第117話 傭兵10



「どうですか?」



「今の所、動きはありません。」


アークスのクランマスター、シュバインは望遠アイテムで様子を見ているリンに確認する。



「そうですか。」



ここは『ミーン国』の外海にある海辺から数キロ陸地に入った所にある待機所。



そこには、先に救援に来ていた『オロプス国』のトップパーティ、『アークス』と『ヒート』がいた。




「しかし・・・・・凄いですね。」




シュバインは外海を見ながら言う。




海辺に続々と上がってくるのは、鉄の塊をした体長3mはある人型。手には銃の様な物を持っている。・・・・・あれはロボットだ。



更にその後ろには見た事のない巨大戦艦が数隻待機している。



よく見るとその戦艦は海に浮かんでいるのではなく海面の数メートル空中に浮いていた。



地球の時でもあんなロボットや戦艦は見た事がない。



この種族は、我々が到達していない更に先の技術を持っている。かなり発展していた星から来たのだろうとシュバインは思った。




しかし、ここは真実の世界

『THE WORLD OF TRUTH』。




我々の剣や魔法がどれだけ彼らに通じるのか、試させてもらおう。




「シュバイン。アルメリアの軍隊が来たぞ。」



HEATのクランマスター、アッシュ=レインが言う。



見ると、後ろから緑の甲冑を着た兵士達が続々と現れた。




数千・・・・・いや、数万はいるな。




「やはり、同じ事を考えている・・・・・か。」




この国、『ミーン国』は友好国のアルメリアとオロプスに救援要請を出している。



おそらく、この国が占領されたら、更に勢いを増して大陸を占領していくだろう。




被害が大きくなる前に止める。




これがシュバインの考えだった。・・・・・建前上は。




シュバインには別の思惑があった。



同じ様に転移されて来たという事は、何かしら前にいた星が危機に晒されたという事だ。あそこまで技術が発展している星がだ。



その理由が知りたい。・・・・・そしておそらくあの女性も絡んでいるだろう。何とか捕らえて情報を引き出したいものだ。




すると、アルメリアの軍隊の先頭にいる豪華な甲冑を着ている若い青年が、3人の男達を連れてこちらへとやってくると言う。




「ここにいるのは『オロプス』の冒険者殿とお見受けした。相違ないですか?」



シュバインが青年の方へと歩むと答える。



「はい。私達は、『ミーン国』から救援要請を受けて参りました【アークス】のシュバインと申します。そしてあちらにいるのが【ヒート】のアッシュ=レインです。」



「そうですか!SSS級冒険者達が来てくれたという事ですね!それは心強い。・・・・・私は『アルメリア国』第一王子。ヒッキ=クラウス=アルメリアと申します。そして、後ろにいるのはこの隊をまとめている将軍達です。私達も救援要請を受けてこちらに来ました。よろしくお願いします。」



「!!!・・・・・王子様でしたか!それは失礼を!」



そう言うとシュバインは片膝を地に付けて、頭を垂れる。



「シュバインさん。頭をあげてください。僕達は同じ救援要請を受けてやってきた、いわば同志です。力を合わせてこの国を守りましょう。」



「了解しました。それではよろしくお願い致します。」



「ところで、今の戦況はどうですか?」



シュバインは立ち上がりながら言う。



「現状はにらみ合いの状況ですね。あちらは続々と兵器を上陸させてます。おそらくもうすぐ開戦するでしょう。」





ざっとロボットが数千か。数はこちらの方が多いが、さて・・・・・。





「ヒッキ様。私に提案があるのですが、聞いて頂けますか?」




シュバインはヒッキ達に話はじめた。










☆☆☆










「エルビス様。準備が整いました。」



副官が報告する。



「そうか。・・・・・今回はもう少し手ごたえがあれば面白いんだけどな。」



中央の巨大戦艦にいる、そのエルビスという男やその周りの隊員達の服装は、この世界には似つかわしくない格好だった。



鎧やローブ、コートでもない。近未来から来た様な斬新なデザインの服だった。



エルビスは副官に言う。



「自動兵器【カルガラ】を前衛に。その後ろに兵士が乗る【レギア】を配置してくれ。・・・・・さて。」



そう言うと、マイクを取り出し、話始める。



「ここにいる全ての高潔な兵士達よ。これがこの世界を掌握する第一歩となる。我々『クリスタル帝国』の強さを、野蛮で不潔な下等種族に存分に思い知らせてやろうではないか!」





オオオオオオオオオオオオ!!!!!!






「シュバイン!くるぞ!!!」



アッシュが後ろから叫ぶ。



先頭にいるロボットが銃を構えると、銃の先端が光り出す。



シュバインは一人、数百メートル前にでて、その光景を眺めていた。




・・・・・まずは、相手の力量がどの位なのかが知りたい。その為に、王子やアッシュに頼んでアルメリアの軍と、冒険者達を後ろへ待機させた。




シュバインの手にある2m近くある大きな盾がうっすらと光る。




ドンッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!




無数のビームの様な光線が、ロボットの銃から放たれた。



その瞬間、シュバインはその持っている盾を前面に構えながら言う。




「・・・・・【二の盾】。」




持っている盾を中心に見えない防御壁が一気に広範囲に展開される。




ドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!




その防御壁に光線が当り、煙が舞う。



受けながらシュバインは思う。



・・・・・この威力。普通の兵士なら体を貫通するな。そしてレベルの高い冒険者でも、貫通しないにしろ結構なダメージを受けるか。


だが、ある程度、高い防御魔法なら防げない事もない・・・・・。




シュバインは受けながら振り向き言う。




「皆さん!相手の武器は強力です!上位の防御魔法が使える魔法使いを前衛にして防いで、その隙に懐に入り込んで戦いましょう!!!」



アッシュは皆に言う。



「よし!それじゃ行くぞ!!!」



ヒッキは振り向き剣を掲げながら兵士達に言う。



「さぁ!我々アルメリア軍の強さを見せてやろう!守るよ!!!」





オオオオオオオオオオオオ!!!!





未知の敵との戦いが今、始まった。










☆☆☆










外海にある島国の海辺から数キロ内陸に入った所に岩だらけの低い丘がある。



緑も何もないその丘は、誰も立ち寄る事のない場所であった。



その、丘の上の目立たない所に、ポツンと一つの転移魔法陣が敷かれてあり、その魔法陣が光ると、二人の男女が現れた。




ゼロとエメだった。




「・・・・・着いたみたいだな。」



僕は魔法陣から出て、岩だらけの丘の上から下を見下ろす。




そこには、要塞があった。




要塞と言ってもとても大きい。一つの町の様だ。



見ると、外壁や中にある建物などは、この世界には似つかわしくない、とても近代的な物だった。



外壁の外には3mほどあるロボットが歩いている。




「凄いな。あれが新しい星から来た者達の技術か。僕達とはえらい違いだ。」




地球からここに来た時は、まだ僕達の文化の方が進んでいる様な気がしたが、あの者達に比べれば大した事はないな。




すると、エメが同じ様にその要塞を見下ろしながら言う。



「しかしあの女。・・・・・イールめ。無茶苦茶だな。二人でどうしろというのだ。」



「ハハハ。確かに。」



イールの作戦はこうだ。




【天使と悪魔】のスコール支部の者達が、この島国『スコール』が攻め落とされた時、逃げる前に設置したこの転移魔法陣。



この魔法陣を使って潜入し、二人で派手に一つの町を破壊する。



そうすれば『ミーン国』を攻めている者達は、おそらくこの島を援護する為に『ミーン国』から撤退せざるを得ないだろう・・・・・と。



確かにその作戦は理にかなっている。






二人じゃなかったらな!!!






僕達二人だけであのとても大きな要塞を破壊しろって。・・・・・いくらなんでも無茶苦茶だ。



普通なら数万・・・・・いや、数十万の部隊じゃないと、とてもじゃないが殲滅できないだろう。




毎回思うが、イールは僕達を過大評価しすぎだ。



いつも無茶な依頼を持ってくる。





まぁ~今までそれでも達成していたけどな!





「まったく。・・・・・仕方ない。」



・・・・・多分、呼ぶ事は出来るよな。僕を覚えてくれているといいんだけど。



そう言うと僕は召喚呪文を唱える。






「ダークネストゥルー。」






すると僕の影が広がり、その影から漆黒の羽を広げた一人の大きな美しい女性が現れた。



シャインだ。



前は全開のシャインを召喚するのに、魔力を全回復する【魔の泉】を4,5本使ったが、今回は一本ですんだ。



良かった。あれからかなりレベルが上がったから魔力も増えたのだろう。




「あの・・・・・シャインさん?僕を覚えていますか?」



僕は恐る恐る聞く。



「ああ!!!久しぶりの現界ね!!!二年ぶり位かしら!・・・・・ん?レイ、何を言ってるの?」



シャインは大きく伸びをしながら僕に答える。



「えっ!?僕が分かるんですか?」



「当り前じゃない。私の主ですもの。忘れるわけないでしょ?」



「いや、実は・・・・・。」



僕は今までの事を簡単に説明し、【忘却の宝玉】を探している事を話した。



「なる程ねぇ。おそらく、天界で発生したその事象は、現界までは影響したけど、魔界までは及ばなかったんじゃないかしら。・・・・まぁそれでも私には効かないけど。」




ふむ。・・・・・確かに、この世界の階層で言えば、天界・現界・魔界の順だ。一番上の天界から発生したのだから、一番下までは影響しなかったのだろう。




うん。良かった。僕を知っている人が増えるとやっぱり嬉しいな。




「だからなのね、ずっと連絡がなかったのは。一言言ってくれれば良かったのに。私も含めて娘達は呼ばれなくてとても寂しがっていたのよ。」



「ハハハ。すみません。勇気がなくて。・・・・・でも良かったです。」



シャインは僕を優しく抱きしめながら言う。



「ええ。これからもよろしくね。レイ。・・・・・ん?」




今気づいたのか、近くにいるエメを見ると目を大きく見開く。




エメは、シャインが召喚されてから、ずっとボケっと口を開けたままだ。




「貴方・・・・・エメリアル=ホワイト?」



「お主・・・・・シャイン=ブラックか?」




二人は同時に言う。




「フフフフフフ・・・・・ア~ハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!エメリアル・・・・・ハハハハハハ!!!!なっ何でここにいるのよ。ハハハハハハハ!!!!!!」




シャインはあまりの可笑しさに笑いが止まらない様だ。




「うっうるさい!!!何じゃお主は!!!!シャイン!!!貴様は魔界にいるんじゃなかったのか!!!!」



「ハァ~・・・・面白いわ。もちろん、今も魔界にいるわよ。でも、それと同時にレイは私の主になったの。だから主の為ならどこにでも現れるわ。エメリアルもどうして?貴方は天界でしょ?」



「フム。ワシは、レイに命を捧げた。レイが死ねばワシも死ぬ。一蓮托生になったのだ。」



「いつも一人で誰ともつるんだ事のない貴方が?????」



シャインは信じられない顔をしている。



「お主もそうじゃろう。プライドの高いお主が誰かの下につくなど初めて見たわ。」




「フフフ。・・・・・レイですもの。」



「・・・・・レイだからの。」




二人は何故か納得した様に僕の名前を言う。




「あの・・・・・もしもし?お二人さんは知り合いか何かですか?」




完全に蚊帳の外にされた僕は、話が終わった二人に尋ねる。




「あら!ごめんなさいね。そうなの。私とエメリアルは昔からの古い友人よ。」



「ウム。」



「へぇ~!エメとシャインさんが。凄い偶然ですね!」



「エメ?」



シャインが尋ねる。



「あぁ。エメリアルのあだ名です。呼びやすいのでそう呼んでますよ。」



「ア~ハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!あだ名!!!!!あのエメリアルが!!!!!!」



「こっこれ!!!!だっ黙れ!!!!」



エメが顔を真っ赤にしながら、シャインに食ってかかっている。




意外だ。




この二人が知り合いだったなんてね。




世の中狭いなぁ。




シャインはまだ文句を言っているエメを遮って言う。




「さて、レイ。私を召喚したという事は、戦いかしら?」



「はい。あの要塞を殲滅したいと思います。二人だと流石に時間がかかるので・・・・・一緒にお願いできますか?」



「フフフ。お安い御用よ。・・・・・・さぁ貴方達。いらっしゃい。」




そう言うと、僕の影がまた大きく広がる。




すると、続々と、影の中から漆黒の羽をした女性達が現れる。




その数一万。




黒の一族達だ。




先頭にいる、側近のロイカさんが僕の前まで来ると、片膝をついて頭を垂れる。



同時に、他の黒の一族達も片膝をつき頭を垂れる。



「主様!!!!!ご無沙汰しております!!!!呼んで頂き、ありがとうございます!!!!」



「ありがとうございます!!!!!!」



「ハハハ。久しぶり。皆、元気そうで良かった。・・・・・一緒に戦ってくれるかな?」



「主様の命のままに!!!!!!」



それを横で見ていたエメが言う。




「フム・・・・・あれがシャインの娘達か。ならばワシも出そうかの。」



そう言うと、エメは両手を広げて何かを呟くと、エメから白い影の様な物が地面に広がる。



そして白い地面の中から次々と現れる。



顔がなく、白い髪、白くスラっとした体、そして白い羽。全身が真っ白な天使の様な生き物だった。




・・・・・前に天界でエメが封印されていた場所に出てきていた者とは少し違うな。




「あれは?」



僕はエメに聞く。



「あれはの、ワシが作った兵隊だ。封印されていた時は力があまり使えなかったから出来損ないだったが、あれが本来の兵隊の姿だ。」



続々と出てくる。ざっと、一万位か?




オイオイオイ。マジか。かなりレベルが高いぞ。黒の一族と同じ位だ。




「レイ。これだけの戦力なら早く終わりそうね。」



シャインが笑顔で言う。




・・・・・僕の左にはシャインが。右にはエメが。そして前には黒の一族と白の兵隊が合わせて二万。・・・・・壮観だった。





これは予想しなかったな。





「そうですね。これなら楽に戦えそうだ。」





僕は歩き始める。





左の黒の一族と右の白い兵隊が、左右に道を空ける。





その真ん中を歩きながら、後ろにエメとシャインが付き、その後ろからは、黒の一族と白い兵隊が歩き出す。





僕はゆっくりと剣の柄を握ると言う。











「さぁ。始めようか!」




















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