最終章
第140話 真実
宇宙。
真っ暗な闇の中に光り輝く青々とした星が一つ。
それを不思議な空間で椅子に座って見下ろしている一人の女性とその後ろに立っている執事の格好をした男性が一人。
「フフフ。いつ見ても美しい星ね。」
紅茶を飲みながらケイトは呟く。
「ケイト様。紅茶のおかわりはどうですか?」
後ろにいるロイージェが紅茶を淹れたポットを差し出す。
「ええ。頂こうかしら。・・・・・しかし、早速、セービットが連れてきた者達がこの世界を荒そうとするとはね。気性が荒いとはよく言ったものだわ。」
ロイージェが紅茶を注ぎながら笑顔で話しかける。
「またレイ殿が活躍しましたね。」
「そうなの!本当にあの子は見ていて飽きないわ!」
シュン。
ケイトが嬉しそうにロイージェと話をしていると、空間の壁が開き、二人の男が入ってきた。
「何か楽しそうな話をしているな。」
一人の男が歩きながらケイトに話しかけると、そのまま向かいの椅子に腰かける。
もう一人の男は黙って、その後ろへと立つと、ロイージェと同じ様に、紅茶を座っている男に差し出す。
「あら、セービット。お帰りなさい。今回は長かったわね。・・・・・それでどうだった?」
「ああ。念の為、もう一度全てを見てまわったが、やはり私がこの間転移させた者達が、最後の【生き残り】だったな。」
「そう。それじゃ、私達の【目的の一つ】はちゃんと達成したという事ね。」
セービットは、後ろにいる執事の格好をしているメレンから差し出された紅茶を飲みながら言う。
「そうなるな・・・・・フゥ。本当に長かった。これで私も荷がおりるよ。」
「フフフ。ご苦労様。私が動けないから、貴方には負担をかなりかけさせてしまったものね。」
「フッ。しょうがないさ。ケイトはケイト。私は私の役割があるからな。
・・・・・しかし、これで私の役目も終わった。あとは任せていいのだな?」
「ええ。任せて頂戴。」
ケイトは笑顔で続ける。
「貴方は、私と違ってこの世界に【家族】をもっているものね♪」
「・・・・・ほとんど家に帰れなかったからな。【目的】とはいえ、妻と息子には迷惑をかけてしまった。
これからは迷惑をかけた分、少しづつ罪滅ぼしをしていくよ。」
「フフッ。貴方がこの世界で【家族】を作るなんてね。・・・・・最初に聞いた時は私も驚いたわ。貴方の息子さんは桁外れの実力者になっているんじゃないの?
何て言ったって、貴方の血が半分流れているんですから。・・・・・ねぇ、世界を股にかける商人のセービット=ファウストさん♪」
「ハハッ。からかうのはやめてくれ。だが、家族がいるのは悪くはないぞ。その分この使命も、愛着が湧くというものさ。」
セービットはそう言うと、紅茶を飲みほして立ち上がる。
「あら。もう帰るの?」
「あぁ。今回は全てを周ったおかげで、一年以上家を空けてしまった。早く家族の顔を見たいのでね。」
「そう。」
ケイトも立ち上がると、セービットと握手をする。
「セービット。長い間ご苦労様。後は私に任せて、これからは自分の為に生きて頂戴。」
「ありがとう、ケイト。私は残りの役目、【現界】を管理しながら家族と共にゆっくり過ごすとするよ。」
セービットはそう言うと、握った手を離し、メレンを連れて不思議な空間から出ようとすると、思い出した様に振り返り話す。
「そうそう。何者かがケイトの城に向かっているが、私が排除しておこうか?」
「いいえ。その者達は私のお客様よ。貴方はそのまま帰ってくれていいわ。」
「そうか?なら、さよならだ。まぁ、たまには様子を見に顔を出す。・・・・・では。」
そう言うと、空間からセービット達は出ていった。
暫く、この空間に静寂が包む。
「・・・・・行ってしまわれましたね。」
ロイージェが呟く。
「ええ・・・・・さぁ、私達は、お客様を迎え入れる準備でもしましょうか。」
そう言うと、ケイトは同じ様に空間から出て行く。
その後をロイージェがついて出て行くと、その誰もいなくなった空間は消滅した。
☆☆☆
「・・・・・くるぞ!」
シュバインが叫ぶ。
ドンッッッッッッッッ!
眼は赤く光り、甲冑を付け、お面をした数体の侍が一気に距離をつめる。
「ちっ!くらえ!!」
アークスのメンバー、クランドが魔法を唱え、雷撃を侍めがけて落とす。
しかし、その雷撃を侍は素早く躱し、その内の一体が、クランドに近づき一刀を入れる。
ザンッ!!
「グッ!」
すぐに右に避けたが、躱しきれず、右肩を斬られる。
「グランド!・・・・・貴様!」
すぐにその一体に同じメンバーのビレッジが炎の矢を放つ。・・・・・が、それさえもグランドを斬りつけた侍は躱す。
「なっ!」
そして、すかさず、その侍はビレッジや他のメンバーがいる所へと距離をつめる。
同時に、他の侍たちも後に続く。
「・・・・・【二の盾】。」
ギィンギィィィィィィィン!!!
一瞬でメンバーと侍の間に入ったシュバインは盾で皆を守る。
「マスター!」
「シュバインさん!」
同時に、副クランマスターのリンが負傷したグランドを助けに行く。
「・・・・・ここまでですね。」
シュバインは盾で防ぎながら呟く。
危険指定を受けている未踏破ダンジョン。
【名もなき孤高の城】
レイさんをクリスタル帝国に侵入させる為に混合軍として参加した後、すぐに私は動いた。
アークスのベストメンバーを揃え、考えうる計画を全て練って万全の態勢で臨んだつもりだった。
しかし・・・・・それでもこのダンジョンの魔物は予想していたよりも遥かに強い。
今現在、皆、負傷している。
負傷していないのは、私とリンだけだ。
・・・・・アークスのメンバーでは、ここまでが限界の様ですね。・・・・・でも、中腹までこれました。十分でしょう。
シュバインは後ろにいるメンバーに言う。
「皆さん!残念ですがここまでです!これ以上進むと誰か死傷者が出る可能性が高い。私とリンは残って魔物を防ぎます。その間に、皆さんは下山をしてクランハウスへ戻ってください!
私達は寄る所がありますので後からクランハウスへ戻ります。ビレッジ。皆の先導をお願いしますよ。」
「了解した!・・・・・シュバイン、後は任せた。皆!撤退するぞ!」
そう言うとビレッジは、アークスのメンバーを連れてその場を後にした。
「・・・・・行きましたか?リン。」
「はい。もう視界には入りませんので、かなり離れたかと。」
「そうですか。・・・・・それでは、呼んでください。」
シュバインは侍達を防ぎながら言う。
リンは頷き、何かを唱えると、黒い空間が出来上がる。
すると、そこから三人の男女が現れた。
先頭の帽子を深くかぶり、ベストを着て紳士の様な格好をしている男が周りを見渡した後、頂上にある城を見て言う。
「さて、ボス。久しぶりに私をここに呼んだのは、あの城かな?」
「・・・・・ええ。ジョアン。よく分かりましたね。貴方達も是非、一緒に連れて行きたいと思いましてね。ただ・・・・・魔物がかなり強い。
このままだど、我々でも厳しいでしょう。皆、力を開放して行きますよ。」
「そうなの?ボスが言うならそうなんでしょうね。それじゃ、久々に解放しようかしら。」
そう言うと、ミッシェルは指輪を外す。
それを見た、ジョアン、バルバッサ、リンも外す。
そして、ボスと呼ばれた魔物の侍達を防いでいるシュバインも。
ゴォッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!
その五人の周りからオーラがほとばしる。
ピシュン・・・・・・
瞬間。
シュバインに攻撃を仕掛けていた数体の侍達の体が切り刻まれバラバラに地に落ちる。
「貴方の鎌は相変わらず凄い切れ味ね。ジョアン。」
バルバッサが楽しそうに言う。
瞬時に真っ黒い大鎌を出し、魔物を切り刻んだジョアンは伝説の武器を眺めながら言う。
「そうですねぇ。最近は暗殺でも使う相手がいませんでしたから・・・・・久しぶりに使いましたよ。やはりたまには使わないといけませんね。」
ガァァァァァァ・・・・・・・
獣や魔物の声らしきものが聞こえたかと思うと、頂上の城の方から続々と見た事のない不気味な魔物がこちらへと近づいてくる。
シュバインはその光景を見てニヤリと笑う。
「さぁ。皆さん。久しぶりの本気です。・・・・・楽しんで登って行きましょう。」
そう言うと、ボスを含む、二大犯罪ギルドの一つ。
スマイルスケルトンの最高幹部達は一斉に頂上へ向かって駆けた。
☆☆☆
「あら。急に魔物が出なくなったわね。」
ミッシェルが皆に言う。
魔物を倒しながら頂上へと着いた五人は、開かれていた城門をくぐると、ピタリと魔物が現れなくなった。
「おそらく着いた。という事でしょうか。」
シュバインは言いながら周りを見渡す。
そこは立派な城庭で、中央には大きな噴水があり、その周りには木々や所々に見た事のない美しい花が活けられている。
「さて、それでは行きましょう。」
そう言うと、城の玄関へと歩き、扉をゆっくりと開けた。
コッ。コッ。コッ。
シュバイン達が入ると、奥の方から足音が聞こえる。
全員が入口で立ち止まり、奥を見ると、執事らしいスーツを着た男がゆっくりと歩いてくる。
前まで来ると、その男が会釈をする。
「いらっしゃいませ。」
「あなたは・・・・・。」
シュバインが目を見開き呟く。
「お久しぶりでございます。シュバイン殿。さぁ、ケイト様がお待ちです。お連れの方もどうぞ。」
そう言うとロイージェは五人を先導して歩き出す。
ジョアンは歩きながらシュバインに聞く。
「ボス。・・・・・何故ここへ?おそらくここは冒険者達が行くダンジョン。しかもその中でまだ攻略されていない危険指定されている所でしょう。
我々にとってここに来るメリットが感じないのですがね。」
そう言うと、隣で一緒に歩いているシュバインは言う。
「そうですね・・・・・ねぇ、ジョアン。秘密を知りたいと思いませんか?まだ誰も知らない・・・・・この世界の真実を。」
ジョアンは少し驚いた顔をしたが、すぐに元に戻る。
「・・・・・それは面白そうですねぇ。」
そう言うと、皆黙ってロイージェの後についていった。
☆☆☆
「皆さまをお連れしました。」
「そう。入りなさい。」
ロイージェが3階の大きな扉の前でノックをして、皆を連れて中へと入る。
そこは絨毯が敷き詰められていて、壁には絵画が飾られている。そして中央に大きなテーブルがあり、そこに漆黒の長い髪と目をした美しい女性が座っている。
ロイージェはその大きなテーブルに五人を案内して座らせると、女性の横に静かに立つ。
その女性は、シュバインを見て笑顔で言う。
「久しぶりね。シュバイン博士。いや・・・・・今は、シュバインさんでいいのかしら?」
「フッ。呼び名はどちらでもいいですよ。本当にお久しぶりです。・・・・・ケイトさん。」
ケイトは他のメンバーを見て言う。
「しかし貴方もそうだけど、私の想定を超える強さをもつ者がここまでいるとは思わなかったわ。シュバイン博士。がんばったのね。」
「えぇ。私の望みを叶える為です。その為ならどんな無茶でもしますよ。」
「そう・・・・・これからはもっと強い魔物を設置しないといけないわねぇ。」
「えっ?まだ強い魔物がいるって言うの?」
ミッシェルが驚いた顔で言う。
「フフフフフ・・・・・・さて、シュバイン博士。ここへ来たのは何か目的があったのでしょう?貴方の望みが叶う物だといいけど・・・・・何かしら?」
すると、シュバインは真っすぐにケイトを見て言う。
「この世界の真実です。」
ケイトの顔がピクリと反応する。
「・・・・・と言うと?」
シュバインは続ける。
「聞きたい事は多数ありますが、大きく言うと3つ。何故、巨大な隕石が多数落ちて地球が滅ぶのを貴方は知っていたのか。何故、転移先がこの星なのか。そして・・・・・貴方は何者なのか。」
「・・・・・。」
ケイトは、ロイージェに目を向けると、ロイージェは近くにあったポットを持ち、それぞれのテーブルにあるカップに紅茶を注ぐ。
ケイトは紅茶を飲みながら言う。
「・・・・・そうね。ここまで辿り着いたご褒美として教えてもいいわ。でも条件として、私が許可を出さない限り、この話を他へ漏らすとが出来ない術を施すことになるわよ?それでもいいのかしら?」
「ええ。構いません。」
シュバインは言う。
それに合わせて、他の四人も頷く。
「そう・・・・・では、シュバイン博士。貴方のいた世界だと・・・・・星の外は【宇宙】というのかしら?その【宇宙】に私達と同じ様に生きている星はいくつあるかご存じ?」
「いえ。恥ずかしながら、我々地球の者達の技術では、まだ生命体が発見されるまで至っておりませんでした。・・・・・ただ、可能性はあるとは思っています。」
「18,952。・・・・・この宇宙で生命が活動していた星の数よ。」
「なんと。・・・・・宇宙は無限ではないのですか?」
「フフフ。私が地球で活動をしている時に知ったけど、貴方達は無限に広がっていると思っているみたいね。でも正解は、無限じゃないわ。まぁ貴方達の技術だと知る事は出来ないでしょうけどね。」
ケイトはまた一口、紅茶を飲むと続ける。
「さて。まず、話す前に結論を先に言うわ。」
「今、この宇宙で・・・・・」
「生命が活動しているのは・・・・・」
「この星のみよ。」
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