第112話 傭兵5



国の中心地、首都【リーシェル】から来たのか、森の中を一台の大型の馬車が海の方へと走っている。



不思議な事に、その馬車は音がしなかった。

馬が走る音も、車輪が回っている音も。



もし、人が歩いていて、後ろからその馬車が来たとしても気づかずに轢かれてしまうだろう。



それほどに、静かだった。



その馬の蹄や車輪には、特殊な魔法が付与されていた。



その静かな馬車の中で一人の男が言う。



「リカルネル様。毎回思うのですが、集会には転移魔法陣を使った方が早いのでは・・・・。」



中央で座っているリカルネルが答える。



「・・・・・魔法陣は使うと、足が付く。万が一にも我々の居場所は掴まれない様にしないとな。」



「そっそうでしたか!余計な質問をしました!」



質問をした側近は、恐縮しながら黙る。



リカルネルは走らせている馬車の外を見ながら言う。



「我々は忙しいからな。移動している時が休息みたいなもの・・・・・。」




ドンッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!




突然、馬車が爆発した。



正確に言うと、馬車が走っていた地面が爆破したのだ。



馬車は炎に包まれ、中にいた数人の男達は爆破と炎で焼かれていた。



その燃え盛る馬車の向かっていた先に、

二人の男女が立っている。




クリストとミューズだ。




「これで終わりならいいんだけど。」



ミューズが言う。



すると、燃え盛る炎の中から一人の男が現れた。



「やっぱり【身代わりの指輪】を付けてたか。・・・・・【雷】のリーダー。」



クリストが答える。



炎の中からゆっくりと出てきたリカルネルは、二人に言う。



「・・・・・お前達。何者だ?」



言いながら、その二人の後ろにいる男を見る。



紳士の様な格好をした男は、帽子を深くかぶり、ベストを着て、腕を組みながら、木にもたれかかっている。




「!!!!! お前は・・・・・そうか。誰だか知らないが、世界一の殺し屋を雇ったわけだ。」



一瞬、驚いたリカルネルはニヤリと笑いながら続ける。



「だが、俺は生きているぞ。暗殺は失敗したらしいな。」



すると、木にもたれかかっていた紳士は、初めてここでリカルネルを見ると言う。



「フフフフフ・・・・・暗殺が失敗した?・・・・・殺りやすい様に貴方を一人にしただけで、まだ私は何も仕掛けてませんよ?」



そう言いながら、組んでた腕を外す。




・・・・・余裕を見せてるな。

俺は革命組織【雷】のリーダーだ。

そこそこ実力はあるのだろうが、

所詮は殺し屋。・・・・・一瞬で終わりにしてやろう。




「そうかい。」



言った瞬間、リカルネルが消える。




パチン!




同時に、紳士は指を鳴らす。




ジャラララララララララララ!!!



ジャラララララララララララ!!!



ジャラララララララララララ!!!



ジャラララララララララララ!!!




リカルネルが瞬時にクリストとミューズを通り過ぎ、紳士の手前まできた時に、それは起こった。



突如、空間から四つの魔法陣が現れると、その中から鎖が飛び出した。



その四つの鎖は、向かっていたリカルネルの両手、両足を絡めて動けなくしてしまった。




「なっ!!!!」



すぐに、全力で力を開放して鎖を引きちぎろうとするが、ビクともしない。



バカな!

俺のレベルはトップクラスだ。

こんな鎖が引きちぎれないだと?



目の前にいる紳士はいつの間にか大きな鎌を持っていて、その鎌を大きく振りかぶった。




「まっ!待て!!【雷】の頭は俺だけじゃないぞ!時間をくれたら・・・」




ザンッッッッッッッッ!!!




右から左へ大鎌を振り抜くと、リカルネルの体は上下真っ二つに分かれ、鮮血が舞った。



ジョアンは、返り血を優しくハンカチで拭くと、助手達に言う。



「いいですか?相手を拘束した時は、すぐに止めを刺す事をお勧めします。拘束すると、相手は有益な情報を話して時間を作ろうとします。その時間が長ければ長いほど、相手の反撃の時間を作り、成功率が下がります。・・・・・我々は殺し屋です。

どんな美味しい情報でも関係ない。目的が達成すればいいのですからね。」



「ハイ!」「はい。」



クリストやミューズは尊敬の眼差しでジョアンを見て答える。



クリストが言う。



「・・・・・しかし、完璧でしたね。私やミューズを狙わずに真っすぐジョアン様に向かいましたね。」




イールから取り寄せた【雷】のリーダー、リカルネルの資料を分析し、今までの行動や心理パターンを読むことで計画が出来上がる。


今回は、リカルネルの向かって少し右に助手の二人を立たせ、自分は左寄りの後ろに立つ。


彼は性格上、助手の相手はしないとふんだ。・・・・・何故ならば、そうする事で、私に手の内を少しでも見せてしまうからだ。


ならば最初から本気を出して私を倒しに来ると予想した。



予想は的中し、わざと道を空けた所へ真っすぐに向かってきた。



トラップを仕掛けた所に。




完璧だった。




「そうですねぇ。良かったですよ。

『保険』を使わずにすみましたしね。」




過去に一度、初めて一度目のトラップを防がれ、

更に『保険』まで耐えられた。

・・・・・冒険者、ホワイト=フォックス。




ミューズが聞く。



「ジョアン様。今回の設置魔法【束縛する銀の鎖】の強度は、相当なレベルの硬さじゃなかったですか?」



「ほう。良く気づきましたね。ミューズ。この鎖を作るまで、相当時間をかけましたからねぇ。何せ私が知る最強の者を捕まえても破壊できない硬さにしましたから。」



『保険』を使わずに一回目の罠で仕留める。



これが私のポリシー。



いい勉強をしました。

過去、一度の失敗が、私を更なる高みへといざなってくれる。



しかし、困りましたねぇ。まさか【雷】のリーダーが1人ではないとは、私の落ち度です。後で彼らには何かしらの御礼はしないといけませんね。




ミューズが続ける。



「・・・・・ジョアン様が知る最強の者とは誰なのですか?」



ジョアンは微笑むと、馬車が向かっていた先を見る。



「フフフフフ。これから【雷】を壊滅する銀の髪の青年ですよ。」



そう言うと、ジョアンは、合図を送った。










☆☆☆










それは樹海の中にあった。



うっそうと生い茂る木々が突然開かれると、そこに古城が現れる。




ここは、【雷】の本部であり、本拠地。




通常は魔法を発動している為、知らない人が来ると、樹海の中を彷徨うだけで、古城まで辿り着く事は出来ない。



しかし、今日は年に一度の集会の為、魔法が解かれていた。



その分、全ての【雷】の構成員が来るのだから、襲撃にあう事などまずなかった。



その古城の地下に、とても広い空間がある、

そこに集められた数千人の【雷】達が談笑していた。



その壇上には高そうな黒いローブを着た一人の男が座っている。



その横で立っている幹部らしき男が、ローブを着た男に話す。



「ビジュン様。そういえば、この間の爆破はお見事でした。」



「あぁ。ありがとう。・・・・・最近『ランス国』は力をつけすぎているからな。我々の目的の邪魔になる前に、弱らせる必要がある。・・・・・フフフ。まだまだこれからだ。」



ビジュンはニヤリと笑う。



「そうですね。・・・・・リカルネル様もあと少しで到着すると思いますので、今しばらくお待ち・・・・・」




ズッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!




ズズンッッッッッッッッッッッッッ!!!!!




幹部らしき男がビジュンに話しかけたその時、大きな地響きが鳴り響いた。




「何事だ!!!」



ビジュンが叫ぶ。



すると、構成員の一人が、地下に駆け込んでくると、大声で報告をする。



「しっ城が!!!・・・・・我々の城が、くっ崩れています!!!!」




!!!!!




ビジュンは立ち上がり、すぐに皆に指示をだす。



「すぐに戦闘準備だ!一人も逃がすな!・・・・・何者かは知らないが、我々に牙を向くというのはどういう事か教えてやれ!!!」



「オォォォォォォォォォォ!!!!!」



集まった【雷】達は、すぐに城の外へと向かって行った。



ビジュンは思う。



・・・・・我々の集会を狙ったのか?・・・・・という事は計画的か・・・・・敵は相当な数を連れてきている可能性があるな。


犯罪ギルドか敵対している組織か・・・・・それともどこかの国の軍隊か。




まぁいい。




逆に、我々のいい宣伝になる。



革命組織【雷】の恐ろしさを存分に味合わせてやろう。




【雷】のリーダー、ビジュンは、悠々と幹部達を連れて魔法陣が設置してある所へと行くと、高みの見物をしに城の上階へと転移した。










☆☆☆










「♪・・・♪・・・フッフフ~ン♪」



僕は音楽を聴きながら、緑豊かな森の中を歩いている。



とても良く晴れた日に、マイナスイオンを感じながら好きな音楽を聴いている。・・・・・最高だね!



「・・・・・ハッ♪・・・・・ホッ♪・・・・・ヤッ♪」



隣でぴょんぴょん飛び跳ねながら、ヘッドホンもどきを付けて踊っている変な女はいったい何を聞いているのやら。



それでかなりの美人だから余計に滑稽に見える。



「・・・・・あの・・・・・あの!ゼロさん?」



僕達の後ろで黙って付いてきているリールが、我慢できずに声をかける。



「ん?・・・・・何?」



「あの・・・・・今から【雷】を襲撃しに行くんですよね?」



思わず聞いてしまう。



普通に昼の散歩に出かけているみたいに歩いているのだ。・・・・・しかも音楽なんか聞いて。

(初めて見て、羨ましいなんて思ってないわ!)



あまりの緊張感のなさに拍子抜けしてしまう。



「ん?そうだけど?・・・・・あれ、リールも聞きたかった?」



「聞きたくありません!」



ジョアン様が一緒にいたらきっと呆れるだろうし、クリストさんが見たら激怒するだろう。



綿密な調査。綿密な計画。そして大胆な実行。

仕事中は常に緊張感をもって行う。・・・・・それがジョアン様から教えられた事だった。



今の二人を見ていると、あまりにもかけ離れているので、ある意味すがすがしさまで覚えてしまう。



するとゼロが言う。



「まぁまぁ。今から肩ひじ張っても本番で疲れるだけだよ?もっとリラックスしないとね。」



・・・・・貴方達はリラックスしすぎでしょ!と言うのをグッとこらえていると、木々が突然開けた。



開けた先には、古城が建っている。



「おっ!着いたな。・・・・・さすがジョアン。

 場所が正確だ。」



そう言うとゼロは、ヘッドホンを外し、付けていたカツラを取る。



中からとても綺麗な銀の髪が現れた。



隣で歩いているエメは、銀の長髪が光に反射してこの世の者とは思えない程に美しく思えた。



ゼロは歩きながら言う。



「・・・・・相手が気づく前によろしく。」



「ウム。」



そう言うと、エメは片手を古城の頭上へと向け、掌から白い玉を放つ。

その白い玉は古城の上までいくと、はじけた。



すると、そこから一気に白い空間がドーム状に私達を含む古城を覆った。




シュン。




そのまま歩いているゼロは、エメを目で合図すると、エメは素早く数十メートル先まで行き、剣を抜く。



その剣はエメと同じ位長く、美しい長剣だった。



エメは、その長剣を中段に構えると、そのまま横に薙ぎった。




ゴオッッッッッッッッッッッッッ!!!




「キャッ!」



思わず私は声を出す。



エメを中心に強い風が舞った。





ズズンッッッッッッッッッッッッッ!!!!





見ると、古城の左にあった塔が左下から右上へと斬られ、崩れ落ちていった。



リールは茫然とその光景を眺めていると、歩みを止めないゼロが言う。






「・・・・・さぁ。行こうか。」






ゼロは真っすぐに崩れている古城へと歩いて行った。








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