第121話 ただいま



「いや~!久々だな!」




森の中、僕は石の祠の前で考え深げに言う。




イールに会って報酬を貰ってから、一週間ちょっと。



最近、連続して仕事を受けていたので、はやる気持ちを抑えて、ゆっくりと体を休める事にした。



そして、準備を整えてから、帰還紙を使って封印の島『カルテル』へと行き、魔界の扉を開いた。



いつ振りだろうか。



リョーカちゃんやシャインさん。

キリアの事が遠い昔の様に思える。




「さてっと。」



僕達は擬態薬を飲む。



すると、僕は、みるみるうちに姿が変わり、

髪が赤く長髪になって、尻尾がつく。



エメの髪は銀のままで、尻尾がついた。




獣魔へと変身したのだ。




「おぉ!見ろゼロ!尻尾があるぞ!」



エメが嬉しそうに自分の尻尾を掴んでいる。




ハハハハハ。久しぶりに獣魔に変身したな。

たまには新鮮でいいかもね。




・・・・・確か、ここは序列第一位のヴァンパイアが治める国だったな。近くに街があったはずだ。




「よし!とりあえず行こうか。」



僕達は森から出て、少し先にある大きな町へと歩いて行った。










☆☆☆










う~ん。




ここに来たのは二度目だけど、やっぱりこの街の雰囲気はいいなぁ。



中世ロンドンの様なおしゃれな街並み。



街灯はオレンジ色に灯り、行きかう人々は帽子を被り、スーツや華やかな服装を着ている。



ヴァンパイアは服装もとてもセンスがいいよね。



僕は感心しながら、とりあえず腹ごしらえと、情報収集の為に、近くのおしゃれな料理店へと入った。





「ムグムグムグ・・・・。おい、レイ!意外とイケるな!!!」



カウンターに座っているエメは隣で夢中になって料理を食べている。



「ああ。確かに旨いね。」



僕はお酒を飲みながら答える。




魔界でヴァンパイアの国の料理が一番うまいと、出会った頃のキリアに教えられたっけ。




「ところでマスター。ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」



髭をはやし、紳士の格好をした店主に僕は話しかける。



「お客様。私は美味しい料理とお酒を提供する者です。そういった話ならいいですが、他の話でしたら受け付けませんよ。」



僕は、さりげなく結構な量のギルが入った袋をカウンターへと出す。



「・・・・・・・。少しだけでしたら。」



そう言うと、マスターは袋を受け取り、僕達の目の前でコップを拭き始めた。



「今の魔界の情勢を教えて欲しいんだ。」





すると、マスターは話始める。





数百年間、魔王を中心にこの世界は動いていたが、ここ数年でこの魔界は大きく変わった。


黒の一族の復活により、能力や力が全てのこの世界で、魔界にいる弱い者を黒の一族が保護した事によって、ほとんどの国でやっていた力の圧政がなくなったのだ。


そして徐々に平等に基づいた国づくりとなっていった。そのおかげで、一般の魔族も普通に生活する様になったそうだ。




「・・・・・黒の一族が復活して、完全にパワーバランスが崩れましてね。昔、全盛期だった黒の一族よりも今の方が格段と力を持っているとの事です。

 今では、魔王も黒の一族の女王には口を挟むことが出来ない程になっているんですよ。・・・・・まぁそのおかげで、差別もほとんどなくなって、私達、そんなに力のない魔族もちゃんとした生活がおくれている。・・・・・黒の女王には感謝しかないですね。」



「そうですか。そんな事になってたんですね。」




良かった。

シャインさんは魔界でうまくやっているんだな。




「ところで、貴方はもしかして、あの【赤毛】ですか?」



「【赤毛】?」



数年前に、獣魔王を単身で倒し、その場を火の海にして颯爽と消えていった獣魔人。

獣魔人には珍しい赤く長い髪をしていた事から

【赤毛】と呼ばれているとの事。



「ハハハ。そんなあだ名が付けられているんだ。」



「お客様。笑い事じゃないですよ。獣魔王が倒されて、本当は倒した者。貴方が獣魔王にならなければいけないのに、失踪したので、新しい王を決める為にあの国は大変だったらしいですよ。実力者を募って、殺し合いをしたみたいですから。」




へぇ~。知らんかった。

そんな事になっていたのね。




「それで、新しくなった獣魔王は、懸賞金をかけて、貴方を探しているみたいです。」



「へっ?何で?」



「それは、国民が納得していないからでしょう。最強と言われていた前王を倒したのは、貴方であって、現獣魔王ではないのですから。何とかして探し出して、白黒つけたいんでしょうね。」



なるほどね。



獣魔国には、リョーカが捕らえられていた場所で、あまり気持ちのいい思い出はないから、もう関わるつもりはないんだよな。



これはあまり、目立つ行動はしない方が良さそうだ。



僕達は食事を終えると、マスターにお礼を言ってその場を後にした。







「フッフフ~ン♪なぁゼロ!魔界の料理やお酒もうまいな!」



少し酔っているのか、エメは鼻歌を歌いながら楽しそうに僕に話しかける。



「だな。」



僕もほろ酔い加減で、エメに答える。



そんなに飲んでないのに、少し酔ったわ。

魔界の酒は結構アルコール度が高いな。



二人はいい気分で、街灯の光でオレンジ色に染まった街を歩いている。



確かこの辺りだと思ったんだけど。



暫く歩くと、目的の建物があった。




「オイオイオイ。何だこれ?随分立派になったな!」



思わず独り言に様に呟く。




前に来た時は、古いさびれたボロボロの小さな建物だったのだが、今は、その何倍も大きく、修道院の様な教会の様な・・・・・立派な建物になっていた。



その門を通り、広い庭に入ると、子供達が夜なのに元気に遊びまわっている。それを優しそうに、親たちが見守っていた。



何だろう。前に比べると、街全体の雰囲気が格段に変わっていた。



暖かい空気に包まれている様な感じだった。



大きな玄関には、大勢の人達が行き来している。



僕達はその建物の玄関へと近づくと、両端に立っている黒い服を着た漆黒の翼を生やしている美しい女性がすぐに駆け寄り、嬉しそうに声をかける。



「レイ様!お待ちしておりました!さぁ、どうぞこちらへ!!!」



「うん。ありがとう。・・・・しかし、立派な建物になったね。」



僕は、広い建物の中を見渡しながら言う。



人々が向かっている中央には大きな塊の

【浄化光石】が置かれている。



「はい。ここ数年で黒の一族の拠点を全て建て直しました。魔界の弱った全ての魔族達が気軽に来れる様に。そのおかげで、多くの人達に利用してもらっています。」



「そう。それは良かった。」



瘴気を取り除くことが出来る【浄化光石】。

魔界にある全ての国の拠点に置くことが出来た様だ。



僕達は、そのまま奥へと案内されると、黒い空間を通って、シャインのいる黒の一族の城へと入っていった。





「あらレイ!待っていたわ!」




城の中へと入ると、大きな椅子に腰かけているシャインとその周りにいる側近のロイカやクラネル達が出迎えてくれた。




「お言葉に甘えて、少しゆっくり体を休めてから来ました。」



「そう。・・・・・あら、エメリアル。貴方も来たのね。」



「あっ、あたりまえじゃ!ワシはレイと一心同体じゃからな!」



エメが変わらずシャインにくってかかっている。



僕は文句を言っているエメの頭を掴んで、後ろへとやると、早速、シャインに本題を聞く。



「・・・・・ところでどうでしたか?【忘却の宝玉】の在り処は分かりましたか?」



すると、シャインは笑顔で隣のテーブルに置いてあった、丸く透明な水晶玉を手にして言う。



「フフフフフ。・・・・・これよ。」



「へっ?????????」



思わず変な声をだす。



「すぐに戻って、まずは魔界の全てを掌握している魔王に聞いたの。そうしたら、彼の宝物庫にあったのよ。だから、お願いして、貰って来ちゃた♪」





いやいやいやいや。貰って来ちゃた♪

って・・・・・・。



魔王でしょ?

そんな簡単に譲ってくれたりしないでしょうに。

どんな交渉をしたんだろうか。





するとシャインは立ち上がって、僕の方へと来ると、屈んで、【忘却の宝玉】を僕に手渡す。



「はい。・・・・・これで少しは貴方の役にたったかしら?」



「少しだなんて!・・・・・僕はこれをずっと二年以上探していたんです。シャインさん。・・・・・本当にありがとうございます!!!」




僕は深々と頭を下げる。



するとシャインは、僕の肩を優しく触ると言う。



「いいのよ。貴方の喜びは、私達、黒の一族の喜びなの。だからレイ。貴方は私達の主なんだから。簡単に頭を下げないでね。」



「いえ。感謝を伝えるのに主とか関係ありません。もう一度、言わせてください。シャインさん。そして皆。・・・・・ありがとう。」



僕はここにいる全ての黒の一族に笑顔で言った。










☆☆☆










風一つない晴れた日。



封印の島『カルテル』へと戻るとエメが言う。



「なんじゃ。あっという間だったな。もうちょっと魔界を堪能したかったんだがの。」



僕達は、黒の一族の城で、一日中歓迎を受けてから現界へと戻った。



確かに、魔界はまだほとんど冒険をしていない。

今度ゆっくり時間を作ってから行こうかな。・・・・・でも今は・・・・・。



「まぁ、目的は達成したんだ。また近い内に魔界へは冒険に行こうと思っているから、それまで待ってよ。」



「フン。しょうがない。待っててやろう。」



エメが胸をはって言う。



なんか偉そうだな。



「さてと・・・・・。」



僕は空間収納からシャインに貰った【忘却の宝玉】をとりだす。透明で綺麗な水晶玉だ。






永かった。・・・・・本当に永かったなぁ。






僕はその水晶玉を見ながら思う。



この場所『カルテル』は、この現界の世界の中心にある島。



僕はその水晶玉を上空へと投げる。






・・・・どうか皆の元へ!!!!!!!!!!!!






水晶玉が落ちてきて、僕の目の前まで来た瞬間、剣で斬る。






キンッッッッッッッッ!






ブワッッッッッッッッッ!!!!!!!!!






斬った瞬間。






風が吹いた。










☆☆☆










「これを大臣へ渡すように。」



「はい。」



文官ポーロは王から書類を受け取る。



ここは天界にある天界人の国『エデン』。



その天空の城にある王室に、天王カイシス=ヘンギスが政務をこなしていた。



「ふぅ。」



カイシスは一息つくと、紅茶を片手に、部屋の窓まで行き、外を眺める。




今日は無風で良く晴れた日だ。




フワッッッッッ




そう思った時、爽やかな風が吹いた。




パリンッ




手に持っていた紅茶を落とす。



カイシスは、ベランダから外に出ると、空を見ながら呟く。



「そうか。・・・・・取り戻したんだな。記憶を。今度改めて君を呼んでお礼を言わせてもらおう。・・・・・レイ殿。」





王の顔は、とても優しく。喜びに満ちていた。










☆☆☆










ガンッ!ガンッ!ガンッ!





「王子!・・・・・ヒッキ王子!やめて下さい!!」



文官達が、壁に拳をぶつけているヒッキを止めようとしている。



「クソッ!クソッ!クソッッッ!!!!」



それでもヒッキは打ち続ける事をやめない。



ヒッキの拳は血が滲み始める。



「俺はっ!・・・・・俺は何て酷い奴なんだ!!!!」





親友の事を、今までずっと忘れていた。





城の中なのに風が吹いたかと思ったら、突然思い出したのだ。





レイ・・・・・。





これから僕は君にどんな顔をして会えばいいんだ?



こんな薄情な友達を親友と呼べるのか?




「クソッ!クソッ!クソッ!!!」



文官達は困り果て、近くで見ているサイクスに助けを求める。



「サイクス将軍!どうか、ヒッキ様を止めて下さい!」



「・・・・・・。」



サイクスは黙ってその光景を見ている。



「将軍!!!」



「少し黙っててくれ!!!!」



文官達は、ビクッとして静かになる。



「俺だって・・・・・このやり場のない怒りを吐き出したいんだ。」



サイクスは呟く。





俺は・・・・・妹を助けてもらった親友を忘れていただと?





何て奴なんだ!俺は!!!





レイ・・・・レイ!!!





すると、へーリックが二人の元に走ってくる。



「王子!サイクス!分かったぞ!・・・・・今は、傭兵として活動しているみたいだ。名は【シルバーアイ】のゼロ。」




ヒッキは打ち続けた拳を止めると、へーリックの方を向いて言う。




「・・・・・【シルバーアイ】だと?」




【シルバーアイ】。




先のミーン国の防衛戦の時に、敵の裏をついて撤退させた世界でも有名な傭兵。




・・・・・そうか。・・・・・そうだったんだ。・・・・・君だったんだね。・・・・・レイ。




僕達は君の顔さえ忘れていたのに、君は陰で僕達を守ってたんだね。




ヒッキはすぐに歩き始める。




「ヒッキ様!これから謁見が始まります。どちらに行かれるのですか?」



文官達が呼び止める。



「・・・・・今すぐ『アルク帝国』へ行く。」



「『アルク帝国』ですって???何を言っているのですか!そもそも同盟国でもない超大国に、王族が文を出さずに入国なんてできるわけがありません!」



ヒッキは歩みを止めずに言う。



「そんなのは関係ない!!!僕は親友に会いに行くだけだ!どんなことをしてでも、アルク国皇帝に許可をもらう!!!」



するとすぐ後に、へーリックとサイクスが続きながら文官達に言う。



「まぁあれだ。ここは俺達に任せて、謁見は王か第二王子にお願いしてくれ。・・・・・頼んだぞ。」



そう言うと、三人は城を後にした。










☆☆☆










「皇帝!・・・・ガイルズ皇帝!帝国民が騒いでおります!!!自殺しようとする帝国民もいるそうです!」



アルク帝国皇帝は、王座から立ち上がると、大声をあげて言う。



「ならん!ならんぞ!!すぐに国民には私が話す!!!魔法鏡の準備を!!!」




何と言う事だ。




我だけでなく、帝国民全てが忘れていた。




この国の英雄を。




その事で、ある者は悲しみ。ある者は絶望し。




国の英雄を忘れていた事への罪悪感と情けなさで、自殺しようとする者もでていた。




すぐに皇帝は、魔法鏡の前に立ち、国民に話始める。



「・・・・・我が帝国民よ。皆、驚いたと思う。我らが英雄。レイ=フォックスを忘れていたとは。それは私もだ。・・・・・これはおそらく何かあったのだと思う。

 それでも、この国の英雄を忘れるなんて許される事ではないが、まずはその真相が明らかになるまでは耐えてくれ。

 ましてや、自害など絶対に許さぬ。・・・・・分かると思うが、レイ殿がそれを一番望んでいない。今、我々がしてはいけないのは、レイ殿を悲しませる事だ。

よいな?・・・・すぐにレイ殿を探して皆にこの魔法鏡で話してもらう事を約束しよう。」




そう言うと、皇帝は、魔法鏡から離れて、王座へと座る。





「ふぅ。」





何と。何と言う事だ。





「あなた・・・・・。」





隣にいる、王妃シャーリーが心配そうに皇帝の手を握る。





「ああ。大丈夫だ。・・・・・大臣。すぐにここにいる全ての将軍に連絡を。レイ殿を・・・・・レイ殿を最優先で探すように。」



「ハッ!」



近くにいた大臣は、すぐに王の間を後にした。










☆☆☆










「シェリー!大丈夫?」




仕事仲間のマーリが心配そうにシェリーに話しかける。



シェリーが突然、真っ青になりながら目に涙をためて、冒険者の登録帳をめくっていた。



自分の担当【ホワイトフォックス】の所までくると、ページを止める。





「私は・・・・・何てバカなの?」



二年前からずっと引っかかっていた。



【ホワイトフォックス】にクエストを提示する時、何故か一人足りない様な気がしていた事に。



しかも、彼を忘れていたなんて。



【ホワイトフォックス】のリーダーになる前から、たった一人の青年の担当になろうと決めていたのに。




その彼を忘れて、ずっと見守っていた。




世界一となったリーダーがいない

【ホワイトフォックス】を。




リーダーを白雪と勘違いして。




六人パーティを五人パーティと勘違いして。




登録帳を見れば、すぐに分かったのに。





最低だ。私は。





担当として。





でも、今は・・・・・・彼に会ってちゃんと謝りたい。





レイ=フォックスに。





シェリーは受付から立ち上がると言う。




「マーリ。ごめん。暫く休暇をもらうわ。どうしても行かなくちゃいけない事が出来たの。」



「・・・・・そう。それじゃ、上司には言っておくわ。気をつけて行って来てね。」



「うん。ありがとう。」




シェリーはすぐに冒険者協会から出ていった。










☆☆☆










風のない良く晴れた日。



洗濯物を取り込んでいると、突然風が吹く。




「ううううう!」




風が吹いた後、突然、カザミはうずくまる。



「カザミ!大丈夫?」



メイドの格好をしたクロが心配そうに言う。



「・・・・・お兄ちゃん。」




なんて事。




毎回来てくれるゼロさんがお兄ちゃんだったなんて。



小さい時からずっと一緒にいた、たった一人のお兄ちゃんの事を忘れるなんて。



クロは本能で分かっていたのだろう。



だから、何の抵抗もなく話せて、知らない人なのにお金を受け取れたんだ。



忘れてどの位経ったのだろうか。




1年・・・・いや2年以上だ。




カザミは、クロの頭を撫でながら言う。




「大丈夫よ。・・・・・私は妹失格ね。」




今度、来た時にゆっくりと話そう。




今までの事。




そしてこれからの事も。




でもまずは謝ってからだ。




・・・・・許してくれるかな。・・・・・お兄ちゃん。






カザミはクロの頭を撫でながら空を見上げた。










☆☆☆










「ジョアン様・・・・。」



助手のクリストが心配そうに言う。



「・・・・・暫くは、そっとしておいてあげなさい。これは彼女が決めないといけない事です。」



そう言うと、ジョアンは書いていた書類を止める。



しかし・・・・・ゼロ。



君が【ホワイトフォックス】のリーダー、レイ=フォックスだったなんてね。



驚いたが、不思議と納得した。



唯一、暗殺を防がれた相手。



この世界は私より上の実力者など、ほとんどいない。



そんな者に防がれたなど、屈辱以外の何者でもなかった。






だが、ゼロ。






君だったなら話は別だ。






自然と笑みがこぼれる。



「ジョアン様。楽しそうですね。」



助手のミューズが言う。



「フフフフフ。そうですね。久しぶりに楽しい気持ちになりました。」




私が認める、唯一の男。




【シルバーアイ】銀の左目のゼロ。・・・・・そして、世界一のパーティ【ホワイトフォックス】のリーダー。




ジョアンは椅子から立ち上がると、窓を見ながら言う。




「これから楽しくなりそうですね。」







ザンッッッッッッッッ!!!!!







「ハァハァハァハァ・・・・・。」



ジョアンのいる館の外で、訓練の為に幻獣と戦っているリールは、最後の一匹を倒して立ち尽くす。




まさか・・・・・・まさかゼロさんが、愛するエッジを殺した宿敵【ホワイトフォックス】のリーダーだったなんて。





何故、黙っていたの?





何故、一緒にいたの?





何故、私に剣を教えたの?





分からない。





貴方の行動が。





私は、貴方と向かい合った時に、迷わずこの剣を彼の体につき刺す事が出来るのだろうか。





「私は・・・・・私はいったいどうすれば・・・・・。」





リールは剣を地に落とすと、空を見上げた。










☆☆☆










ここは南東にある小国『ミーン』。



今日は侵略者を退けた功績を称え、同盟国『オロプス』の冒険者達を招いて王からの報奨を授与する式典が執り行われていた。



王の間には、大勢の冒険者達が集まっている。



そこには【HIEAT】、【アークス】、【たぬき】、そして世界一のパーティ【ホワイトフォックス】がいた。




「それではこれより、冒険者達を称え、王からの報奨式を始める!」



大臣が王の横で声をあげると、一斉に冒険者達が王が座る前に、片膝を付いて頭を垂れる。



「ウム。『オロプス』の冒険者達よこの度は・・・・・・・・ん?・・・・・風か?」



王が謝辞を述べようとした時、窓がしまっている王の間に風が吹いた。



一番前に片膝を付いている白雪達は、大きく目を見開く。



その横で、同じ様に片膝を付いていたシュバインが思わず口ずさんだ。



「・・・・・レイさん?」



すると、白雪が突然立ち上がる。



それにラフィン、キリア、カイト、アイリが続く。



それを見た大臣が言う。



「どうしたのだ!ホワイトフォックス!今、王が謝辞を述べている大事な時だ!失礼だろう!!!・・・・・えっ????」



立ち上がった五人は全員涙を流していた。



そして白雪が言う。



「大事な時?・・・・・私達は今この時、最も大事な事が起きました。・・・・・失礼します。」



白雪達はそのまま王の間を出ようと歩き出す。



「まっ待ちたまえ!!!君達には特別な褒賞があるのだ!せめてリーダーの白雪君だけでも残ってはくれまいか?」



すると白雪は振り返り、笑顔で言う。



「・・・・・リーダー?私はリーダーなんかじゃありません。この世界で私達のリーダーはただ一人・・・・・彼だけです。」



そう言うと出て行きながら仲間に言う。



「皆・・・・・彼の帰る場所はただ一つ。一分一秒が惜しいわ。すぐに帰りましょう!」



「うん!」



「ああ!」



「・・・・・分かった。」



「ええ!」




全員すぐに彼の家。・・・・・私達の家がある『アルク帝国』へと向かった。






皆の頭には一人の人物しか頭に浮かんでなかった。






ずっと思い出したくても思い出せなかった人。






今まで思い出せなかった姿を忘れない様に大事に思いをはせる。







レイ=フォックスの姿を。










☆☆☆










「ふぅ。・・・・・着いちゃたな。」



僕は家の前で呟く。




皆、僕の事を思い出してくれているだろうか。



入って「誰ですか?」なんて言われたらマジでショックだ。



カランッ



そう思いながら、エメを連れて門を通り、大きな庭を歩いていると、洗濯物を干しているメイドのコウがこちらを見て物干し竿を落とす。




「やぁ。」




僕が手を軽く上げると、コウが震えなながら、家へと勢いよく入っていった。




えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?????




何それ????




もしかして・・・・・戻ってない???




バンッッッッ!!!!




僕が茫然と庭に立ち尽くしていると、玄関から勢いよく続々と出てくる。



白雪達。そして家で働く人達だ。



皆が立ち尽くしている僕の前まで近づく。



白雪達が僕の前まで来た。





「・・・・・白雪。皆。」





僕が言おうとすると白雪が口を挟む。





「何で!!!!!何で私達を戻したの?」



「・・・・僕だけならいいけど、皆まで知り合った人達から忘れられるのはやだったんだ。」



「私は!!!!!この世界で、他の人達に忘れられようと・・・・・いえ!仲間達でさえ忘れられても構わない!!!!貴方さえいてくれれば!!!!!

・・・・・どうして分かってくれないの?」




白雪は大粒の涙を流しながら言う。




カイトは後ろで優しく白雪が言った後に続ける。



「レイ。おそらく女性陣は皆、白雪と同じ気持ちだと思うよ。・・・・・レイが皆の事を想っているのは分かっている。

 だから、皆、君のやり方に不満はないし、ずっと仲間でいたいと思っている。・・・・・でもね、レイが仲間を大事に想っているのと同じ位に、皆、レイが大好きなんだ。」





あの時。





僕がやろうとした事を言えば、皆、あの場に残っただろう。





それがやだったんだ。





僕のわがままで皆が忘れられる事が。





・・・・・でも、それは間違いだったんだね。





それ以上に仲間達は僕を忘れる事がやだったなんて。





そこまで皆に想われていたなんて。





「白雪。・・・・・皆。・・・・・ごめん。・・・・・もう二度としないよ。」





僕は皆に謝る。





白雪は、涙を手で拭きながら笑顔で言う。





「レイ。・・・・・そんな言葉を私達は待ってないよ。」



「えっ???」



僕は周りを見渡す。




白雪、ラフィン、キリア、カイト、アイリ。そして執事のセメルトさんや他の家の人達。




皆が優しい笑顔で僕を見ている。




僕は同じように笑顔で皆に言う。






「ただいま。」






「「「おかえり!!!!!!!!!!」」」







そう言うと、仲間達が僕の胸へと飛び込む。



僕はそれに逆らわずに、受け止めると、そのまま庭の芝へと倒れる。





「レイ!レイ!レイ!!!!!」





「え~ん!え~ん!レイだぁ~!!!」





「・・・・・レイ。・・・・・もう離さない。」





「良かった。・・・・・本当に良かった。」






僕は、皆が落ち着くまで、倒れたまま皆の頭を撫でていた。










☆☆☆










「あの~・・・・・もしもし?皆さん?・・・・・何をやっているのかな?」




その日の夜。




二年ぶりの再会を祝して宴会をした後に、寝室へと戻ると、何故か女性陣が付いてきて寝ている僕にひっついている。




寝ている僕の左を見ると、僕の左腕をギュッと抱きしめて僕の左肩に頭をのせている白雪。



右を見ると、同じ様に僕の右腕をギュッと大事そうに抱きしめて僕の右肩に頭をのせているラフィン。



僕の上半身を見ると、僕の上に、大の字で僕を抱きしめているキリアがいた。




「うん。・・・・・レイのぬくもり。久しぶり。」



白雪が言う。



「前に白雪が一緒に寝てたの知ってるんだ。だから今日は僕も一緒!」



ラフィンが言う。



「クンカ~クンカ~クンカ~。・・・・・レイの匂い。・・・・・二年分嗅がないと。」



キリアが言う。




それを、冷たい目でアイリが見ていたが、そのまま部屋から出ていく。



「アイリさん?ちょ!ちょっと!・・・・・違うんですよ???」



僕が出ていくアイリに慌てて言う。



・・・・・あれじゃ、私の場所がないじゃない。今回は先輩達に譲るわ。でも・・・・・私も負けないんだから。



部屋から出ていったアイリはニヤリと笑った。




僕は部屋の片隅に立っているエメを見て言う。



・・・・・おい!エメ!黙って見てないで早く助けてくれ!・・・・・



僕とエメは、念話で話す事もできた。



なので聞かれたくない大事な事は念話で話す事にしている。



エメはニヤニヤしながら言う。



・・・・・フフフフフ。何を言っておる。ずっと美しいワシを抱かんで、我慢していたのだろう?


この者達に相手をしてもらえばいいじゃろう。

フォッフォッフォッ・・・・



・・・・・フォッフォッフォッじゃない!

いやいやいやいや!違うから!!

そんなんじゃないから!!!

ちょ!ちょっとエメさん?待って・・・・・




エメは笑顔で部屋から立ち去っていった。






皆の甘い香りや体全身に柔らかい感触が伝わる。






健全な普通顔の男が、世界一と呼ばれている美女達に抱きつかれている。






皆、薄いパジャマ姿で。






やばいやばいやばいやばい

・・・・・こんなの耐えられるわけないだろ!!!!






見ると、皆、気持ち良さそうに寝ている。











・・・・・・ノォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ・・・・・・・











言葉にならない慟哭が心の中で響き渡った。
















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いつも見て頂きありがとうございます!


これにて第六章は終了です!


最後もの凄く長くなってしまった(*^-^*)


これから年末で忙しくなるので、次回の更新は新年からとなります。


あと二章で完結する予定ですので、それまでお付き合いして頂けると嬉しいです!


今後ともよろしくお願いいたします!!





PS:いつもレビューやコメントを頂きありがとうございます!返事を返せなくてすみません(>_<)

今後もご指摘やコメントを頂けるととても励みになります(^^♪

どうぞよろしくお願いします。


































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