第110話 傭兵3



火と煙が上がっている所へと向かうと、かなりの人でごった返していた。




周りからは悲鳴と泣き声が聞こえる。



爆破があったのは、首都【マリン】の中央付近にある流通の物資を保管している第11格納庫の一つだった。




「これは・・・・・酷いな。」




僕は立ち止まり、延々と燃えている格納庫を見て言う。



よほどの爆発だったのか、原形を留めていない。



その周りの、多くの店が爆風で破壊されていた。



僕達はすぐに、破壊された格納庫の裏道へと走る。




・・・・・無事でいてくれ!




この首都、中央の第11格納庫付近は、様々な料理店が並ぶ場所でもあった。




「お母さん!・・・・・お母さん!!

 ・・・・・コリン!!!」



裏道へと走ると

・・・・毎回通っていた【うまうま亭】は爆風で半壊していた。



そこには、うまうま亭の親方が半壊した店の柱を一生懸命どかそうとしていた。




「親方!リク!」



僕は叫びながら親方へと駆け寄る。




「どけ!!!!!」



エメが、親方をどかし、片手で柱を吹き飛ばす。




そこにいたのは・・・・・血を流しながら両手で娘のコリンを守る様に横たわっている、うまうま亭の奥さんだった。




「お母さん!!!コリン!!!」



リクとカリンが、倒れている二人に駆け寄る。




僕がすぐに、治療しようと動こうとするとエメに止められた。



エメは僕に向かって首を横に振りながら言う。




「・・・・・もう死んでいる。」




僕は茫然と突っ立っていると、後ろで尻もちをついている親方が弱々しく独り言の様に呟く。




「明日の買出しに行ったんだ。・・・・・リクとカリンを連れて。・・・・・妻とコリンを残して。」




リクはまだ一生懸命、母親に話しかけている。その後ろで見ていたカリンが僕の方へと来ると、涙を流しながら両手で僕の服を掴み、揺らしながら言う。




「ねぇ・・・・・ゼロお兄ちゃん。・・・・・何がいけなかったのかなぁ。・・・・・何が悪かったのかなぁ。・・・・・カリンが悪い子だから・・・・・わがままだから・・・・・お母さんとコリンを連れて行っちゃったのかなぁ。」





「・・・・・・・・。」





僕は黙って跪くと、カリンをギュッと抱きしめた。










☆☆☆










翌日。僕はイールの館へと来ていた。




そこには昨日と同じ様に、2大犯罪ギルドの一つ【天使と悪魔】の頭、イール=サミュエルと世界一の殺し屋ジョアン=キングが助手を連れて座っている。



「昨日の爆発は結構激しかったみたいね。」



イールが言う。




「そうですねぇ。【雷】は、おそらく第11格納庫を狙ったみたいですけど、あまりにも周りに被害が出ていて・・・・・綺麗じゃない。綺麗じゃないですねぇ。私としては、とても美しくない。」



ジョアンが答える。




僕は二人のやり取りを見ながら座ると言う。




「イール。昨日の件だけど・・・・・受けるよ。」



「そう!それは良かったわ。それでは、『シャーフラン』へ入国できる手続きをするわね。」




そう言うと、イールは片手をあげて、部下達に指示をだす。




・・・・・ここは私がいるシマよ。それを土足で上がりこんで汚すなんて・・・・・【雷】・・・・・少しやり過ぎた様ね。・・・・・頭を殺せばいいと思っていたけど、気が変わったわ。



イールはジョアンとゼロに言う。



「ジョアンは予定通り、リーダーの暗殺をお願い。そして【シルバーアイ】はその本拠地の壊滅と言ったけど、全て・・・・本拠地にいる全ての構成員を倒して頂戴。・・・・・同じ事が起きない様に、芽は完全に潰さないとね。」




僕は黙って、その部屋を後にした。




・・・・・良くはないけど、最高のタイミングだったわね。・・・・・バカな【雷】・・・・・ゼロを怒らせるなんて・・・・・




イールはその後ろ姿を見送りながら微笑んだ。










☆☆☆










「カザミ!!!ゼロが来た!ゼロが!!!」



可愛いメイドの格好をしたクロが喜びながら部屋へと入ってくる。




「クロちゃん。ちゃんとノックをしてから入る様にって言っているでしょ?」



「だって、だってゼロが・・・・・。」



シュンとしてしまった。




ここは東の大国『アルメリア国』の首都

【キルギス】のはずれにある館。



二人だけで住むにはとても大きすぎる家だ。でも、どうしても手放す事が出来なかった。



ここで目の前にいる可愛らしい女の子、クロと一緒に二人だけで住んでいる。



今は近くの料理屋で働きながら、貴族や宮廷の様々な作法を親友のココ=ファームスに習っている。



そして2年前から、1ヶ月に一回、訪ねに来る人がいた。




「全く・・・・いくら嬉しくても今度は気を付けるんだよ。」



言いながらカザミは、シュンとしているクロの手を握ると玄関へと向かう。




クロと外へと出ると、見慣れた人が笑顔で立っていた。



この世界で初めて見る、とても綺麗な銀の髪をした青年。



クロが手を強く握りながらうずうずしている。




「クロちゃん。いいよ。」



カザミが言うと、クロは飛び跳ねながら銀の髪をした青年に抱きつく。




「ハハハ。クロは相変わらず元気だね。」



抱きついているクロの頭を青年が撫でる。



クロはとても嬉しそうだ。



クロと一緒に住み始めたこの2年間、クロは私を守る様に、どんな人でも警戒心を解かず、心を許さなかった。



それはホワイトフォックスの仲間達でさえも。




でも、彼だけは違った。




銀の髪をした青年。・・・・・名前はゼロ。




2年前。突然訪ねに来た彼に、クロは心を許しているのだ。本人に聞いてもどうしてなのか分からないとしか言わない。



すると、ゼロはクロにギルが入った袋を渡して、私の方を見ながら言う。



「ちょっと仕事が入ってね。もしかしたら1ヶ月以上かかるかもしれないんだ。だから、2ヶ月分渡しておくね。」



「ゼロさん。・・・・・いつもありがとうございます。でも、本当に無理だけはしないで下さいね。」




ゼロは黙って笑顔で頷く。




彼は2年前から毎月、クロにお金を渡していた。

結構な大金を。



さすがに知らない人のお金を受け取る事は出来なかったが、知らない内にクロに渡してしまうので、返す事も出来なかった。



そんな事が続いたある日、お世話になったロイージェさんが引っ越し祝いに来てくれた時に、理由は聞かずに受け取って、ちゃんと使ってほしいと言われたので、その時からは受け取る事にしている。



・・・・・正直に言うと、凄くありがたかった。



ヒッくんと付き合うようになってから、沢山のパーティや舞踏会、お茶会といった所に行かなくてはならなかった。



ヒッくんはどんな格好でも可愛いよって言うけれど、周りは侯爵令嬢や貴族の人達ばっかりだ。

私だけみすぼらしい格好は出来ない。



沢山の衣装やアクセサリーを買うのに、働いたお給金だけでは、とても追いつかなかった。



でも、何でだろう。



知らない人からお金を貰っているのだ。

すごく罪悪感を持つはずなのに彼から貰ってもそんな罪悪感は感じなかった。



むしろ、感謝の気持ちの方が圧倒的に強かった。




何でだろう・・・・・。




不思議な人・・・・・。




そんな事をカザミは思いながら、ゼロを見ている。




「さて。それじゃ、また来るね。・・・・・クロ。カザミさんを頼んだよ。」



「任せとけ!!!」



頭を撫でられながら嬉しそうにクロが答える。



ゼロは背を向けながら手を振って館を後にする。

少し先に、同じように長く美しい銀の髪をした綺麗な女性がゼロを待っている。



そのまま二人は緑豊かな木々の中へと消えていった。




入れ違う様に、木々の中からココ=フォームスがやってくる。



それを見ながらカザミは言う。



「さぁ!元気が出た事だし、私達も頑張りますか!」



「うん!!!」





カザミはココに向かって笑顔で大きく手を振った。










☆☆☆










「う~ん!気持ちいいね!」



「ああ!とてもいいな!この乗り物は!」



船の甲板に出て海風に当たっている。



僕達は、内海にある目的地に、大型船に乗って向かっていた。



よくよく考えたら、この世界に転移して、船に乗ったのは初めてだった。



綺麗な海の上を優雅に大型船が運航している。空にはカモメっぽい鳥が見える。・・・・・不思議な気分だった。



たまには船に揺られながら行く旅もいいね!



周りを見ると、貴族や、魔術師らしい格好の人が多い。



「おいゼロ!見えてきたぞ!」



嬉しそうに、僕の肩を掴んでエメが言う。



どこに行っても、初めての経験のエメは、とても嬉しそうだ。



僕は甲板の手すりを掴んで身を乗り出すと、その先に島が見えてきた。




内海にある島国『シャーフラン』。

別名、魔導の国。




この国は、昔のアルク帝国と同様に、とても閉鎖的な国だった。


冒険者や旅人はもちろん、他国の要人でさえ、許可がないと入国する事はできない。


アルク帝国は数年前に世界最大の国になった事で、他の国同様、様々な物や技術を開放する様になったが、この国は今だ変わっていない。



僕達も、イールに貰った専用の滞在許可証がなければ、この国に入る事が出来ない。



ギルド【天使と悪魔】は、この『シャーフラン国』にも支店がある為、うまく手配してくれた。



見ると、その大きな島を覆うように海から鉄塔の様な物が建っている。そこから島全体に、透明な光の結界が張られているのだ。




許可がなければ、何者も侵入を許さない。そんな島国だった。




僕は近づく『シャーフラン国』を見ながら思う。




・・・・・依頼もそうだが、【忘却の宝玉】の情報が少しでも手には入ればいいんだけどね。・・・・・







僕達が乗っている大型船はゆっくりと、

魔導の国『シャーフラン』へと入っていった。









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