第7章
第122話 デート
「おぉ~!着いたな。」
「うん!着いたね!!」
ここは天界。
三つある国の一つ、天竜人の国『テンペスト』。
その城下町の入口付近に僕とラフィンは立っていた。
そう。
あれから大変だった。
僕達の家に、記憶が戻った知り合いが押しかけて来たのだ。
まず来たのはヒッキ達だった。
入国が厳しいこの国にどうやって来たのか聞いたら、ガイルズ皇帝に直接頼み込んだと言っていた。
僕に会うなり、男泣きしながら抱きつかれて困ったわ。
特にサイクスは、
「この普通顔がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
こんちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
って、
僕をディスりながら鼻水垂らして泣いてたっけ。
あっ。何か思い出したらムカついてきた。
その後すぐに、ガイルズ皇帝が直接尋ねに来て、国民が落ち込んでいるから皆に一言言ってあげて欲しいと頼まれ、持ち込んできた魔法鏡の前でガチガチに緊張しながら話したっけ。
あっ。何か思い出したら緊張してきた。
後は、シェリーさんや人魚達が人間に変装して来てくれたなぁ。
忘れててごめんなさいって、目に涙をためながら謝られたっけ。
あっ。何か思い出したら、すまない気持ちになってきた。
で、最後はカザミか。
帰還紙で突然来たかと思ったら大泣きされて、ずっと抱き付いていたっけ。
あっ。何か思い出したら、ウルウルしてきた。
・・・・・。
誰のせいでもないのだ。こればかりは。
皆、しょうがないのに。
僕を忘れていた事を悲しみ、後悔していた。
・・・・・・・・いい友人や妹をもったな。
「ほらレイ!ボーッとしてないで行こ♪」
ラフィンが僕の手を引いて歩く。
・・・・・もっと、大変な事があった。
それは、毎晩女性陣が僕の寝室で寝る様になったのだ。
白雪だけならまだしも、全員に抱きつかれてなんて、とてもじゃないが寝れる訳がなかった。
数日続いて寝不足な僕は、一人で寝させて欲しい事を頼んだら、それぞれデートをする事で許してもらう事になったのだ。
で、トップバッターがラフィンだった。
皆、行き先は僕が決めて欲しいとの要望だったので、ラフィンとは、当初行く予定だった里帰りも兼ねて、『テンペスト国』へと来ていた。
「ほぇぇぇぇぇ。凄いなぁ!」
少し先の高い丘の上に王城が建っている。そしてその周りには所々に大きな建物や闘技場などがそびえ立ち、店や家が建ち並んでいた。
その街並みには、とても大勢の天竜人が行きかっていて、空には、複数のドラゴンが優雅に飛んでいる。
まさしくファンタジーだった。
「何か感動するわぁ!」
「へへへっ。そう?」
ラフィンは腕を僕の腕と絡ませながら、嬉しそうに言う。
前に来た時は、城と闘技場しか行かなかったので、こんなに素晴らしい所だったとは思いもよらなかった。
「うん。何かもっと古くて自然なイメージがあったんだけど、すごく芸術的でカッコイイ街並みだね!」
「そうなんだよ!天竜人ってだけで、いつも戦っているみたいな事を天界人に言われるんだけど、全然違うんだ。
この国は強さが全てだけど、だからといって、他の事をしないわけじゃないんだよ。色々な事が出来た上で強くなくちゃいけないだ!」
流石、種族の頂点といわれるだけの事はあるなぁ。
「あれ!お嬢じゃないか。」
「お嬢!元気そうで良かった。おっ!噂の彼氏かい?」
「お嬢!久しぶりに来てるんなら是非よっといでよ!」
街中を歩く僕達に嬉しそうに天竜人の人達が話しかけてくる。
その雰囲気を見ていると、如何にラフィンがこの国の人達に慕われているかが分かる。
隣で歩く僕は言う。
「へぇ~。ラフィンはここではお嬢って呼ばれてるんだ。」
「へへへっ。そうなんだ!」
ラフィンは笑顔で返事をすると、もっと僕にくっつきながら言う。
「それじゃ、レイに色々な所を案内するね♪でも、せっかく帰って来たから買いたい物もあるんだ。」
「ハハハハハ。いいよ。今日はラフィンの好きな物何でも買ってあげるから、寄りたい所があったら寄ろう。」
「本当に?やったぁ!!!」
そう言いながらラフィンは僕の手を握りながらお目当ての場所へと歩いて行った。
☆☆☆
夕方。
闘技場で試合を見たり、沢山の買い物をした僕達は、丘の上にある王城にいた。
ラフィンはそのまま夜まで二人で遊ぶ勢いだったので、流石に、少しくらい親に顔を出した方がいいだろうと提案して城へと来ていた。
このまま帰ったら、あのムスメコンやシスコン達に何を言われるか分からないからな。
「おぉ!ラフィンちゃん!」
「ラフィン!」
「ラッちゃん!」
王の間まで行くと、天竜王と兄である王子二人が笑顔で出迎えた。
「ご無沙汰してます。王様。」
僕は天竜王に片膝を付いて挨拶をする。
「ウッ、ウム。」
???
あれ?いつもだったらここで、
何もしなかっただろうな~!とか、
ちゃんと守っているのかぁ~!とか、
この不届きものがぁ~!とか
プンプンしながら理不尽な事を言うのに、僕を見た天竜王は何故かぎこちない。
すると、ラフィンが隣に来て僕を立たせると、腕を絡めて三人に言う。
「お父さん。お兄ちゃん。・・・・・僕はレイに決めたよ!」
「!!!!!」
うん?何が?
僕が不思議そうにラフィンを見ていると、目を見開き黙って僕を見ていた天竜王は言う。
「そうか。ラフィンちゃん。・・・・・見つけたんだね。」
・・・・・16歳の時。娘が冒険をしたい、旅に出たいと言い出した時に、許可を出す代わりに一つ条件を出した。
それは【夫を見つける事】。
ラフィンは強く、この国で娘より強い男はほとんどいない。そして、小さい時から全然異性に興味をしめさなかったので心配していたのだ。
レイ=フォックス。
自分には何の利益もない我々の頼みを了承し、この天界を救った男。
そして最初に出会った時とは比べ物にならない程に強くなっている。
我でも本気で戦って勝てるかどうか。
弱く、だらしない男だったら絶対に許さないのだが・・・・・天竜人でない彼を選ぶとはな・・・・・。
「いいのか?ラフィンちゃん。彼は沢山の人達に慕われている。独占できないかもしれないよ?」
ラフィンは笑顔で言う。
「うん。そんなの分かっているよ。・・・・・でもレイじゃなきゃダメなんだ!」
「そうか。ならば何も言うまい。・・・・・レイよ。娘を頼むぞ。」
「頼むよ!」
「頼んだぞ!こんちくしょ~!」
王や王子達が僕に向かって言う。
「ちょっ!ちょっと?何?会話についていけないんだけど?」
するとボケっとしている僕の腕を引っ張りながらラフィンは言う。
「何でもないよ!お父さん!お兄ちゃん!それじゃまたね!」
「ちょ!ちょっと!ラフィンちゃん!一緒に食事でも・・・・・あぁぁぁぁぁぁぁ!」
父親や兄達の叫びを無視してラフィンは僕の手を握って王城を後にした。
出て行くレイを天竜王は笑顔で見ながら呟いた。
「娘もだが・・・・・・・妹のシャーベットを救ってくれてありがとう。」
☆☆☆
「・・・・・凄いな。」
僕は空を見上げながら呟く。
城下町から少し離れたもう誰も使っていない監視塔の頂上。
僕達は夕食を楽しんだ後に、ラフィンに案内されてここに来ていた。
現界より上にあるからだろうか。
天界の夜空は、何と言うか・・・・・凄かった。
雲一つない夜空は、星がさんさんときらめいていた。まるでプラネタリウムをそのままリアルにしたみたいだ。
ラフィンは隣で同じように夜空を見上げながら言う。
「へへへっ。凄いでしょ!僕は小さい時から、やな事や悩み事があった時はここに来てたんだ。この星達を見ていると何だか自分の悩んでいた事がちっぽけに思えちゃって。
・・・・・いつもこの夜空に元気を貰ってたなぁ。」
「うん。・・・・・ラフィンはとてもいい国で育ったんだね。」
「お父さんやお兄ちゃん達があんな感じでしょ?小さい時からずっと僕に甘くて。16歳になって旅に出たいと言った時はもの凄く反対されてね。」
「ハハハハハ。」
そりゃそうだろうね。あの父親じゃなぁ~。
「その時に一つ条件を出されたんだ。」
「へぇ~そうなんだ。・・・・・ん?そういえばラフィンと出会った時にそんな事言ってたよね。」
「凄い!よく覚えてたね。あの時は言えなかったけど、その条件っていうのはね。僕と一緒になってくれる人を見つける事なんだ。」
「えっ?一緒になってくれるって・・・・。」
そう。この世界に付き合うという概念がない。
付き合う=婚約、結婚なのだ。
ラフィンは天真爛漫な子だ。
流石に天竜王も心配したんだろうな。
ラフィンは夜空を見上げながら話を続ける。
「でもね。正直、男の人を好きになるっていう気持ちが僕には分からなかったんだ。この天界で僕より強い人なんてほとんどいなかったし、仮に強いからって、その人が魅力的に思えた事は一度もなかったんだよ?・・・・・でもね。」
ラフィンは僕の方を見る。
「最初は・・・・・冒険がしたい。旅に出たい。というのが一番だったんだ。でも、レイと出会って、一緒に現界に行ったり、魔界に行ったり、
いっぱい。い~ぱい一緒に色んな事を経験していくうちにね。・・・・・・・・好きになっちゃったんだ。レイ。」
「うん?・・・・・あぁ!僕もラフィンの事は好きだよ。」
すると、勢いよく両手を握って真っすぐ僕を見て、真っ赤になりながらもう一度言う。
「レイ・・・・・好き。・・・・・・・・大好きだよ。」
・・・ん?
・・・・・これって。
・・・・・・・・ライクじゃなくて。
・・・・・・・・・・ラブゥゥゥゥゥゥゥゥゥ??????
「ちょっ!ちょっと待って。・・・・えっ?僕の事が?・・・・こんなさえない普通の顔の男だよ??
ラフィンはとても可愛くて綺麗なんだから、いっぱいカッコイイ人が見つかると思うよ?・・・・・何で???」
すると、握ってた両手を離して僕に抱きつく。
「へへへっ!僕はレイが世界で一番カッコいいよ!!!」
僕は抱きつかれながら、時が止まっていた。
僕は自慢じゃないが、地球の時から女性とは縁があまりなかった。
妹を養うのに精一杯だったのもあるが、どう接していいか分からなかったのだ。・・・・・まぁ臆病だと言ってしまえばそれまでなのだが。
もちろん。そんな僕だ。
女性からの告白なんてまずなかった。
そんな僕にラフィンが?
天竜人の国『テンペスト』の王女で、現界でも、学園の時から男子にとても人気があって、今のホワイトフォックスの女性陣は世界でトップクラスの美人揃いと言われている子の一人が僕に?
えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!
・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・
僕はラフィンの腰に手をまわして言う。
「ラフィン。ありがとう。僕を好きになってくれて。・・・・・とても嬉しいよ。
でもね。もう少し僕に時間をくれないかな?突然すぎて頭が整理できてないんだ。・・・・・ちょっと時間がかかるかもしれないけど、返事はそれからでいいかな?」
ラフィンは笑顔で言う。
「うん!ずっと待ってる!ちゃんと答えが出てからでいいから!」
「ああ。ありがとう。」
ラフィンが僕の胸に顔をうずめながら言う。
「あ~!やっと言えた!ずっと苦しかったんだぁ!これでスッキリしたよ!」
「ハハハハハ。」
僕はめっちゃモヤモヤする事になるけどね。
僕達は、それからずっと塔の頂上で、星空を見ながら日が明るくなるまで話し合った。
嬉しそうに僕に話すラフィンは、
可愛くてとても魅力的だった。
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新年あけましておめでとうございます!
やっと落ち着いたので、これからまた変わらずに投稿していきたいと思います。
あと二章。
駆け抜けていきたいと思いますので、最後までお付き合い頂けると嬉しいです。
今後ともよろしくお願いします!
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