第123話 デート2




「着いたな!ここはもう一回来てみたかったんだよ!」



僕は街並みを見ながら言う。




ここは、魔導の国『シャーフラン』。

その首都『リーシェル』。



今日は、キリアとのデートで魔導国に来ていた。



家族や仲間達がいるから魔界に行こうとしたら、デートなんだから邪魔されたくないと、珍しくキリアが意見を言ったので尊重する事にした。



前のキリアは僕には意見をあまり言わないで、ずっと付いてくる感じだったので正直嬉しかった。




この二年間で、内面も外見も一番変わったのはキリアかもしれないな。




しっかし・・・・・ちんちくりんじゃなくなっちゃたもんなぁ。・・・・・相変わらず一番背は低くて可愛いけど。・・・・・でるとこでてるし。




僕は隣で手を繋いで歩いているキリアを見て思う。



気づいたキリアは勢いよく僕の胸に顔を突っ込む。



「グフッ!」



「・・・・・何か変な事考えてた。

 ・・・・・スケベ。」



「ハハハハハ。前に比べてとても成長したなって思っただけだよ。」



僕はキリアの頭を撫でながら言う。



「・・・・・一年前は黒の一族の成長期だったからね。・・・・・これで大人の仲間入り。」



顔を僕の胸にうずめていたキリアは顔を上げて言う。



「そうなんだ。・・・・・・・・しっかし、この街並みは本当に不思議な所だな。」



様々な彫刻でデザインされているレンガ作りの店が建ち並び、その先には高い塔がそびえ立っている。空には魔法を使っているのか、普通に人が飛んでいる。



この世界で一番閉鎖的な国。



キリアがいなければ、僕はこの国に堂々と入国する事は出来なかっただろう。



キリアはこの国では、顔パスで入国できる程に影響力を持っていた。



審査が厳しい入口で、何も調べられずに、皆、キリアが通る道をあけていた。




「・・・・・ここは魔法の国。・・・・・皆、魔法の事しか頭にない。・・・・・だから、生活も全て魔法が基準。」



「へぇ~。それじゃ、この国は魔光石が主じゃないんだ。」



「・・・・・うん。もちろん魔光石もつかってはいるけど・・・・・魔力や魔法が中心だよ。」



様々なエネルギーを個人の魔力や魔法で補えるなんてなぁ。



ここの技術をプレイヤーに生産系が学べれば、もっとこの世界は生きやすくなると思った。



僕がそんな事を考えていると、キリアが袖を引っ張って言う。



「・・・・・そんな事より。・・・・・せっかく来たんだから・・・・・遊ぼ。・・・・・いっぱい。」



「そうだな!それじゃキリア!この国は一回しか来てないから全然分からないんだ。色々と案内してよ!それと、キリアが欲しい物があったら言ってね。今日は何でも買ってあげる。」



「・・・・・まじ?・・・・・分かった。・・・・・行こ♪」




それから僕達は、いろんな所へ行った。



服やアクセサリーを買ったり、魔法を使った演劇や、魔法を使った映画っぽい物を観たり、結局キリアは僕が行きたい所に行くというので見た事のない面白そうな所へ行って色々と楽しんだ。



「あ~!色々と新鮮で楽しかったな!」



「・・・・・うん。・・・・・私も初めて。・・・・・こんなに色んなのを経験したの。」




夜。




夕食を済ませて楽しんだ僕達は、首都『リーシェル』から少し離れた草原の上で夜空を見ながら横たわっていた。



僕は大の字で寝そべり、横にいる体育座りしているキリアに言う。



「えっ?キリアはあれから服を買いに行ったり、娯楽を見に行ったりしなかったの?」



「・・・・・いつもアイリが誘ってたけど・・・・・興味がない。・・・・・だから行かなかった。」



「そうなの?」



「・・・・・今回はレイが一緒だから・・・・・行ってみた。」



「ハハハハハ。そうなんだ。色々キリアに似合いそうな服とか勝手に選んで買っちゃったけど、もしかして不満だった?」



聞いたら、この二年間。自分の服には興味がなく、黒のローブだけ買う位で、他は一切買わなかったのだとか。



「・・・・・いや。・・・・・レイがこれ着たら可愛いいって言ってくれた。・・・・・嬉しい。・・・・・絶対着る。」



「そう。良かった。気に入ってくれたみたいだね。キリアは可愛いんだから、もっと色んな服を着た方がいいよ?」



キリアは体育座りしながら、寝そべっている僕を見て笑顔で言う。



「・・・・・レイが可愛いって言ってくれるなら・・・・・何でも着る。」




う~ん。




相変わらずぶれないな。




確かに、僕と主従契約を結んでいるけど、もっと他の男の人とコミュニケーションをとって欲しかったんだ。




それで、もし、キリアの中で新しい感情が生まれたら嬉しいな・・・・・なんて思ってたんだけどね。




僕はキリアを見て言う。



「キリア。僕と主従契約をしているから、現界にいられるのはこの契約がないとダメかもしれないけど、もし、キリアに好きな男性が出来たら、そのままこの現界で生きて欲しいと思っているんだよ?だから、もっと他の人達と接して欲しいな。」



そう言うと、キリアがムッとした顔で言う。



「・・・・・何で?」



「何でって・・・・・それは、キリアに幸せになってもらいたいからだよ?・・・・・オフッ!」



体育座りをしていたキリアは僕の話を聞くと、寝そべっている僕のお腹の上にマウントをとって言う。



「・・・・・レイは何も分かってない。・・・・・私の幸せはレイとずっと一緒にいる事。・・・・・・それ以外は何もいらない。」




へっ?




「・・・・・レイ。私はもう大人になった。・・・・・ちんちくりんじゃない。・・・・・レイが望むならもっと綺麗になれる様に努力する。

 ・・・・・だから・・・・・仲間じゃなくて・・・・・一人の女として・・・・・ずっと一緒にいたい。」




・・・・・・・



・・・・・・・



はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ??????




「いやいやいやいや!キリア?・・・・・ええっ?・・・・・・・・こんなさえない普通の顔の男だよ???キリアは小さくてとても可愛いから、いっぱいカッコイイ人が見つかるよ?・・・・・何で??」



すると、お腹に乗っていたキリアはそのまま寝そべっている僕に抱きつく。



「・・・・・他の男なんて興味ない。・・・・・私はレイだけ。・・・・・レイがこの世界で一番カッコイイ。」




僕は抱きつかれながら、また時が止まっていた。





何があった?




ラフィンに続いてキリアまで?




何かのドッキリか?





・・・・・・・・



・・・・・・・・



・・・・・・・・





僕は抱き付いているキリアの腰に手をまわしながら言う。



「キリア。ありがとう。とても嬉しいよ。・・・・・でもね。

 もう少し僕に時間をくれないかな?突然すぎて頭が整理できていないんだ。・・・・・ちょっと時間がかかるかもしれないけど、返事はそれからでいいかな?」



「・・・・・うん。・・・・・ずっと待ってる。」



「ありがとう。」



気持ちのいい夜風が吹き、草原の静かに揺れる音が聞こえる。夜空は天界ほどではないがとても綺麗だ。



はぁ~。



これから僕はめちゃめちゃモヤモヤする事になるなぁ。




僕は優しくキリアを起こすと、一緒に体育座りをして日が明るくなるまで話し合った。




隣で頭を僕の肩に傾けながら話すキリアは、可愛くてとても魅力的だった。










☆☆☆










「久しぶりに来たな。」



「そうね。」




朝。




アルク帝国最大の歓楽街を誇る町に僕はアイリと来ていた。




今日はアイリとデートだ。




「でも、何でここを選んだの?ここは一番の歓楽街だけど、世界にはもっと面白そうな街もあるのに。」



手をつなぎ、ショッピング街を歩きながらアイリが聞く。



「やっぱりアイリとなら、一番最初に遊んだこの街がいいと思ったんだ。・・・・・やだった?」



つないでいた手を離し、そのままアイリは僕の腕に絡ませ密着する。



腕には柔らかい胸の感触が伝わる。



「フフフフフ。やなわけないじゃない。皇女の時はここに来る事さえ出来なかったしね。・・・・・実はね、知ってる素振りをしてたけど、レイと一緒に行った時が初めてだったのよ?」



「えっ?そうだったんだ。」




皇族だ。



一人で遊びに行くなどまず出来なかったのだろう。



そして地球の時もそうだったが、庶民には考えられない程、公務が沢山ある。



しかしそんなアイリが・・・・・。




「【癒しの女神】ねぇ。」



僕は歩きながらアイリを見て言う。




会わなかったここ数年で、彼女はとても成長していた。


別れ際の時は、レベルがまだ100以下だったのに、久しぶりに会った時は、すでにSSS級冒険者レベルを軽く上回り、仲間との差もほとんどなくなっていた。



どうやったらこの数年でこれほどまでに成長できるのか。



おそらく責任感の強いアイリの事だ。想像を絶する事をやっていたのだろう。そしてキリアはとても素直な子だ。きっとずっと寄り添って教えてくれていたんだろうな。



だから、皇女じゃなくなって自由な時間が出来ても遊ばず、ずっと己を鍛えていたのだろう。



ティンクの時みたいに目の前の人を救えない自分にならない為に・・・・・アイリらしいな。




「そうなの。何故か変な二つ名を貰っちゃってね。まぁそんな事はどうでもいいんだけど。」



アイリは一歩前に出てくるりと回って僕の両手を握って言う。



「さぁレイ!今日はいっぱい楽しみましょう!冒険者になって初めての自由時間なの!」



僕は笑顔で言う。



「そうだな。・・・・・よし!今日はトコトン付き合うよ!行こう!」



アイリは楽しそうにまた僕の隣に移ると腕を絡めて歩き出した。






それからは、あっという間に時が過ぎた。






遊園地っぽい所に行って楽しんだり、劇場に行って劇を観たり、お茶をしたり、沢山のショッピングをした。






「ほぉ~!相変わらずここの景色は綺麗だな!」




夜。




街を見渡せる噴水のある高台から見るアルク帝国最大の歓楽街は、暗くなると様々な光に照らされ、光の海の様にきらめいている。



「フフッ。本当ね。」



隣で同じように手すりに手をかけて街を見ているアイリを見る。



今日のアイリの行動力は凄かった。



付いて行くのがやっとだった。



よっぽど溜まっていたんだろうな。



でも・・・・・とても楽しそうで良かった。




何でだろう。




仲間の女性の中でアイリが一番、地球人っぽく感じるのは。



皇女で教養があり、自分より年の離れた人達と触れてきたからなのかもしれないな。



前に来て、同じ場所で同じ様に立っている彼女は、背も伸び、スタイルも一段と磨きがかかり、赤く長い髪が光に反射して一層彼女の美しさを際立たせていた。




「アイリ。今日はとても楽しかったよ。」



「ええ。こちらこそ。」



アイリは笑顔で言うと、夜景を見ながら呟く。



「あれから・・・・・二年以上経ったのね。」



レイと一緒にいたいから、無理を言ってレイ達の仲間になって、すぐに彼を忘れてしまってから二年。



ずっと何か引っかかっていて、モヤモヤしていた。



でも、毎日がとても大変すぎて心の余裕がなかったのが良かったのかもしれない。




早く皆に追いつきたくて。




早くお荷物にならない様にしたくて。




キリアに学びながら必死についていった。




もう自分の目の前で、大事な人が死なない様に。




最高のヒーラーになる為に。




貴方を思い出して、久しぶりに貴方とデートして、この胸にずっと大事にしている気持ちが揺るがない事に気づいた。




レイ。




私は少しでも貴方の役に立てるのかしら。



貴方が傷ついた時にずっとそばにいて癒してあげたい。




「レイ。」



暫く夜景を見ながら沈黙していた僕にアイリが言う。



「うん?」



「レイ。・・・・・貴方が好き。」





・・・・・はっ?





「それは・・・・・仲間として好きとかじゃなくて?」



アイリは夜景を見ている僕の後ろに回るとギュッと抱きしめる。



背中に柔らかい胸の感触が伝わる。




「前からずっとね。・・・・・気づいたら好きになってたの。・・・・・貴方が。」



「アイリ・・・・・僕はさえない普通の顔の男だよ?君みたいに美しくて、位の高い女性が好きになってもらう資格なんて僕にはないよ。アイリだったら、王族や貴族のカッコイイ男性がほっとかないよ?」



アイリは僕を抱きしめながら続ける。



「・・・・・レイ。貴方は自分を低く見過ぎよ。貴方ほどの人なんてこの世界中で探してもいないわ。多分、貴方と出会った全ての人が同じ意見のはずよ。」




いやいやいやいや。




持ち上げすぎだよ。




「でも、アイリは皇女だ。僕は平民だよ?」



「フフフ。もう私は皇女じゃないわ。普通の冒険者よ。でも、皇女だったとしても、おそらく反対する国民は一人もいないと思うわよ?」



アイリが悪戯っぽく笑う。



・・・・・・・・



・・・・・・・・



・・・・・・・・



僕は振り返り、アイリの腰に手をまわして言う。



「アイリ。ありがとう。とても嬉しいよ。・・・・・でもね。

 もう少し僕に時間をくれないかな?突然すぎて頭が整理できてないんだ。・・・・・ちょっと時間がかかるかもしれないけど、返事はそれからでいいかな?」



「ええ。」



「ありがとう。」



噴水のある高台の街灯が僕達を優しく照らしている。




はぁ~。




これから僕はか~な~り!モヤモヤする事になるなぁ。




「さて!貴方に告白できたし、ゆっくり夕食を楽しみましょう。」




僕の手を引いて楽しそうに話しながら歩くアイリは、皇女でもなく、冒険者でもなく、一人の美しい女性だった。






僕は、そんな彼女を見ていてとても魅力的に感じた。











  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る