第138話 クリスタル帝国7
「皇帝。只今、エルビス様と侵入者が50階にて交戦中です。しかし、あまりにも戦闘が激しく、壁に取り付けてあるカメラが全て破壊されて現状、確認できない状態です。」
「そうか。」
ここは70階にある謁見フロア。
フロアの奥、一段高い所に皇帝の椅子があり、そこにクリスタル帝国皇帝、バルテミス=クリスタルが座って報告を聞いていた。
「まさか、あの混合軍がおとりとはな。50万もの軍隊をおとりに使うとは思い切ったものだ。オーシャンの提言でほとんどの【7星】を残しておいて正解という事か。」
クリスタル軍を混合軍に向けさせて、少数での帝都襲撃。・・・・・しかもたった五人。
通常なら、襲撃に来ても成功するなど到底ありえない。
軍を向かわせて手薄だとしても、帝都の防備は堅い。
さらに、最高戦力の【7星】の五名がいる。
数十万の軍隊が来たとしても防ぐことが出来るだろう。
だが、その一人が皇帝のいる巨大ビルに侵入し、精鋭部隊と【7星】の一人を倒し、今、【7星】の中でも最強のエルビスと戦っている。
「・・・・・ゼロと言ったか。」
バルテミスは呟く。
この世界の有名な傭兵。
そして、要塞都市を壊滅させた者。
「あまく見ていた様だ。まさかエルビス並みの実力者がこの世界にいようとはな・・・・・。して、現状の防衛はどうなっている?」
「ハッ!各フロアに皇帝直属の部隊を配置しております!」
「そうか。・・・・・まぁエルビスは流石に抜けまい。だが、【7星】がいない事を想定して今後はもっと防備を厚くするのだ。」
「ハハッ。」
皇帝は大臣に指示を出していると、謁見フロアの扉が静かに開いた。
皆が入口の方を見ると、七人の男女が入ってくる。
その先頭には珍しい銀の髪をした青年。
スクリーンで見た男だった。
「貴様は・・・・・。」
バルテミスは目を見開き呟くと同時に、歩いている青年は言う。
「白雪。」
「眠りの精。」
ドドッ。
周りの大臣達と衛兵達が一斉に倒れた。
青年はそのまま王座に座っている皇帝へと近づき言う。
「お初にお目にかかります、バルテミス皇帝。僕は【シルバーアイ】のゼロと言います。・・・・・何故、ここに来たのかは分かりますね?」
周りを見ると、ゼロの後ろにいた仲間達はいつの間にかバルテミスの周りを囲っている。
「・・・・・逃げ場はなし・・・・・か。」
・・・・・まさか7星が・・・・・エルビスが敗れるだと?・・・・・何者なのだ?このゼロという者は。
私は・・・・・このクリスタル帝国の皇帝。
これからこの世界を支配する者。
こんな所で・・・・・こんな所で死ぬわけには!!!!
バルテミスは、目立たない様に王座の右に付いているボタンを押そおとする。
ザンッッッッッッッッッ!
ボタンに指がかかる瞬間。
指が飛んだ。
「ヌウッッッ!!」
ゼロは、ボタンを押す前にすかさず指を斬る。
「・・・・・エメ。」
「ウヌ。」
エメは、右手を押さえているバルテミスに近づくと、体を起こさせ、皇帝の胸に手をかざす。
するとエメの手が光りだすと、皇帝の服が溶け、左胸に白い紋章の様な物が刻まれた。
「グッ!・・・・・何をした!!!」
バルテミスは叫ぶ様に僕に聞く。
「・・・・・僕は貴方の暗殺を依頼されて来たけど、命だけは助けましょう。その代わり、この紋章は、そこにいるエメと僕が死ぬとすぐに発動して貴方の命は絶命する。
そして、僕達が生きていても、ある呪文を唱えれば貴方は絶命する。・・・・・その意味は分かりますね?」
「・・・・・・。」
「貴方がこれまで占領した国は僕には関係ないから何も言いません。でも、これ以上、僕の仲間や友達が傷ついたり、住んでいる国を支配しようとしたら迷わずすぐに発動します。」
「・・・・・・。」
「それでは失礼します。」
そう言うと、僕は会釈をしてその場を後にした。
階段を下りながら白雪が隣に来ると言う。
「レイ。・・・・・これでいいの?」
・・・・・実は、依頼主の【天使と悪魔】の頭、イールに言われていた。
暗殺の依頼だが、出来るなら殺さないで、重い足枷を付けてほしいと。
そうする事で、侵攻が止まり、世界の均衡が保たれるだろうと。
僕は白雪や皆を見て言う。
「あぁ。最初からそのつもりだったからね。・・・・・さぁ皆。・・・・・帰ろう!」
僕達は巨大なビルから出ると、帰還紙を使ってアルク帝国にある自分達の家へと帰った。
☆☆☆
「クソッ!クソッ!クソッ!!!!」
バルテミスは誰もいない謁見フロアで一人、叫んでいた。
何と言う事だ!
助かったはいいが、こんな物を付けられるとは!
「お父上。」
声が聞こえ、横を向くと、そこにはいつの間にいたのか、第一皇子のオーシャン=クリスタルが立っていた。
オーシャンは胸に付けられた白い紋章を見ると言う。
「胸の印はどうされたのですか?・・・・あと、その手の傷は?」
「ウム・・・・・。ここまで侵入者が来たのだ。」
「何と・・・・・それで無事だったのですか?」
バルテミスは起こった事を話す。
それを黙って聞いていたオーシャンは、バルテミスに近づくと、持っていた回復薬を皇帝の手にかける。
すると痛みが徐々に薄れていく。
落ち着いたバルテミスはゆっくり椅子に背を預けると、天井を見上げ、隣にいるオーシャンに言う。
「フゥゥ・・・・。心臓に仕掛けられたが、すぐに研究班と医療班を呼んで解除する様に指示をだせ。・・・・・私を生かして去った事を後悔させてやろう。」
バルテミスはニヤリを笑いながら呟く。
「・・・・・後悔させる?貴方はここで死ぬんですよ?」
「何を言っ・・・・」
ズッッッッッ!!!
バルテミスは目を見開き、自分の胸をゆっくりと見ると、背中から体を貫通して胸から刀身が出ていた。
「ガハッ!・・・・・オーシャン・・・・・・何を?・・・・・・」
王座の後ろから突き刺した剣を抜くと、そのまま皇帝は前のめりに倒れた。
「ずっと父上を見ていましたが、貴方のやり方じゃこの世界は取れませんよ。・・・・・貴方は暗殺に来た傭兵に殺された。・・・・・そう言う事です。」
オーシャンは見下すように倒れた皇帝を見ると、剣を鞘に納める。
「お~、怖い怖い。」
オーシャンの隣に、いつの間にか現れたトリックが倒れているバルテミスを見て笑いながら言う。
そしてその周りにはエルビスやパール、イルミル。生き残った【7星】全てが集まっていた。
【7星】の全員に向かってオーシャンは言う。
「さて。ここは、出来の悪い弟に任せて、私達は大陸へと行こう。まずは占領した二国を安定させてから、次のプランを考えるとしようか。」
バッ!
マントをはためかせ、颯爽とオーシャンは歩き始める。
バルテミス皇帝が【シルバーアイ】に暗殺され、新しくオーシャン=クリスタルが皇帝として宣言したのは数ヶ月後の事だった。
クリスタル帝国の皇帝がたった一人の傭兵に殺された。
その知らせが世界各国へと届く。
ある国はクリスタル帝国の侵攻が止まり歓喜し、ある国は戦慄を覚えた。
混合軍が陽動としてクリスタル軍を引き付けたとしても、帝都には直属部隊や最高戦力達が皇帝を守っている。
その全てを倒し、依頼を果たした。
【シルバーアイ】のゼロ。
数日後、その有名な傭兵は世界最高峰の傭兵に認定される。
世界中の王、そして表の世界や裏の世界の重鎮達、誰しもが思った。
彼に依頼をすれば、国のトップでさえ殺すことが出来ると。
・・・・・そのゼロが、世界最強の冒険者パーティのリーダーであることは、まだほんの一握りの人しかしらない。
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