が床に落ちる。




何が起きたのか。




クロードの前で跪いていたリーダーを含む構成員達は、一瞬にしてバラバラにされていた。



近くにいる側近の内の一人の腕も切り落とされている。



「グッ・・・・。」



腕を切り落とされた側近にクロードは言う。



「手をだすなと命令したそばからこれか?」



「すみません。すぐに通達を出しましたが、末端まで行き届かなかった様です。」



「・・・・・まぁいい。相手には傷を負わせてないと言っていたからな。だが・・・・・二度はないぞ?すぐに回復師に腕を繋げてもらえ。」



「・・・・・ハッ。」



そう言うと、側近は斬られた腕を持ってその場を後にする。



隣で黙って見ていたナンバー2のディオンは思う。



・・・・・相変わらず戦慄を覚えるな・・・・・剣など持ってない。ずっと隣で見ているが、クロード様の攻撃手法が全く分からない。


しかも非情な御方だ。一瞬で部下をバラバラにするとは・・・・・




「ボス。報告があります。」



ディオンはクロードに近づき耳打ちをする。



「何?・・・・・・・そうか。」



報告を聞き、暫く考えると、クロードは呟く。



「・・・・・我々も招集がかかるかもしれないな。デュオン。いつでも構成員を動けるように準備をしろ。それと・・・・・目の前の死体を綺麗にしておけ。」



そう言うと、クロードは自分の部屋へと戻って行った。










☆☆☆










「うぅぅぅぅぅぅぅん!相変わらずここの料理とお酒は旨いわねぇ~!ゼロちゃん。よくこのお店知ってたわねぇ。」



ノアが美味しそうにお酒を飲んでいる。・・・・・僕の左隣で。



「ああ。たまたま運が良かっただけだよ。」



同じ様に飲みながら、僕は小さなため息をつく。



右隣の席にいたキリアは、後から来た仲間にも絶対に譲らない顔で威嚇して、今も嬉しそうに僕の隣で飲んでいる。



左隣にいたアイリは、わがままを言わずに席を空けると、同時に、白雪とノアの争奪戦が始まったのだ。



「ノアと言ったわね!ちょっと貴方邪魔・・・・・こんなむさくるしい男が隣にいてもレイが美味しく飲めないでしょ!」



「ちょっと~!貴方、白雪と言ったわね!貴方は仲間でずっと一緒にいられるんでしょ!隣ぐらい私に譲りなさい!」



お互いの顔を掴んで言い合う姿は・・・・・凄かった。



結局、時間交代で話がついて今はノアが僕の隣にいるのだ。



まったく。何をやっているんだか。



「ムグムグムグ・・・・・レイお兄ちゃん!僕はね!大きくなったらレイお兄ちゃんのお嫁さんになってあげる!」



僕の膝の上で座って、一緒に食べているカロルが楽しそうに言う。



僕はカロルの頭を優しく撫でながら言う。



「そうかぁ~。お嫁さんかぁ~。それは嬉しいな。でもね、周りのお姉ちゃん達の視線が痛いから、そう言う事は、僕と二人だけで言ってね。」




子供相手に、そんな目を向けるのはやめなさい。




数時間前の静けさが嘘の様に、店内は賑わいで活気に満ちている。



目の前で一生懸命、美味しそうに食べているカロルを見ながら僕は言う。



「まぁ、これでアルバンさんの件も落ち着いたし、良かった、良かった。」



白雪はちょっと呆れた顔で僕に言う。



「まったく・・・・・すぐに人助けするんだから・・・・・レイが強いのは分かるけど、せめて私達がいる時にしてもらいたいわ。・・・・・・でも、そんな貴方だから好きなんだけどね。」



最後の方は小声で僕の方まで聞こえない。



間にいるノアは嬉しそうに言う。



「ムフフフフ~♪今は私のターンよぉ~♪ささ、ゼロちゃん。飲みましょう。まだまだ夜は長いわよぉ~♪」



隣にいるノアが僕のジョッキにエールを注ぐ。



「ハハハ。そうだな。今日はトコトンいくか!」



気持ちよく飲もうとすると、いつも間に現れたのか、一人の女性が、座って飲んでいるノアと僕の間に屈んで、ノアに話をする。



「ノア様。緊急の報告があります。」



「あら。ペレニスじゃない。・・・・・何かしら?」



「重要な報告なので・・・・・・。」



ペレニスは、僕の方を見ながら言う。



「いいのよぉ~。彼はゼロちゃんだから。気にしないで報告して頂戴。」



「あっ貴方が・・・・・そうですか。分かりました。」



そう言うとペレニスは続ける。



「先程、本部より連絡がありました。・・・・・・あの、国を拡大しているクリスタル帝国ですが・・・・・・」










「その帝都がある『クリスタル帝国ファースト』が・・・・・・・」










「滅びました。」













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