第142話 娯楽の国


「おっし!出来たぞ~。

 その名も【ザ・カレー】だ!

 ア~ンド、サラダとスープもどうぞ!」



夜。



新しいダンジョンの10層まで来ていた僕達は、木の下でキャンプ中だ。


このダンジョンはとても不思議な空間で、すべての階層に空があった。


そして、普通に夕方になり、夜になるのだ。



ダンジョン中の食事は、僕がいない時、だいたい白雪が担当していたらしい。


しかし今回は、白雪には休んでもらって、僕が久しぶりにキャンプ飯を作ってみた。



久しぶりの冒険だし、無性にカレーが食いたかったんだよな!



「何じゃこれは!ムグムグムグ・・・・・こりゃ病みつきになるのぉ!・・・・・おいレイ!おかわりじゃ!」



エメがもの凄い早さでカレーをおかわりしている。



「相変わらずの大食漢だなぁ。まだまだいっぱいあるからゆっくり食べなよ。」



そうエメに言いながら僕も食べるが・・・・・うん。旨い。やっぱりカレーはこのシチュエーションだと最強だな。



「モグモグモグ・・・・・レイの料理久しぶり。・・・・・旨い。」



キリアが黙々と食べながら言う。



「最初の時もそうだったけど、レイはホントに料理がうまいよね。冒険中は白雪が作ってくれてたけど、この味はレイじゃないと出せないよね。・・・・・あっ!白雪のが不味いってわけじゃないよ!」



アイリが焦ってフォローを入れる。



「フフ。気にしてないよ。でも・・・・・本当に久しぶり。・・・・・美味しい。」



白雪が笑顔で言う。



ラフィンとカイトはエメと同じ様に夢中になってガツガツ食っている。



君達。フードファイトしているんじゃないんだよ?



でも、僕の料理を美味しそうに食べてくれるのはやっぱり嬉しいな。



皆の食べているのを笑顔で見ていて、気づいたら沢山あったルーが半分以下になっている。



「オイオイオイオイ!ちょっと待て!俺まだそんなに食ってないし!あっ!負けるかぁぁぁぁぁぁ!」



エメ達が異常な早さでおかわりをしている所に僕も参戦する。



エメやラフィンの顔を押さえて僕の皿にカレーを入れる・・・・・まさに戦場だ!



それを見ていた白雪が優しい顔で言う。



「・・・・・良かった。本当に楽しそう。」



「そうね。」



アイリが隣で同意する。




へーリック君が亡くなってからずっとつらそうにしていたレイ。



そんな彼を私は見守る事しかできなかった。



でも彼は乗り越えた。



悲しみを。




「・・・・・少しでも力になれたかな。」



白雪は呟く。



「白雪?何言ってるの?彼が元気になったのは、貴方が寄り添っていたからじゃない。・・・・・もちろん私も元気づけようとしたけどね。」



・・・・・おそらく、ずっと白雪は彼がいて欲しい時にいたと思う。じゃなきゃ、あんなに思いを彼は吐き出さないもの。・・・・・私もまだまだね。



「まったく・・・・・・ちょっと妬けちゃうわ。」



アイリは小声で呟く。



「ん?何か言った?」



「何も言ってないわ!さっ、私も少し貰おうかな。スープがまだ残ってるといいんだけど。」



そう言うとアイリは、焚火の上で温めている鍋の方へと歩く。



「フフ・・・・・アイリ待って!私も!」



それを見ながら、何か吹っ切れたのか、白雪も笑顔でアイリの後について行った。










☆☆☆










ゆっくりと食事を楽しみ、仮眠をとった僕達は、

11階層に降り立った。



「ん?・・・・・ここが最後かな?」



先頭の僕が周りを見て呟く。



毎回とても広い階層だったが、各層に降りると、遠い所に必ず大きな門が見えていたのだ。


そこを通ると、次の階層へと繋がっていた。


しかし、この階層には、そういった大きな門が遠くを見渡してもなかった。



という事は、ここが最終層ということだ。



今までの魔物はそこそこ強かった。



おそらくS級でも結構苦戦するだろう。



「さて皆行こうか!ここが最下層みたいだ。気合入れて行くぞ!」



「「「「「 オー! 」」」」」



僕達は歩みを進める。



最下層は、とても広い石畳の空間だった。所々に巨大な石柱が建っている。そして、その石柱のさらに先には一体の甲冑を着た騎士が立っていた。



4mはあろうか。とても大きな騎士だ。



両手で地に刺さっている一本の巨大な剣を持って佇んでいる。



「あれがボスっぽいな。しかしでかいな。・・・・・ん?」



そのボスに向かって歩いていると、石柱の影から2m程の甲冑を着た騎士が続々と現れた。



そして僕達の進む道を阻む。



「ふ~ん。簡単にはボスまで行かせてくれないみたいだね。さて・・・・・」



僕は、両側に一列に並んだ仲間に言う。




「行こうか!」




ダンッッッッッッッッ!!!




言った瞬間。




ラフィンが騎士に向かって一気に距離を詰める。



そのスピードに合わせて騎士の一刀。



それの一刀をジャンプして躱すと、そのまま回転しながら強烈な蹴りを騎士の顔面に入れる。




ドンッッッッッッ!!!




その衝撃で、2mある騎士の体が後ろの騎士を巻き込みながら吹き飛ぶ。




ピシュン・・・・・・




他の2体の騎士がラフィンに向かって攻撃をしかけようと動くと同時に、頑丈そうな甲冑の首が飛んだ。



「私相手によそ見してちゃだめよ?」



両手に白い双剣を握ったまま白雪が言う。




ザンッッッッッッッッッ!!!




白雪の横から現れたエメが自分より長い長剣を振り、騎士を真っ二つにする。



「フム。中々硬いのぉ。少しは手ごたえがありそうじゃな。」




ドドドドドドドドドドドドド!!!!!!




同時に、キリアとカイトが後方にいる騎士達に向かって魔法や弓を放つ。



その魔法の爆撃で、後方は辺り一面煙が舞った。




すると、その煙から一人の青年が現れ、他の騎士達には目もくれず、一直線にボスへと駆けた。



4m程ある巨大な騎士は地に刺さっている剣をゆっくりと抜くと、駆けてくる青年に向かって大きく振りかぶる。




「勝負!!!」




僕は巨大な騎士に叫ぶと、一気に距離を詰める。



それに合わせて巨大な剣の横薙ぎの一刀。



横から斬られる寸前にスライディングしながら躱す。




「うほっ!あぶねぇ・・・・・なぁ!!!」



ギィィィィィィィン!!!



そのまま懐に飛び込んで、足を斬りつける。・・・・・が甲冑は斬れたが、中までは剣が届かない。



「硬っ!!!」




伝説の剣『WHITE SNOW』の切れ味は凄い。


今までは防具に関係なくダメージを与えていたのに、一回で届かないなんて初めてだ。



ならば・・・・・。



僕の剣が青白く光りを放つ。



ボスは薙ぎ払った剣をそのまま反転して斜め上から一刀。



同時に僕は、その大剣に自分の剣を合わせて受け流しながら前に出た。




ギギギギギギギギギギギギギギィィィィィ!!!!




「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」




ギィィィィィィィン!!!



そのままボスの胴へ一刀。



だが、やはり甲冑は斬れるがダメージを与えられてない。



するとボスの銀の甲冑がみるみるうちに黒くなっていった。


同じ様に大剣も黒くなる。



僕はその間少しだけ距離を取ると言う。



「鎧を傷つけられて、本気を出す気になったのかな?」



ボスは黒く染まった大剣を両手で持って上段の構えから僕の脳天へ一気に振り下ろす。




ドンッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!




僕はその強烈な一刀を自分の剣で真正面から受け止める。



その圧力で、床が耐えきれず、僕の両足ごと沈む。




シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・・・




衝撃で煙が舞う・・・・・が、ボスの大剣を僕の白く美しい剣が折れずに受け止めていた。



僕は受け止めながら言う。




「はっ!やっぱり冒険はこうでなくちゃね!・・・・・でも、お前の相手は僕だけじゃないんだよ?・・・・・僕達はパーティだからねぇ!!!」




「ハァッ!」



ドドンッ!!!!



防いでいる僕の前に素早く入り込むと、ラフィンが大剣を握っている両腕にジャンプしながら掌底を入れる。



その衝撃で、ボスの大剣は持ったまま上段の構えへと引き戻される。




キィン!キィン!キィン!キィン!キィン!キィン!キィン!キィン!キィン!


キィン!キィン!キィン!キィン!キィン!キィン!キィン!キィン!キィン!


キィン!キィン!キィン!キィン!キィン!キィン!キィン!キィン!キィン!


キィン!キィン!キィン!キィン!キィン!キィン!キィン!キィン!キィン!



それと同時に、白雪が、目にも止まらぬ速さでボスの体中を斬り刻む。




ドドドドドドドドッッ!!!!!!!




そして間髪入れず、ボスの顔面へと爆裂魔法が放たれる。



ボスはたまらず一歩後ろへと下がると、同時に、白雪とラフィンはボスから距離を取った。



正面にいる僕が上段の構えをしてすでにモーションを取っている。



握られた愛剣は、青白く光り輝いている。





「大・・・・斬!!!!」




ザンッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!





縦一本の巨大な青白い斬撃が飛んだ。



その青白い斬撃は、防ごうとした巨大な剣をもろともせず、そのまま4mある巨大な騎士を切り裂き、後方にある柱を巻き込みながら消えていった。




ズズンッッッッッッッ!!!!




斬られた巨大な騎士は、そのまま地に倒れる。



僕は倒れたボスを見て、剣を鞘に納めた。



後ろを見ると、エメとカイトとアイリが、ボス以外の魔物を殲滅して自慢気に胸を張っている。




「ハハッ!・・・・・よし!終わったな!それじゃ、アイテムを回収して帰ろうか!」




僕は満足気な笑顔で皆に言った。









☆☆☆










「おぉ~・・・・・こりゃすごいな!」



新ダンジョンの帰り。



夜の街並みを見て僕は言う。



ここは、娯楽の国と呼ばれている国『ミレー』。



その首都【ミレミアム】。



世界中の娯楽という娯楽を集めたこの首都は、カジノやショッピングモール、舞台や温泉施設、はたまた娼館など


様々な娯楽施設がこの広大な街に建てられていた。


皆、行ってきた人々は満足して帰って来て噂する為、それが世界中に広まり、一度は行ってみたい国と言われている。


しかし人気の為か、世界中から来る観光客を制限する為に、特別なチケットが必要だった。


そのチケットを買い求める人が多い為、価格は跳ね上がり、普通ではなかなか手に入らない代物となっている。


その為、この国を旅行するのは一種のステータスでもあった。



そして僕達はこの人気の国に初めて来ていた。



なぜなら、この国『ミレー』に今回攻略した新ダンジョンがあったからだ。



人数分のチケットは・・・・・まぁ~困った時に頼りになる彼女に頼んだんだけどね!



そのダンジョンを攻略し、首都【ミレミアム】にある冒険者協会に報酬をもらう為に来ていた。



もうすっかり夜になってしまったが、首都の街並みは、宝石の様に光り輝き、夜とは思えない程明るかった。




「・・・・・東京とは比べ物にならないな。まるで光の街だ。」



思わず地球にいた時の感想を呟く。



「これからどうするの?」



隣で歩いている白雪が聞く。



「ん?そうだね。とりあえず、冒険の疲れをとってから、美味しい店でも行って祝勝会を開こう。僕とカイトで冒険者協会へ行って報酬をもらってくるから先に女性陣は温泉に行っててよ。入り終わったら、玄関で集合しよう。」



数日間、お風呂に入ってなかったから女性陣はとても喜んでいる。



僕もこの世界へ来てから大分慣れたが、転移前は毎日入るのが習慣だったので、流石に気持ち悪い。



女性の方がお風呂は長いだろうから丁度いいだろう。



女性陣と別れて僕とカイトは冒険者協会へと歩いて行った。










☆☆☆










「結構、報酬多かったね!」



「だな。」



カイトが喜んでいる。



達成した報酬もそうだが、少しだけ売って様子を見たドロップアイテムや素材が思ったよりもかなり高額で売れたのだ。



後で専属契約しているイーサさんに持っていこう。



「やっぱり、新ダンジョンで新しい物が手に入ったのがでかい・・・・・・ん?」



僕はカイトに話をしながら温泉に向かって歩いていると、建物の間の脇道に目がいった。



そこには、数人の屈強な男が、子連れの男性の胸倉を掴んで、壁に押しやっている。



近くにいる女の子は、男性の足にしがみついていた。



「おい、アルバン。約束の日に金を払えないたぁどういう事だ?」



「待ってくれ!ちゃんと必要なお金は払っているだろう。ただ、利息が高すぎて・・・・・その分だけ少し待ってくれないか?」



「あのなぁ。俺達は善意で金を貸してんじゃねぇんだよ。お前の女房が借りた金だ。返せねぇんなら、そのガキを預かるしかねぇなぁ~。」



そう言うと、他の男がニヤニヤしながら足にしがみついている女の子に近づく。



「お父ちゃん!」



「やめてくれ!頼む!」



男性は体を壁に押し付けられていて身動きが出来ない。



その男が女の子に触ろうとした瞬間。




ドンッッッ!




男はあっという間に、数メートル吹き飛ぶ。



そして、男性の胸倉を掴んでいる男の腕を握って僕は言う。




「ちょっと目に余るね。」



「グッ・・・・・・てめぇ何者だ?」



腕を話したその男は、数歩後ろへと下がると言う。



「ただの通りすがりさ。見てしまったんでね。悪いんだけど、いなくなってくれないかなぁ。」



すると後ろにいる数人の男達が言う。



「ああん?こんな事して分かってんのか?俺達は【スマイルスケルトン】だぞ!」



「だから?」



「てめぇ!!」



「・・・・・やめとけ。・・・・・行くぞ。」



「えっ?でも・・・・・。」



「行くぞ!!・・・・・お前・・・・顔を覚えたからな。」



そう言うと、その男達は去っていった。










☆☆☆










「兄貴・・・・・さっきはどうしたんですか?素直に引き下がるなんて。」



「あぁ?」



兄貴と呼ばれた男は、歩きながら掴まれた腕を見て言う。



「掴まれた腕がまだ痺れてやがる。・・・・・あいつ、ただもんじゃねぇぞ。・・・・・・すぐに頭に報告だ。」



苦虫を嚙み潰したような顔をしながら、子分を従えて、【スマイルスケルトン】第一支部へと戻って行った。













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