第134話 クリスタル帝国3



「オラァ!!」




【たぬき】のクランマスターカズキは愛用のハルバートをジャンプしながらカルガラの頭上へと叩き込む。



ズンッッッ!



重量級の武器がカルガラの頭を真っ二つにして、火花を散らして倒れる。




「ふぅ。」



「カズキ!大丈夫?」



同じ仲間のミカンが声をかける。



「ああ。・・・・・しかし、すげぇな。」




カズキは戦況を見渡しながら思う。




左はサイクス将軍率いる【アルメリアの盾】とナイージャの精鋭部隊【砂漠の騎士】がうまく連携をとりながらカルガラをどんどん倒していく。



右は俺達冒険者が戦っているが、今回はトップクランの中でも最上位の2つのクラン【ヒート】と【アークス】がいるせいか、こちらも前回ミーン国の防衛をしていた時よりもはるかに圧倒していた。

特に、ヒートのクランマスター、アッシュ=レインが先頭で次々とカルガラを破壊している。



そして、中央はエリアス将軍率いる【鳳凰の羽】部隊が敵の中央近くまで斬り込んでいた。さすが世界最強の部隊と言われるだけある。




相手は倍以上の戦力だ。



それでも序盤はこちらが押していた。



その要因で一番大きいのは・・・・・・。



カズキは中央の後方で待機している一人の女性を見る。



そこは、全ての負傷した兵士が集まる場所だ。



その中央に真っ赤な長い美しい髪をなびかせながら、杖を上空に掲げて唱える女性。



「・・・・・傷ついた全ての者に癒しを!」



そう言うと、その場所が緑の空間に包まれ、腕を斬られた者はみるみるうちに元通りになり、撃たれた者も傷口が塞がっていた。




そこにいたのは、アルク帝国の皇女であり、ホワイトフォックスのメンバーの一人。



【癒しの女神】の二つ名を持つアイリ=レンベルだった。



彼女が大声で言う。



「皆さん!負傷したらすぐにこちらへ来てください!死ななければ絶対に元に戻します!・・・・・いいですか!無茶はしないで!!!」



アイリさんがいるおかげで、負傷した者がすぐに回復ができ、戦線へと復帰できている為に、倍以上の敵ともなんとか戦える事が出来ていた。




「・・・・・秘技、100矢。」




ドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!




上空から攻めようとしたレギアに、無数の光の矢が刺さり、こちらに来る前に落下していく。



同じく、ホワイトフォックスのメンバーの一人。



カイト=ヘンギスだ。



レイが陽動部隊の為に、二人を派遣してくれたのだ。



それが功を奏し、二人のおかげで、安心して敵との戦いに没頭できていた。




「これなら、結構時間を稼げるな。・・・・・なら、俺達は出来るだけロボットをぶっ壊して、兵力を削るぞ!!行くぜ!!!」




オォォォォォォォォォォォォォ!!!




カズキは仲間を連れてカルガラへと突進していった。










☆☆☆










帝都『クリスタ』。




その中央にある巨大なビルの様な建物。



その周りを高く近未来の様な壁の入口を破壊して、ゆっくりと僕は歩みを進める。



壁の中に入ると、広い庭の様な空間が広がっていた。そしてその数百メートル先に巨大な建物がある。



僕達は真っすぐにその建物へと向かうと、少し先に二人の女性が立っていた。



僕は構わず彼女達の方へと歩みを進める。



すると、スラっとした美女で、品が高そうな女性が言う。



「貴方達、帝都の頑丈な壁を破壊して入ってくるという事は敵ね。・・・・・という事は、オーシャン様が言っていた様にあの混合軍はおとりの様ね。

しかも、銀の髪。

・・・・・・貴方ね、『セカンド』の要塞都市を破壊したゼロというのは。」



僕は黙って歩みを進める。



徐々に彼女達に近づく。



「パールお姉様。何かしゃべる気ないみたいよ?

 もうどうでもいいからやっちゃお?」



「イルミル。・・・・・はぁ~。そうね。少しは貴方達の事を知りたかったんだけど、話する気がないならいいわ。・・・・・私達【7星】が相手してあげる。」




キンッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!




ゴォッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!




ドンッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!





パールが言った瞬間。



周りが一気に凍りつく。



その冷気が僕に届く前に、巨大な高熱の炎が後ろから僕だけを優しく通り過ぎて、冷気と激突した。



キリアが同時に魔法を放っていた。



パールは驚きながら楽しそうに言う。



「へぇ~!私の冷気を熱で相殺するなんて、初めてよ!」



「それじゃ、私も呼んじゃお!・・・・・ミルキィ!」




ズンッッッッッッ




もう一人のイルミルと呼ばれていた少女が叫ぶと6mはあろうか、漆黒のロボットが上空から現れ、少女の後ろへと着陸する。



するとロボットがその少女に触ると、そのまま少女はロボットの中へと同化する様に入っていった。



僕はその様子を見ながらそのまま歩みを止めずに、パールの数メートル先まで近づく。




「無視するな!」



ミルキィと呼ばれるロボットが巨大な拳を僕に向かって振り下ろす。




ドンッッッッッッッッッッッッッ!!!!!




その拳が僕に当たる前に、一瞬で前に出て【天竜強靭化】になったラフィンが片手で止める。



僕はそのまま歩きながら言う。




「白雪。ラフィン。キリア。・・・・・・ここは頼んだよ。」




パールの前まで来て、そのまま通り過ぎようとする。



「このまま行かすとでも・・・・・」



パールはゼロと目が合う。




ゾッッッッッッッッ!




隣まで来て言いかけたパールは自然と言葉を止めた。




何???




冷汗が止まらない。




そのままゼロはパールを通り過ぎて巨大な建物へと歩いていった。




・・・・・・何?この威圧感は。




・・・・・・今まで感じた事がないわ。




・・・・・・エルビスが本気を出した時でもこんな感じはしなかった。




・・・・・・傭兵のゼロ。・・・・・・危険だわ。




・・・・・・中にはジャックとエルビスがいる。問題ないとは思うけど念には念を入れておいた方がいいわね。




「イルミル。さっさとこの子達を倒して戻るわよ。」



「分かった~。遊びたかったけど、お姉様の言う事を聞くね~。」



ミルキィの中に搭乗しているイルミルが言う。



「・・・・・このパールという女。・・・・・私がやる。・・・・・あの鉄の塊は頼んでいい?」



キリアが聞くと隣にいる白雪が笑顔で言う。



「そうね。それじゃ、レイがロボットと言ってたかしら?私とラフィンであの黒いロボットを相手するわ。・・・・・・ラフィン!それでいい?」



少し前で、ミルキィの拳を止めていたラフィンがその拳を押し返しながら振り向いて言う。



「オッケー!」



「それじゃ、私達も早く倒してレイの後を追うわよ。」



白雪はそう言うと二本の白く美しい剣を出し、ミルキィに向かって駆けた。










☆☆☆










巨大なビルの様な建物の入口まで歩みを進めた僕は、その入口の前に一人のやせ細っている男が立っているのが見えた。



「おやおやおや~。先程連絡があって来てみれば・・・・・あなた達が噂の【シルバーアイ】ですねぇ~。」



そう言うと、その男の足元の床が黒く広がり、その中から続々と【ゾイ】が現れる。



2m以上はあろうか。

獣の様なゾイばかりが300体以上現れる。



その男はニヤリと笑う。



「貴方が強いと言うのは聞いてますよ~。ですから、最初から私の自慢の最上位のゾイ達を召喚しました。すぐに終わらせてあげましょう。」



僕は構わず入口に向かって歩みを進めると、その態度にムッとしたその男が言う。



「私は【7星】の一人。ノーマンと言います。・・・・・そうそう。この間殺したアルメリアの将軍とはお友達だったみたいですねぇ~。」




僕はピタリと歩みを止める。




それを見たノーマンは嬉しそうに続ける。



「いゃ~。彼はいい死にっぷりでしたよ~。見せてやりたかったですねぇ~。」



僕は気持ちを落ち着かせる為に、深い息を吐いて言う。



「・・・・・・フゥゥゥゥゥゥ・・・・・・・エメ。任せた。・・・・・・少し後悔させてやってくれ。」



するとずっと後ろに付いてきた美しい長い銀の髪をした女が言う。



「ウム。・・・・・それでは、軽く遊んでやろう。」



そう言うとエメは、自分の背と同じ位ある美しく長い剣を抜く。



僕は気にせずにそのまままっすぐに建物の入口へと歩きだした。




「はっ!いつまでそんな余裕に歩いていられるか、試してみましょう!さぁゾイ達よ!喰らいなさい!!!」



「ガァァァァァ!!!!」



ノーマンが言うと一斉に、前方にいた数十体のゾイが僕に向かって襲いかかる。




ゴォッッッッッッッッッッッッッッ!!!




ザザザザザザンッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!




「・・・・・・・・ハァ???」





一瞬だった。





僕の後ろから無数の巨大な白い斬撃が飛んだかと思うと、襲いかかろうとしたゾイとその後ろにいる数百体のゾイをスライスの様に斬った。



僕は茫然としているノーマンの横を通り過ぎて入口へと歩く。




・・・・・バカな。今回召喚したゾイは、私が作った中で最上位のゾイ達。




レベルの高い冒険者や兵士達よりも強い。



それを、一瞬で斬っただと?・・・・・なんだこの女は。



【シルバーアイ】とは男の方だけ注意してればいいのではなかったのか?




エメは長剣を無造作に肩に置いて言う。



「お主・・・・・もう少し真面目にやらんかのぉ。我はこれでは消化不良になるぞ?」



「ふっふっふざけるな~!!!」



ノーマンが真っ赤な顔して怒鳴る。



僕はそんなやりとりを尻目に入口まで来ると、目の前の大きな黒い強化ガラスの様な扉の前で立ち止まる。



すると僕に反応し、扉はゆっくりと両サイドに開いた。










☆☆☆










「撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」




ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!





入口が開いたと同時に、中にいたレギアにのった数百機のクリスタル軍が一斉に銃弾を浴びせる。



この巨大な建物の一階は、ホールになっていてとても広い。



3m以上あるレギア数百機が待機できる程に広かった。




「撃ち方やめ!!!」



レギア部隊の隊長が指示を出すと、全てのレギアが撃つのを止める。



入口付近は銃弾の煙で何も見えない。



「・・・・・やったか?」



隊長がレギアの中でスクリーンをみながら言う。



煙が晴れると、そこには・・・・・・・誰もいなかった。




「ねぇ。」



隊長はハッとして、後ろから聞こえる声に振り向く。



するとそこにはレギア部隊が待ち構えていた入口の正反対にその男は立っていた。



その男はゆっくりと白く輝く美しい剣を抜き、そのままだらりと剣を下に向け話を続ける。




「僕はあまり殺生はしたくないんだ。だから、このまま外へ逃げてくれれば、何もしない。だけど、これから一機でも僕に攻撃を仕掛けてきたら・・・・・一人残らず倒す。」



・・・・・・・・・



・・・・・・・・・



少しの静寂。



・・・・・・・・・



・・・・・・・・・




相手はたったの一人。こちらはレギアに乗った精鋭達だ。【7星】でも苦戦するだろう。負けるなどありえない。



スクリーンごしに見ていた隊長は命令する。



「第二、第三部隊は変わらず銃撃を。我々第一部隊はソードで斬り込むぞ。・・・・・・・いけぇぇぇぇぇぇ!!!!!」




「ゾーン。」




・・・・・・・・・



・・・・・・・・・



・・・・・・・・・



・・・・・・・・・




「???どうした!何故攻撃しない!・・・・・・何?」



隊長はスクリーンを見ながら動かない部隊に命令をしようとしたが、自分の前にいるレギア達がゆっくりと胸から腰にかけてずれていき上半身が床へと落ちる。


周りを見ると全てのレギアが皆、鋭利な刃物で斬られたかのように崩れ落ちてゆく。



「なっ何がおきて・・・・・・・・あがぁ?」



隊長が見ているスクリーンがゆっくりと右へずれていくのが分かった。



下を向いて体を見ると・・・・・自分の胴が斬られて一緒にずれていき・・・・・絶命した。



「・・・・・はぁ。」



僕は小さなため息をついて、剣を収めようとしたその時。




ドンッ!




顔を左に傾けるとそのまま通り過ぎて壁に当たる。




「オイオイオイ。頭を狙ったのに今の銃弾を躱すかよ。」




少し離れた所で一人の男が声を掛ける。



その男の両手には2丁の銃があり、帽子を被っている。



「・・・・・君は?」



「俺か?俺は【7星】の一人。ジャックという者だ。しかし・・・・・レギアに乗った精鋭部隊を一瞬で斬り殺すとは・・・・・グレートすぎるな。」



ジャックは言いながら周りを見渡す。



・・・・・何だこいつは?離れた場所で見ていたが、目の良い俺でもほとんど奴の動きが見えなかった。俺には被害がなかったという事はここまでは攻撃範囲ではなかったという事か。



世界で有名な傭兵。



ゼロか・・・・・。



こいつは危険だ。



エルビスが戦いたそうだったが、ここで始末するべきだろう。




「悪いが、これ以上先に行かせるわけにはいかない。ここで・・・・・エンドだ!」




ドドドドンッ!!!!!




一回のホールに銃声が響き渡った。












































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