第131話 帰還
とてつもなく大きく禍々しい腕は、剣を振り下ろした後、そのまま亀裂が出来た空間へと戻っていった。
空は元の晴天に戻る。
明るくなると、そこには・・・・・何もなかった。
城も、街も、クリスタル軍も。
あの腕の振り下ろされた剣は、塔を両断し、そのまま地面へと衝突し、その衝撃でこの首都一帯を破壊した。
『ミーン国』の首都は、瓦礫の山となっていた。
すると一機の赤いレギアが雲の中から現れると、
そのまま地上へと着陸する。
腕には二人の人間を抱えていた。
ノーマンとオブジェクトだ。
すぐに二人を地上へと降ろすと、レギアの体が開く。
中から出てきたのは、エルビスの副官、ジョゼだった。
ジョゼは降ろした横たわる二人を見て呟く。
「・・・・・まずいな。」
体全身の骨が折れている。
あの重力に長時間、体が耐えられなかったのだろう。しかも、ノーマン様は片腕も失っている。
明らかに重症だった。
ジョゼのみが扱える光の屈折装置を使って透明になって隠れていたが、あの男が最後の術を使った時、危険を感じ、上空に自動待機させていた自分の機体をすぐに呼び、乗り込み、ギリギリで二人を助けたのだ。
本当ならエルビス様を助けなければいけなかったが、明らかに重症な二人を優先した。
ジョゼは二人の様子を見た後、立ち上がり叫ぶ。
「エルビス様!・・・・・エルビス様!!」
エルビスの名前が響き渡る。
すると、瓦礫の一部が動き、そこから片腕が現れ、一人の男が瓦礫の山から現れた。
エルビスだった。
ジョゼは、すぐにエルビスの元へと駆け寄る。
「エルビス様!よくぞご無事で!」
「何とかな。・・・・・で?あの二人はどうだ?」
「ハッ!共に重症です。すぐに本艦へ戻って治療しないと危険かと。」
「そうか。」
空から生き残ったレギアが次々とエルビスの近くへ降りてくる。
エルビスは瓦礫の山と化した地上を見渡す。
・・・・・地上にいた部隊は全滅。空にいたレギアも1,000機以上いたが、数十機だけとなったか。・・・・・あの男。・・・・・強かった。
出会った中で一番強い。・・・・・あらゆる意味で。・・・・・・私が恐怖を覚えるなんてな・・・・・。
振り返り、レギアに向かって歩きだす。
ボロボロになったマントをはためかせながら、隣にいるジョゼに言う。
「・・・・・ここの復旧は無理だ。新たに作り出さないとどうにもならない・・・・・暫く捨て置くぞ。あちらの状況が気になる。すぐに本艦へ帰還して行くぞ!」
数十機のレギアは、エルビス達を乗せると、遠く離れた所で待機している巨大戦艦へと戻っていった。
・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・
ガラッ。
エルビス達が去った後、静まり返った瓦礫だらけの街の一部が動くと、一匹の火を纏った狼が現れた。
それはへーリックが学園時代の時に召喚したファイヤーウルフだった。
「オォォォォォォォォン・・・・・・」
そのファイヤーウルフは悲しそうに遠吠えをすると、誰もいなくなった瓦礫の街からいなくなった。
☆☆☆
「おっ王よ!早く!早くお逃げを!!!・・・・・ガッ!」
王に駆け寄った側近は頭を撃ち抜かれ、その場に倒れる。
王室の入口から帽子を被った男が現れると言う。
「チェックメイト。・・・・・さて、王様。どうする?俺はあまりスマートじゃない事はしたくないんだが?」
王はゆっくりと椅子から立ち上がり、ベランダへと出て外を見渡す。
ここは南の国の一つ『マイカ』。
突如現れたクリスタル軍を迎え撃ったが、歯が立たなかった。
王都を見ると辺り一面・・・・・凍っていた。
何もかもだ。
建物も、兵士も・・・・・そして民も。
ひどい・・・・・そしてむごすぎる。
どうやったらここまで出来るのか。
南の国なのに、外は冷気を帯びて寒い。
「ジャック!・・・・・終わったの?」
気づくともう一人、女が王室に入って来た。
スラっとした美女で、品が高そうな女性だ。
「あぁ。あとは王様だけだ。・・・・・パール。
そっちは?」
「外を見て頂戴。全て凍らせたわ。」
すると、ジャックは王の隣に行き、外を見渡す。
「ふぅ。相変わらずめちゃくちゃだな。お前の妹のイルミルが何も出来ないとまた文句を言うんじゃないか?」
空を見ながらパールに言う。
そこには巨大なロボットが飛んでいた。
レギアより倍近く大きく、黒く、異質な感じだった。
パールは王の近くまで来ると言う。
「マイカ国の王よ。安心して頂戴。今なら術を解けばここの市民は救う事は出来るわ。・・・・・まぁ兵士達は殺したけど。」
「・・・・・で?」
ジャックが尋ねると、王は両膝をついて言う。
「・・・・・わが国の負けだ。今後はクリスタル帝国に従おう。だから民だけは助けてくれ。」
「オッケーだ。・・・・・おい!すぐに王を連れていけ!」
入口で待機していたクリスタル兵に指示を出す。
兵がすぐに動き、王を連行する。
入れ違いにジャックの副官ミルコが入ってくる。
「ジャック隊長。そしてパール様。
・・・・・エルビス様が来ました。」
二人は入口を見るとエルビスがこちらに歩いてくるのが見える。後ろに中将のアルファーを従えて。
片腕は治療を受け、元に戻り、服装も新しかった。
「「エルビス。」」
二人はエルビスに声を掛ける。
「・・・・・問題なかったか?」
「早かったわね。・・・・・こっちはご覧の通りよ。制圧するのに三日かかってしまったけどね。」
「そうか・・・・・ならば良かった。私達の方も勝ったが、強者が一人いてな。首都は全壊・・・・・そしてノーマンとオブジェクトが重症だ。」
「!!!!!・・・・・あの二人が?」
パールが信じられない様な顔をする。
エルビスは二人を見て言う。
「すぐに我々は本国へ帰還するぞ。アルファー。統治の為の文官達も連れてきている。この『マイカ』国と『ミーン』国の後の事は任せたぞ。」
「ハッ!」
エルビスはアルファーに指示をだすと、ジャックとパールを連れて王室から出て行った。
アルファーはその後ろ姿を見送りながら思う。
・・・・・この二国同時占領作戦。ミーン国で被害が大きかったが成功したと言っていいだろう。
エルビス様を筆頭に、ノーマン様、オブジェクト様、ジャック様、パール様、イルミル様・・・・・【7星】の内、6名が制圧にあたったのだ。
しかし・・・・・エルビス様に進言したらすぐに動くとはな。・・・・・それ程にアルメリアの将軍は強かったのか。
だから7星を連れて本国へ戻ったのだ。
こちらへ来る途中。
エルビス様の副官ジョゼが情報を教えてくれたが・・・・・あのアルメリア国の将軍は、かの傭兵と友人らしい。
・・・・・もし、僕の知り合いや友達がいる国を攻撃したら、その時は遠慮なく徹底的に叩く・・・・・
最後に言った彼の言葉だ。
私はエルビス様に言った。
彼はアルメリア将軍より強いと。
・・・・・・・来る。
・・・・・・・必ず来るだろう。
・・・・・・・我がクリスタル帝国へ。
アルファーは、静まり返っている氷の王都と化したこの街を見ながら思った。
☆☆☆
「あぁぁぁぁぁ・・・・・頭痛い・・・・・。」
僕はサイクス家の食堂で頭を抱えていた。
「毎日毎日・・・・・あれだけ飲んでれば、そりゃ頭も痛くなるでしょ?」
白雪が隣でお茶を飲みながら、呆れた声で言う。
いやいやいやいや。
あなた達も一緒に飲んでたよね?
むしろ僕よりも飲んでた気がするんだけどなぁ?
「はぁ。・・・・・ちょっと外出て頭冷やしてくるよ。」
朝食をとっている皆にそう言うと、僕は外へ出る。
外は朝日を浴びてとても気持ちのいい風が吹いていた。
「ふぅ。気持ちいいな。」
僕は散歩をしながら呟く。
・・・・・カザミとヒッキが結婚し、ヒッキが国王に即してから一週間が経っていた。
ここアルメリア国は、国王と王妃の誕生でお祭り騒ぎとなっていた。
一週間が経っても止む気配はなく、サイクスが言うにはおそらく一ヶ月は続くだろうと言っていた。
僕は、カザミの城への引っ越しなど、兄として出来るだけ手伝いたかったので、このアルメリア国へ暫く滞在する事にした。
まぁ結局、アルメリアの城で働いている人達が大勢やって来て、全てやってしまったので、僕が手伝える事はなかったのだが。
なので、このお祭りの雰囲気にのまれて、サイクスや仲間達と一緒に毎日飲み歩いていたという始末だ。
「ん?・・・・・・・あれは・・・・・。」
サイクスの家は首都の外れにあるので、街の外へと向かって歩いていたら、先の方から人の大群が歩いてきたのだ。
見ると、アルメリア独特の防具を着て、杖を持っている。
4大主力部隊の一つ【アルメリアの杖】だった。・・・・・一般の人も多数混ざっている。
結婚式の日。
結局へーリックは戻ってこなかった。
来るはずだった簡易ゲートを調べたが、向こうのゲートを閉ざした様だったのだ。
式の途中に通信兵から連絡が入り、クリスタル軍が再度攻めてきて、アルメリア軍含む『ミーン国』にいた全ての援軍がその防衛にあたっているとの報告が入った。
ヒッキとサイクスが笑いながら、相変わらず運が悪い奴だと言っていたのを思い出す。
僕はへーリックだったからあまり心配はしなかった。
彼と最初に学園で出会った時、今まで出会った誰よりも強いと思った。・・・・・ケイトさん達は別として。
ある日、キリアが彼を見た時、自分と同じ位の魔力があると。人間なのに信じられないと言っていた。
なぜ実力を隠しているのかは分からないが、彼なら一人だったとしても、いざという時は逃げられるだろう。
だからそんなに心配する事はなかった。おそらく長年一緒にいるヒッキやサイクスも同じ考えだからこそ、笑っていたのだろう。
徐々に近づいてくるアルメリア軍を見ると、誰一人負傷している者はいない様だった。
しかし・・・・・
誰一人、笑っていない。
皆黙って、悲壮な顔をしていた。
防衛に失敗したとしても、あくまで援軍として行っているだけだ。自国じゃない。
何だろう。・・・・・この胸騒ぎは。
彼らが続々と長蛇の列で、首都『キルギス』へと入っていく。
「おぃぃぃぃぃぃぃレイィィィィィィ。何やってんだよぉぉぉぉぉぉ?」
後ろから声を掛けられ、見るとサイクスが僕と同じ様に頭をかかえながらやってくる。
「サイクスか。飲み過ぎで頭を冷やす為に外に出たんだけどね。・・・・・・あれを見てくれ。」
サイクスは隣まで来ると、帰還したアルメリア軍を見て言う。
「おぉ!帰って来たんだな!なら、まずは王に報告に行くだろう。俺も王城へ行かないといけないな!・・・・・レイはどうする?」
「そうだな。・・・・・僕はそろそろ自分の家へ帰ろうと思っていたんだ。・・・・・だからへーリックに会ってから帰るとするよ。」
すると、サイクスは僕の肩へ腕をまわす。
「だな!・・・・・じゃあ、行こうぜ!」
僕は仲間を連れて、サイクスと一緒に王城へと向かった。
☆☆☆
王城へと着くと、すぐにサイクスと一緒に謁見の間へと通される。
そこには、新国王のヒッキが。
そして僕の妹で王妃のカザミが並んで立派な椅子に座っていた。
両側には将軍達や大臣達が並んで立っている。
サイクスは頭を下げると、その列へと並ぶ。
僕達は後ろへと下がろうとすると、ヒッキが促す。
「レイ!こっちでいいよ。」
「王様。彼らはこの国の者ではありません。王の隣に幹部達と一緒に並ばせるのはどうかと。」
近くの大臣が言う。
「・・・・・いいんだ。・・・・・彼は僕の親友で、王妃の兄だぞ?」
「!!!・・・・・出過ぎた真似をしました。」
そう言うと、大臣は元の位置へと戻る。
僕は恐縮しながら仲間達を連れて、王妃カザミの横に並んだ。
「それでは始めてくれ。」
「ハッ!」
謁見の間の大きな扉を開けると、続々と兵士が入ってくる。
【アルメリアの杖】の隊長達だ。
隊長達は僕達の前まで来ると、片膝を付き、頭を垂れる。
その中心にいる【アルメリアの杖】第一部隊隊長、ミレーユが言う。
「アルメリアの杖・・・・・・只今戻りました。」
国王ヒッキが隊長達を見て言う。
「ご苦労だったね。・・・・・それでは報告を聞こうか。でもその前に・・・・・へーリック将軍はどうした?」
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
隊長達は頭を垂れながら黙っている。
「・・・・・ミレーユ?」
王が再度聞くと、ミレーユは我慢していたのか。
こらえきれず頭を垂れながら大粒の涙を流し始めた。
涙が謁見の間の床へと落ちていく。
「・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・へーリック将軍は・・・・・・私を庇って・・・・・・」
ミレーユは涙を流しながら顔を上げて言う。
「死にました。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます