第114話 傭兵7



「ハァハァハァ・・・・」




革命組織【雷】のリーダー、ビジュンは森の中を走っていた。



浮遊魔法で飛んで逃げたかったが、あのまま逃げたら銀の髪の女の方に狙い撃ちにされる。



一旦森の中で隠れながら、距離を取ってから飛んだ方がいいだろう。



だが、まずは【銀の左目】にやられた片腕の治療だ。



走りながら、治療ができる適当な場所を探している時だった。




「いたわ。」




声のする方に目を向けると、数十メートル先に、二人の女が立っていた。



ビジュンに向かって言葉を放った女の一人は、真っ赤な髪をし、白いローブを羽織っている。

そしてどこか気品を感じさせる佇まいをしていた。



その隣にいるもう一人の女は、漆黒の髪をし、漆黒のローブを着ていた。



ビジュンは止まり、二人の女を見て言う。



「・・・・・何故、来賓者のお前達がここにいる?・・・・・という事は、白の結界を破ったのはお前達か。」



赤い髪の女が言う。



「魔導国『シャーフラン』。10人の統治者の一人でいて、革命組織【雷】のリーダー、ビジュン=フラコネス。他の統治者に頼まれて、貴方を捕まえるか、倒す様に依頼を受けました。」




・・・・・この魔導の国は、魔法で栄えている国だ。様々な魔法を研究し、世界に知れ渡っていない魔法をも扱う事ができ、多くの高名な魔術師を輩出している。


しかし、世界には稀だが、我々と同じ様に魔力が高く、レベルの高い魔法を扱う者が現れる。


その様な者を見つけては、この国に招き、この国の魔法の知識を開示する代わりに、講師をしてもらい、我々の知らない新しい魔法や能力を教えてもらっていた。




この二人。




私に話している赤い髪をし、白いローブを羽織っている者。



世界一のパーティ【ホワイトフォックス】の一人。

【癒しの女神】と呼ばれているアイリ=レンベル。



そして隣にいる、漆黒の髪。漆黒の目。

漆黒のローブを羽織っている魔術師。



同じく【ホワイトフォックス】の一員であり、

最強の魔法使いと言われている『シャーフラン国』10人の統治者が勝てないだろうと言わしめた者。



世界一の魔法使いキリア=ブラック。




まさかこの二人を差し向けるとは。



来賓として、この国に数週間前に呼んだのはこの為だったか。



すでに前から他の統治者に正体がバレていたという事か・・・・。



アイリは、ビジュンのない片腕を見ると言う。



「さっきまであった白い結界で何があったのかは知らないけど、すでに瀕死みたいね。

・・・・・どう?大人しく捕まれば、手を元に戻しても・・・・・」



アイリが言いかけていると、キリアが片手を前に出す。



すると手から黒い玉が出て、ビジュンの前まで飛ぶと一気に玉が弾け、闇が渦の様に巻き、ビジュンを吸い込む。




「!!!! まっ!待ってく・・・・」




バキバキバキバキバキ!!!!!




片腕のないビジュンは、鈍い音をたて、全身を変形しながら闇に吸い込まれていった。

・・・・・ブラックホールの様に。



それを見ていたアイリがため息をつきながら言う。



「はぁ~。キリア。別に殺さなくても良かったんじゃない?」



「・・・・・アイリはあまい。・・・・・相手は悪者。・・・・・情けなんかいらない。」



「はいはい。分かったわ。・・・・・でも、何があったんだろう。もう私達の出番はなさそうね。」



「・・・・・白い結界は今までにない強さ。・・・・・私じゃなければおそらく破れない。・・・・・それだけの者がいるという事。・・・・・気を抜かないで。」



「分かったわ。」



キリアがここまで相手の事を言うのは珍しい。

それだけの者がいるのだろう。



すると、森の奥に気配を感じた。




「誰?」



アイリが、その方を見ると、一人の女性が木から出てくる。



隠れていたのか、様子を見ていたのか。



私達を見る目は、憎悪に満ちていた。

・・・・・その女性は、リールだった。




「・・・・・【ホワイトフォックス】・・・・・あの男のパーティ。」



愛する彼の仇がいるパーティ。

名前は分からないが、このパーティのメンバーかその近い者だとジョアン様に教えてもらった。



ゼロ達の役に少しでもたとうと、見失わない様に、ビジュンを追いかけていて良かった。



少しでも仇の情報を知りたい。



リールが二人に近づこうとした時だった。



キリアが、片手を前に出して言う。



「・・・・・この女。

 私達に敵意むき出し。

 ・・・・・ここにいるという事は敵。

 ・・・・・死ね。」



先程と同じ様に、黒い玉をリールに飛ばす。



あれはさっきの!!!

・・・・・私じゃ避けられない!!

・・・・・エッジ!!!



リールは目をつぶり、今は亡き愛する彼を思った。






「キリア!!!!!やめるんだ!!!!!!」






どこからか叫び声が聞こえる。






!!!!!!!






キリアはすぐに広げた片手を握る。



すると、リールの前まで来ていた黒い玉は、瞬時に消滅した。



隣で見ていたアイリは、キリアの行動を見て驚愕している。




・・・・・ホワイトフォックスの中で、キリアは独断専行がとても多い子。戦いの中でこうと思ったら絶対に曲げない。


リーダーの白雪が言っても、言う事を聞かない時もあった。それが、突然知らない人が言った言葉に従うなんて・・・・・ありえないわ。




でも、あの人は・・・・・。




アイリは声の方を見ると、キリアが殺そうと思った女の後ろから一人の青年が現れた。そして少し遅れてもう一人、女性がその青年の後に付いてくる。



初めて見る、銀の髪をした青年だった。



不思議な感じだった。



彼を見た瞬間。とても胸が締め付けられた。




「え・・・・?キャッ!」



すると、その銀の髪の青年が目の前の女の所までくると、ヒョイとお嬢様抱っこの様に持ち上げて、私達を見て言う。   




「ハハハハハ。

 この娘がお騒がせしてすみません。

 僕達はたまたまここを通りかかかった者です。

 この先にいる連中とは何の関係もありませんの で・・・・・・・

失礼しましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」




そう言うと、女を抱きかかえたまま一目散に去っていった。




アイリは呆気にとられながら、ハッと気づき、キリアを見る。




「キリア・・・・・・泣いてるの???」



キリアの目には涙がこぼれていた。






今までホワイトフォックスとして活動してきて、何故か分からないが、ずっとむなしい気持ちでいた。


胸がぽっかりと穴が空いているみたいだった。


パーティとして仲間と一緒に戦っていても、ちっとも楽しくなかった。


でも、隣にいるアイリを一人前のヒーラーにする事が、自分の使命の様に思い、付き添い、教えていた。




そして、今。




さっきまでいた銀の髪の青年の声を聞いた時。




考える前に、自然と体が反応した。




本能が言っていた。




彼の言葉に従えと。




そして、彼が姿を現した瞬間。




知らない人なのに、心が、体が、全てが喜びに満ちて、自然と涙がでていた。




キリアはもういなくなった青年のいた場所をずっと見つめながら胸をおさえる。




ドキドキドキドキドキドキドキドキ



ドキドキドキドキドキドキドキドキ



ドキドキドキドキドキドキドキドキ



ドキドキドキドキドキドキドキドキ




胸の高鳴りが止まらない。




・・・・・見つけた。

・・・・・私は魔界の者。

・・・・・主従契約を結んでいないと現界で活動なんてできない。

・・・・・白雪と思ったけど違う。

・・・・・何も感じなかった。

・・・・・でも、今分かった。

・・・・・彼だ。

・・・・・彼が私と契約をした

・・・・私の主だ。




アイリは、今まで見た事のない表情をしているキリアを見て驚きながら、キリアと同じ様にさっきまで青年がいた場所を見る。




暫く沈黙をしてから、アイリが言う。




「また会いたいね。」




「・・・・・・・・・うん。」




二人はずっと立ち止まったまま、もの思いにふけっていた。





その顔は、世界一の冒険者の顔じゃなく、

一人の恋する女の顔だった。










☆☆☆










「ホッ!ホッ!ホッ!ホッ!ハッ!」



僕は、リールを抱えながら森の中を走っていた。



後ろには黙ってエメが付いてくる。



走りながら僕の頭はずっとパニくっていた。





やべぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇl!!!!!



アイリとキリアじゃん!!!!



何でいるのよ!!!!



ビックリしたわ!!!!



しかも、めちゃくちゃ綺麗で大人っぽくなってるじゃぁぁぁぁぁぁん!!!!





そうなのだ。





アイリの美しかった赤い髪は、更に綺麗に、そして顔立ちやプロポーションも磨きがかかっていた。



特にビックリしたのは、キリアだ。



あのちんちくりんで可愛いキリアが・・・・・・可愛さはそのままに、背が伸びて・・・・胸がある・・・・・女の子から女性になっていた。




やべぇ。・・・・・まじやべぇよ。




二人ともあまりの変化に、思わず抱きしめたくなってしまったわ!!!



危なく、見ず知らずの変態さんになるところだった。



たった2年とちょっとで、あそこまで変わるか?



ちょうど成長期だったのだろうか。



そうなると、白雪とラフィンがどうなったか非常に気になるな。・・・・・・・カイトはいいとして。




「あの・・・・・あの!ゼロさん?」



僕はボーっと走りながら考えていると、お嬢様抱っこをされているリールが恥ずかしそうに言う。



「あっ!ごめんごめん!」



僕は止まると、リールを降ろす。



ここまでくれば大丈夫だろう。



「ふぅ。危なかったな!・・・・・リール。

 単独行動はダメだって言わなかったっけ?」



もうちょっと遅れたら間に合わなかったろう。

キリアは昔から躊躇しない子だったからな。



「ごめんなさい。少しでも役に立てたらと思って・・・・・。」



リールはすまなそうに下を向いている。



まぁ、とりあえず助かった事だし良しとするか。



僕は黙って、リールの頭をポンと優しく手でたたく。



「これはジョアンに言われているのかもしれないけど、相手の実力が未知数な時は、すぐに逃げる事。ましてや殺気を向けちゃダメだよ?」



「はい。」



「ん~!・・・・・よし!

最後の【雷】は彼女達が止めを刺してくれたみたいだし。終わりだな!」



僕は大きく両手を広げて伸びをする。



するとエメが言う。



「ゼロ。あの二人はお前の知り合いか?あのままだったらリールは間違いなく死んでたぞ。お前の一声で攻撃が止まったからビックリしたわ。」



「あぁ。知り合いと言えば知り合いかな?

まぁ~彼女達は僕の事を知らないだろうけどね。」



「そうか。・・・・・ただ、あの黒い女は相当な魔法の使い手だ。この現界で初めて見たぞ。あの魔力・・・・・魔力だけなら我と同等かそれ以上かもしれんな。我の結界を破ったのも頷けるわ。」



そりゃそうだ。

キリアはただでさえ魔力が高いのに【メガリテのブレスレット】で更に2倍になっている。



前に母親のシャインさんと同じ位の魔力になったと喜んでたもんなぁ。




「まぁ~とりあえず、依頼も達成した事だし。帰ろうか!」



「ウム。」



「はい!」



僕達は首都『リーシェル』へと帰路についた。










☆☆☆










「・・・・・で?どうでしたか?一ヶ月間彼らと一緒に過ごして。」



ジョアンは高級宿屋の一室にリールを呼ぶと感想を聞く。



「はい。ゼロさんにはとても良くしてもらいました。剣を教えて頂いて、自分でも上達したと思える程になりました。ただ、【雷】を襲撃した時の戦いは正直、得られる物は何もなかったですね。」




力の一端を見せた【シルバーアイ】の戦いは、あまりにも桁が違いすぎていて参考にすらならなかった。


世界でも知られている革命組織【雷】が何も出来ずに、たった二人に壊滅させられたのだ。


しかも、ジョアン様達と違って、計画性がなく、緊張感もなく、本能や勘だけで動いていた様な気がする。


世界一の殺し屋とは、まるで正反対の行動だった。




「そうですか。・・・・・私とゼロは性質上、やり方も、考え方も対極にいるといっていいでしょう。だからこそ、貴方に見せたかったのです。両極端を見れば、おのずと自分の目指す立ち位置が分かるというものです。」



ジョアンは優しく言う。



「ジョアン様。今回は本当に勉強になりました。一緒に連れて行ってくれてありがとうございます。」



リールは頭を下げながら思う。






・・・・・もっと。



・・・・・もっと強くならなければ。



ジョアン様やゼロさんまでとはいかないけど、まだまだ力が足りない事が分かった。



そしていつか・・・・いつかきっと!!!






リールは顔を上げると、その目にはもう迷いはなかった。
























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