第126話 へーリック
「ふぅ。・・・・・少し飲みすぎたみたいだ。」
朝。
へーリックは仮設の指令室で、頭を抱えながら呟く。
『ミーン国』の首都から少し離れた平原にアルメリア国の4大部隊の一つ、【アルメリアの杖】が有事の際に駆けつけられる様に待機していた。
前、クリスタル帝国が攻めてきた時に、友好国のアルメリアとオロプスが参戦したが、苦戦を強いられた。
傭兵の活躍で、一度撤退したが、いつまた来てもおかしくない状況だった為、『ミーン国』はすぐに動いた。
国家予算を使って、防備を固め、新しい兵器を導入し、傭兵を多く雇い、更には、一年間の友好国の常備配置依頼が出された。
今、『ミーン国』は他国の兵士達で大きく人口が増加していた。
「フフフフフ。珍しいですね。へーリック将軍が飲みすぎだなんて。」
副官のミレーユが、さりげなく二日酔いに効くお茶をへーリックの机の上に置く。
「あぁ。ありがとう。いつもはセーブするんだけど、久しぶりの親友との交流だったからね。アルコールを少し取り過ぎた様だ。」
そう言うと、へーリックは出されたお茶を飲む。
ミレーユはお茶を飲んでいるへーリック将軍を見ながら思う。
・・・・・へーリック将軍は、大国『アルメリア』の主力部隊の一つを預かっている御方だ。
冷静でいて、的確。
戦略にも長けてて、武力もある。
そして、・・・・・誰しもが認める大魔導士だ。
アルメリア軍の部隊はとても多い。
そしてその中でも、中心の役割を担っている4大部隊に入隊する事は兵士達の憧れであった。
その中でも特に人気が高いのが、
この【アルメリアの杖】だった。
誰しもが、この将軍を敬い、尊敬している。
この人の下で働きたいと思っている兵士は数知れなかった。
そんなへーリック将軍は、私達の前では絶対に隙を見せない。
副官の私でも。
ただ数年前、学園都市に王子の護衛で付き添った時に、ある人と出会ってから将軍は変わった。
その人の話になると私達の前でも、笑顔を見せてくれる様になった。
「・・・・・という事は、サイクス将軍だけでなく、レイ様にもお会いしたんですね。」
「そう言う事。まさか、王子までいるとは思わなかったけどな。・・・・・全く、今日は結婚式だと言うのに。」
呆れた様にへーリックは言う。
「やっぱり、最後の独身の日は、どうしても友達と一緒に飲みたかったんじゃないですか?」
ミレーユは笑顔で答える。
「まぁ、あの王子もこれで少しは丸くなるだろう。」
「そうだといいですね。」
・・・・・結婚と同時に、国王になるんだからな。もう今までの様に、王子としての自由な時間はなくなるだろう。
その分、俺とサイクスで支えないと。
・・・・・そう考えると、レイが羨ましいな。
へーリックはお茶を全て飲み干し、副官に何か言おうとすると、勢いよく扉が開き、部下が駆け寄る。
「将軍!!!只今、ミーン国の伝令兵より伝言を受けました!ここより、およそ30k先にクリスタル軍が現れたの事です!」
!!!!!
近い!!!!
監視塔は気づかなかったのか?
「ミレーユ!すぐに隊長達をここへ呼ぶんだ!すぐに!!!」
「はっ!」
ミレーユは敬礼をすると、すぐに軍の隊長達に徴集をかけた。
☆☆☆
「おや?見つかってしましましたねぇ~。」
宙に浮かぶ、色の違う三機の巨大戦艦の一つにいる、やせ細っている男。
【7星】の一人、ノーマン=アルテミスが言う。
今回、我がクリスタル帝国皇帝。
バルテミス=クリスタルが出した指令は、一度失敗した南東にある小国『ミーン』を再度侵攻し占領。
それと同時に、南の国で大国『ナイージャ』の次に大きい国『マイカ』を占領する。
二つの国の攻略だった。
敵国が気づき、他の国に助けを求める前に首都を叩く。・・・・・いかに我が国が強いとはいえ、数で来られたら苦戦は必至だ。だからこそスピードが勝負だった。
その為に6人の【7星】が前線で指揮をとる事となった。
ノーマンは、並ぶように飛んでいる二機の巨大戦艦を見ながら言う。
「イルミルが即席で作った妨害装置でギリギリまで近づきたかったのですがねぇ。・・・・・100k先まで感知するという魔法の装置を70k誤魔化せたんですし、良しとしましょうか。
まぁ~、ワタクシの他に、あの派手好きなオブジェクトとエルビス様がいるから問題ないでしょう。いい素体が見つかるといいんですがねぇ~・・・・・さぁ!一気に行きますよぉ~。」
【7星】の一人、ノーマンは両手を広げて、これから旅行でも行くかのように楽しそうに微笑んでいた。
☆☆☆
「おい!どうなってるんだ!何でここまで接近を許したんだ!!!」
【たぬき】のクランマスター、カズキは海辺に立ち、遠い海の向こうに見えるクリスタル軍を見て言う。
「わっ分かりません!展望台の望遠機能は故障してません!でも・・・・・感知出来ませんでした!」
『ミーン国』の兵士が慌てて報告する。
「・・・・・おそらく奴さん。何か妨害できる物を使ったんだろう。」
クランメンバーのリュウジが言う。
「ちっ!まだ、迎え撃つ心の準備が出来る位の時間が稼げただけでも、良しとするか。」
カズキがクリスタル軍を見ながら言うと、隣にいるメンバーのミカンが言う。
「見た感じ、戦艦だけでもざっと3万近くいるわよ。」
見ると、全体が視認できる程に近づいてきていた。
速い・・・・・もうすぐそこだ。
ミカンが言った様にかなりの戦艦の数だ。しかも、この間戦ったロボット達があの戦艦にスタンバイされているはず。・・・・・それが放たれれば、数十倍にも膨れ上がるわけだ。
こちらは、ミーン国が増強して、友好国の増援を入れれば50万以上はいる。・・・・・だが、あのロボットの戦闘能力からすれば、それでも心もとないな。
カズキはリュウジとミカンに小声で言う。
「リュウジ。ミカン。敵の動きが早すぎる。すぐに戦いが始まるだろう。俺達冒険者もやるだけやるが、命には代えられない、負けが濃厚になってきたら撤退するぞ。」
二人は黙って頷く。
カズキは、振り返ると、後ろには、大勢の冒険者達が待機している。
「よし!今回SSS級が来てるのは、
俺達【たぬき】と【レッドパワー】と【7剣星】だ!・・・・・皆!この三つのクランを先頭にグループを分ける!
いいか!!!俺達はプレイヤーだ!せっかく転移出来た命をここで捨てるつもりはねぇ!ヤバそうになったら、逃げてくれ!!それぞれのパーティに任せる!!!
・・・・・行くぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
オォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!
カズキ達、冒険者は海辺へと駆け、戦闘準備を始めた。
☆☆☆
「さて・・・・・。どうでるか。」
中央の一番先頭にいる大型戦艦の巨大スクリーンを見ながら、【7星】のエルビスは呟く。
すると、向かっている海辺の方から、赤い光が灯る。
それが、次々と灯り、綺麗に横一列に光り輝く。
あれは?・・・・・まずいな。
「先頭の部隊に告ぐ!・・・・・すぐにデコイを発射しろ!!!同時にバリアをはれ!」
エルビスが言うとすぐに、乗っている大型戦艦から無数のデコイが発射される。
それと同時に、一緒に先頭にいる多数の戦艦から同じ様に発射された。
・・・・・来る。
横一列に赤く輝く光が、一斉にこちらへと放たれた。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!!!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!!!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!!!!
デコイに当たり、更にはバリアに衝突し、煙が上がる。
「被害状況は!」
「・・・・・先頭にいた数十機の戦艦が破壊されました!」
・・・・・フッ。相手もバカじゃない。
それ相応の迎え撃つ準備をしていたという事か。
ならば・・・・・。
スクリーンを見て指示を出していたエルビスは小型マイクを使って言う。
「・・・・オブジェクト。・・・・・出るぞ。」
エルビスはそう言うと、フッと指令室から消えていった。
☆☆☆
「こりゃ、すげぇな!」
カズキは、『ミーン国』が『シャーフラン国』と『オロプス国』の生産系プレイヤーで共同開発した魔砲撃が放った初撃を見て言う。
魔砲撃は、対クリスタル軍のロボットを一撃で破壊する事を想定として作られた代物だ。
海辺から少しだけ離れた所に数百機並べられている。そして更に、その数百メートル奥に同じ様に並べられていた。
その魔砲撃の間に、兵士や傭兵、冒険者が待機してその様子を見ていた。
真っ白い煙で今は見えないが、海に落ちた戦艦が数機見える。
放った時、向こうは防御魔法か何かを放ったのか、大部分は防がれたが、戦艦を落とせるだけの威力があるのが分かった。
これなら、敵が上陸する前に、ある程度の数を減らせるかもしれない。
カズキは近くにいるミーン国の将軍に言う。
「将軍!効いてるぞ!どんどん撃って数を減らすんだ!」
「そんな事分かっているわ!・・・・・・第二撃・・・・・撃ぇ~!!!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!!!!
ボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボンッ!!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!!!!
ボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボンッ!!!
何っ?
放った魔法弾がクリスタル軍に届く前に、ほとんどが爆発して消滅してしまった。
「何だ?・・・・・何があった?・・・・・ん?」
カズキは、白い煙の中、おそらく司令船だろう。
一機の一回り大きな巨大戦艦が煙から現れる。
その戦艦の船首に、二人の男が立っている。
そして、その二人の上空に光る玉の様な物が無数に現れる。
一人の男が腕を振ると、どんどんと増えるその光の玉が、一斉にこちらへと飛んできた。
!!!!!
「・・・・・・来るぞ!!!!!魔法使いは、防御壁!!!!」
ドンッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドンッ!!!!!!!!!!!
その光の玉は、前線に設置してある、数百機の魔砲撃を爆破し、粉々に破壊する。
「ッツ!・・・・・皆無事か?・・・・・クソッッッ!何しやがった!!!」
魔法なのか?
たった一人の術で、魔砲弾が半分いかれてしまった。
見ると、その隙に、海辺の近くまで接近した戦艦は、続々と前に戦ったロボット、【カルガラ】を降下させている。
「ちっ!・・・・・もう半分の魔砲撃はまだとっておいた方がいいな。・・・・・将軍!俺達は右の兵士やカルガラを倒す!中央と左は、そちらに任せるぜ!
皆!!!死ぬなよ!!!
・・・・・・行くぞこらぁぁぁぁぁ!!!!」
オォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!
冒険者のプレイヤー達は一斉に攻撃を開始した。
☆☆☆
戦いが始まって1時間・・・・・。
ドドドドドド!!!
ドンッ!!ドドドドド!!!
ワァァァァァァァァァァ!!!
「オラァ!!!」
ズンッ!!!
たぬきのリーダー、カズキは愛用のハルバードをカルガラの首に斬りつけ、その重量級の武器の威力で首が飛んだ。
ズズズンッ!!!!
そのままの勢いで一人で次々にカルガラを斬りつけ破壊する。
「ふぅぅぅぅぅ。」
カズキは周りを見渡して思う。
右の戦線は今の所、こちらが優勢だ。
数も敵より多いからな。
だが、カルガラ相手にSSS級の冒険者レベルなら単独で対等に戦えるが、他は厳しい。
だからこそ、他の冒険者にはパーティ単位で戦うように指示をだしたのが正解だった。
うまくコンビネーションを使って、カルガラ対パーティで戦えば何とか破壊する事が出来ていた。
徐々にだが、敵の数を減らせている。
しかし・・・・・・。
同じ様に戦っている、中央と左の戦線の状況を聞くと、雲行きが怪しかった。・・・・・かなり押し込まれているらしい。
それぞれ先頭には、化物級の実力者がミーン軍と傭兵達を蹂躙しているらしい。
何とか、こちらを早く制圧したいのだが・・・・・おそらくこのカルガラを倒した後には、空中を飛んでいる【レギア】という兵士が操縦しているロボットが出てくるだろう。
他に構ってられないのだ。
中央と左にはまだ援軍が到着していない。・・・・・だから、まだ勝機はあるだろう。
「・・・・・何とか、踏ん張ってくれよ。」
カズキが呟くと、誰かが大声で叫ぶ。
「パスカル!!!・・・・マンセル!!!!」
見ると、少し離れた所で戦っていた、SSS級クランの一つ【レッドパワー】のメンバー全員が地面に倒れ、血を流し、絶命していた。
その死体の真ん中には、見た事のない光る長剣を持ち、長身で目は鋭く、周りの兵とは明らかに風格が違う男が立っていた。
「パスカル!!!!!・・・・・てめぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
仲間をやられて、カズキは激怒する。
あいつは何者だ?
パスカルは【レッドパワー】のクランマスターだ。
レベルは相当高いはずだ。
俺達プレイヤーは、ここ数年でレベルも飛躍的に上がっている。
その中でも最上級のSSS級パーティ全員を倒すだと?
「皆!あの男から離れろ!・・・・俺がやる!!!」
カズキがそう言って向かおうとすると、別の所から、もう一つのSSS級パーティ。
最強クラン【ヒート】のトップパーティの一つ、【7剣星】がその男の前に立つ。
そのリーダー、ライン=ジョイが言う。
「カズキ!!!・・・・お前はまとめ役だ!・・・・・ここは俺達がやる。・・・・・貴方は剣士と見た。ならば、俺達が相手をしよう。・・・・・勝負!!!」
一斉に、【7剣星】がその男に斬りかかっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます