第130話 へーリック5


「・・・・・皆急いで!【展望の丘】の頂上はもうすぐよ!」



ミレーユは、最後尾を走りながら仲間の兵士と住民に叱咤激励をしている。



へーリック将軍に言われ、真っすぐに【展望の丘】へと向かったが不思議な事に敵が一度も現れなかったのだ。



たまに、道の片隅に機械の人形が壊れて倒れている位だった。



おそらく、将軍が私達を助けに来る前に、一人で事前に逃走経路を確保したに違いない。




本当に凄いお人だ。




ガガガガガガ!!!!!!



いつの間に現れたのか、丘の下の方から【カルガラ】が続々と現れ、数体が持っている銃でミレーユ達めがけて乱射する。



「ハァッ!」



ドドドドドド!!!!!!



すかさず、最後尾にいたミレーユは反転して防御魔法で防ぐ。



「隊長!」



近くにいる副隊長が叫ぶ。



見つかったみたいね。

・・・・・将軍が指示した頂上までもうすぐだ。

ここで止まるわけにはいかない。



「行きなさい!ここは私が防ぐわ!!!」



「・・・・・了解しました!頂上で待っていますので隊長もお早く!!!・・・・・行くぞ!」



そう言うと、ミレーユを残して100人の兵士達は住民を連れて頂上へと駆けていった。




下から続々と【カルガラ】が上ってくる。遠い空からは、【レギア】がこちらへと向かっている。



まずいわね・・・・・何としてでも時間を稼がないと・・・・・。彼らは私のわがままに付いてきてくれたのだ。全滅なんてさせない。・・・・・絶対に通さないわ。



ミレーユは、決心した顔をすると、魔法を唱え始めた。










☆☆☆










ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!




「ハァハァハァ・・・・・くっそぉ~!何なんだ!何で壊れないんだ!ふざけるなっす!」



オブジェクトが無数の光の玉を放つが、へーリックの唱えた【深光の壁】に阻まれて、傷一つ付けられずにいた。



「オラオラオラオラオラオラァァァァァァ!!!!」




ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!




さらに光の玉をだし、へーリックに向かって放つ。



光の壁に当たり、煙が舞う。



「・・・・・この【深光の壁】を破壊する事は不可能なんだけどなぁ~。」



へーリックが目の前で一生懸命破壊を試みているオブジェクトと自分が作り出した魔法の壁を見ながら呟く。



・・・・・この【深光の壁】は・・・・・【次元壁】だ。


この世界に存在しない空間を壁の様に展開する深淵の魔法。・・・・・だから、どんな攻撃をしようとこの壁を破壊する事は物理的に不可能なんだ。



「さて、あっちは着いた頃かな?」



へーリックは、遠くまで見れる魔法【遠眼】を使って、【展望の丘】を見る。



うん。・・・・・もうそろそろだな。ミレーユがしんがりで時間を稼いでいるみたいだけど、魔法陣を見ればすぐに駆けつけて間に合う距離だ。



「ハァハァハァ・・・・・。」



見ると、いつの間にか爆破が止まり、オブジェクトは肩で息をしていた。



「ありえないっす。・・・・・爆破の威力は相当あるっす。・・・・・ここまで撃ち込んで壊れないって・・・・・何なんすか!」



すると、後ろにいたもう一人の【7星】ノーマンが前に出て言う。



「そろそろ交代ですかねぇ~。馬鹿正直にシールドを破壊なんてしなくてもいいでしょう。でも・・・・・いいんですか?貴方。」



「ん?いいと言うと?」



「フフフフフ・・・・・あまいですねぇ~。貴方が逃がした者は、私達の部隊に包囲されてますよぉ~。すぐに命令を出しましたからねぇ~。しかも丘の上に逃げるなんて・・・・・逃げ道を無くすようなものでしょう。」



ノーマンがしてやったりの顔をしている。



へーリックは肩をすくめながら言う。



「あぁ・・・・・そう見えた?・・・・・僕がわざわざ逃げ道を無くすような指示をだすと思うかな?」



「・・・・・何だと?」



ノーマンの顔が険しくなる。



するとへーリックは、手を前に出して、両手を一回叩いた。




パン。




ノーマンは丘を見ると、丘の頂上に大きな魔法陣が浮かぶ。



「なっ!!!・・・・・・おい君!すぐに丘に向かっている部隊に連絡をしなさい!!!すぐに攻撃を開始しろと!!!」



何かに気づいたのか。焦っているノーマンをへーリックは見ながら、笑顔で言う。



「もう遅いよ・・・・・【大転移】。」




パパン。




へーリックは2回連続で叩くと、浮かんでいた魔法陣が光だし、頂上に辿り着いた兵士達や住民達を包みこむとそのまま強烈な光を発した。



そして、光が消えた後は、そこにいた者達は消えていた。




「ガァァァァァ!わっ私の物になるはずだった素体がぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



ノーマンは頭を抱えて叫ぶ。




・・・・・さて、あとは帰るとしますか・・・・・・ん?・・・・・・!!!・・・・・ミレーユ!!!・・・・・何で?・・・・・チッ!!!




ドッッッッッッ!!!




丘の上を【遠眼】で見ていたへーリックは、二人の【7星】やクリスタル軍を残して、あっという間に、飛空魔法で丘へと飛んでいった。










☆☆☆










ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!




ミレーユは、クリスタル兵やカルガラが登ってこれない様に、土魔法を唱え、敵の動きを遅れさせていた。



「・・・・・隊長!!!」



遠くで部下の声が聞こえ、振り向くと、頂上に巨大な魔法陣が浮かび上がっていた。



・・・・・あれは!!!・・・・・戦いが始まる前に、何回か視察に来た時、そのたびにへーリック将軍が丘の上に行っていたのはこの為か!



何かあってもいい様に、すでに仕込んでいたなんて・・・・・。



頂上はすぐそこ。



駆ければ間に合う。



ミレーユは、攻撃を止めて、一気に頂上へと駆けた。



浮かんでいる魔法陣が光だし、兵士達を包み始める。




もう少し!!!・・・・・間に合うわ!!!




ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!!!!!




光の空間まであと数十メートルまで来た時だった。



土魔法で塞いでいた道を破壊し、近くまで来たクリスタル兵やカルガラが一斉にミレーユに向かって撃ち始めた。



防御魔法を使っていないミレーユの腕や足に、数発の光線が当たり、そのまま前のめりに転ぶように倒れる。




「たっ・・・・・隊長ぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!・・・・・・・・・」



その数十秒後、叫んだ副隊長の声と共に、頂上にいた兵士や住民達は消えていた。



倒れたミレーユは、すぐに、片足を引きずりながら立ち上がる。



間髪入れずに、まだ少し離れているカルガラが光線を撃ち始める。



「ハァッ!!!」




ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!!!




すぐに防御魔法を貼り、光線を防ぐ。



下からは大勢のカルガラが光線を撃ちながら登ってくる。後ろにクリスタル兵を連れて。そして空にはクリスタル兵が機乗しているレギアが多数向かって来ている。




・・・・・これではもう袋のネズミね。

・・・・・ならば・・・・・!!!!!!




ヴゥン!




気配を感じ、横からの一刀をかろうじて躱す。



いつの間に登って来たのか、一人の男が立っていた。



「ほう。よく避けたな。」



「・・・・・貴方は?」



「俺は、中将のアルファーという者だ。エルビス様に命じられ、この一帯を探索していたのだが・・・・・・まさかまだ敵が残っていようとはな。・・・・・お前は?」



下からの攻撃が止み、防御魔法を解くと言う。



「私は、アルメリア国の部隊、【アルメリアの杖】第一部隊隊長ミレーユ。」



「ミレーユ・・・・・こちらに来るときに見ていたが、仲間を逃がしていたな。その心意気は大したものだ。・・・・・どうだ?降伏すれば命は取らないが?」



するとミレーユは持っている杖を前に出して言う。



「・・・・・何を言ってるの?私は軍人。・・・・・生きている限り、一人でも多くの敵を倒すわ!!!」



「そうか。・・・・・ならば苦しまずに殺してやろう!!!」



そう言うとアルファーはもう片方の手に、刃のない柄を取り出すと、光線を出す。



二本の光線を出している剣の様な物を両手に持ち、一気にミレーユへと駆け距離をつめる。




ボォッッッッッッ!!!




すかさずミレーユが炎魔法を出すが、アルファーの動きがその魔法より早く間合いへと入る。



・・・・・まずい!!!魔術師は敵を接近させてはいけないのが基本なのに!・・・・・足が!!



先程、撃たれた片足が動かず、距離をとる事も出来ずにいた。



「さらばだ!」



すかさずアルファーが二刀同時にミレーユに斬り込む。



ミレーユは思わず目をつぶって覚悟する。




ザンッッッッッッッッッ!!!!!




一瞬だった。




斬ったと思ったが、そこにミレーユはいなかった。




ボンッッッッッッッッッッッッ!!!!




すぐに消えた先を見ようとすると、真っ白い煙幕が辺り一面を覆った。



「なっ何だ?・・・・・何が起きたのだ?・・・・・クソッ!前が全然見えん!!」



【展望の丘】全体が真っ白い煙に覆われてしまった。










☆☆☆










ミレーユは何が起きたのか理解できずにいた。



ただ、気づくと、抱きかかえられていて、低空で真っ白い煙の中を飛んでいた。



私を抱えているその人を見ると・・・・・へーリック将軍だった。



「将軍!!!!」



「・・・・・やぁ。」



へーリックは笑顔で返事をすると、そのまま更に速度を上げて煙の中を飛ぶ。そして、向かった先はこの首都で一番高く、大きな塔だった。



すぐにその塔の中へと入る。



塔の中の一階で止まり、見上げると、階段が螺旋状になっていて、中央が遥か最上階まで空洞になっていた。



「・・・・・行くよ。もう少し我慢してね。」



「キャッ!」



そう言うと、ミレーユを抱えたまま、一直線に上空へと飛空魔法で飛んだ。



最上階へと着き、ミレーユを降ろすと、そのまま屋上へと上がる。



そこは直径100m程あるとても広い塔の屋上だった。



「よし。まだ気づいてないな。・・・・・とりあえずは治療しよう。」



そう言うと、特別なポーションを直接ミレーユの傷口にかける。



すると撃たれた腕や足がみるみるうちに治る。



「あっありがとうございます!へーリック将軍・・・・・すみません!勝手に命令を無視して!・・・・・結局私の部隊を危険に晒して、将軍に助けてもらうなんて・・・・・。」




ミレーユは今にも泣きそうだ。



へーリックは笑顔で言う。



「いいかい、ミレーユ。残された住民を助けたいのは分かる。でもね、時間がなくても、まずは一度冷静になって、頭を働かせるんだ。

 そうすれば、おのずとどうすればいいか、判断がつく。・・・・・君は【アルメリアの杖】の第一部隊を預かる身だよ?その部下の全ての命を預かってるんだ。

 そこを忘れないようにね。・・・・・そして僕は、全ての部隊を預かってるからね。だからどんなことがあっても君を助けるよ。・・・・・大丈夫。これも想定の内だから。」



「将軍・・・・・。」



へーリックは、歩いて頂上から外を見ると、地上はすっかり煙が晴れ、クリスタル兵やカルガラが続々と塔の中に入っていく。



空を飛んでいるレギアはこちらへと、飛んできていた。



・・・・・空を飛んでいる鉄の人形はざっと1000体はいるな。すぐに囲まれてしまうだろう・・・・・これだと、ミレーユを連れて飛空魔法で逃げる事は不可能か。



・・・・・さて、どうするか。



「ミレーユ。ちょっと右手を・・・・・」



へーリックが言いかけると、突然轟音が鳴り、多数の空飛ぶレギアが塔の屋上へと着き、抱えていた【7星】のノーマンとオブジェクトを降ろす。




「おいお前!なに勝手に戦いの途中でいなくなるんっすか!逃がさないっすよ!!!」



オブジェクトが怒鳴っていると、ノーマンが前に出て言う。



「・・・・・お前達、出て来なさい。」



すると、突然床がノーマンを中心に黒くなり、そこから続々と100体ほどのゾイ(ゾンビ)が現れる。それは人間というより獣に近かった。



ノーマンはニヤリと笑って言う。



「お前だけは、逃がしませんよぉ~。せっかくの素体を逃がした罪は重いですからねぇ。」



・・・・・あの召喚?した死体・・・・・私が見た動く死体より、はるかに大きい・・・・・あれはもう怪物だわ。・・・・・しかも、後ろにはあの二人がいる。


・・・・・私達だけでどうにかできる状況じゃない。



ミレーユは不安そうにへーリックを見ると、へーリックはため息をつきながら言う。



「はぁ。・・・・・懲りずによく追いかけてきたね。女の子なら大歓迎だけど、男二人に追われるのは勘弁してもらいたいなぁ。」



ノーマンはムッとした顔で、ゾイに命令する。



「・・・・・あの男を八つ裂きにしてやりなさい。」



「ガァァァァァァァァ!!!!!」




一斉に100体のゾイがへーリック達に襲い掛かる。




「・・・・・深炎。」




ゴォッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!




へーリックが魔法を唱えると、こちらに向かっていたゾイが黒い炎に覆われる。



全てのゾイに黒い炎が包まれると同時に・・・・・一瞬にして灰になった。




「・・・・・は?」




ノーマンは茫然としている。



その黒い炎はそのままノーマンやオブジェクト、その後ろにいるレギアを襲う。



その炎を瞬時に、【7星】の二人は避けたが、後ろにいる多数のレギアは黒い炎に包まれ、同じ様に一瞬で灰に帰した。



気づくと、広い塔の頂上には、へーリックとミレーユ。そして【7星】の二人だけになっていた。




「凄い・・・・・。」




ミレーユは何が起きたのか理解が出来なかった。



あの男が召喚した動く死体は、かなりの高レベルの怪物達だった。そして後ろにいた鉄の動く人形もとても高い。



それを一瞬にして燃やすというより、灰にしてしまった・・・・・・。



あんな魔法見た事がない。




「おぉ、よく避けたね。流石大将クラスといった所か。」



「わっ私のゾイがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



ノーマンは両膝を地につけて絶望の叫びをあげている。



「ふざけるなっす!!!くらえっす!!!!」



オブジェクトが、無数の光の玉をへーリックめがけて放つ。




ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!



ドンッドンッドンッドンッドンッドンッドンッドンッドンッ!!!!




へーリックは同じ数の炎の玉をだし、それを放って相殺する。



・・・・・なかなか隙が生まれないな・・・・・先に二人を倒すか?・・・・・しかし、そうすると上空で待機している1,000体ほどの鉄の人形がすぐに動くかもしれないしな・・・・・。



「あっ!ありえないっす!俺と同じ爆破の威力なんて!何なんだお前は!っす!!!」



「シッ!」




ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン!!!




ザァァァァァァァ。




一瞬。




へーリックは横から気配を感じると、すぐに剣を出してギリギリで防ぐ。そしてそのままその剣圧で後ろへと下がる。




「・・・・・ほう。よく受け止めた。」



男は言う。



その男は、光る長剣を持ち、長身で目は鋭く他とは違う風格があった。




・・・・・いつの間に?・・・・・まるで気配を感じなかった。・・・・・しかもこいつは・・・・・まずいな。



へーリックはその男に言う。



「貴方は?」



「私か?・・・・・私はクリスタル帝国【7星】が一人。エルビス=レーガンという。お前は?」



「僕は、アルメリア国のへーリック=ファウスト。」



すると、いつの間にいたのか、副官のジョゼがエルビスに耳打ちをする。



「ふむ。・・・・・アルメリア国の将軍か。よく大物を追い詰めたものだ。・・・・・・でかしたぞ、ノーマン。オブジェクト。」



「エスビス様!」「エスビス!」



ノーマンとオブジェクトが嬉しそうに叫ぶ。



その様子を見ながらへーリックは思う。



・・・・・エルビス=レーガン・・・・・あの男は相当強いな。・・・・・あの二人だけだったら、何とかなったが、これだと・・・・・・何とか隙を作らないとな。



「さて、へーリック。もうお前達は完全に包囲されている。降伏をするなら、殺さないが・・・・・どうする?」



エルビスが言っている間に、続々と頂上に登って来たクリスタル兵やカルガラが到着する。



そして、上空にいた複数の【レギア】も降り立って銃を構える。



「・・・・・慈悲はありがたいが、僕も少なからず愛国心はあるんでね。遠慮しておくよ。」



「そうか・・・・・ならばせめて私の剣で葬ってやろう。・・・・・皆は手をだすな!」




チッ!・・・・・大勢でかかってきた方が、混乱に乗じて隙を作れたのにな。




エルビスは光る長剣をゆっくりと構える。



へーリックは、右手に剣を持ち。左手は魔法を放つ構えをする。




ドッッッッッッッッッ!




一気にエルビスがへーリックに向かって踏み出す。




「深炎!」




ゴォッッッッッッッッ!




フッ。




黒い炎がエルビスに当たる瞬間に消える。




そして一瞬でへーリックの前に現れ一刀。




ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン!!!




へーリックはそれを防ぐと、剣から雷がほとばしる。




「ヌッ?」



「ハッ!」




ガガガガガガガガガガガガガ!!!!




エルビスはすぐに距離をとるが、剣から放たれた雷がエルビスを追従する。




スッ!スッ!スッ!スッ!スッ!スッ!スッ!スッ!




それをもの凄いスピードで躱しながら、徐々にへーリックに近づく。



そして攻撃範囲に入った瞬間、長剣が消えた。




ザッ!




今後は逆にへーリックが後ろへと下がる。




バッ!




下がったと同時に、へーリックの体から血が舞った。




「将軍!」



ミレーユが叫ぶ。




二人は最初と同じ様な距離で対峙する。



「ほう・・・・・ギリギリで致命傷を避けたな。・・・・・術も凄いが、剣術も一級だ。・・・・・ここまでの者は、我が国でもいないぞ。」



エルビスの片腕も血が滲んでいた。



「お褒めの言葉。嬉しいね。・・・・・僕は天才だけど、剣では絶対に勝てないやつに教えてもらったからね。」



前に一時、レイに教えてもらったのが生きてるな。



「面白い。・・・・・・ならば久しぶりに全力でやらせてもらおう。」



そう言うと、エルビスは足を広げ、構える。



「参る!」





ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!



ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!



ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!



ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!



ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!



ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!





エルビスの長剣が凄まじい剣速で、へーリックに斬り込む。



それを、ギリギリで躱しながら、距離を取り、魔法を放ちながら、隙を見て剣で斬り込む。



もの凄い攻防が繰り広げられていた。



それを見ていたノーマンがへーリックから距離を置いているミレーユを見て思う。



・・・・・素体のストックが少なくなってしまいましたね・・・・・・あの男・・・・・エルビス様に狙われては、私が手を出す事は出来ない。ならせめてあの女だけでも・・・・・。



ノーマンは、足元に黒い影の様な物を作り出すと、ゆっくりと沈んでいった。










☆☆☆










ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!



ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!



ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!



ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!




へーリックは距離をつめられ、長剣を剣で何とか躱すが、あまりの手数に致命傷にならない程度に斬られていく。



エルビスは、間合いから離れると同時に撃ってくる様々な強力な魔法に瞬時に避けるが、数発は対応しきれずに腕や足に当たる。





血が舞い。体が焼ける。





「ハハハハハハハハ!!!!面白い!・・・・・面白いぞ!!」



エルビスは戦いながら歓喜の声をあげる。



こんなに力を開放したのはいつ以来だろうか。自分達がいた星で、私とまともに戦える者など一人もいなかった。ましてや、全力でやり合う相手など・・・・・。



世界・・・・・いや、宇宙は広いという事か!!!




ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!



ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!



ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!



ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!





「こんなの・・・・・人同士の戦いじゃないわ。」



距離をおいて二人の戦いを見ているミレーユは独り言の様に呟く。



へーリック将軍の強さはアルメリア国で最強なのは、私達【アルメリアの杖】部隊、全てが知っている事。



しかし、ここまで凄いとは思ってもみなかった。



ずっと実力を隠していたのだろう。



それでも、最強部隊と言われるまでに成長させた統率力と知略は計り知れない。



この方は間違いなく、アルメリアの宝。・・・・・そんな方をここで死なせるわけにはいかない。何とかして逃がさなくては・・・・・私の命に代えても。



ミレーユが考えていると、その背後の床が影の様に黒くなり、そこからゆっくりと一人の男・・・・・剣を持ったノーマンが現れる。



そのまま剣を振り上げ、一気に振り下ろした。




ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン!!!!!



ズッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!




ミレーユは何が起きたのか分からなかった。



気づくと、自分が吹き飛ばされていた。



すぐに自分のいた方を見ると・・・・・ノーマンの剣を防いでいるへーリック将軍がいた。



同時に、腹部には背中から、長剣で貫かれて。




「へーリック将軍!!!!!!!」



ミレーユが叫ぶ。




「・・・・・深炎。」



剣を持ってない片手で、ノーマンの腕を握ると、そのまま魔法を唱える。



腕が黒い炎に包まれる。



すぐに離れたノーマンだが、黒い炎はどんどん腕から体へと移動を始める。




ザンッ!!!



迷わず、剣で黒い炎に包まれている腕を斬り落とした。




「ガァァァァァァァ!!!!!」



ノーマンはその場で膝をつき、呻き声をあげる。



剣で斬り落とされた腕は、炎に焼かれ、灰へとなっていた。



エルビスは、へーリックの背後から長剣を突き刺したまま言う。



「・・・・・興ざめだ。戦いの中で、他の者へ助けに行くなど・・・・・私がそんな隙を見逃すわけがなかろう。」



「フッ!!」



背後にいるエルビスに片手で魔法を放とうとするが、すぐに、剣を体から抜き、一気に距離を取る。



剣を抜かれた体から、血が床へと落ちる。



エルビスは、勝敗が決したと思ったのか。様子を見ながら動こうとしない。



それを確認したへーリックは、片手で傷口を抑えながら、倒れているミレーユの前まで来ると、跪いて言う。



「ミレーユ。・・・・・手を出して。」



「えっ?」



出されたミレーユの手を握ると、指に指輪をはめる。



へーリックは笑顔でミレーユに言う。



「ミレーユ。・・・・・・・・後は頼んだ。・・・・・【転移】。」



指輪が光ると、ミレーユの全身が光に包まれ、消えていった。





その様子を見ていたエルビスは目を見開き、言う。



「何と・・・・・そんな脱出方法があるとはな。しかし・・・・・貴様は愚か者だ。それはお前が使う予定だったのだろう。

 それを自分を犠牲にして部下に使うなどとは・・・・・分かっているのか?救った女より貴様の方がアルメリア国にとって数倍、いや・・・・・数万倍もの価値がある事を・・・・・。

 私なら、人命を最大限守って、それでも救えないなら部下を切り捨てて逃げるがな。・・・・・それが国の為になるからだ。」



へーリックは腰に付けてたポーチから特別なポーションを取り出すと、刺された腹部に直接かけながら言う。



「・・・・・おっしゃる通り。貴方の言う事は間違いないよ。でも・・・・・ずっと隙が出来るのを待ってたんだ。助かったよ。」




・・・・・血を流しすぎた。・・・・・もってあと数分か。・・・・・エルビスの言う通りだ。・・・・・僕は将軍失格だな。




ふと、へーリックの頭に一人の親友の顔が浮かびフッと笑う。




・・・・・きっと、あいつに影響されたんだろうな。




エルビスは、長剣をゆっくりと構えて言う。



「このまま放置しても死にそうだが、貴様は私が見た中でも最高の戦士だった。・・・・・せめて、武人として死なせてやろう。」



へーリックは愛用の剣を鞘に納めると、自由になった両手を前に出しながら言う。



「・・・・・これで遠慮なく本気の魔法を使える。彼女がいたら巻き込んでしまうからね。」



「・・・・・何だと?」





「【深重】。」





ズズンッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!





塔の広い頂上全体が、見えない力で押しつぶされる。



頂上にいる数千のクリスタル兵やカルガラ、一部のレギアが一瞬にして蟻を踏み潰すかのように押しつぶされ・・・・・絶命した。



「ガァァァァァァァ!!!!」



「なっ何すかこれぇぇぇぇぇ!!!!」



唯一まだ死んでない【7星】のノーマンとオブジェクトはその場で、床に叩きつけられ、その重力に耐えている。・・・・・骨がきしみ、今にも意識を失いそうだった。



そしてエルビスは、立ってはいるが動く事が出来ないでいた。



「ヌゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」



エルビスはゆっくりと体を動かし、少しづつへーリックへと近づいていく。



「凄いね。少しでも動けるなんて。でも・・・・・【深剣】。」



無数の光の剣がへーリックの頭上に現れ、一斉にその光の剣がエルビスに向かって放たれる。




ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!




光の剣はエルビスの体を串刺しにする。




???・・・・・・・・上!!!




ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン!!!!!




魔法壁を作った片手でその剣を防ぐ。



上空から斬り込んできたのは、エルビスだった。



串刺しにされたエルビスを見ると、別の男になっていた。




「危なかった。・・・・・これは私の技の一つでね。近くに対象の者がいれば、入れ替えることが出来るのだ。上空にいる【レギア】に乗っている兵士を使わせてもらった。・・・・・もう眠れ!!!!」




ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!




長剣の連撃が舞い、両手で作った魔法壁でそれを防ぐ。




ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!



ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!








へーリック=ファウスト。



アルメリア国の大貴族の母を持ち、何不自由なく育った。



父は、世界有数の商人で、忙しく、家に帰ってくるのは年に1度か2度位だった。



それでも帰って来た時には、とても大事にされ、愛情を注いでくれた。



母は、父とあまり会えない反動か、異常なまでの愛情で過保護に育てられた様に思う。



小さい時から、自分は何でもできた。



勉学も、剣術も何もかも。



特に魔力は異常だった。



文献を見ても、ヒューマンでここまでの魔力を持っている者はいなかった。・・・・・大魔導士や大賢者と呼ばれる者でさえも。



あの頃は、正直、つまらなかった。



毎日が灰色の生活の様だった。



何でも出来て、自分が一番強いと感じたから。



だから、同じ年としてサイクスと一緒にアルメリア国第一王子の護衛として選抜されたのは必然だった。



王は、護衛としてではなく、友として付き添って欲しいと言われたが、友のふりはしても、サイクスも自分も一線は引いていた。



次期、国王になられる方だ。



友達など、なれるはずもなかった。



そんな中、ヒッキ王子と共に行った学園都市【カラリナ】での学園生活。



・・・・・レイ。そこで君に出会ってから僕は変わった。



会った瞬間に思った。



僕より強い・・・・・と。



僕より強い人がいたのかと。



そして、損得なく笑顔を向けて話しかけてくる君に、僕は衝撃を受けたんだ。



今までずっと灰色の景色だったのが、その瞬間、カラフルに彩られたのを今でも忘れない。



対等の友達と呼べる人なんて、ずっといなかった。



これからも友達なんて作れないと思っていた。



でも、あの時、初めて心から親友と呼べる友が出来たと感じた。



だから、自然と君を中心に、ヒッキ王子やサイクスも護衛対象や同僚としてではなく、友達として付き合う事ができたんだ。



今は、これが僕の一生の宝物だ。



だから・・・・・・・。








エルビスの連撃に、避け切れなくなり、血が舞う。



特別なポーションで抑えられた傷口は開き、立っている床には血が溜まっていく。



徐々に力を失っていき、エルビスはへーリックの隙をついて致命的な一刀を入れた。




ザンッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!




右肩から左下へと長剣で斬られ、大量の血が舞う。



へーリックは数歩後ろへと下がり、膝を付く。




「・・・・・その体でよく戦った。・・・・・これで最後だ。」



そう言うと、エルビスは剣を構える。






だから!!!!!!!!!






「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」



へーリックは、手を膝において立ち上がる。



血が床へと流れていく。



そして、片手で愛剣を抜き、雷を纏わせ、エルビスを見て笑顔で言う。




「ハッ。こんな傷はかすり傷さ。」



「・・・・・見事。」



エルビスは一言いうと、そのまま一気に踏み込んだ。










☆☆☆










「ハァ・・・・ハァ・・・・ハァ・・・・・お前・・・・・何なんだ?」



エルビスは肩で息をしながら言う。



こんなに長い一対一の戦闘をしたのは初めてだ。



斬っても、斬っても立ち上がり、向かってくる。



致命傷を与えたにもかかわらず。



しかも、戦っている間も、この頂上にいる二人の【7星】には、重力魔法が延々とかけられていた。・・・・・ありえない事だ。



対峙しているへーリックを見ると、エルビスの長剣で体中を斬られ、血だらけだった。そして、剣をもっていた腕は斬り落とされ、なくなっている。



立っているだけで、血が床へと流れ、血だまりが出来る。



エルビスも片腕が魔法でやられて、使い物にならなくなっていた。



・・・・・もう死んでもおかしくない状態だ。・・・・・それでもありえない動きで私に攻撃してくる。



すると、へーリックはニヤリと笑い、血だらけの顔で言う。



「・・・・・どうした?・・・・・もう終わりか?」





ゾッッッッッッッ。





エルビスは額から汗を流し・・・・・恐怖した。





「ヌゥゥゥゥゥゥゥオォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」



エルビスは真っすぐにへーリックへと突っ込んだ。



その姿は、達人の剣士ではなく、素人がそのまま剣を真っすぐに突き刺している様だった。





ズッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!





もうすでに一歩も動けないへーリックの胸へ長剣が突き刺す。




「・・・・・ハッ!」



エルビスは我に返り、すかさず剣を抜きながら距離を取る。



「ゴフッ。」



へーリックは口から吐血しながら、残った片手をゆっくりと前に出した。







だから・・・・・・・・レイ。







君と・・・・・・君と・・・・・これからも遊びたかったなぁ。







「・・・・・深淵の魔法。

・・・・・命を代償とする深淵最大魔法。

・・・・・・・・・・【終末の斬撃】。」







ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!!!






晴れていた空が暗くなり、突然空間に大きな亀裂が生まれる。



そこから出てきたのは・・・・・・とてつもなく大きく、禍々しい腕だった。長さで言うなら1kmはあろうか。



そのとてつもなく大きな腕の手に握られているのは一本の腕と同じ位の巨大な剣だった。



それを茫然と眺めていたエルビスは、我に返ると、すぐに動く。



最大魔法を使う為に、重力魔法が解けた【7星】の二人に叫ぶ。




「ノーマン!オブジェクト!

 ・・・・・逃げろ!!!!!!!」



その剣が大きく雲を抜け、見えなくなった所から、塔めがけて一気に剣が振り下ろされた。




ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン・・・・・・・・!!!!!!!!!!!!!!!!!!






・・・・・・剣が塔を破壊し、そのまま首都を破壊した。








・・・・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・・・・・



「・・・・・・ック。」



「へーリック!何ぼーっとしてんだ?・・・・・行くぜ!」



「えっ?」



自分を見ると学園の服を着ていた。



隣でヒッキが悪だくみの顔をしながら、へーリックの肩に腕を絡ませる。




「ウィィィィィィィ!行くぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」



同じ様に隣で意気込みながらサイクスが腕を絡ませる。




「・・・・・僕はいったい・・・・・・・・・。」



「・・・・・へーリック!・・・・・・さぁ、行こう!」




前を見ると、君が笑顔で呼んでいた。




「・・・・・あぁ!今行く!!!」












ヒッキ=クラウス=アルメリアがアルメリア国王となった同時刻。













へーリック=ファウストは仲間を想いながら













消滅した。






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