第115話 傭兵8
首都『リーシェル』の中心にある巨大な塔。
そこは、魔導国の中枢であり、10人の統治者がいる塔であった。
「よくぞ戻りましたね。」
10人の統治者の一人、フレグリア=リンドが両手を広げて出迎える。
「・・・・・私達は、ほとんど何もやってないわ。着いた時にはもう全滅していたし、ビジュン=フラコネスも瀕死の状態だったしね。」
アイリが肩をすくめながら言う。
「いえ。それでも、ビジュンにとどめをさしたのは貴方達よ。もしも、逃していたら大変な事になったかもしれないしね。お礼を言うわ、ありがとう。
アイリ。キリア。」
「どういたしまして。それじゃ、私達の依頼もこれで終わりね。」
「ええ。・・・・・約束通り、報酬として、この国の最下層にある禁忌の魔法の閲覧許可を出します。」
フレグリアはそう言うと、最大レベルの許可証をアイリに渡す。
その様子を後ろで見ていたキリアが言う。
「・・・・・一つ聞きたい。・・・・・銀の髪の男。・・・・・知ってるか?」
「銀の髪?・・・・・あぁ。
それは【シルバーアイ】ね。」
「・・・・・シルバーアイ?」
「男の方が【銀の左目】のゼロ。そして女の方は【銀の右目】のエメ。・・・・・世界的に有名な傭兵よ。」
「・・・・・ゼロ・・・・・分かった・・・・・ありがとう・・・・・行くよ。アイリ。」
そう言うと、キリアはさっさと部屋を後にする。
「ちょ!ちょっと!・・・・・もう!勝手なんだから!・・・・・それじゃ、またよろしくね。フレグリア。」
「ええ。」
アイリはフレグリアに挨拶するとキリアを追いかける様に部屋を出ていく。
二人を見送ったフレグリアは、奥にある部屋の扉を開けて言う。
「帰ったわ。」
「そう。」
その部屋のソファーに紅茶を飲みながら座っている女性がいた。その後ろにはスラっとした背の高い男性が立っている。
犯罪ギルド【天使と悪魔】の頭。
イール=サミュエルその人だった。
フレグリアはイールの前に座ると言う。
「革命組織【雷】は完全に壊滅しました。そして狙い通り、【シルバーアイ】が一人残らず集会に来ていた構成員を倒しました。ビジュンは逃げようとしたみたいですけど、念の為に保険として依頼を出した【ホワイトフォックス】がとどめをさしています。まぁ、そんな事をしなくても、あの二人が殺ったでしょうけどね。」
「そう。」
イールは満足そうな笑みを浮かべた。
「でも、心配でしたよ?ジョアン=キングをまた雇うなんて。」
・・・・・ジョアン=キング。
【天使と悪魔】が仕切っている裏世界に登録している世界一の殺し屋。
そして、【スマイルスケルトン】の大幹部。
「フフフ。大丈夫よ。彼は良くも悪くもプロです。雇い主が敵対している組織だったとしても、手を出したりはしないわ。・・・・・まぁ暗殺しようとしても私は殺せないけどね。」
そう言いながら後ろにいる10本指の一人、ラフィットを見る。
「それよりも、【シルバーアイ】よ。・・・・・今回も彼らはよくやってくれたわ。」
黙って、後ろで話を聞いているラフィットは思う。
・・・・・2大犯罪ギルトの一つと言われているギルド【天使と悪魔】。
その頭、イール=サミュエル。
この犯罪ギルドはとても歴史が長い。
だからこそ、世界中の国で切っても切れない関係となっている。
その第32代目。
今までこの若さで、この組織のトップになった者はいない。
イールは天才だった。
歴代のトップがなしえなかった事をいとも簡単にやり、組織を更に拡大していった。
近くでずっと仕えていて、いつも思う。
おそらく、今が一番最強だろうと。
2大犯罪組織と呼ばれているもう一つの組織、スマイルスケルトン。
確かに脅威と思うが、我々に比べれば劣るだろう。
それ程に、この組織は盤石なギルドとなっていた。
・・・・・だからこそ、彼女、イールは孤独だった。天才ゆえに、誰にも理解できない。そして、【天使と悪魔】のトップだからこそ、誰にもその思いを打ち明ける事が出来なかった。
傭兵。【シルバーアイ】のゼロ。
彼と出会ってイールは変わった。
彼といる時だけは、年相応に笑い、くだらない話をしている。
ゼロがいてくれただけで、彼女はどれだけ助けられただろうか。
こんなに若いのに大組織のトップで、常に責任と重圧に苛まれながら生きていかなければならない。
そんな状況を少しでも楽にしてくれる存在。
彼には感謝してもしきれないな。
ラフィットは言う。
「そうですね。依頼は完遂しましたので、約束通り、褒賞を渡しましょう。」
「そうね。」
そう言うと、イールは立ち上がり、言う。
「さて、【雷】は予定通り壊滅したから帰るわ。・・・・・後はよろしくね。フレグリア。」
「はい。お任せください。」
フレグリアは頭を下げながら言う。
フレグリア=リンド。
『シャーフラン国』の10人の統治者の一人。・・・・・そして、【天使と悪魔】10本指の一人。
その幹部を残して、イールは『ランス』へと帰っていった。
☆☆☆
「はぁ~。」
「どうした?ため息なんかついて。」
昼時のオシャレなカフェテラスでお茶をしながら僕はため息をついていた。
首都『リーシェル』に戻った僕達は、数日間、転移魔法陣で他の町に行き、【忘却の宝玉】の情報を探っていたが、何も掴む事が出来なかった。
僕は、ぼ~と行きかう街の人々を見ながら言う。
「なかなか見つからないと思ってね。」
様々な所へ行って探し求めたが、一向に情報を手にする事が出来なかった。
結局この『シャーフラン国』でも収穫がない。
少しでもいい。
何かしら情報があれば、モチベーションも上がるのだが、ずっと何も得られないと結構メンタルがやられる。
「まぁ~あれだ!そう気を落とすな!我はお主と一緒に旅をしてて楽しいぞ!」
「ハハハ。そうだね。ありがとう。」
いかんな。エメに慰められるとは。そんなに落ち込んでいたのかな。
まだまだ行っていない場所はある。
気持ちを切り替えて頑張りますかね!
そう思いながら、お茶を飲んでいると、テラスの近くで見かけた老婆が歩いている。
ん?あれは・・・・・。
「あの!」
思わず声をかける。
その老婆は歩みを止めて、テラスで座っている僕を見ると言う。
「おや。誰かと思ったらいつぞやの青年じゃないかい。随分と立派になったねぇ。」
「えっ!?・・・・・僕が分かるんですか?」
僕は席から立ち上がると、老婆に近づく。
「ん?何言ってるんだい。わたしゃまだそんなにもうろくしてないわ。」
「いや。そう言う事じゃなくて・・・・・。」
この世界・・・・・現界でレイだった僕を知っている者はいないはずだ。
老婆と会ったのは、僕がレイ=フォックスでまだ若い時だ。
何でだ?・・・・・不思議なお婆さんだ。
でも、レイの僕を一人でも知っている人がいるのは、とても嬉しかった。
「わたしゃ忙しいんでの、用がないなら行かせてもらうが?」
「あっ!すっ少しだけお話しませんか?お茶を奢りますので!」
「そうかえ?なら少しだけ聞こうかの。」
僕は老婆に座っていた椅子を譲る。
あれ?
僕の対面にいたはずのエメがいなかった。
トイレかな?まぁいいか。
すぐに戻ってくるだろう。
僕は定員に新しい一人分のお茶を頼むと、老婆は美味しそうにそのお茶を飲んでいる。
「ん~ここのお茶もうまいのぉ。・・・・・で?なんじゃ?話というのは。」
「物知りなお婆さんなのでお聞きしたかったのですが、【忘却の宝玉】というのをご存じですか?」
「【忘却の宝玉】?・・・・・あぁ。あの玉か。知っとるよ。」
「知ってるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ????????」
思わず変な声を出しながら、勢いよく立ち上がる。
「なんじゃ。大袈裟だのぉ。その玉ころは確か・・・・・この現界にはないぞよ。」
「えっ?ないんですか?じゃどこに・・・・・。」
「ふむ。」
老婆はお茶を一口飲むと、続ける。
「魔界じゃ。」
僕は老婆がいなくなるまで通りで手を振った。
いや~!奇跡だ!!
まさかあのお婆さんが知っていようとは!!!
しかも、僕の記憶をなくしていないなんて!・・・・・ほんと、あのお婆さんは何者なんだろうか。
「・・・・・いなくなったな。」
振り向くと、そこには先程までいなかったエメが立っていた。
「何だよエメ。いきなりいなくなるからビックリしたよ。どこに行ってたんだ?」
「ん?まぁ~あれだ。・・・・・トイレだ。」
・・・・・まさかあいつが尋ねに来るなんてビックリしたわ!!!・・・・・・
何かとても焦っているエメだったが、触れてもらいたくないみたいなので、スルーする事にした。
「よし!凄い情報を得た事だし、ここでやる事はこれで終わりだ。『ランス国』へ帰ろう!」
僕達は帰還紙を使って『ランス国』へと転移した。
老婆は、路地裏へと入ると、そこには執事の格好をした男が立っていた。
その男を見ると、その老婆はみるみるうちに、大人の女性へと変わっていく。
「ケイト様。お疲れさまでした。」
ロイージェが言う。
「・・・・・彼は、天界を救うという私の頼みを見事果たしてくれたわ。それ相応の御礼はしなくちゃね。」
ケイトはとても嬉しそうに話を続ける。
「しかし・・・・・フフフフフ・・・・ハハハハハハッッッ!!!・・・・・エメリアルがいたわ。
彼女も彼についたのね。・・・・・シャインといい、エメリアルといい、本当、彼を見ていると飽きないわ。これからも、楽しませて頂戴ね。・・・・・レイ。」
そう言うと、ケイトは空間を作り出し、そのままロイージェを連れて入っていった。
☆☆☆
「ゼロお兄ちゃん!」
うまうま亭のカリンが勢いよく向かってきたので、僕はしゃがんでそれを受け止める。
「やぁ!カリン。元気そうで良かったよ!」
うまうま亭の前まで僕達が来ると、外で掃除をしていたカリンが出迎えてくれた。
見ると、半壊していた店は、元通りになっている。
イールは約束を守ってくれたらしい。
たった数ヶ月で店を修復してくれたのだ。
多額の報酬を貰ったが、正直、この報酬が一番うれしかった。
すると、僕達が来たのを気づいたのか、親方とリクが外に出てきた。
「ゼロ兄ちゃん!エメ姉ちゃん!」
リクが嬉しそうに手を振りながらやってくる。
「親方。店が元通りになったんですね。」
「どうしたらいいか途方に暮れていたらね。すぐに大工が大勢来てくれたんだ。頼んでいないのにね。ゼロ・・・・・君が手配してくれたのは知っている。・・・・・本当にありがとう。また店を開くことが出来た。」
親方は目に涙をためながら頭を下げる。
「ハハハハハ!親方。やめて下さいよ!僕は親方の料理が大好きなんです。この店の雰囲気もね。なぁエメ!」
「うむ!!!この料理を食べられないとなるとワシが悲しむわ!」
「リクもカリンも大丈夫か?」
「うん!お母さんとコリンがいなくなっちゃったのは悲しいけど、代わりに僕とカリンが二人の分まで頑張るんだ!」
リクとカリンは力強く拳を握る。
「・・・・・二人とも強いな。」
僕は二人の頭を撫でる。
親方が僕達を見て笑顔で言う。
「さて!ゼロ、エメ。食べに来たんだろう?今日は二人の貸し切りだ!好きなだけ飲んで食べさせてやる!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!聞いたかゼロ!
やったぞ!!」
ハハハハハ。喜び過ぎだ、エメ。・・・・・でも良かった。
「それじゃ~お言葉にあまえて食べるか!!!」
僕は立ち上がると、リクとカリンに連れられてうまうま亭へと入っていった。
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