第133話 クリスタル帝国2
「以上が、『ミーン国』と『マイカ国』を占領した時の被害状況となります。」
「うむ・・・・・。」
クリスタル帝国の帝都にて、バルテミス皇帝は大臣から報告を受けていた。
二国同時侵攻してからすでに3ヶ月経とうとしていた。
「『マイカ国』はスムーズに占領下へおけたのですが、問題は『ミーン国』です。首都は壊滅状態で、復旧は今だメドがたっておりません。しかも、国民の大部分は他国へと逃げたために労働力も足りておりません。」
黙って聞いていた皇帝は話始める。
「マイカ国は攻められるなど予想もしなかっただろうから予定通りにいったが、やはりミーン国はそうもいかなかったか。
だが、これで我がクリスタル軍の強さを示せただろう。まぁよい。ミーン国は暫くは管理下に置いておけばよい。労働力などすぐに補填が出来るだろう。・・・・・・次は大国『ナイージャ』を攻めるぞ。」
ザワッッッッッッッ
他の側近や大臣達がざわつく。
皇帝の隣にいる皇子オーシャン=クリスタルがその話を聞いて眉をひそめる。
・・・・・・まずいな。せっかく二つの国を占領したんだ。隣の島を占領した『セカンド』の様に、まずは占領した二国を整備して、しっかり土台を固めるべきだ。
しかも大国『ナイージャ』だと?『ミーン国』の被害でまだロボットが多く量産出来ていないというのに。早すぎる。
・・・・・しかし、何を言っても無駄・・・・・か。
すると、通信音が鳴り、中央の巨大スクリーンが点灯する。
「・・・・・報告です。只今、北西より敵軍と思われる軍艦、飛空艇がこちらへと向かっています。【マレ】の解析によると、戦艦や飛空艇にいる兵士達を計算にいれると・・・・・・およそ50万。尚、混合部隊の様です。」
見ると巨大スクリーンにはこちらに向かっている戦艦や飛空艇が映し出されている。
その映像を見ながら、皇帝は言う。
「ほう。まさかこちらへ攻めてくるとは。しかもたった50万だと?本気とは思えんな。警告か何かか?・・・・・まぁよい。
ならば、圧倒的な強さをこちらは見せてやろう。・・・・・すぐに、『クリスタル帝国ファースト』にいる全部隊を向かわせろ。こちらに攻めて来たことを後悔させるのだ。・・・・・徹底的に殲滅せよ。」
「ハッ!」
すると、オーシャンが口を挟む。
「父上。全部隊を向かわせるとなると、この帝都が手薄になります。せめて、【7星】は帝都で待機させた方がよろしいかと思います。」
「フッ。お前も心配性だな。・・・・・まぁよい。それならば、二名の【7星】だけ向かわせ、五名は待機させよ。それでよいな?」
「ありがとうございます。」
・・・・・どうも引っかかるな。50万で我が本国を攻めてくるなど、何かのメッセージか?それとも・・・・・。
側近と大臣達が慌ただしく動き回る様子を見ながら、オーシャンは映し出されている映像を眺めていた。
☆☆☆
「敵は動きませんね。」
上陸した【アークス】の副クランマスター、リン=エンキュートが言う。
「そうですね。我々が上陸する前にたたくことが出来たのにしませんでしたね。」
同じく【アークス】のクランマスター、シュバインが答える。
後ろを見ると続々と味方が上陸している。
帝都がある『クリスタル帝国ファースト』と呼ばれている島国へ上陸したが、すでに数キロ先に敵が待ち構えていた。
しかし、様子を伺っているのか、動こうとしない。
その為、こちらは難なく全ての部隊が上陸を果たした。
シュバインは先にいる敵を見渡して言う。
「さすが本国。・・・・・ざっと我々の数倍はいますね。」
レイ君達が帝都へ潜入する時に、なるべく負担をかけさせない様に陽動として集まった混合軍。
ナイージャのヴィクト将軍が率いる精鋭部隊【砂漠の騎士】20万。アルメリアのサイクス将軍が率いる【アルメリアの盾】10万。アルク帝国のエリアス将軍率いる【鳳凰の羽】20万。そして我々オロプスの冒険者達。
相手の半分以下しかいないが、精鋭揃いだ。時間は稼げるだろう。
すると、数キロ先のクリスタル軍から一機、【レギア】と呼ばれているロボットが飛んでくると数百メートル先で地上へと着陸する。
それを見たシュバインは一人で近づくと、レギアから出てきた一人の精悍な男と相対する。
その男が言う。
「私はこの『クリスタル帝国ファースト』の軍隊を率いている、大将アダンだ。」
「私はこの部隊のまとめ役の一人。シュバインと申します。・・・・・我々が上陸する前に攻撃を開始すると思ったのですが?」
「そちらも、我が帝国民がいる帝国の港町に上陸しないで、わざわざ何もない平原に上陸したのだ。ならばそれに応えるのが筋というもの。・・・・・して、この数で戦いに挑むなど・・・・・何が目的だ?それとも舐めているのか?」
「いえ。舐めてなどいませんよ。ただ・・・・私達の仲間や同胞を無くした痛みをそちらでも味わってもらおうと思いましてね。そして知ってもらいたいのです。この世界には貴方達より強い軍がいるという事をね。」
「フッ。面白い。ならばここへ来たことを後悔させてやろう。・・・・・私が戻ったら開戦だ。」
そう言うと、アダンはレギアに乗り込み、数キロ先の軍へと戻っていった。
シュバインは戻ると、将軍達に言う。
「もうすぐ相手が動きます。我々は時間を稼げばいいだけです。被害が大きくなったら予定通り撤退しましょう。・・・・・ただ、折角です。ある程度の戦力は削っていきたいですね。」
すると、近くにいる【ヒート】のクランマスター、アッシュ=レインが冷たい口調で言う。
「・・・・・こっちは、【ヒート】に所属していた【7剣星】がやられたんだ。それ相応の代償は払ってもらうさ。」
「【レッドパワー】もな!!」
【たぬき】のカズキが次いで答える。
それを聞いていたサイクスが言う。
「ここにいる者は、思う所は色々とあると思う。・・・・・だが、まずは目的を達成する事が優先だ。レイを帝都へ行かせる為に派手に暴れてやろう!!!」
オォォォォォォォォォォォォォ!!!!
将軍やクランマスターの周りにいる仲間達や兵士達が呼応する。
「・・・・・シュバイン。嬉しそうですね。」
シュバインの隣にいるリンが言う。
「そう見えますか?・・・・・そうですね。たしかに喜んでいるかもしれません。」
・・・・・ここに来る前、ずっと探し求めていた情報が手に入ったからだ。
準備を整えている時、レイさんに人を探している事を話し、特徴を伝えたら、もしかしたらケイトさんとロイージェさんではないかと教えてくれた。
そしてその二人は未踏破ダンジョン【名もなき孤高の城】に住んでいると。
気づかないわけです。
あの立入りを禁止された最高峰のダンジョンの一つに住んでいるなんてね。
我々アークスが避けている数少ないダンジョンの一つだ。
シュバインは動き始めたクリスタル軍を見ながら言う。
「すぐにでも行きたいのですが、私が求めていた最高の情報を教えて頂いたレイさんに、少しでも恩を返さないといけませんからね。・・・・・主力の一人位は消えてもらいましょうか。リン。【アークス】を頼みましたよ。」
そう言うと、先陣を切ってシュバインは走り出した。
☆☆☆
「ほう。・・・・・あちらも向かって来ているな。」
ゆっくりと動き出しているクリスタル軍を率いる大将アダンは後方の真っ白いレギアに乗ってスクリーンを見ていた。
こちらの先頭は数十万の人型ロボット【カルガラ】を配置した。
そこである程度削り、弱った所を一気にクリスタル兵とレギアでとどめを刺す。
これが今までの常勝パターンだった。
ピピピピピピ・・・・。
通信が鳴る。
「なんだ?」
「アダン様。カルガラの前にオブジェクト様が出ました。先に敵とぶつかります。」
「なんだと?・・・・・分かった。では、オブジェクト様の状況をみてから指示をだす。それまでは後ろで待機だ。」
「ハッ!」
・・・・・本国の防衛に出撃したのは『クリスタル帝国ファースト』にいるクリスタル軍ほぼ全軍と、【7星】の二人だ。
まさか独断専行の強いオブジェクト様が来るとはな・・・・・まぁいい。少しでも敵を減らしてくれれば、それだけこちらの被害も少なくてすむ。
アダンはスクリーンを見ながら事の成り行きを見守る事にした。
「さぁさぁさぁさぁ!いくっすよ~!!!前の溜まっていた鬱憤をここで晴らすっすよ!!!」
オブジェクトは走りながら、目と両手が光だし、頭上に無数の光の玉が現れる。
先にいるのは、同じ様に敵の先頭を一人で駆けている長身で長髪の男だ。
「くらえっす!!!」
頭上に浮かんでいた光の玉が一斉にその男へと放たれる。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!
煙が舞う。
「・・・・・何?」
煙から出てきたのは、白く大きな盾だった。
その男がそのまま盾を前に構えながら、凄い速さでオブジェクトへと近づき、右手に持っている剣を振るう。
ドンッ!!!
オブジェクトは後ろへ飛びながら剣を躱す。
剣はそのまま地面へと突き刺さった。
「ほぉ~!俺の爆破をまともに受けて大丈夫とは凄いっすね。」
「・・・・・貴方は?」
「俺っすか?俺はクリスタル帝国【7星】の一人。オブジェクトっす。」
男は剣をゆっくりと地面から抜きながら言う。
「私はシュバインと言います。【7星】・・・・・そうですか、貴方がその一人ですね?・・・・・なら丁度いい。どうですか?私達が邪魔でそれぞれの軍が戦えません。違う場所でゆっくり勝負しませんか?」
「はっ!俺と一対一?面白い事を言うっすねぇ~。・・・・・いいっすよ。誘いに乗るっす。すぐに黒焦げにして戻ればいいだけっすから。」
バンッッッッッッッッッ!!!!!!
そう言うと二人は同時に横に飛び、数キロ先にある岩場へと駆けていった。
ん?・・・・・シュバインと言っていた者とオブジェクト様が消えた?・・・・・・ならば。
大将アダンはすぐに指示を出す。
「・・・・・全軍!突撃!!!」
シュバインの後に続いていたサイクスが叫ぶ。
「行くぞ!!!!!!」
オォォォォォォォォォォォォォ!!!!!
クリスタル軍と混合軍の戦闘が始まった。
☆☆☆
「ファ~・・・・・。」
クリスタル軍と混合軍が戦っている少し離れた草が生い茂っている木の下で寝そべっていた男はゆっくりと起き上がる。
「起きられましたか?トリック様。もう戦いが始まっていますよ。」
その隣で副官のメイクが言う。
「お~お~、派手にやっているねぇ~。それじゃ、行こうか。」
トリックは戦場とは逆に歩き出す。
「トリック様?どちらに行くのですか?戦場とは反対方向ですが・・・・。」
「ん?あぁ、敵さんに比べてこちらの方が数が倍以上いるし、オブジェクトもいるんだ。僕は必要ないでしょ。久しぶりに国に帰って来たんだからゆっくりしないと。だから帰るよ~。」
「えっ?ちょっちょっとトリック様!」
はぁ。
本当に自由な方だ。
トリック=ミリア。
【7星】の一人。
7星の中で一番自由奔放にしているお方。
今まで国になんかほとんど帰らないで、この世界の大陸で活動していた。
流石に皇帝の命令で戻って来たのはいいけどまた・・・・・。
私の身にもなってもらいたいですね。
メイクはため息をつくと、トリックの後を追った。
☆☆☆
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!
光の玉の爆破をシュバインの白く大きな盾がことごとく防ぐ。
「へぇ~。一対一で戦いたいと言うだけあるっすね。俺の爆破をここまで防ぐなんて・・・・・その盾何なんっすか?」
白く、美しいその盾は、女神の模様が刻まれている。
長身のシュバインの身長を覆い隠す程大きい。
【GODDESS SHIELD(女神の盾)】
伝説の武器7本の内の一つ。
「んじゃ、これは防げるっすか?」
オブジェクトはニヤリと笑うと、目と手が光り、気づくとシュバインの360度いたる所に光の玉が出現する。
「・・・・・三の盾。」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
一斉にシュバインに向かって光の玉が爆発する。
もの凄い爆風と煙が舞った。
「・・・・・へぇ~。これも防ぐっすか。」
見ると、白く大きな盾が5つに分裂し、シュバインを中心に守っていた。
カラン。
シュバインは盾を元に戻すと、剣を捨てる。
「ん?どうしたっすか?剣を捨てて。降参っすか?」
「いえ。・・・・・流石【7星】。クリスタル帝国最高戦力の一人と言うだけはあります。私も久しぶりに本気を出そうと思いましてね。」
そう言うと、手につけていた指輪を外した。
ゴォッッッッッッッッッッッ!!!
力が解放され、大きなオーラがほとばしる。
「なっ?!!!」
オブジェクトは今までに経験した事のない威圧感を感じた。
なんすか?この感じ。
何かやばいっすね。
俺も全力でやらないとやばそうっす。
オブジェクトは光る両手を天にかざす。
すると、今までの光の玉の数倍は大きい物が現れる。
「この大玉は爆発すると一つの町位は簡単に吹き飛ぶ威力っす。フフフフフ・・・・・これも防げるっすかぁ?」
勝ち誇った様な顔で言う。
シュバインは静かに話始めた。
「私のこの白い盾は、伝説の武器と言われてます。・・・・・なぜ【武器】と言われているのに盾かと思いませんか?」
すると、その大きな盾の四隅が動き始める。
!!!!!
「くらえっす!!!!」
「・・・・・四(死)の盾。」
カアッッッッッッッッ!!!
ドンッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!
大きな爆発音と共に、辺り一帯が吹き飛んだ。
☆☆☆
その者達は、普通に歩いて来た。
ここは帝都【クリスタ】。
ビルの様な最先端の建物が建ち並び、慌ただしく兵士達が行きかっている。
その中心部にはこの帝都で一番高く、大きい建物がそびえ建っていて、その周りをこれまた見た事のない最新の壁が覆っている。
その入口にその者達が現れた。
先頭の男は珍しい銀の髪をしている。
「おい!緊急避難指示がでているだろう!帝都民は速やかにシェルターへ避難するんだ!今は許可カードを持っていても入れんぞ!」
門を警備している数人の兵士の一人が言う。
すると先頭にいる男が呟く。
「エメ。」
ゴォッッッッッッッッッッッ!!!!
突風がふき、警備している兵士達が目をつぶる。
ズズンッッッ・・・・・
「おっ、おい・・・・・。」
隣にいる兵士が声をかけ、突風で目をつぶっていた兵士が門がある後ろを振り向くと、とてつもなく大きな門が斬られ、崩れていた。
「なっ!なんだと?!!!」
「白雪。」
「眠りの精。」
ドッ。
同時に霧がでたかと思うと、その場にいた数人の兵士達が地面に倒れる。
「さて・・・・・・行こうか。」
僕達はゆっくりと崩れた門から入っていった。
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