第125話 結婚



「え~と・・・・。これと、これ。

・・・・・さっ!レイさん!着てみてください!」



ミューリがテキパキと礼服を選んで言う。



「あっ!はい。何か、すみません。僕は結婚式の服装を選ぶの初めてでして・・・・。」



僕は恐縮しながら、ミューリにお礼を言う。



「フフフ。いいんですよ。貴方は、ミランちゃんを助けてくれた恩人です。私にできる事は何でもしますよ♪」



「そうだぞ!レイ!遠慮すんな!普通顔なんだから服装くらいはビッと決めて、お兄ちゃんらしくしろやぁぁぁ!!!」



サイクスがディスりながら言う。



「・・・・・貴方は黙っててね?」



「はい。」



ハハハハハ。

サイクスの幼馴染のミューリさんは強いな。



完全に、尻に敷かれてるわ。




ここは、東の大国【アルメリア】。




明日は、妹のカザミと、親友のヒッキの結婚式だ。



仲間から告白されてから、こんな僕でも、とうとうモテ期が来たのかと喜んでいたが、結局決められず、ずっと悩み続けて早半年。



突然のカザミの結婚報告に驚いたものだ。



大国の王子と平民の娘との結婚。



それだけで、話題は十分だった。



ヒッキは東の大国『アルメリア国』の第一王子。



大国との縁を結ぼうと、他国の王族や貴族など、様々な人達との縁談があった。



しかし、最後に自分の妻として、将来の王妃として選んだのは・・・・・平民の女性だった。



それを聞いた国民は、自分の事の様に喜び、自分でもこんなシンデレラストーリーがあるのかもしれないと、アルメリア国全体で盛り上がっていた。



もちろん、王族や貴族は納得しなかった。



普通なら、あらゆる反対を受けて破談になっていたが、その平民のお兄さんが、世界一の冒険者のリーダーであり、世界で有名な傭兵であり、更にはアルク帝国の英雄となれば話は違った。



皆、納得せざるを得なかった。



この世界で初めての結婚式。



どんな服を着たらいいのか分からなかったので、【心の腕輪】でサイクスに相談したら、積もる話もあるし、一緒に選んでくれる事になったのだ。



まさか、ミューリさんも来てくれるとは思わなかった。



「ミューリさん。冒険者協会の方は大丈夫なんですか?」



「ええ。一週間、この国の冒険者協会は休業です。何せこの国の一大イベントですからね!」



三日前に仲間を連れてアルメリアに来たが、すでにこの国はお祭り騒ぎだった。



首都【キルギス】の街は、至る所に白や青やピンクの美しい花が置かれている。家や店、歩道、様々な所に置かれていて、花の街にでも来たかのようだった。



そして夜は連夜で花火があがっている。



「さっ。これでいいかしら!明日は、妹さんの結婚式ですから、お兄さんも相応の格好をしないとね!」



鏡を見ると、フォーマルスーツっぽい格好だった。肩には精霊の刺繍がされている。




うん。中々さまになっているな。




僕は鏡でポーズをとっていると、サイクスが肩に手をかけて言う。



「うぉぉぉい!うぉぉぉぉぉい!いいんじゃないかぁぁぁぁい?普通顔も二割増しだな!・・・・・カッコ普通顔って感じかぁぁぁぁん?」



カッコ普通顔ってなんだよ。



しかも、結局お前は茶化しているだけで、何もしていない様に思うんだけど。



気のせいか???



「ミューリさん。ありがとうございます。」



「ううん。いいのよ。サイ君、これからどうするの?」



「ん?レイの準備はこれで万全だからな!俺の家に招待して、お袋の料理と酒でも振舞おうと思ってる。」



「そっか。せっかく久しぶりに会ったんだもんね。・・・・・それじゃ私は、これから白雪ちゃん達のドレスを選ばないといけないから行くね。楽しんできて。」



「おう!」



「ありがとうございます。白雪達もよろしくお願いします。」



僕がそう言うと、ミューリは笑顔で頷き、外で待機している白雪達に会いに行った。



「いゃ~!助かったわぁ~。女性陣の衣装を選ぶのは流石に自分じゃ無理だからね!サイクスがミューリさんを連れてきてくれて良かったよ。」



「んだろぉぉぉぉぉぉ?どうせお前のセンスじゃ、ろくでもない物を選びそうだからな!

正解、正解!!!」




いやいやいやいや。



どの口が言うんだ?



お前は、前に女の子のプレゼント選びでマッチョポーズしている裸の銅像持ってきただろぉが!!!




僕とサイクスはじゃれ合いながら家へと向かった。





サイクスの家は、首都【キルギス】の外れにあった。





「さっ!ここが俺の家だ。」



見ると、庭はそこそこ広いが、家は木造りの普通の家だった。



「意外だな。アルメリアの将軍って言うから、そこそこの家に住んでいると思ったよ。」



「ハハハハハ!そうか?俺は平民の出だからな!あまり豪華な家は逆に落ち着かんわ。この位が丁度いいんだよ。」



「なるほどね。」



すると、家から妹のミランが飛び出してきたので、僕は中腰してそれを受け止める。



「レイさん!久しぶり!!!」



「ああ!元気そうで良かったよ!大きくなったね!」



僕はミランの頭を撫でる。



「くぉらぁぁぁぁぁぁぁ!ミラン!はしたないぞ!!!」



「お兄ちゃん、うるさい!!もっと早く連れてきてくれるって言ってたのに嘘ついたでしょ!」



「はい。」




幼馴染といい。妹といい。



大丈夫か?サイクス。




すると遅れてサイクス並みに大柄な女性がこちらへとやってくると笑顔で僕に言う。



「貴方がレイ君ね。いらっしゃい。ずっと待ってたのよ。ミランを救ってくれた恩人にちゃんとお礼を言いたかったの。さぁ!入りましょう。腕によりをかけて作ったから、今日はゆっくりしていってね。・・・・・ほらサイクス!さっさと手伝いな!」



「はい。」




サイクス・・・・・。



僕はミランに腕を引っ張られながら家へと入っていった。










☆☆☆










「久しぶりの再会に・・・・・かんぱ~い!!!」




カンッ!




僕とサイクスはエールを飲みほす。




「カハァァァァ!!!やっぱ、友と飲む酒はうめぇぇぇな!」



「だな。」



「さぁ!どんどん飲むぞ!でもまずはお袋が作ってくれた料理を堪能してくれ!」



目の前のテーブルには、所狭しと見た事のない料理が並んでいる。



とてもうまそうだ。



「よし!それじゃ遠慮なく・・・・・モグモグ・・・・・こりゃうまい!!」



豪快に盛り付けられているが、味はとても繊細だ。何か日本の料亭の料理みたいだ。



店をだせるレベルだ。マジでうまいな。



「だろぉぉぉ?うちのお袋の料理は俺の自慢の一つさ!」



「うん。とてもうまいぞ。酒が進むな!・・・・・で?ミューリさんとはどんな感じなんだ?」



「おぅぅぅぅぅ???

 そこ突くかぁぁぁぁぁぁぁい???」



サイクスのお母さんと妹は気をきかせてか、別の部屋で食べている。



この家には父親がいない。

小さい時に病気で亡くなったそうだ。



それからは、サイクスが一家の大黒柱として兵士になり、将軍まで上り詰めた。



何だかんだ言ってはいるが、二人ともサイクスに対して深い愛情を感じる。




とてもいい家族だな・・・・・。




暫く飲んで、食べていると、他で食事を終えたミランが嬉しそうに扉を開けて言う。




「お兄ちゃん!友達が来たよ!」



「へっ?友達?」



サイクスは訝しげに立ち上がろうとすると、ミランの後ろから見かけた姿が現れた。




「うぃぃぃぃぃぃぃぃ!俺も混ぜろや!!」



「「 ヒッキ??? 」」




思わず同時に声をだす。



僕が続ける。



「おま・・・・・明日は結婚式だろ?こんな所に来てていいのか?」



ヒッキは疲れた様に椅子に座り、サイクスのお母さんからエールをもらい一気に飲み始める。



「カハァァァァ!!!生き返るわ!もうね、ここ数日ずっと忙しくて息がつまりそうだったんだ。・・・・・お前達が飲むのに我慢できるか!」



どうやら抜け出してきたらしい。



僕は黙ってヒッキの空いたジョッキにエールを注ぐ。



その上からサイクスもエールを注ぐ。




「そうか。・・・・・まぁあれだ。おめでとう。」



「おめでとうぅぅぅぅぅぅ!

 いい娘捕まえやがって!このダメ王子が!!!」



「ハッハッハァ~!二人ともありがとうだ!」



ヒッキは楽しそうにグビグビ飲んでいる。



ハハハハハ。よほど溜まっていたらしい。



まぁ、一国の王子の結婚式だ。他の国から様々な要人が来ている。アイリが言っていたが、ガイルズ皇帝も来るらしいからな。そりゃ息もつまるか。



僕は三人揃ったので、欠けているもう一人の友が気になって聞く。



「そういや、へーリックはどうしたんだ?」



「あん?ハッハッハッハ!あいつな!・・・・・あいつは今は『ミーン』国だ!ほんとあいつは相変わらず運が悪いからなぁ!」



サイクスが面白そうに言う。



どうやら、ミーン国はクリスタル帝国に一度攻められてから、一気に防備を固めたそうだ。



傭兵を多く雇い、そして友好国のオロプスの冒険者をも警備にあたっているとの事。



同じ様に友好国のアルメリアも部隊を派遣した。



その時に四人の将軍達でくじ引きで決めたらしいが、結局引き当てたのはへーリック率いる【アルメリアの杖】だった。



なので今はミーン国で警備をしているらしい。




「なるほどねぇ。それじゃ明日は来れないの?」



「いや、それは流石に酷だからな。即席の小さい【ゲート】を作って行き来できるようにしてあるのさ。」



サイクスが説明していると、勢いよく扉が開く。



「おぉぉぉぉぉぉぉい!!!俺をのけ者にするなやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」




へーリックが転がり込んできた。




「オイオイオイオイ!警備はどうした!警備は!」



「うるさいダメ王子!お前もここにいるだろが!!俺にも飲ませろや!!!」




へーリック・・・・・【ゲート】使ったな。




「まぁまぁまぁ。とりあえず、皆揃ったんだ。」



皆ジョッキにエールを注いで、片手を上げる。



「改めて、ヒッキの結婚を祝して・・・・・乾杯!」



「「「  かんぱ~い!!!  」」」




皆一気に飲んだ後、ヒッキが姿勢を正して、真面目そうに言う。




「皆さん!僕の為にぃぃぃぃ!祝ってくれてぇぇぇぇぇ!!ありがとうございます!!!僕は・・・・・僕は・・・・・幸せになりまぁぁぁぁぁす!!!!


ねぇ?・・・・・・・・お・に・い・さ・ん♪」




「いゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」




僕の叫び声が部屋中に響き渡った。










☆☆☆










翌日。




僕は仲間を連れて城へと来ていた。



来る途中、まぁ~目立つ目立つ。



ドレスを着た女性陣の美しさに、周りの目が集中したからだ。



カイトはカッコいいからいいが・・・・・僕の身にもなってもらいたいもんだ。




控室に皆をおいて、僕は妹の所へと行く。




未来の王妃の部屋の扉の前には、護衛の兵士が立っている。



僕が来ると、会釈をして道を空ける。



ノックをして入ると、そこにはとても華やかな真っ白いドレスを着たカザミが座っていた。



周りには女中達がせわしく動いている。




「お兄ちゃん!」



僕はカザミに近づいて、同じ目線に屈むと言う。



「カザミ。おめでとう。・・・・・とても綺麗だよ。」



「うん。ありがとう。」



カザミは少し頬を赤らめながら言う。




お兄ちゃんはとても嬉しそうな顔をしている。



・・・・・小さい時からずっと・・・・・ずっと寄り添い、親の代わりに私を育ててくれたお兄ちゃん。



友達とも遊ばず、欲しい物も買わず、彼女もつくらず、一生懸命働いていた。・・・・・私の為に。




「お兄ちゃん。」



「うん?」



「・・・・・ありがとう。ここまで育ててくれて。」




お兄ちゃん。・・・・・感謝してもしきれないよ。




僕はその言葉を聞いて、一気に涙が出るのを堪えた。




走馬灯の様に、カザミと一緒にいた景色が次々と思い出される。




「私ね・・・・・ヒッ君がとても好き。だから彼をずっと支えたいと思うの。」



僕は優しくカザミの頭を撫でる。



「そうか。カザミが決めた相手だ。僕は反対なんかしないよ。・・・・・だってあいつは僕の親友だしね。」



「うん。・・・・・お兄ちゃん?明日からはそんなに甘えられないから・・・・・いいかな?」



「?・・・・・あぁ。いいよ。何だい?」




カザミは突然、僕の胸へと飛び込み・・・・・泣いた。




「うぁぁぁぁぁぁん!・・・・・お兄ちゃん!・・・・・お兄ちゃん!!」




耐えていた僕の瞳からは、大粒の涙がこぼれた。





・・・・・おめでとう。カザミ。










☆☆☆










式は順調に進んでいった。




城には、精霊王。そして多くの他国の要人が集まって、ヒッキとカザミを祝福した。



そして、城の外には大勢の国民が集まって、今か今かと、姿を見せるのを待っている。



すると、城から国王と共に二人が出てきて、国民が集まっている壇上へとあがる。




「キャァァァァァァ!カザミ様~!!!」



「ヒッキ王子~!!!おめでとうございます~!!!」




ワァァァァァァァァァァ!!!!!



ワァァァァァァァァァァ!!!!!



ワァァァァァァァァァァ!!!!!




もの凄い祝福の言葉が飛び交っている。



ヒッキが手で制すると、ゆっくりと話始める。




「皆!今日は、僕とカザミの為に祝福してくれてありがとう!!ここに結婚した事を皆に報告する!!!!」




ワァァァァァァァァァァ!!!!!



ワァァァァァァァァァァ!!!!!



ワァァァァァァァァァァ!!!!!




ヒッキは静かになるのを待って、更に続ける。




「・・・・・更に!この私、ヒッキ=クラウス=アルメリアは、今日この日、この時をもって、アルメリア国の王となった事をここに宣言する!!!!!」



「・・・・・えっ?」



後ろにいた僕は思わず声をだす。



国王だって?????



ヒッキの父親でいて王のヒートメア=クラウス=アルメリアは隣で言う。



「我がアルメリアの民よ!今聞いた通りだ!私は王を降り、今後は息子に任せる事にした!・・・・・皆よ!!!息子をよろしく頼むぞ!!!!」




ワァァァァァァァァァァ!!!!!



ワァァァァァァァァァァ!!!!!



ワァァァァァァァァァァ!!!!!



ワァァァァァァァァァァ!!!!!



ワァァァァァァァァァァ!!!!!




今日、この日。




ヒッキ=クラウス=アルメリアは、東の大国『アルメリア』の国王となった。




そして・・・・・僕の妹のカザミは、大国の王妃となる。




ワァァァァァァァァァァ!!!!!



ワァァァァァァァァァァ!!!!!



ワァァァァァァァァァァ!!!!!



ワァァァァァァァァァァ!!!!!



ワァァァァァァァァァァ!!!!!






延々と歓声が響き渡っている。





暫く歓声が止むことはなかった。














そしてこの日・・・・・・・・僕の親友の一人、

へーリックが祝福に来ることはなかった。














































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