第113話 傭兵6



ザンッッッッ!



ザンッッッッッッッッ!!



ザザザンッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!





「・・・・・何なの・・・・・これは。」





リールは茫然とその光景を眺めていた。



城から出てくる【雷】の構成員達を、エメは一本の長剣で薙ぎ払う。



彼女がその長剣を振るうと、大きな白い斬撃が飛び、まとめて数百人の胴体が真っ二つに斬られ、

鮮血が舞った。



何か特別に構えて技を出しているわけではない、

ただ薙ぎ払っているだけだ。



次々と右へ左へ剣を振り、無数の白い斬撃が飛ぶ。



ここまで来れるわけがなかった。



そのエメの数十メートル先をゼロは歩いている。



不思議とその白い斬撃は、ゼロを素通りしてその先の【雷】達へと襲い掛かる。




あっという間に数千の死体が地に転がる。




・・・・・【銀の右目のエメ】・・・・・その圧倒的な暴力・・・・・こんなの傭兵の戦い方じゃないわ・・・・・これは戦いなんかじゃない・・・・・一方的な殺戮だ。




エメの後ろでその光景を見ていると、その先にいるゼロが城の中へと入っていく。



・・・・・追いかけなきゃ。



リールは、エメを追い越すと、ゼロに向かって走った。










☆☆☆










「何だこれは?」



ビジュンは城の上階へと着くと、眺めのいいバルコニーに出て、下の様子を見て愕然とした。




古城の広場は、辺り一面、真っ赤に染められていた。




血だ。




よく見ると、無数の死体が転がっている。




ズンッ!



ズズズンッッッ!!!




床が揺れる。



見ると死体が転がっているその先に、銀の長い髪の女が剣を振るっている。



その剣を振るうごとに大きな白い斬撃が飛び、城から出てくる同志達を切り刻んでいた。



その斬撃がそのまま古城の壁へに衝突して消えていく。



その振動がここまで伝わって来ているのだ。




・・・・・一人だと?・・・・・いや。




ビジュンは、視線を感じ、城の入口に目をやる。



そこに歩きながら銀の髪の男がこちらを見ていた。



目が合うと、その男は笑顔になり、そのまま城へと入っていく。




・・・・・二人・・・・・銀の髪。




「チッ!・・・・・【シルバーアイ】か!!!!」



ビジュンが舌打ちをしながら呟く。





・・・・・奴らは、傭兵で10本の指に入ると言われているが、とんでもない。


【雷】ではない時に奴らの戦闘を見た事があるが、あれは一種の化け物だ。


同志達は皆、実力者ばかりの強者達。


そんな者達を虫けらの様に殺している。

・・・・・関わるべきではない相手なのだ。


まだ、敵対組織や軍隊の方がマシだ。


誰が奴らを差し向けたのかは分からないが、本気で潰すつもりの様だ。




上空を見ると白い何かで覆われている。



逃げ場も失われたか。・・・・・女の方はまだ外だ。二人まとめてだったら厳しい戦いになるが、一人なら・・・・・。



ビジュンは後ろを振り向き、幹部達に言う。



「おそらくここへ【銀の左目】がやってくる。・・・・・迎え撃つぞ。我ら【雷】の強さを見せてやろうではないか。」




そう言うと、ビジュンは城の中へと入っていった。










☆☆☆










彼は城の中に入ると、すぐに上へと階段を上がっていく。



地下から来る敵には目もくれず。



追いついたリールが聞くと、下から来る敵はエメに任せてあるそうだ。



いつの間に打合せをしたのか。



2階へ上がり、歩きながら進んでいくと、次々に敵が襲い掛かってくる。




「死ねぇ!」



「ハァ!!!」




シュ!!!シュン!!!・・・・・




数人の【雷】達が、ゼロに剣で斬りかかろうとすると、同時に自分の首が飛び、胸が切り裂かれる。




見えなかった。




彼が斬る動きが。




柄を握っている手が、ほんの少し動いた様に見えるだけだった。




階を上がるごとに苛烈していく多くの敵も、彼の歩みを止められる者はいなかった。



リールは後ろでその戦いを見ているが、あまりにも実力が自分とかけ離れすぎていて、学ぶ事など到底出来なかった。



ただ、分かった事は、彼のその動きと剣裁きは、達人の域に達しているのだと、心の底から思った。



決して【雷】の構成員達が弱いわけではない。



見る限り、とても強い方だ。



ジョアン様やゼロさんに教えてもらったが、それでも一対一で勝てるかどうか。




だからこそ思う。

・・・・・強さの次元が違うのだと。




ゼロは相変わらず、そこに敵がいなかったかの様に、平然と歩いている。




・・・・・この人と対等に戦える人は、この世界で何人いるのだろうか。



ふとリールは思った。




何階まで来たのだろうか、正面には大きな扉がある。



ゼロはその扉まで来ると、振り返ってリールに言う。



「リール。悪いけど、ちょっとこの先は危険だから、部屋の中までは入らないでね?」



「分かりました。」



リールは即答して、後ろへ下がる。



「ありがとう。・・・・・さて。」




僕は、大きな扉を開けた。










☆☆☆










ゴォッッッッッッッッッッ!!!!



ビシャァァァァァァァァァ!!!!



ドドドドドドドドドドドド!!!!





開けた瞬間、もの凄い数の炎や雷が僕を襲う。



見ると、広い部屋に豪華そうな黒いローブを着た者を中心に、その左右にいる4,5人の男達が僕が扉を開けた瞬間、すでに詠唱を終えていたのか、強力な魔法を放った。



中心にいる黒いローブの男が片手に持っている杖を頭上に掲げ、一気に振り下ろす。




「これで終わりだ!!!!!

 【光の鉄槌】!!!!」




ズンッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!




天から光の柱が、この古城の上階にいる僕めがけて落ちた。



僕がいた部屋の入口の天井は何もなくなり、空が見える。



炎がまだ延々と入口を燃やしていた。




「これは流石にやり過ぎましたね。」



一人の幹部が言う。



・・・・・幹部達が炎と雷の上級魔法を。そして私が光の最上級魔法を放ったのだ。普通なら骨も残らないだろう。



「まぁよい。有名な傭兵【シルバーアイ】だ。やり過ぎにはならんだろう。」



そう言ってビジュンは視線を落とした時だった。




シュン・・・・・・・・・・




バチッッッッッッ!!!!




急に目の前の空間が火花を散らす。



と同時に身につけていた【身代わりの指輪】が割れながら落ちる。



これは!!!



ビジュンの周りにいた幹部達を見ると、首や胴を斬られて絶命している。



「チッ!!!!!」



すぐに、バルコニーへと走り、そのまま浮遊魔法で一気に空へと飛ぶ。



白い結界で覆われている為、上空で自分がいたバルコニーの見える位置で止まる。



見ると、ゆっくりと広間からバルコニーへと出てくる銀の髪の青年がいた。



ビジュンは目を見開き、もの凄い形相で言う。



「【銀の左目】!!!・・・・あれをくらって無傷だと?・・・・・ありえん!」



幹部達の魔法は大型の魔物を一発で仕留められる程の上位魔法だ。しかも私の魔法は更にその上の魔法。魔神でさえ、食らえば絶命する程、強力な一撃なのだ。



バルコニーに立っている僕は上空にいるビジュンに聞こえる様に言う。



「全部倒したと思ったんだけどね。・・・・・生きているという事は【身代わりの指輪】か何かを付けていたのかな?・・・・・他の人は付けていないという事は、貴方は【雷】の中でも偉い人みたいだね。」



「・・・・・お前は、【シルバーアイ】だな?」



「あれ。知ってるんだ。革命組織にも知られているなんて光栄だね。」



「有名な傭兵が来たと言う事は、相当な人物に依頼されたか。」



上位の傭兵になればなるほど、依頼料は高くなる。



【シルバーアイ】クラスなら国か、組織でないと払えないだろう。



「依頼主を教える事はできないなぁ。」



「そうか。それは残念だ。まぁお前はすぐに死ぬのだがな!」



余裕を見せて会話をしたのが運のつきだ。

話している間に、詠唱は終わったんだよ!!!



「【雷神の裁き】!!!」




ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!!!




幹部達が雷の上位魔法を放ったのとは、比べ物にならない位大きな雷だった。



それが無数にゼロへと降り注ぐ。



バルコニーとその周りの城は破壊され、半壊状態に陥る。



ビジュンが使える最強魔法の一つ。



【雷神の裁き】。



この革命組織【雷】を作った時に命名した由来となる魔法だ。



ビジュンは、魔導の国『シャーフラン』を統治している10人の内の一人。



最強の魔法使いと呼ばれる者の一人だった。



力しか能のない傭兵などに遅れをとるなどありえないのだ。





「あぁ。一つ言い忘れていたけど、僕には魔法は効かないよ?」



バルコニーにいたはずの青年は、隣の塔の上に立っている。



・・・・・魔法が効かないだと???



青年はゆっくりと柄を握り、構えながら言う。



「一つ聞きたいんだけどね。この間のランス国の爆破。・・・・・あれをやったのは、お前達で合ってるな?」



「ほう。よく知っているな。・・・・・そうだ。

 我が【雷】が大義の為に行った事だ。」



「大儀?

 大義の為にあの子達が犠牲に?

 ・・・・・てめえ。

 ・・・・・周りの関係のない人達を巻き込んでんじゃねぇ!!!!!!!!!」




構えている青年が消えた瞬間、杖を持っている右手が飛んだ。




「ガァァァァァァァァァ!!!!

 ・・・・・ならばぁぁぁぁ!!!!」



左手で胸のペンダントを外すと、上空に巨大な魔法陣が現れる。



いざという時の為に、時間をかけて作った魔法陣だ。




・・・・・あれはまずいな。僕達はいいけどリールがいる。



僕は上空から落下しながら言う。




「エメ。よろしく。」




ドンッッッッッッ!!!!!




言ったと同時に、地上から白いビームの様な物が魔法陣を貫くと、粉々になる。



「くっ!くそぉぉぉぉぉ・・・・・!!!!!!」



魔法陣を潰されたビジュンだったが、同時に、覆われていた白い結界が解かれたのだ。




逃げられる!!!




空に浮かんでいたビジュンは、素早く降りて森の中へと入っていった。



地面に落ちそうな所で、エメが僕を受け止める。



「サンキュー。・・・・でも、エメ。何で結界を解いたの?」



「解いたんではない。何者かが外から我の結界を破壊したのだ。」




エメの結界を?




それが本当なら、破壊した者は相当な実力者だ。




「仕事は完遂しないとね。あいつで最後だ。

 行くよ。エメ。」




僕は立ち上がるとビジュンが逃げた方へと駆けた。















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