第109話 傭兵2



ここは外海にある無数の島々の中で、

唯一、国家として認められている東の海にある大きな島国『スコール』。



その王城にある王の間へと近衛兵が慌てて飛び込んできた。




「急報!急報です!!!」




王と側近達は突然来た近衛兵を見ながら言う。



「どうしたのだ?そんなに慌てて。落ち着いて説明せよ。」



「すっすみません!南の方から見た事のない飛空艇や戦艦らしき物がこちらへ向かっています!

そっ・・・・・その数、数万!!!」



「数万だと!!!?????」



王は椅子から立ち上がる。



隣にいる宰相が考えながら言う。



「・・・・・2年前。南東にある外海で一番大きな島。未開の島『アルミ』に突如現れた、新しい種族がいるのを我が調査班から報告を受けています。

 その数は我々の人口より多い事も。・・・・・しかし、あの『アルミ』は、我々でも開拓できなかった島。すぐに人も減り、散り散りになるかと思ったのですが・・・・。」




未開の島『アルミ』は外海で、約8千万人が住んでいる『スコール国』より大きな島である。



一番大きな島であるのに開拓がされなかったのは、その島に生息している野獣や魔物がとてもレベルが高く、凶暴だった為、島に調査に入る事さえ出来なかったからである。


その『アルミ』に2年前、突如として現れた者達。


その数は2億人近くはいるのではないかと調査班から報告を受けていた。


監視の為に、何回か兵士達を潜り込ませようとしたが、誰一人帰ってくる者がいなかった為、上陸はしないで、船から監視を続けていた。




・・・・・あの島にいる野獣や魔物は強い。突如現れた者達を歓迎はしないだろう。すぐに襲われ、人口が減り、あの島から逃げ出すだろうと思って放置していたのだが。・・・・・




宰相は話を続ける。



「王よ。武装した飛空艇や戦艦がこちらに向かっているという事は、我々と友好関係を結ぶ為に向かっているわけではないでしょう。・・・・・ここは、我々も戦の準備を。」



王は立っていたが、今一度、椅子に座りなおすと、宰相に指示をだす。



「ウム。お主の言っている事がおそらく正しいだろう。・・・・・すぐに将軍を呼ぶのだ!外海の島で唯一の国である我が『スコール国』の強さを見せてやるのだ!」



「ハッ!」





宰相は、すぐに将軍を呼び、この国の全ての軍が戦闘態勢に入った。








・・・・・・・その数か月後、外海で2番目に大きな島であり、唯一国家として認められている『スコール国』が滅び、占領された事が衝撃として世界中で報じられた。・・・・・・・










☆☆☆










カンッ!




「カンパ~イ!」



僕は一気にエールを飲み干す。



「カァ~!やっぱり一日の終わりはエールに限るね!!」



エールを飲んでいる僕の席に、小学6年生位の男の子と女の子2人が慌ただしく料理を持ってくる。



「さぁ!どんどん食べてね!

ゼロ兄ちゃん!・・・・・あとエメ姉ちゃんも!」




ここは『ランス国』にある首都【マリン】。

その行きつけの料理屋【うまうま亭】で僕達は依頼達成の祝勝会をやっていた。



「モグモグモグモグモグ・・・・・・。

ングングングング・・・・・プファ~!!!」



目の前のエメは、料理とお酒に夢中だ。

黙々と食べて飲んでいる。



「しかし、リクやカリンちゃん、コリンちゃんは、家の手伝いをするなんて偉いな!」



僕は、料理を運び終わった子供達3人の頭をなでる。



「へへへ~!だってお父さんやお母さんだけじゃ大変そうだもん。僕や妹達もやれることは手伝うんだ!その分おこずかいもいっぱい貰えるしね!」




この【うまうま亭】。

美食の国でもあるこの国の中でも、その店名に負けない程、うまいで有名な人気店の一つだった。



ただ、店主と奥さんだけでやっているこだわりの料理店の為、すぐに予約が埋まってしまっていた。



前に、他国で、大事故があった時に助けた家族が、この【うまうま亭】の家族だったのだ。



それからというもの、僕達だけはどんな時に来ても、特別席を作ってもらって料理を振舞ってくれている。



ありがたい事だ。



こんなに美味しい料理を食べられるとなると、ついついこの国で長居してしまう。



すっかり子供達にもなつかれてしまったしね。




「ハァァァァァ。」



僕は料理を食べ終えると、ゆっくりお酒を飲みながら、ため息をつく。



「ん?どうした?ため息なんかついて。・・・・・あっ!それ食べないなら貰うぞ。」



エメはまだまだ食べている。



凄いな。お前はフードファイターか!



「あぁ。中々情報が見つからないからなぁ~。

どうしたもんか。」




エメと一緒に傭兵になってから、2年の月日が経っていた。



世界中の様々な依頼をこなし、お金を稼ぎながら、目的の【忘却の宝玉】のありかを探していたんだけど、一向にその情報が掴めずにいた。



せめて少しでも知っている人がいれば希望を持てたんだが、今まで聞いた人で知る者は誰もいなかった。



「モグモグモグ。・・・・・まぁ~焦ってもしょうがないじゃろ。あるのは間違いないのだ。地道にやるしか・・・・・おい。それも貰うぞ。」



「しっかし、毎回良く食うよなぁ。どこに入るんだか。」



「ハッハッハ!こんなにうまい食べ物は食べた事がないのでな!短い人生だ!思う存分楽しまんと!・・・・・おいリク!この料理を追加だ!」



幸せそうで何よりだ。・・・・・まぁ~確かに焦ってもしょうがないか。



カリンが新しい料理をテーブルに運んできて、すぐさま僕がメインの鶏肉にカブリつくと、エメが絶望の顔をしている。



すると一人の怖そうな男が店に入ってきた。



その男は奥にいる僕達を見つけると、真っすぐにこちらへとやってくる。



僕の隣まで来ると言う。



「ゼロ。・・・・・イール様がお呼びだ。」



「イール?・・・・またぁ?今日依頼が終わったばかりなんだよね。」



「すまんが頼む。来てくれないと俺がどやされる。」



「はいはい。分かったよ。食事が終わったら行くからと伝えてくれ。」



その男は、答えを聞くとホッとしてその店から出ていった。



よくすっぽかしてたから、不安だったのだろう。



まぁ丁度、依頼は終わった事だし、何か情報が聞けるかもしれないから、行ってみるか。



僕達は、その後も飲み食いし、数時間後に店を出た。










☆☆☆










その館は、首都の外れにあった。



塀は中が見えない程高く、敷地はかなり大きい。

この国の王城以外では一番の広さを誇っている。



塀の外には、大人数の屈強な男達が行き来していた。



僕達は門の前まで行くと、2m以上ある巨漢の男が僕を見て太い声で言う。



「・・・・・お前達か。入っていいいぞ。」



門には何重にもチェックする場所があり、通常はまず入れない。そして大勢いる男達は皆相当レベルが高かった。



皆、僕を見るとそのまま何も言わず素通りする。



僕達は中へ入ると、馬車に乗り込んだ。



館まで数キロあるのだ。



どんだけ広いんだよ。



暫く馬車を走らせると、大きな館が見えてきた。



僕達が館の前まで来ると、一人のスラっとした背の高い男性が出迎える。



「いらっしゃい。ゼロ。待ってましたよ。・・・・・イール様がお待ちです。どうぞこちらへ。」



「ハハハ。わざわざラフィットさんが出迎えなくてもいいのに。」



ラフィットは、大幹部、10本指の一人だ。



「フッ。君達には大いに助けられているからね。私が出迎えるのは当然だよ。」



歩きながらラフィットは言う。



大きな館を暫く歩くと、扉があり、そこに通される。



入ると、中央には大きなソファーがあり、そこに一人の若い女性と、対面には、一人の男性が。そしてその男性の後ろに男女二名が立っている。



男性の後ろに立っている男が僕達が入るのを見ると、嫌そうな顔をし、舌打ちをしながら言う。



「チッ!・・・・・何でお前が来るんだ。傭兵。」



「クリスト。彼らに失礼ですよ。」



座っている男性が諭す。



「久しぶりですねぇ。ゼロ。そしてエメさん。元気そうで何よりです。」



僕は座りながら挨拶をする。



「ジョアン。久しぶりだね。・・・・・ハハハ。クリストとミューズちゃんも元気そうだ。」



相変わらずクリストは僕に敵意むき出しだ。

ミューズちゃんはいつも通り静かだ。




・・・・・世界一の殺し屋。ジョアン=キング。

裏の世界で活動していると、たまに仕事でバッティングする事があった。



依頼主が違って目的が一緒な事はよくある事だ。



僕達の名前も有名になって、難易度が高い仕事が舞込んでくる事がよくある。



そういう仕事は多方面から依頼が出ている事が多く、ジョアンとはそんな依頼を取ったり取られたりの間柄だった。




「・・・・・でイール。今日は何で僕を呼んだの?依頼が終わったばかりなんだよね。」



数ある犯罪ギルドの中で、1つの大きな犯罪ギルドが潰され、今は世界で2大犯罪ギルドの一つと言われているギルド。【天使と悪魔】。


このギルドは、古くからある犯罪ギルドで、世界中の様々な裏の仕事を管理、運営している。


犯罪ギルドであっても、規律や仁義を重んじ、各国の法にはふれるが、人の道を踏み外す事はしない。場合によっては義賊の様な事をする事もある。


犯罪ギルドの中で、最大の構成員と拠点を誇っており、規模で言うなら世界最大の犯罪ギルドだった。



【天使と悪魔】は、世界各国で、”必要悪”として君臨していた。



その本拠地があるのが、世界最大の流通拠点である、ここ『ランス国』だった。



そして目の前で座っている若い女性が、

【天使と悪魔】第32代目、頭。

イール=サミュエルその人だ。



「フフフ。ごめんね。でも仕事があるなんていい事じゃない。」



イールは笑顔で答える。



「そりゃそうだけど・・・・・世界一の殺し屋さんと僕達を呼んだのは何で?」



「ええ。今回は貴方達に依頼しようと思って呼んだの。ちょっと他の者だと厳しい案件だから。」



「内容次第ですかねぇ。」



ジョアンが口を挟むと、イールは言う。



「内容は、革命組織【雷】(いかずち)のリーダーの暗殺と本拠地の壊滅。」



「革命組織?」



僕が言うと、イールが説明する。



革命組織【雷】は、世界で暗躍している過激派組織の一つ。



本拠地は魔導の国『シャーフラン』にあるのが分かったらしい。



最近は特に激しさを増し、様々な所で爆破や破壊、自爆テロを起こしているのだと言う。



・・・・・どこの世界でもいるのね。




「ちょっと最近、目に余る事が多くて。そろそろお仕置きしないとね。・・・・・どう?ジョアン。面白そうな案件だと思わない?」



座っているジョアンは少し考えた後、笑みを浮かべながら言う。



「そうですねぇ。となると、私の役目はリーダーの暗殺ですか?」



「ええ。世界一の殺し屋の貴方には【雷】のリーダーの暗殺を。そしてゼロ。貴方達にはその本拠地の壊滅をお願いしたいの。もちろん報酬は弾むわ。」



「・・・・・分かりました。お受けしましょう。」



ジョアンは答える。



「ゼロ。貴方は?」




・・・・・傭兵になって色々と依頼をこなしているが、僕にもこだわりがあって、自分が納得できる仕事しかしない事にしている。今回のは僕にはやる理由がないんだよなぁ。


ただ、魔導の国『シャーフラン』か。

この国は前のアルク帝国と同じで、他国との交流をしない国だ。中々入国する事が出来ない国で、僕が行った事がない国の一つだった。


もしかしたら【忘却の宝玉】の情報があるのかもしれない。



「う~ん。少しだけ時間をくれますか?」



「なんだと!ゼロ!!ジョアン様を待たせるなんて許さないからな!」



クリストが食ってかかる。



「クリスト、やめなさい。イール。私は時間には余裕がありますから、待ちますよ。」



「そう?助かるわ。他の傭兵だと貴方に負担がいってしまう可能性があるから、出来ればゼロにお願いしたいのよ。」




・・・・・【天使と悪魔】の頭からの依頼なんて滅多にない事だ。それだけ難易度は高いのだろう。

もうちょっと【雷】の事を調べてから判断しよう。





ドンッッッッッッッ!!!!!!!





僕達が立ち上がろうとすると、地響きが鳴った。




???




すると、幹部のラフィットが部屋に入って報告をする。



「イール様。今、首都で爆破がありました。同時に犯行声明が出てます。・・・・・【雷】による犯行です。」




僕は窓から外を見ると、煙が上がっている。




あの方角は・・・・・・。




「エメ。行くよ。・・・・・イール。

後で返事するから。」








そう言うと、僕達は部屋を後にした。














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