第137話 クリスタル帝国6


帝都『クリスタ』。



その中央にある大きなビルの様な建物の50階。



そこで二人の男が剣を重ねていた。




剣と剣の摩擦で火花が散る。




「・・・・・細身の体なのに中々の力。

 ならば少しギアを上げていくぞ!」



ギャィィィィィィン!



そう言うとエルビスは僕の剣を弾き、素早く連撃を入れる。



ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!



ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!



ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!




僕はその連撃を剣で防ぐ。




速い!




長剣なのに何て剣速だ。




「よく防ぐな!・・・・・ならば全開だ!!!・・・・・ハァッ!!!!」



ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!



ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!



ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!




一気に剣速が速くなる。




僕は何とか防ぐが、エルビスの勢いに押され、徐々に後退していく。



すると止まらぬ連撃の中、ほんの一瞬だが、エルビスの剣が大振りになった。




ここ!!




防いでいた僕はその一瞬を見逃さずに一刀を入れた。



エルビスの体に剣が入るがそのまま透明の様にすり抜ける。




ザンッッッッッッッッッ!




すり抜けた瞬間、僕は横に飛んだが斬られる。



振り切ったエルビスは、長剣を戻すと言う。




「ほう。今のを避けるとは。・・・・・よく反応したな。」



致命傷は避けたが、防具【天使の衣】の上から血が滲む。



僕は斬られた傷口を触り、手に付いた血を舐めて言う。



「強いね。・・・・・・・ごめん。少し侮ってたよ。」




そう言うと僕は、ゆっくりと剣を構えた。





その瞬間。





空気が変わった。





エルビスはすぐに感じた。





「・・・・・これは・・・・・なるほどな。これから本気という事だな?・・・・・面白い。」



エルビスは両足を少し広げて長剣を構えなおす。




構えた二人に静寂が包む。




そして二人が言う。




「我が名は、エルビス=レーガン。」



「僕の名は、レイ=フォックス。」





「「勝負!!!!!」」




バッ!!!




ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!



ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!




二人同時に踏み込むと、先程の戦いより遥かに速い剣速で剣を交える。




ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!



ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!




一瞬、エルビスに隙が出来た。



すかさず僕は一刀を入れる。・・・・・が、またエルビスの体をすり抜ける。



「もらった!」



エルビスはそのまま半身ずれた所から左から右へ胴へ向けて一刀。



入ったと思った長剣がレイの体をすり抜ける。




!!!




ザンッッッッッッッッッ!!!




同時に、横に移動していた僕はそのまま逆側へと距離を取ろうとしたエルビスを斬る。



「・・・・・奥義。まどろみ。・・・・・深く入ったと思ったんだけどね。」



エルビスは、自分の斬られた傷とコートを見る。



我が国の技術を集めた最高傑作の防具。・・・・・これのおかげで、致命傷は避けられたようだな。・・・・・しかし・・・・・




ドンッッッッッッッッ!!!




エルビスは一気に距離をつめ、連撃を繰り出す。




ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!



ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!



ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!




同じ剣速で、僕も対抗する。




ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!



ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!



ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!




「・・・・・フフフフフ・・・・・ハハハハハッ!!!!」



エルビスは剣を交えながら自然と笑みがこぼれた。





彼は元いた星では無敵だった。


彼の剣に全ての敵がひれ伏し、そして倒れた。


それでも彼は全力で戦った事など今までなかった。


未だかつて剣で本気を出せる相手などいなかったのだ。


そして、この星へと転移して、初めて強敵だと感じたアルメリアの将軍。



へーリック=ファウスト。



その者との戦いは、魔法が強かった故に苦戦したが、おそらく、剣対剣なら勝負にならなかっただろう。



一度でいい。



一度でいいから剣士として全力をだして思う存分戦いたい。


それが彼の望みだった。



そして戦いながら歓喜に震えた。



出会えた!!!・・・・・・目の前の男に!!!!





全力で斬り込んでいるエルビスの長剣は、同じ強者と剣を交えて、限界を超えて更に加速する。




ギャン!ギャン!ギャン!ギャン!ギャン!ギャン!ギャン!ギャン!ギャン!ギャン!



ギャン!ギャン!ギャン!ギャン!ギャン!ギャン!ギャン!ギャン!ギャン!ギャン!



ギャン!ギャン!ギャン!ギャン!ギャン!ギャン!ギャン!ギャン!ギャン!ギャン!



ギャン!ギャン!ギャン!ギャン!ギャン!ギャン!ギャン!ギャン!ギャン!ギャン!




受けながら同じように斬り込んでいるレイは思う。




・・・・・強い。・・・・・強いな。




気づくと、僕も自然と笑みがこぼれる。




・・・・・もっとだ・・・・もっと速く・・・・・もっと鋭く!!!




ギャン!ギャン!ギャン!ギャン!バッ!ギャン!ギャン!バッ!ギャン!ギャン!バッ!



ギャン!ギャン!ギャン!ギャン!バッ!ギャン!ギャン!バッ!ギャン!ギャン!バッ!



ギャン!ギャン!ギャン!ギャン!バッ!ギャン!ギャン!バッ!ギャン!ギャン!バッ!



ギャン!ギャン!ギャン!ギャン!バッ!ギャン!ギャン!バッ!ギャン!ギャン!バッ!




エルビスの剣が徐々にレイの体を斬る。




血が飛び散り、鮮血が舞う。




しかし、レイは構わず少しずつ少しづつ前へと出る。




・・・・・何だと・・・・・こいつ・・・・俺の剣が当たってるんじゃない・・・・・・・わざと避けてない!!!




僕は、笑みを見せながらエルビスの剣に集中する。




集中だ・・・・・更に・・・・更に集中!!!!!




斬られてもいい。致命傷にならなければ。




もっと・・・・・もっとだ・・・・・もっと躱すのを最小限に。




そして速く・・・・・剣速を更に速く!!!!!





「「ぬぉぉぉぉぉぉぉ!!!おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」





二人が叫ぶ。





ザンッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!





徐々に、押され始めたエルビスは、僕の横からの剣戟を防いだが、スピードが乗っているその流れでの上段からの一刀がエルビスの体を左肩から右下へと斬った。



エルビスは血を流しながらバックステップして上段に構える。




「まだまだぁぁぁぁぁ!!!」



エルビスは叫ぶと、長剣が輝きを増し、そのまま僕めがけて長剣を振る。




「フッ!!!」



「・・・・・大斬!!!」




ゴォッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!



ドンッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!




二つの大きな斬撃が激しく衝突し光り輝く。



フロアは大きく響き、揺れた。




衝突で発した光が消えると、離れている二人は奇しくも同じ構えをしていた。




前傾姿勢になっている二人は、右足を前に出し、右手は収めた剣の柄を握るか握らないかギリギリの所で止まっている。




少しの静寂が辺りを包む。




・・・・・・・・・




・・・・・・・・・




・・・・・・・・・





「これが最後だ。」



エルビスが呟く。




・・・・・・・・・




・・・・・・・・・




・・・・・・・・・




「フゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・」



僕は目を閉じ、ゆっくり息を吐く。




・・・・・・・・・




・・・・・・・・・




・・・・・・・・・






瞬間。






ザンッッッッッッッッッ!!!!!!!!!






・・・・・・・・・




・・・・・・・・・




・・・・・・・・・





二人は、一瞬で構えていた場所から入れ替わっていた。



違うのは、右手には抜いた剣を持ち、前に出している。



すると、先に動いたエルビスが振り返り言う。




「・・・・・・満足だ。」




バッッッッッッッッッッッ!!!




言ったと同時に深く斬られた所から血が舞った。



そしてそのまま大の字に倒れる。



僕は、剣を鞘にしまうと、倒れたエルビスの元へと歩き、近くで止まる。




「ハ・・・・・ハッ・・・・・ハッ。

俺は・・・・・強者と戦いたかった。全力で戦いたかったのだ・・・・・・それが叶ったのだ・・・・・・満足だ・・・・・・・やれ。」



エルビスは瀕死の状態で僕の方を見て言う。



「・・・・・・。」



僕は柄を握りそのまま一気に抜刀し、エルビスへと斬り込む。



「スト~ップ!!!」



僕と倒れているエルビスの間に男が割って入り、聞きなれた声が響き渡った。



!!!!!



その男に当たるギリギリで、剣を止める。



「うぉっ!危なっ!!・・・・・もう少しで斬られちゃう所だぞ!ゼロ。」



「・・・・・トリック。」



目の前にいたのは、傭兵仲間のトリック=ミリアだった。



僕は、剣を引くと尋ねる。



「何でトリックがここにいるんだい?」



するとトリックは肩をすくめながら笑顔で言う。



「あぁ。言ったことなかったね。僕はクリスタル人なのさ。んで、少しばかり責任のある立場でね。ゼロには悪いけどエルビスのおっさんは引き取らせてもらうよ。」



「何を言って・・・・・」



「レイ!!!」



僕が言いかけると、後ろから白雪の声が聞こえる。



振り向くと、エレベーターから白雪達ホワイトフォックスとエメがこちらへと向かってくる。



「みんな・・・・・ん?」




トリックの方へと見ると、そこには誰もいなかった。



トリックも・・・・・そしてエルビスも。



忽然と消えていた。



・・・・・・傭兵は依頼が重なる時がよくある。トリックとは傭兵の時に何度か一緒に依頼をこなした間柄だった。



その時に見た彼の能力。



他の者は理解できない術とよく言っていたが、あれはおそらく超能力。



元いた地球でもお目にかかった事はないが、それに近い物だろう。



しかもその力はとびきり強い。



今使ったのは、瞬間移動だろうな。



僕は、剣を鞘にしまい、皆に言う。




「大丈夫だった?」



「ええ。あと一歩という所まで追い詰めたんだけど、変な男が現れて取り逃がしたわ。ごめんなさい。」



「フォッフォッフォッ。ワシはちゃんと地獄へ送ったぞい。」



エメが自慢気に言う。



「こっちは出来るだけ死傷者を出さないで、誘導してうまく撤退したわ。」



アイリが言う。



「そうか。お疲れ様。とにかく皆が無事でよかった。立ちふさがった敵は倒そうが逃そうが、どちらでもいいんだ。あくまで目的は皇帝だからね。」



そう言って皆をねぎらう。



「さて、それじゃいこうか。皇帝バルテミス=クリスタルの元へ。」



僕達は上階へと続く階段をのぼっていった。










☆☆☆










「「エルビス!」」



帝都『クリスタ』から少し離れた平原に、【7星】のパールとイルミルが突然現れた瀕死のエルビスに駆け寄る。



連れてきたトリックは、すぐにクリスタル帝国特注の回復薬をエルビスの腕に注射する。



「まぁ~これで、死にゃしないだろうけど・・・・・派手にやられたねぇ。エルビス。」



トリックはニヤリと笑いながら言う。



深く斬られた二つの傷が徐々に塞がっていく。



ただ、流石のエルビスも血を流しすぎて立ち上がれずに、大の字に寝そべりながら言う。



「なぜ邪魔をした?・・・・・全てを出し切った・・・・・最高の死闘だった。・・・・・・これで死ねたら悔いはなかったのだがな。」



「悔いがない?オイオイオイ~もう満足しちゃたのか?・・・・・言っておくけど、あの男はまだ全てを出してないぞ?そんな相手に負けたままでいいのかい?それじゃ【最強】と謳われたエルビスの名も落ちるんじゃないかな。」



エルビスはトリックの話を聞いて驚いた顔をしたが、徐々に笑みを浮かべて笑う。



「フフフフフフ・・・・・ハーハッハッ!そうか!あいつはまだ本気じゃなかったか!・・・・・面白い!面白いぞ!!!」



そう言うと、フラフラになりながらゆっくりと立ち上がり、トリックとパール、イルミルを見る。



「それで?これからどうするんだい?エルビス。」



トリックが聞くと、エルビスは答える。



「・・・・・今回は我々の負けだ。しかも【7星】の3人がやられた。・・・・・・トリック。オーシャン様から集合場所を聞いているのだろう?そこへ行くぞ。」



トリックは肩をすくめて四人で円の様にして手をつなぐ。



エルビスは帝都の方を見ながら思う。



・・・・・傭兵のゼロ。

いや・・・・・レイ=フォックス。



私が初めて敗れた相手。



不思議だな・・・・そんなに悔しくはない。

それだけ全力で戦ったからだ。



それでもお前に全力を出させなかったというのは悔いが残る。



次はないと思ったが、折角つないだ命だ・・・・・・・・次は必ず。









トリックの体がうっすらと光ると、四人はその場から消えた。















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