第132話 クリスタル帝国



「・・・・・今・・・・・何と言ったのかな?」



ヒッキ国王は聞き返す。



「・・・・・へーリック将軍は・・・・・・へーリック将軍は・・・・・死亡しました。」



大粒の涙を流しながらミレーユは話を続けた。



ミーン国にクリスタル軍が攻めてきた事。



防衛中に隙をつかれ王が暗殺された事。



すぐにへーリック将軍がミーン国側に進言し、国民を連れて他国へと逃れた事。



その時に住民が取り残された事を知り、罠だと分からずに命令を無視して助けに行き、へーリック将軍に私達の部隊と住民を誘導して救ってくれた事。



更には、私だけ取り残されたのを救ってもらい、敵側の大将クラスの三人に追い詰められ、命を狙われた所を自分を犠牲にして助けられた事。



そして、脱出用で持っていた、転移が発動する指輪を私に付けて自分は残り、逃がしてくれた事。





アルメリア王にミレーユは報告をした。





「・・・・・ミレーユ。状況は分かった。だけど、死んだのは見ていないのだろう?もしかしたら生き残っているのかもしれないじゃないか。」



「いえ。・・・・・【アルメリアの杖】の隊長達は皆、へーリック将軍にかけてもらった魔法があります。・・・・・生存の確認が出来る魔法です。


 戦いの中で隊長クラスが一人でも亡くなれば、その部隊がうまく機能しなくなります。その為に、隊長達はお互い生存が分かる様にしています。


 ・・・・・もちろん、将軍も。・・・・・私が皆の所へ転移して間もなく、遠くのミーン国の首都一帯が破壊され・・・・・その時にへーリック将軍の命が失われた知らせが・・・・・届きました。」



ミレーユは続ける。



「・・・・・私が・・・・・私が命令を無視しなければ・・・・・私がへーリック将軍を殺したのです。」




・・・・・・・



・・・・・・・



・・・・・・・




暫くその場にいる誰もが黙り、静寂に包まれていた。



聞いていた王妃カザミは、心配になり、隣で立っている兄を見た。




ビクッ!




「・・・・・・お兄ちゃん?」




声を掛けられ、レイはカザミを見て優しい顔になる。



そのままレイは動き出すと、隊長達の前に出て、片膝をついて頭を垂れる。



仲間達がその後に続く。



レイは静かに言う。



「ヒッキ国王・・・・・そして王妃カザミ。この度はご結婚・・・・・そして即位、おめでとうございます。・・・・・僕達はこれでアルク帝国へ帰らせていただきます。・・・・・失礼します。」



そう言うと、レイは仲間を連れて謁見の間を出ようとする。



「レイ!」



ヒッキ王が呼ぶと歩いていたレイは振り返る。



「・・・・・また会おう。」



レイは笑顔を作ると、頷き、謁見の間から去っていった。




ヒッキ王は、ミレーユを含む、【アルメリアの杖】の隊長達を見て言う。



「皆、お疲れだったね。・・・・・将軍の事は後で考える事にして、今はゆっくりと休むといい。」



隊長達は立ち上がると、悲しみに暮れているミレーユを抱きかかえ、その場から退出した。




王と大臣、将軍達のみが残る。



ヒッキ王が言う。



「・・・・・彼は動く。・・・・・彼の影響力は計り知れない。我々の国だけの問題ではなくなるだろう。・・・・・サイクス。彼を・・・・・彼をサポートしてくれ。・・・・・頼んだよ。」



サイクスは王の前に移動すると、片膝を付き言う。



「ハッ!」



立ち上がると、すぐに出ていった。



ヒッキはサイクスがいなくなるのを見ると思う。




・・・・・・しっかりしろ!!!

・・・・・俺は国王だ。

・・・・・弱い所を見せるわけにはいかない。




国王は立ち上がると皆に言う。



「クリスタル帝国が大陸に侵攻した。おそらく拡大を始めるつもりだろう。・・・・・すぐに会議を始めるぞ!」



「ハハッ!」



ヒッキは言うと、皆を連れて会議室へと移動した。





「さぁ、王妃。私達は部屋へと戻りましょう。」



付き人達が、カザミに声をかける。



カザミは立ち上がり、部屋へと向かいながら思う。



・・・・・怖かった。

・・・・・へーリック君はお兄ちゃんの親友の一人。心配になってお兄ちゃんを見た時に、今まで見た事のない顔をしていた。


怒っているのではない。

でも・・・・・とても・・・・・とても冷たい顔をしていた。




「・・・・・お兄ちゃん。」



カザミは歩きながら王宮の外を見て呟いた。










☆☆☆










「皆。少しここで待っててくれ。

 【ホワイトフォックス】だと入れないんだ。」



「分かったわ。それじゃここで待ってる。」



白雪が答えると、他の皆も頷く。



僕達はランス国にある二大犯罪ギルドの一つ【天使と悪魔】の本拠地の館の前に来ていた。



アルメリア国から出た僕達はアルク帝国の家には戻らず、そのままランス国へと向かった。



僕とエメは帰還紙を記録していたからすぐに飛ぶことが出来たが、他の皆は記録していない為、ここまで最短距離の【黄金回廊】を使ってきたのだ。



僕はエメに髪を銀色にしてもらい、

【シルバーアイ】として館へと入っていった。




「あら。あなたから尋ねにくるなんて珍しいわねゼロ。・・・・・いや、ホワイトフォックスのレイといった方がいいかしら?」



イールの部屋へと入ると、悪戯っぽい顔をして言う。



「・・・・・今まで通り、イールと会う時はシルバーアイのゼロさ。これからもよろしく頼むよ。」



「フフフ。そうね。」




分かっているの?



貴方は世界一の冒険者パーティ【ホワイトフォックス】のリーダー・・・・・表の世界で有名人だという事を。



そして【シルバーアイ】として裏の世界でも。



もう少し私と会うのは控えた方がいいと思うのだけれど・・・・・貴方は気にしないか。



・・・・・私としては、表の影響力も強い貴方とはこれからも長い付き合いをしたいけどね。




「で?今回はどうしたの?」



イールはゼロとエメにソファーに促しながら聞く。



流れる様に幹部のラフィットが二人にお茶を出す。



僕は座るとお茶を飲みながら言う。



「・・・・・クリスタル帝国。その皇帝がいる場所を知りたいんだ。」



イールはピクリと反応をすると言う。



「・・・・・そう。あの国は最近派手に動いてるから私達も調査はしているわ。・・・・・潜入させてね。その場所を知りたいという事は行くという事かしら?」



「ああ。」



僕は即答する。



「そう。・・・・・行くなら仕事を頼めるかしら?」



「仕事?」



そう言うと、イールはラフィットに言って依頼書を持ってこさせる。



イールは僕の前に数枚の依頼書を並べる。



「四大国の『ナイージャ』と『オロプス』。他にも占領された『ミーン』と『マイカ』の周辺国から【シルバーアイ】に依頼がきているわ。」



「そうなんだ。で?その内容は?」



「・・・・・クリスタル帝国皇帝バルテミス=クリスタルの暗殺。」



イールは優しいな。僕の目的を感じた上で、行動に意味を持たせてくれるなんてね。



「分かった。受けるよ。」



「そう!それは助かるわ!これが成功すれば報酬は今までにない程のもの凄い額よ。もちろん私達も潤うから助かるわ。・・・・・それじゃ、打合せをしましょう。」



そう言うと、ラフィットは空いていた部屋の扉を閉めた。









☆☆☆










「それじゃ。」



「ええ。よろしくね。」



ゼロとエメが部屋から出て行くのを見送ると、隣にいるラフィットが言う。



「・・・・・私はこの世界に生きてますので、恐怖という物は感じた事はありません。常に死は覚悟してますので。しかし・・・・・彼を見て初めて恐怖を感じました。」



「そうね。」



クリスタル帝国が、ミーンとマイカを占領してから、最強と言われる様になった傭兵【シルバーアイ】に依頼が殺到した。



警護だったり、暗殺だったり。



しかし、ゼロに依頼をだすかどうか悩んでいたのだ。



他国の警護などつまらない仕事は任せられないし、かといって皇帝の暗殺は流石にリスクが高かったからだ。




彼は恐ろしく強い。




だか、まだ内情も実力も分からないクリスタル帝国への依頼はためらわれていた。



情報がまだまだ足りなかったからだ。



しかし、彼から来た。



とても冷たく、強いオーラを放って。




「・・・・・クリスタル帝国皇帝バルテミス。・・・・・・流石に今回は同情するわ。」




イールはお茶を飲むと静かに呟いた。










「終わったの?」



外に出ると、仲間達が僕に気づき、白雪が声をかけた。



「あぁ。終わったよ。待たせてしまったね。それじゃ行こうか。」



「レイ!」



皆を連れて歩き出そうとすると、遠くから一人の男に呼び止めれれる。



見ると、歩いてくるのはサイクスだった。



「サイクス?どうしたの!何でこんな所に?」



「あぁぁぁぁん?それはこっちのセリフだ!アルク帝国へ帰るんじゃなかったのかよ。」



「その前にちょっと寄る所があってね。それでここに来たんだ。」



「ふ~ん。・・・・・まぁいいか。レイ!三日間ここで俺と付き合え!」



そう言うと、サイクスは僕の肩に腕をまわす。



「へっ?何で?」



「んなことぁ~その時に話すわ!」



・・・・・すぐに行きたい所だが、友達を心配させるわけにはいかない。



「フゥ・・・・・・オッケー。分かったよ。」



「よし!それじゃ、まずは・・・・・俺はな・・・・・ここはあまり来たことないんだ!色々と案内しろや!!!」



仲間を見るとラフィンが笑顔で言う。



「僕達もここには来たことないんだ!」



「・・・・・そうだったんだ。それじゃ、三日間ここでゆっくりしようか。」



「分かったわ。」



「・・・・・オッケ。」



「ご婦人が僕を呼んでいる!」



「いいわよ。」



「まぁワシは何度もレイと来ているが付き合ってやろう。」



僕はサイクスと皆を連れて街中へと歩き出した。











☆☆☆










三日後。




僕達はサイクスに連れられて、外れにある古ぼけた館の前に来ていた。



この館は今は使われてなく、この日の為に、一日借りたのだそうだ。



よほど周りに聞かれたくない話でもするのだろうか。



館に入り、応接室の扉を開けると見知った人が声をかける。



「レイ君!」



「エリアスさん!・・・・・それにシュバインさんまで。どうしたんですか?」



そこにいたのは、アルク帝国の将軍エリアスとトップクラン【アークス】のクランマスターシュバインと【たぬき】のクランマスターカズキ。



そしてもう一人、日に焼けて褐色の肌の精悍な男が立っていた。



僕達は全員あらかじめ用意されていたテーブルにつくと、サイクスが話始める。



「レイ。まずは紹介しよう。この人は南の大国『ナイージャ』の将軍の一人、ヴィクトさんだ。」



「お初にお目にかかるゼロ殿・・・・・いやレイ殿。此度は我が国の依頼を受けてくれて感謝している。」



ヴィクトが頭を下げる。



ああ・・・・・そういえば、クリスタル帝国の周辺国からの依頼を受けていたんだっけ。



サイクスは続ける。



「レイ。その依頼を受けた内容は、ここにいる皆知っている。・・・・・そこでだ。レイの依頼を達成させる為に、俺達も協力したくて集まったんだ。」



「えっ?・・・・・でも・・・・・。」



「レイ。俺はお前の親友だ。だから単独で行きたい事は分かっている。だが俺達も協力させてくれ。

 ここにいる皆、クリスタル帝国には思う事があるんでね。」



そう言うと、他の皆が頷く。



ドンッ。



すると、【たぬき】のクランマスターカズキが机を叩いて言う。



「・・・・・こっちは【レッドパワー】と【7剣星】をやられてんだ!このまま黙っていられるか!!」



エリアスが言う。



「レイ君。ガイルズ皇帝も危機感をつのらせているんだ。おそらく次は大国『ナイージャ』だろう。それでもしナイージャが敗れる様な事になるとアルク帝国との戦いは避けられないとね。」



シュバインが言う。



「レイさん。ミーン国とマイカ国がおちた事で、各国は緊迫しています。そこにレイさんが依頼を受けてくれた。各国はチャンスととらえたのです。

だからこそ、繋がりの強い私達が来ました。・・・・・協力させてもらえますか?」



最後にサイクスが言う。



「・・・・・レイ。今回は仲間も連れて行くんだろう?」




僕は目を見開く。




・・・・・そうだ。

今は僕とエメだけじゃない。仲間もいるんだ。どんな時でも一人で行動しないと誓ったんだ。



今回は、クリスタル帝国が相手。仲間に危険がおよぶかもしれない。ならば少しでもリスクを減らすべきだ。



そんな事も忘れている程、周りが見えてないなんてね。



スゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・・

ハァァァァァァァァァァァ・・・・・・



僕は立ち上がると大きく深呼吸して言う。




「・・・・・よし。・・・・・サイクス、ありがとう。そして皆さん。その提案は助かります。・・・・・よろしくお願いします。」



白雪はレイの表情をみてホッと胸をなでおろす。



へーリック君の話を聞いてから、言葉には出さないけど、思いつめていたのは仲間の誰が見ても明らかだった。



このままクリスタル帝国へと潜入したら無茶をしかねないと思っていた。



その時に私達が止めることが出来るのだろうか・・・・・とも。



だけど、サイクス君が言った言葉で表情が元に戻っている。



・・・・・私じゃ言えない言葉を言ってくれてありがとう。サイクス君。




白雪は心の中で感謝した。








「それでは、作戦を話します。まずは・・・・・・」





シュバインが地図を広げると話始めた。






























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