第120話 傭兵13
「・・・・・で、どんな感じかな?」
僕は二人に聞く。
「ウム。ゼロが入ったこの建物以外は全て破壊したぞ。」
エメが言う。
周りを見渡すと、至る所に煙が立ち上り、ほぼ全ての建物が瓦礫の山となっていた。
中央にあるこの建物だけがそびえ立っている為、とても滑稽に見える。
要塞都市が見事に破壊されていた。
いやいやいやいや。
破壊しろとは言ったけど、ここまでするとは。・・・・・ほんと、二人は加減と言うのを知らないな!
「ここにいる人達全員殺したの?」
シャインが笑顔で言う。
「いえ。レイが言っていた様に、地下に避難している無抵抗な人達は殺していないわ。降参した兵士達もその地下へ行くように言ったから、生きている者はここにはいないわね。」
「そう。」
良かった。ちゃんと守ってくれたんだな。
「さて!これで依頼は完了だ。ここまですれば、おそらく敵さんは飛んで戻ってくるだろう。・・・・・あぁ、シャインさん。僕達は帰って報酬を貰ったら、すぐに魔界に行こうと思ってるんですよ。」
「えっ?そうなの?」
「えぇ。この間話した【忘却の宝玉】が魔界にある事が分かったから、それを探しにね。」
するとシャインは少し考えてから言う。
「ねぇレイ。それなら、この現界で少し休んでから・・・・・そうねぇ。一週間位してから魔界に来てちょうだい。」
「へっ?何で?」
「フフフフフ。私達、黒の一族は魔界に住んでるのよ?魔界の事なら知らない事などほとんどないわ。帰ったらすぐに【忘却の宝玉】を捜索しましょう。主の一大事なんだから、こういう時は任せて。・・・・・ね?」
「いいんですか?ありがとうございます!!!」
それは心強い。
魔界に行ったとしても、どこを探していいのか分からなかったからな。なら、シャインさんに甘えて、ゆっくり準備してから行くとしよう。
「それじゃ、私達は帰るわね。魔界に来るときは期待しててね。」
「主様!!!!!さようなら!!!!!」
シャインや黒の一族達はそう言うと、僕の影が広がり、その影に消えていった。
「まったく。騒がしい奴じゃたのぉ。」
エメがため息をつきながら言う。
お前が言うな。
白の兵隊は、いつの間にか消えていた。
僕は大きく伸びをしながら言う。
「う~ん。さて、僕達も帰ろうか・・・・・・・ん?」
見渡しが良くなった要塞都市の真ん中に立っている僕は、少し離れた空に二人の人影が見えた。
一人は、漆黒の髪をして可愛らしい顔立ちの、ちんちくりんではなくなったキリアだ。
そして・・・・・・
「・・・・・白雪。」
思わず僕は呟く。
透き通る様な白い肌。綺麗な白い髪。
そして空の様な青い目。
出会った時から、とても美しく、絶世の美女とはこの子の事なんじゃないかと思ったが・・・・・更に綺麗に、そして可愛くなっていた。
・・・・・綺麗になったね。白雪。・・・・・
彼女を見ながら、僕は小さく呟く。
すると、気づいたキリアが真っすぐに僕の方へと飛んでくる。
ハハハハハ。
相変わらず迷いがないな。
でも、ごめんな。
まだ会うわけにはいかないんだ。
・・・・・ちゃんと皆の記憶を取り戻してからと決めているからね。
「エメ。帰るよ。」
「・・・・・!!!・・・・・待って!!!」
キリアが叫ぶと同時に、僕は帰還紙を破った。
「・・・・・逃げられた。・・・・・もうちょっとだったのに。・・・・・次は逃がさない。・・・・・絶対会って話すんだ。」
キリアはゼロがいた所まで来ると、遠い空を見ながら呟いた。
白雪が追いかけてきているのは知っていた。
キリアは少し離れた空中にいる、白い翼を広げて飛んでいる白雪が、何か苦しそうにしているのを見て、すぐに戻る。
「・・・・・白雪?・・・・・大丈夫?」
ハッ・・・・ハッ・・・・ハッ・・・・
白雪は胸をギュッとおさえている。
追いかけていた白雪は、キリアが空中で止まってキョロキョロしているその先の、高い建物に目を移した時。
時が止まった。
トクン・・・・・・トクン・・・・・・
自分の鼓動だけが響く。
そこにいたのは、一人の青年だった。
その人を見た瞬間。
他の周りの景色が見えなくなった。
彼だけしか見えない。
すると、青年が私に気づく。
その青年は、私を見ると驚いた顔をして、
そして・・・・・少し悲しそうな笑顔で何かを呟いていた。
トクン・・・・・・トクン・・・・・・
苦しい・・・・・・とても。
何かを吐き出したい気持ちが高鳴る。
でも理由が分からない。
・・・・・あの人に触れたい。
・・・・・あの人に抱きつきたい。
そんな気持ちに支配される。
何を考えているの?????
知らない人にそんな事をしたら、変態さんになっちゃう。
理性が白雪を踏みとどませる。
・・・・・でも、今まで異性に会う人、会う人、好意をよせられている。もしかしたら、喜んでくれるかも・・・・・。
いけない!いけない!!!!
白雪は顔を振る。
すると、キリアが気づいたのか、一直線にその人へ飛んでいくが、辿り着く前に消えた。
ハッ・・・・ハッ・・・・ハッ・・・・
いなくなると同時に、とても胸が締めつけられる。
キリアが隣に来て心配そうにしている。
「ふぅー・・・・・大丈夫。・・・・・大丈夫だから。」
白雪はキリアの頭を撫でる。
そして、白雪はいなくなった彼の場所を見ながら言う。
「・・・・・彼の名前は?」
「・・・・・ゼロ。」
「ゼロ。・・・・・キリア。
至急戻って、残りのパーティメンバーに伝えます。・・・・・次の目的を。」
「・・・・・次の目的?」
「ええ。・・・・・私達の次の目的は・・・・・彼を探し出して会う事。」
「・・・・・うん!!!!!」
キリアは今まで見た事のない顔で喜んでいる。
ゼロ。貴方に会いたい。
貴方に会って話せば今までつかえていたもの、溜まっていたものがきっと分かるような気がする。
そして、
きっと私と繋がっているのは貴方・・・・・。
「さぁ、戻りましょう!」
白雪はそう言うと、キリアを連れて仲間達の元へ戻っていった。
白雪の心は、今までにないほどに晴れわたっていた。
☆☆☆
「何だこれは。」
エルビスは愕然とする。
要塞都市【マジュカ】が壊滅したとの報告を受けて、すぐに戦闘を切り上げて戻って見ると・・・・・何もなかった。
一つの町程の大きさの要塞都市が、中央の司令室があるビルを残して全て破壊されていた。
壁も、ビルも、塔も、家も、何もかも。
どうやったらここまで破壊できるのかと思えるほどに、瓦礫の山となっていた。
その瓦礫の山を見ながら【7星】エルビスは立ち尽くしていた。
すると、唯一残されたビルから、中将アルファーが姿を現す。
腕は治療したのか、元通りになっていた。
アルファーはエルビスの前まで来ると、直立し、敬礼する。
「何があったのだ?」
エルビスは聞く。
「ハッ。・・・・・突然、黒と白の軍団が現れました。その数は約2万。そして、その者達はとても強く、カルガラはもちろん、レギアでさえ太刀打ちできませんでした。更に、その軍団を指揮していると思われる二人が全ての建物を破壊。そして全てを率いているリーダーらしき男と戦いましたが、相手になりませんでした。」
「アルファー。お前がか?」
「ハッ。」
・・・・・にわかには信じられんな。
アルファーは中将だ。
上には大将と我々【7星】しかいない。
しかもアルファーは剣士の中ではトップクラスの者。そんな者が相手にならないだと?
「指令ビルの中で戦ったので、その画像を【マレ】にて分析、解析させました。そのリーダーらしき男の結果は・・・・・【解析不能】でした。」
!!!!!!!
クリスタル帝国の頭脳と呼ばれている超大型CPU【マレ】。
【マレ】が個人の実力を【解析不能】と表示したのは・・・・・【7星】のみ。
「そうか。・・・・・それで我が民はどうした?」
「無抵抗の者。降伏した者は危害を加えられませんでした。地下の巨大施設に避難しております。」
「そうか。」
エルビスは後ろに控えている副官に言う。
「ジョゼ。この地の復旧は当分無理だろう。至急本国へ連絡をして、住民を運ぶ手はずを整えてくれ。我々は一度、『クリスタル帝国セカンド』の首都へ戻るぞ!」
「ハッ!」
・・・・・解析不能だと?
・・・・しかも、この要塞をここまで破壊する二人の存在・・・・・ハハッ。
・・・・・面白い。面白いぞ。
エルビスはマントを翻すと、さっそうと巨大戦艦へと戻って行った。
戻りながら、エルビスのその口元は緩んでいた。
☆☆☆
「・・・・・という事で、依頼は完了だ。」
数日後、僕達は『ランス国』に戻り、イールに報告をする。
「ええ。ちゃんと報告を受けているわ。貴方達が要塞都市を完全に破壊した事。そのせいで敵が撤退を余儀なくされた事。フフフフフ。ご苦労様。」
「ご苦労様じゃないわ!イール!あれを二人だけで破壊しろなんて無茶苦茶じゃ!!!」
エメがプンプン怒っている。
「フフフ。でも、ちゃんと完遂してくれたじゃない?」
「当り前じゃ!ゼロはやると決めたら頑固じゃからな!まったく・・・・・。」
ゼロはイールとエメのやり取りをお茶を飲みながら笑顔で見ている。
・・・・・ゼロ。
貴方達の行動が、敵を撤退させた。
・・・・・分かってる?
そのおかげで、『ミーン国』が救われただけでなく、そこに参加した、アルメリアの軍隊や、オロプスの冒険者達も救ったのよ。
まったく、呑気にお茶なんか飲んで。
すると、ゼロが言う。
「まぁまぁ。エメ。いいんじゃないか?ちゃんとやれたんだし。そもそもイールは出来そうにない依頼を持ちかけたりはしないよ。信頼してくれてありがとな。イール。」
イールは目を見開く。
信頼・・・・・か・・・・・。
この裏社会でその言葉を聞くとはね。
その言葉を信用したら、この世界では生きていけない。
「フフッ。そうね。・・・・・でもゼロ。貴方は傭兵なのに人を信じすぎよ?少しは疑うのも覚えた方がいいわ。」
「そうかもね。でも、僕は自分の目を信じているんだ。それで裏切られたら、それはそれでしょうがない事さ。」
「そう。」
私には持てないその信念。
ゼロ。・・・・・貴方だったら、貫けるのかもね。
「さて!それじゃ、受付に報酬を用意させるわ。受け取ってちょうだい。で、貴方達はこれから出かけるの?」
「ああ。当初の予定だった場所へ行くよ。」
「そう。・・・・・それじゃ、またいい仕事があったら呼ぶわ。」
「よろしく頼むよ。じゃ!」
そう言うと、ゼロ達は部屋から出ていった。
出ていくゼロに手を振っていると、後ろに立っていたラフィットが近寄り、話す。
「イール様。また、冒険者協会から連絡が来ています。」
「・・・・・。」
ここ最近、頻繁に冒険者協会から連絡がきていた。
冒険者協会は表社会の中核の一つだ。
そんな所から、裏社会の私達に連絡を取ろうとするなんて、まずありえない事だった。
そんな事がもし知れ渡ったら、信用問題にかかわる。
それでも、何度も連絡がきた。
【シルバーアイ】のゼロに会わせろと。
話を聞くと、どうも、冒険者のトップパーティが、依頼でも報酬でも何でも出すから会いたいと、無茶を言っているらしい。
流石に冒険者協会も、トップパーティを無下にできずに、連絡をしてきたのだ。
イールは、ラフィットの方を見て言う。
「・・・・・今後、【シルバーアイ】の仕事の依頼が来たら、全て私を通して。彼らは私達の管轄する傭兵です。仕事はちゃんと選んであげないとね。
だから、冒険者協会の依頼は全て断ってちょうだい。よろしくね。」
「かしこまりました。」
そう言うと、ラフィットは部屋を出ていく。
・・・・・どんな理由で会いたいのか知らないけど、かの有名な世界一のパーティ【ホワイトフォックス】でも、彼らには敵わないでしょう。
でも、そんな余分な事をさせないのも、取り仕切っている私の勤めね。
イールは紅茶を飲み干すと、立ち上がり、書斎の方へと入っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます