第111話 傭兵4



港に着くと、船から降りる前に、

イールから貰ったカツラを被る。



そして武器は空間収納にしまった。



銀の髪はとても目立つ。

すぐに連想されてしまうだろう。



有名な傭兵が来たとなれば何かあると思い、すぐに国外退去になってしまう。



だからここでは、【天使と悪魔】の客として入国する事となっていた。




犯罪ギルド【天使と悪魔】は、魔導国『シャーフラン』が建国する時から資金や労働など、様々な援助を行い、この国でも多大な影響力を持っている。



厳しそうな検問を、イールの印がついた滞在許可証を見せると、難なく入国する事が出来た。



犯罪ギルドなのにすげぇな!



何のボディチェックもなしで入れたよ。



検問所を見ると、持ち物から服の中までチェックされている。



イールさまさまだな。



今度、自分の用事でこの国に来る時は、イールに頼もう。




そう思いながら、港町に入ると、すぐに首都に向かう為に、大きな館へと入る。



入ると、広いロビーの先に大きな扉が何個もあり、その扉の上には看板が付いている。



首都の名前の扉の前には長蛇の列が出来ていて、その列に僕達も並ぶ。




暫くして、僕達の番までくると、扉を開いて中へと入る。



そこには、床に大きな魔法陣があるだけの部屋だった。




そう。

この国では、馬車などの移動も出来るが、ほとんどは、この魔法陣で各都市へ瞬時に移動する方法が主流だった。




アルメリア国にあった【ゲート】とは違って、大人数は転移出来ないが、十分な移動手段だ。



僕達は魔法陣の中に入ると、中が光り、あっと言う間に首都へと移動した。



魔法陣のある館から外へと出ると、目の前に首都の街並みが広がっている。




「はぁ~。またここは・・・・・。」



思わず僕は呟く。





魔導国『シャーフラン』。

その首都【リーシェル】。



その街並みは、独特な雰囲気だった。



店や館の外壁にはさまざまな彫刻でデザインされている。



そして、いくつもの高い塔が所々に建っていた。



何か不思議な世界に迷い込んでいるみたいな感じだった。



こんな街並みは初めてだ。

・・・・・新鮮でいいね!



僕達は田舎者の様にキョロキョロしながら、街の風景を楽しんだ。










☆☆☆










カンッ!




僕はジョアンとエールが入ったジョッキを当ててグビグビ飲む。



『シャーフラン国』へ着いた僕達は、指定された宿へチェックインを済ませてから、ジョアンと連絡を取って、料理屋で打合せを兼ねて飲みに出た。



「ムグムグムグ・・・・。ここの料理も中々じゃな・・・・。」



黙々とエメは呟きながらひたすら食べている。

いつ見ても気持ちのいい食べっぷりだ。




「まったく・・・・・こんな野蛮な傭兵と一緒に打合せだなんて・・・・・。ジョアン様が一緒じゃなければ、お前達なんかとは居たくないんだがな!」



ムスッとして助手のクリストが言う。



「ハハハ。まぁまぁ。クリスト君?同じ仕事仲間としてコミュニケーションも大事だと思うよ?・・・・・後、ミューズちゃん。相変わらず静かだけど可愛いね。」



僕がフォローを入れる。



「うるさい!お前が言うな!・・・・・あとミューズにおべっか使うな!」



クリストがすかさず文句を言う。



「・・・・・。」



ミューズは言われて、まんざらでもなさそうだ。

良かった。



「クリスト。やめなさい。今は、彼らとは、同じ目的を完遂する為の仕事仲間です。暴言は許しませんよ。」



「・・・・・すみません。ジョアン様。」



後ろで立っているクリストは言われて落ち込んでいる。



ちょっと可哀そうになった僕は、話題を変えた。



「ところでジョアン。その女性は?」



僕は、後ろで立っているジョアンの助手。

クリストとミューズの他にもう一人、女性が立っているのが気になった。



「あぁ。・・・・・彼女は何と言うか・・・・教え子みたいな者です。経験をつませる為に、今回は連れてきました。」



「へぇ~。そうなんだ。」



その女性は、僕を見ると笑顔でお辞儀をする。




何だろう、僕達一般の人とは違う感じ・・・・どこかで見た事があった。・・・・・・そう、アイリだ。


その上品な振舞いを見ると、どこか皇女アイリの雰囲気を思わせる。




「それでは自己紹介だね。僕はゼロ。隣の彼女はエメだ。・・・・・君は?」



その女性は、ジョアンを見ると、ジョアンが頷く。



「・・・・・私はリールと言います。よろしくお願いします。」



「リールさんですね!よろしく!」



「うむ。・・・・モグモグ・・・・・よろしくだ。」



「そういえば、後ろの3人は飲まないの?」



僕はジョアンの後ろで立っている三人に言う。



「あぁ。私達はもう食事を済ませていましてね。今は、食後のお酒の時間といった所です。」



「へぇ~そうなんだ。じゃ~・・・・・一緒に飲む?」



「!!! 貴様!訳の分からない事を言うな!ジョアン様と私達が一緒に飲むなどありえん!!!」



クリストが怒鳴る。



「フフフ。確かに助手達三人が後ろに立っているのは、打合せしずらいですかね。」



ジョアンが言う。



「そうだね。座ってもらった方が僕としてはいいね。」



「では、貴方達。座りなさい。・・・・・一緒に飲みながら打合せをしましょう。」



「!!!!! はっハイ!!!」



よほどの事なのか。クリストとミューズは驚き、慌てて椅子に座る。それに合わせる様にリールも座った。




店員に人数分のお酒を頼んで、飲みながらジョアンと話始める。




「まず最初に決行の日ですが、【雷】が年に一度、集会を行う日が一ヶ月後にあります。

・・・・・そこを狙います。」



僕は黙ってジョアンの計画を聞く。



「【雷】のリーダーはいつも最後に集会の場所へやって来ます。暗殺はそのルートのどこかで行います。ゼロ達は、私の暗殺が成功したら合図を送りますので、その合図で、集まった全ての【雷】の殲滅をお願いします。」



僕は頷くと、ジョアンに聞く。



「集会の場所はもう調べてあるの?」



「ええ。【雷】の集会は、この国にある本拠地で行ってます。場所はイールから聞いてますからね。・・・・・ここです。」



ジョアンはこの国の地図を出すと、一番はずれにある海に近い場所を指した。



見ると何もない場所だった。



「なるほどね。」



ジョアンが続ける。



「あとは、決行日が近くなりましたら、つめの最終確認で一度落ち合いましょう。それでいいですか?」



僕は頷く。



すると思い出した様に、ジョアンが言う。



「そうそう。今回の仕事ですが、ゼロ達と一緒に、このリールを同行してもらいたいんですが。」



「へっ?何で?」



思わず変な声をだす。



「フフフ。私は殺し屋です。彼女には私の職業と合わなくて困っていたのですよ。しかし、貴方達、傭兵の戦い方なら学べる事が多いかと思いましてね。・・・・・お願いできますか?」



「・・・・・私からもお願いします。」



リールが頭を下げる。



「いや・・・・・まぁ~いいですけど、自分の身は自分で守る様にお願いしますね。そこは傭兵も殺し屋も、裏の世界では常識だから。」



「確かに。」



ジョアンが笑顔で頷く。



「分かりました。よろしくお願いします。」



リールが言う。



「よし!じゃ~打合せは終了という事で、飲もうか!」



僕が皆に言うと、エメが待ってましたとばかり、定員を呼ぶ。




「酒だ!酒をどんどん持ってきてくれ!」





世界一の殺し屋とその助手達。そして世界で有名な傭兵二人組が同じテーブルでお酒を飲み交わすという、滅多に見られない珍しい光景がそこにはあった。










☆☆☆










「おはようございます。今日から一ヶ月。よろしくお願いします。」



昨日飲みすぎて宿から遅く出た僕達を、外で待っていたのはリールだった。



「あっ!おはよう。・・・っていうか、当日だけじゃなかったんだね。」



「はい。ジョアン様は、これから綿密な計画に助手の人達とはいりますので、私では邪魔になります。その間、何もする事がありませんので、ゼロ様と一緒に行動する様に言われました。・・・・・これをどうぞ。二日酔いに効くお茶です。」



リールは笑顔で答えながらお茶を渡す。



僕は受け取って一気に飲むで言う。



「ふぅ。ありがとう、リール。・・・・・そう言う事ね。分かった。それじゃ、一ヶ月間よろしく!」



「はい♪」



エメ以外と一緒に行動するのは久しぶりだな。せっかく学びに来てくれているから、時間がある時は見てあげよう。



僕達は、街中へと歩き出した。










☆☆☆










キンッ。キンッ。キンッ。キンッ。



「もっと早く!・・・・・脇があまいよ!」



「はいっ!!」





青空が見える晴れた空の下。宿屋の裏手にある広場でリールに剣術を教えていた。





「ほら。」



訓練を終えて、へたり込んでいるリールにエメが飲み物を差し出す。



「ハァハァハァ。・・・・・あっ、ありがとうございます。」



汗をかいたのか、リールはその飲み物を一気に飲み干す。



「ゼロ。どうなんだ?」



エメが僕に聞く。



「そうだね。結構、センスがいいよ。

流石、ジョアンの教え子だね。」



ジョアンが教えたのか、しっかりと基礎が出来ている。後は、自分に合う剣術を探して学ぶか経験するかだけだ。



聞くと魔術もある程度、出来るらしい。



ある意味、僕より優秀だ。



「いえ!ゼロさんの教え方がいいからです!とても分かりやすくて、剣がこんなに楽しいなんて・・・・・初めてです!」



「ハハハ。そう言ってもらえると嬉しいよ。」




彼女と一緒に同行して4週間経っていた。リールはすっかり僕達に馴染んでいる。




「さて、昼飯でも行こうか。」



「おっ!いいな!今日は昨日言っていた店に行こう!」



すかさずエメが提案する。



「はいはい。」




僕達は、テラスの付いたオシャレなお店で、名物のサンドイッチを食べる。




「ゼロさん。今日も探しに行くんですか?」



リールが食後のお茶をしながら言う。



「そうだね。今日は古文書が置いてある歴史館にでも行こうと思ってるんだ。」



「私も手伝いますね!」



「うん。ありがとう。」





・・・・・世界で有名な傭兵【シルバーアイ】の【銀の左目】ゼロ。



裏の世界で傭兵は、とても野蛮で、残忍で、自分の利益の事しか考えない人達と言われている。



だから、ジョアン様にこの人達と一緒に行動する様に言われた時は、学ぶ事が出来たとしても、正直、嫌だった。



でも、会ってみて、暫く共にしていたら、考え方が変わった。




ゼロ。




彼はとても不思議な人だった。今まで沢山の人達に出会った。しかし、こんなに一緒にいて話しやすくて、親しみやすい人はいなかった。



・・・・・宮殿にいた時でも。



ほんの短い時間だけど、彼に出会えて学べた事に、今はとても感謝している。



そんな彼が、世界を周りながら探しているというアイテム【忘却の宝玉】。



私がいた国でも聞いた事はなかったけど、一緒にいるときは出来るだけ彼の為に手伝おうと思った。





そんな事を考えながら、お茶を飲んでいると、ゼロが言葉をかける。



「ところで、リールは何でジョアンの教え子になったの?」



「それは、私の国が戦争で負けてしまって。

その時にジョアン様に助けて頂いたんです。」




!!!



ゼロの顔が曇る。




「ごめん。・・・・・デリカシーのない質問だったね。」



「いえ!ゼロさんなら、構いません!気にしないでください。」



「そう・・・・・それでリールはどうしたいの?」



「はい。私の目的は助けて頂いた時から決まっています。一つは、昔、恋人だった彼の仇の男を殺す事。そしてもう一つは・・・・・それが達成してからですね。」




・・・・・私は、今はない『ギリア国』の教皇の娘。リール。


いつか。いつか。小さくてもいいから、まだ信じている人達と一緒に『ギリア国』を復興したい。・・・・・それが願い。


でも、その前に、愛するエッジを殺した男を倒さないと、私は前に進めない。







リールは、真っすぐに、曇りのない目で僕を見て言った。












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