第129話 へーリック4



「隊長!ここです!」



首都へと入り、陥落した王城から数キロ離れた先にそれはあった。



教会だ。



「ここね。」



ミレーユは辺りを見渡しながら言う。




おかしかった。




敵がいない崩落した壁の反対から来たが、中心地近くまで来たのに、まだ一度も敵と遭遇していなかった。



この国の住民も、兵士達も脱出した為、争う音もなく静寂に包まれていた。



城を固めているのだろうか。



ならばチャンスだ。




「行くわよ。」



すぐに、ミレーユ率いる100人の部隊は、

教会へと入っていく。




「誰か!・・・・・誰かいませんか!」



ミレーユは声をあげる。



すると、祈りをささげる広い空間の片隅で、固まって縮こまっていた神父を含む30人ほどの子供連れの親子が立ち上がる。



近づくと神父が言う。



「あっあなたは・・・・・?」



「ご安心ください。私達はアルメリアの兵士です。貴方達を助けに来ました。・・・・・大丈夫ですか?」



ミレーユがそう言うと、皆、歓喜の声をあげ、神父が前に出て言う。



「ああ!良かった!私達は非難する前に、この教会で兵士達の戦いの無事を願って、祈りを捧げていたんです。どんなに早く攻められたとしても数日かかると言われたものですから・・・・・。

気づいて外に出ようとしたら、動く鉄の人形や知らない兵士達がいたので、慌ててここに隠れていたのです。」




「えっ???」



ミレーユはその言葉を聞いて動きが止まる。




・・・・・出ようとしたら、敵がいた?・・・・・どうゆう事?・・・・・私達がここに来た時は敵などいなかったのに・・・・・。




まさか!!!!




ミレーユはすぐに出口まで駆けると、近くの窓から外を見る。




すると、先ほどまでいなかった、空中には空を駆け、兵士が乗っている【レギア】が。

そして周りには【カルガラ】と呼ばれる鉄の兵器と、大勢のクリスタル兵が外にはいた。




なんて事!



住民を餌に???




これは・・・・・・・・・罠だ!!!



ミレーユは茫然とその光景を眺めていた。










☆☆☆










「んん~。バカが釣れましたねぇ~。もう少し引っかかってくれると良かったんですけどねぇ~。まぁ、これで我慢しましょうか。いい素体が見つかるといいんですが・・・・・。」




ノーマンは教会の前で嬉しそうに言う。




「あ~!不完全燃焼っす!途中から炎と雷が降ってくるもんだから、ずっと防いでて、あまり爆破出来てなかったっす!もっと敵を吹き飛ばしたいっす!!!」



隣にいるオブジェクトが不満たらたらに言う。



「まぁまぁ。オブジェクトさん。引っかかったこの中にいる敵は譲りますよぉ~。

 ただ、吹き飛ばすのはいいですけど、体のどこでもいいので、破片だけは残しておいてくださいねぇ~。それだけあれば、私の【ゾイ】として誕生する事が出来ますから~。」



「いいっすか?嬉しいっす!んじゃ溜まってた分、派手にやるっすよ!」



二人の後ろにいる副官の一人はその様子を見ながら思う。



・・・・・全く。ノーマン様は相変わらず趣味が悪い。もう勝ったというのに、わざわざ住民を餌に敵兵をおびき出すとは。


周りや裏口は、ここより兵を厚くしている。少しでも逃げる確率があるとしたら、正面から出てくるしかない。



「降伏だけはしないでくれっすよ~。」



オブジェクトが言いながら前に出ると、教会の大きな扉が勢いよく開き、一斉にアルメリア兵が出てくる。



後ろに住民を従えて。



「おっ!やる気っすね!そうそう!いいっすよ!周りには手を出させないっす!俺が相手っす!」



嬉しそうにオブジェクトは、一人で近づいてくる。



近づいてくる男を見ながらミレーユは少し前の教会のやり取りを思い起こす。





「隊長!どうしますか!・・・・・完全に囲まれています!」



・・・・・私の完全な判断ミスだ。おそらくへーリック将軍はこうなる事が分かってて、有無を言わせない口調で命令をだしたんだ。




それを私は無視した。




ならばここは、私の命をかけてでも、少しでも多くの部下や住民を逃がさないと。




ミレーユは部下を見て言う。



「裏には正面の何倍もの【カルガラ】がいた。これでは住民を連れて逃げるなんて不可能ね。ならば、誘いに乗って正面から出ます。そして私を含む半分が隙を作る。

 その隙に残りの部隊が皆を連れて、来た道を戻るしかないわ。・・・・・私と残る者達は死を覚悟して欲しい。・・・・・ごめんなさい。」



近くにいる第一部隊副隊長が言う。



「隊長。謝る必要はないですよ。俺達は救助を聞いたうえで付いてきたんですから。・・・・・皆覚悟の上です。」




周りの部下達は頷く。




皆、迷いはなかった。




「ありがとう・・・・・・それじゃ、行くわよ!」



ミレーユは教会の扉を勢いよく開けた。






一人、近づいてくるオブジェクトを見る。



あれは・・・・・敵の大将クラスの者。




他に動きがない。



チャンスだわ。



これなら・・・・・。




ミレーユ含む50名のアルメリア兵は一斉に無詠唱の魔法を放った。



「行って!!!」



放つと同時に半分の兵達は住民を連れて走る。



オブジェクトと、後ろで静観しているクリスタル兵めがけて炎の塊が降ってくる。



「はぁ・・・・・もう、その術は飽きたっすよ。」



オブジェクトの周りに無数の光の玉が現れると、その一部が降ってくる炎めがけてぶつかる。




ドドドドドドドドドンッ!!!!!




あっという間に、ミレーユ達が放った魔法が相殺される。



「クッ!すぐに次を・・・・・・えっ?」



見ると脱出しようとしていた兵達が止まっていた。



その先には、いつの間にか沢山の死体【ゾイ】が行く手を阻んでうごめいている。



「クックックック・・・・・・。ハァ~ハッハッハッ!その絶望の顔・・・・いいです・・・・いいですねぇ~。

 予想通りの行動をしてくれてホント面白いですよぉ~。楽しむ為におびき出したのに逃がすわけないじゃないですか~。

 さぁ!オブジェクトさん。思う存分やっちゃってください。」



「んじゃ!遠慮なくいくっす!」



オブジェクトが軽く右手をあげると、一斉に光の玉がミレーユ達へめがけて飛ぶ。



だめ!指示が間に合わない!

あの光の玉の破壊力は私達、単体の魔法では相殺できない!!!




「避けて!!!!」



ミレーユが言った瞬間、聞きなれた声が言う。








「・・・・・深光の壁。」








ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!




光の玉が爆発し、辺り一面煙が舞った。



その様子を見ていたノーマンの隣にいる副官が報告をする。



ノーマンはその報告を聞き、目を見開き、話しかける。



「これはこれは・・・・・まさか大物が釣れるとはねぇ~。たった100人位を、単独で助けに来るなんてどうかしてますよぉ~

・・・・・アルメリアの将軍♪」



ミレーユ達の前にいたのは、へーリックだった。










☆☆☆









「へーリック将軍!」



ミレーユは驚き、愕然としていた。



まさか命令を無視した私達を助けに来るなんて思ってもいなかったのだ



しかもお一人で。



これでは、将軍まで失ってしまう。・・・・・私のせいで。



へーリックは頭をかきながら、ノーマンに答える。



「ん~・・・・・単独で来るなんてどうかしてるって?・・・・・どうせ連れてきたら、ここに見えていない隠れている兵達が出て対応するんでしょ?・・・・・僕の兵を連れてきて被害を拡大させたくはなかったからね。」



「フフフフフ・・・・よく見てますねぇ~。流石、将軍といった所ですか。・・・・・それで?この戦況を打開するすべはあるのですかぁ~?」



ノーマンは楽しそうに話している。



へーリックは耳に付いている魔道具で後ろにいるミレーユ達に話しかける。



「・・・・・ミレーユ。住民達を連れて全員、

【展望の丘】の頂上へ走れ。・・・・・いいね?」



「はっはい!」




・・・・・【展望の丘】。

首都の街中にある観光名所の一つ。

なぜそこへ・・・・・あの場所は、私達が来た方角とはまるきり逆。


でも・・・・・将軍の命令は必ず意味がある。・・・・・もう迷わない。



へーリックとオブジェクトがそれぞれの兵の前に出て相対している。



「・・・・・もういいっすか?それじゃ、派手にいくっすよ!」



オブジェクトの周りに無数の光の玉が浮かびあがる。




「あぁ~ちょっと君。」



へーリックが話しかける。



「ん?何っすか?」



「【深槍の雨】って経験した事あるかい?」



「へっ?深槍の雨?何すかそれ?」




へーリックは片手を広げて握りながら言う。




「・・・・・【深槍】。」




カァッッッ!!!!!




ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!




言った瞬間。




オブジェクトやノーマン率いるクリスタル軍の上空が光り、一斉に光の槍が降り注いだ。



目の前の【カルガラ】や【ゾイ】、そしてクリスタル兵が串刺しになっていく。



オブジェクトはすぐに、まとっていた光の玉を降ってくる光の槍に向かって当てていた。




「凄い・・・・・・。」



ミレーユは思わず呟く。



あんな魔法、初めて見た。



かなりの広範囲魔法だ。



しかも、光の槍が止まらずずっと降り注いでいるのだ。



どれだけの魔力があれば、こんな芸当が出来るのだろうか。



へーリックは振り返ってミレーユ達に言う。




「それじゃ、行って。」



「えっ!将軍はどうするんですか?」



「僕は大丈夫さ。・・・・・時間がない。早く行くんだ。」



「・・・・・分かりました。皆!行くわよ!」



「ハッ!」




ミレーユ達は【展望の丘】へと駆けていった。




走っていくその後ろ姿を見ながらへーリックは言う。




「よし・・・・・行ったな。」





ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!




「おっ・・・・・おい!!!!!」



「ん?」



延々と降り注いでいる光の槍を爆破で防ぎながらオブジェクトが言う。



「いいかげん、この槍止めてくれないっすかね!」



「あぁ。たしかにそうだね。僕もいいかげん疲れちゃうしね。」



そう言うと、握っていた片手をひろげる。



すると、光の槍がおさまった。




見ると、かなりの数がいた人型ロボットの

【カルガラ】は破壊され、近くにいたクリスタル兵も絶命していた。




「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!わっ私の・・・・・私の【ゾイ】がぁぁぁぁぁ!!!!」




ノーマンを覆いかぶさる様に守っていた、3m以上はある数体のゾイは沢山の槍を背中に浴びて動かなくなっている。



そして、逃げ道を塞いでいた大勢の【ゾイ】も串刺しになって、徐々に灰になって消えていく。



へーリックは叫んでいるノーマンを見て笑顔で言う。



「そういえば単独で来るなんてどうかしているって言ってたね。戦況を打破できるのかとも。・・・・・単独だからこそ出来る事もいっぱいあるんだよ?」



ノーマンはみるみるうちに、顔が真っ赤になる。



「きっ貴様ぁぁぁぁぁぁ!!!!」



そう言うと、後ろで隠れて待機していた【ゾイ】や【カルガラ】、クリスタル兵が続々とやってくる。



「あれあれ。・・・・・たった一人にそれはないんじゃないかな?」



へーリックが言うと、オブジェクトが後ろから集まる兵達やノーマンに言う。



「ノーマン!待つっす!まだ全然爆破してないっす!おれがやるっす!」



「オブジェクトさん。・・・・・ならさっさと殺ってくださいねぇ~。じゃないと私も我慢の限界ですよぉ~。」




・・・・・いいね。おそらくあの二人は大将クラスだろう。見た感じ、独自先行型と思ったけど、当たりの様だな。


頭に血が上って、一人で僕に向かって来てくれる。・・・・・その分、時間が稼げるな。




へーリックは、オブジェクトを見て言う。









「それじゃ、やりますか。」













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