第116話 傭兵9



「そこのお客さん!このトロピカルドリンクはこの国の名物ですよ!ささっ!飲んでってください!」


行きかう旅行客に露店を出している店主が声をかける。



「おい。のどが渇いたから俺にもくれ。」


通りを巡回している兵士がギルをだして数本買っている。




ここは外海に面している南東にある

小国『ミーン』。




南に近いこともあり、暖かく、海もある事から旅行客に人気の国だった。



観光をメインの財源にしている国である為、旅行客に事故が起きない様に、警備が厳しく、兵士がとても多い。



安心・安全を売りにしている為、防衛に力を入れている国だった。




「ほらよ。」



先程、買ってきたドリンクを仲間の兵士に渡す。



「おぉ。丁度のどが渇いていた所だ。助かったよ。」



外海を見渡せる展望台の上で、その兵士はドリンクを受け取ると一気に飲み干す。



「ぷはぁ!生き返ったわ。・・・・・しかし、平和なもんだな。」



その兵士は、展望台の中に取り付けてある、魔導壁を見ながら言う。




この魔導壁は、魔導国『シャーフラン』に高額で作ってもらった特殊な壁だ。



展望台に付いている望遠が連動して、中の壁に

100k先まで監視できるという優れものだ。




「平和な事はいいことさ。・・・・・まぁこの国は、防衛に力を入れているからな。魔物も攻める事は出来んさ。」




パリンッ!




二人の兵士がたわいのない話をしていると、

瓶が割れる音が聞こえた。



見ると、別の壁に設置している魔導壁を見ている兵士が、血の気が引いた顔でこちらを見て震えた声で言う。



「おっおい!・・・・・見てみろ。」



二人の兵士も、周りにいた他の兵士達もその魔導壁へと集まる。




「・・・・・何だあれは?」




先程まで海しか映っていなかった100k先の映像には、見た事のない戦艦や空飛ぶ鉄の人の形らしき物が画面いっぱいに映し出されていた。




「すぐだ・・・・・すぐに城に報告するんだ!!!!!」




そこにいた部隊長らしき兵士が大声をあげた。










☆☆☆










「ヒートメア王。只今、『ミーン国』より正式に救援要請が来ました。」



大臣が『アルメリア国』の王、

ヒートメア=クラウス=アルメリアに報告する。



「そうか。・・・・・『ミーン国』と我が国は友好国だ。ほおっておくわけにはいかぬな。」



すると、近くに立っている『アルメリアの杖』の

へーリック将軍が言う。



「攻めてきているのは、数年前に外海にある島国『スコール』を滅ぼした者達です。暫く静かでしたが、とうとうこの大陸へ侵略しに来たという事でしょうか。」



「うむ。まだあの者達の真意は分からぬが、『ミーン国』を占領される訳にはいかぬ。

・・・・・ヒッキよ。

この国を継ぐ第一王子として、今回はそなたに任せる。兵は自由に使ってよい。必ず『ミーン国』を守るのだ。」




玉座の隣に立っていたヒッキは、王の前まで移動すると、片膝を付く。




その後ろに、この国の将軍四人が同じように片膝を付く。




「分かりました。それでは私が責任をもって守り抜きます。・・・・・行くぞ!」



「ハッ!!!」



ヒッキは、将軍四人を連れて王の間から出ていった。



歩きながらへーリックがヒッキに報告する。



「王子。情報によると、『オロプス国』も救援に向かっているそうです。」



「そうなんだ。」




・・・・・あの冒険者の国か。我々東の大国と北東の大国が動く・・・・か。


『ミーン国』は南東の小国だが、これをきっかけに戦火を広げられるのをお互い脅威に感じたか・・・・・




「あともう1つ。【ホワイトフォックス】も参加するらしいです。」



「!!!・・・・・そうか。来てくれるか。それは助かるな。・・・・・よし!サミュー将軍。

【アルメリアの弓】は本国で待機だ。

主力部隊を全て出すわけにもいかないしね。

今回は、【アルメリアの剣】。【アルメリアの盾】。【アルメリアの杖】で行く。【アルメリアの弓】は本国をしっかり守ってくれ。」



歩きながらヒッキは指示を出す。



サミュー将軍は一人止まると、頭を下げて言う。



「了解しました。・・・・・ご武運を。」



ヒッキは三人の将軍を連れて、城を後にした。










☆☆☆










「おい!出てきたぞ!」



冒険者の国『オロプス』の首都【サイン】にある

とても大きな建物。



冒険者協会本部の入口から一つのパーティが出てきた。



そのパーティを見に、本部の外は、他の冒険者、プレイヤー達でいっぱいだった。





「キャ~!白雪様~!!」



「ラフィンちゃん!こっち向いて!」



「カイト様~!サインください~!」



「キリアちゃぁぁぁん!

 可愛いぃぃぃぃぃぃぃ!!!」



「アイリ様~!僕も癒して~!!」





この数年で名実ともに世界一のパーティとなった【ホワイトフォックス】は、どの国へ行っても有名だった。



特に、ここ冒険者の国は、プレイヤー達の国でもある。



まさか、トップクランの【ヒート】や【アークス】を抜いて、NPCだと思っていた者達が世界一になるとは思ってもみなかったのだ。



だからこそ、白雪達は、この国では手の届かない

アイドル的な存在になっていた。



その後から出てきたトップクラン【たぬき】のクランマスター、カズキが【ホワイトフォックス】を見て思う。




・・・・・つい数年前にSSS級パーティになったというのに、あっという間に【HEAT】を抜かしてトップになるなんてな。


レベルが全員300オーバーのパーティ【ホワイトフォックス】か。正直、どの位レベルがあるのか見当もつかねぇから底が知れねぇわ。


・・・・・しかも、何だよあの女達は!

めちゃくちゃレベルが高すぎるだろ!あんな綺麗で可愛い女なんて地球で見た事ねぇよ!・・・・・何とかお近づきになれないかなぁ~。



「・・・・・あのカイトとかいう奴。羨ましすぎるぞ。」



ボソッと言うと、隣にいるミカンがカズキの背中を叩いて言う。



「ほら!シャキッとしなさい!貴方は【たぬき】のクランマスターでしょ?」



カズキはため息をつきながら言う。



「はいはい。・・・・・よし!新しい種族との戦いだ!ドロップアイテム狙いで俺達も行くぞ!」



「オオ!!!」



トップクラン【たぬき】達は、歓声を浴び、人混みをかき分けながら進んでいる【ホワイトフォックス】の後に付いていった。




『ミーン国』に向かって。










☆☆☆










「ふぅ~!大変だったね!!!」



カイトが言う。



【ホワイトフォックス】は、魔道車(電車)に乗って『ミーン国』へと向かっていた。



「何か僕達、どこに行っても騒がれるからちょっと困るね!」



ラフィンが答える。



「・・・・・アイリ・・・・・のど渇いた。」



「はいはい。ちょっと待っててね。」



キリアがアイリに飲み物を頼んでいる。




白雪は仲間のやり取りを見ながら、魔道車が走っている外の景色を見て小さく呟いた。



「・・・・・あれから2年ちょっとか。」




・・・・・2年前。



天界を救う為に、封印の場所を破壊した時に、私達の記憶は一部消失してしまった。


皆、あれから何か大切な物を忘れている様な気がしていた。


私はこのパーティのリーダーだ。

私が不安なそぶりを見せてしまうと皆に移ってしまう。だからこそ、今まで毅然とした態度で接していた。



世界一のパーティになる為に。



なぜか、これだけは達成しないといけないという使命感があった。



冒険者パーティのランキングは、1年に一回更新されるポイント制だ。


クエストやダンジョンの難易度が高ければ高いほど、ポイントが高い。


私達はアイリを鍛えながら、ありえない程の数々の未攻略ダンジョンや高難易度クエストに挑戦し、攻略した。



そして半年前の更新で、とうとう【HEAT】を抜いて世界一のパーティになったのだ。



目的を達成した後は、皆、自由に行動をする様になった。



ラフィンは様々な武道大会へ。



キリアとアイリは魔導国へ。



カイトは何をやっているのか分からない。



そして私は・・・・・ずっと家にこもっていた。・・・・・目的が達成して何もする気がおきなかったからだ。



正直、何で私は生きているのだろうと思う時がある。



白雪は自分の美しい片腕を眺めながら心の中で言う。



・・・・・レイ。



天界で我に返った時に腕に刻んでいた名前。気持ちが落ち込んだ時、心の中でその名前を呼ぶと不思議と落ち着くことが出来た。


世界一のパーティになってからというもの、有名になったせいか、世界中の王族や貴族から求婚を申し込みに家まで尋ねにくる人がとても増えた。



でも、何も感じなかった。



とてもお金持ちな方や、とても人気のある方や、とても紳士的な方に会っても、心が動く事は一切なかった。



ずっとこもっていて心配したのか、今はメイドのコウに言われて、もっと上手くなる為に料理長に料理を習っている。



あと、天界から帰ってから、不思議な事が自分の身に起きていた。



勝手にレベルが上がるのだ。



私達のレベルになると、そう簡単に上がる事はない。


よほど特別なクエストや意味のあるダンジョンでないと。


しかし、他の仲間をよそに、どんどんレベルが上がっていく。



何故なのか。



ただ、理由は分からないが確信はあった。・・・・・誰かと繋がっているのだと。



その誰かに会ってみたい。・・・・・そんな気持ちになっていた。



そんな時に依頼があったのが、SSS級クエスト。南東にある『ミーン国』の防衛だった。



『ミーン国』から北西に進むと、東の大国『アルメリア』だ。



あの国には、カザミがいる。・・・・・そして友達が。



もし万が一、『ミーン国』が敗れ、敵が北上したら被害が及ぶかもしれない。



それだけはダメだ。

彼女だけは、【ホワイトフォックス】が絶対に守らなければいけない対象だった。



誰が決めたわけではない。

・・・・・でも、皆の総意だった。



だからこそ、久しぶりに皆を集めて、このクエストを受けたのだ。





「ほら!買ってきたわよ。これでいい?」



「・・・・・ん。・・・・・ありがとう。」



アイリとキリアのやり取りを見て言う。



「キリア。最近、何かいい事でもあったの?」



久しぶりに会ったキリアは、とても生き生きとしていた。



あれから、私と同じ様に、ほとんど笑わず、黙々とアイリを教えながら戦っていた子が、まるで別人の様だ。



「・・・・・秘密。・・・・・今度会えたら教える。」



「会えたら???・・・・そう。」



元気なのは良い事だ。

何を言っているのか分からないが、とりあえずは、このクエストに集中しなくちゃ。



白雪は、今はない片腕の傷を触りながら気持ちを切り替えた。










☆☆☆










「はぁ~。やっとこ終わった。」



僕はため息をつきながら言う。




ここは『ランス国』にある犯罪ギルド

【天使と悪魔】の本部。



その頭、イールの部屋にあるソファーで僕達はくつろいでいた。



「在り処が分かったから、すぐ魔界に行くのかと思ったぞ。」



エメが言う。



「だってさぁぁぁぁぁ。

 受けちゃったんだもんなぁぁぁぁぁぁ。」



そう。



革命組織【雷】の壊滅依頼を受けた時に、実はあと2,3個依頼をまとめて受けていたのだ。



行った事のない土地の依頼がたまたま重なっていたので、イールにお願いして受注していた。



何か情報が少しでも得られればと思っていたが、まさか最初の依頼の魔導国で、【忘却の宝玉】の在り処が分かるとは夢にも思わなかった。



受けた手前、残りをキャンセルするのはカッコ悪かったので、残りの依頼を完了してその報告と報酬をもらいに来ていた。



おかげで数ヶ月も時間を取られてしまった。



「フッ。そんな依頼辞めればいいのに、律儀な事だ。・・・・・まぁそんな所がお前のいい所でもあるがな。」



エメがバカにしているのか褒めているのか分からない事を言っている。




すると、部屋の扉が開き、イールが幹部のラフィットを連れて入ってくる。



「ごめんなさいね。まさかこんなに早く達成するとは思ってもみなかったの。流石と言うべきかしらね。」



言いながら、僕達の前に座る。



「まぁ、ちょっとこれからやる事があってね。急いでいたのは事実だよ。」



「あら。そうなの?・・・・・実は、大きな依頼が一つ舞い込んできたんだけど。それじゃ無理かしらね。」



「大きな依頼?」



僕は聞き返した。



【忘却の宝玉】以外に優先すべきことはないけど、そんな事を聞くと流石に気になるわ。




「貴方も知っていると思うけど、例の外海にある島国『スコール国』を滅ぼして占領した者達。・・・・・その者達が動いたのよ。」




数年前、突如この世界へ現れた者が、未開の島『アルミ』に住みつき、更には近くの『スコール国』を滅ぼしたのは有名な話だ。



特に、僕やプレイヤー達は思っただろう。



同じ様にどこかの星から転移されて来たのだと。



違う事は、その星の人達は、まとめて一ヶ所へ転移された事だ。僕達はランダムで転移されたからな。



だからその情報が入った時は、気にはなっていた。



イールは続ける。



「その者達は、南東にある『ミーン国』に向かっているみたい。・・・・・おそらく占領しにね。」



「・・・・・。」



僕は黙ってイールの話を聞く。



「それで、友好国の東の大国『アルメリア』が動いたの。」



「えっ?」



「情報によると、結構な数が進軍しているみたい。・・・・・そして北東の大国『オロプス』もそれに合わせて上位の冒険者を派遣したそうよ。

 ・・・・・その中には最近世界一のパーティになった、あの【ホワイトフォックス】も含まれているみたい。」





!!!!!!!!





「私が思うに、その者達がもし『ミーン国』を占領して、そこから更に戦火が広がる可能性を考えて、早めに打って出たのでしょうね。」



確かに、目的は分からないが、自国を広げる為なら、この戦いを皮切りにするだろう。




・・・・・これからすぐに魔界へ行きたかったが・・・・・白雪達なら問題ないと思うけど、相手の正体が分からないし、『アルメリア』には親友がいる。・・・・・そして妹が住んでいるんだ。




「そこで、貴方達、世界的に有名な傭兵【シルバーアイ】にも、『ミーン国』から依頼がきたって事。・・・・・金に糸目を付けてられない程、追い詰められているみたいね。」



「・・・・・その内容は?」



「【方法は自由。とにかく、その者達を撤退させる事。】・・・・・これが依頼内容よ。」



僕は少し考えたそぶりを見せた後、イールに言う。



「分かった。その依頼受けるよ。」



「おい!いいのか?」



エメが驚いた様に言う。



「優先順位が変わっただけさ。【忘却の宝玉】は逃げないしね。・・・・・まずは、『ミーン国』だ。」



するとイールが手を合わせて言う。



「そう!・・・・・そう言ってくれると思ったわ。貴方達が活躍すればするほど、私達【天使と悪魔】の株も上がるし助かるわ。」



「・・・・・で?どうせイールは面白い作戦をもう考えているんでしょ?」



「フフフフフ。ええ。その者達が貴方達【シルバーアイ】の名前を、今後忘れる事が出来ない程のインパクトのある作戦よ。」






イールは悪戯っぽい顔をして笑うと、友達に話すように作戦内容を話し始めた。




















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