第107話 天界5



眩い光が収まると、横にいた分身体のエメリアルがいなくなっていた。



新しく貰った封印の剣は、封印していた剣を斬ると、砂の様に崩れ去っていった。




「かっ体が動く。・・・・・ハッ・・・・・アハハハハハハハハハハハハ!!!!」




封印が解かれ、白く大きな岩から抜け落ちたエメリアルは、両手を広げて大声で叫んだ。



目は海の様に青く。長い髪はとても綺麗な銀色。肌は透き通る様に白く、モデルの様な体形。白雪に引けを取らない程の美形な顔立ち。




そんな彼女が喜んでいる。・・・・・裸で。




「ちょ!!!なんで裸???」



僕は真っ赤になりながらツッコむ。




「ん?なんだ顔を赤くして。我の体に興奮したのか?お主が求めるなら抱かれてもよいぞ。」



「そうじゃありません!!!何か着てください!!!」



「まったく。久しぶりの開放感を味わっていたのに・・・・・。」



そう言うとエメリアルは何かを呟くと、分身体の時と同じ格好になった。




ふぅ。・・・・・助かった。マジで目に毒だよ。




「さて。これからこの空間から出ますけど、貴方は僕に倒された事にします。出たらこの空間をなくすことは出来ますか?」



「そんな事は簡単だ。出たら消滅させよう。」



「お願いします。後は、隠れてもらう事は?」




エメリアルは僕の後ろに回ると、背中から抱きしめる。すると同化するように僕の体の中に入っていった。



頭の中から声が聞こえる。




・・・・・お主は我の命を取り込んでいるからな。中に入る事も出来るのだ。・・・・・




凄いな。




「じゃ、出ますか!」




そう言うと僕は神殿を後にした。










☆☆☆










鳳凰の国『サクシアリ』の先にある何もない平原の真ん中に、大きな白い空間が広がっている。



その大きな白い空間の前には、天界の3人の王が立っていた。



そして空間の両側にある祠の様な物の所には、大勢の術者が呪文を唱えている。




「長いな・・・・・。」


カイシス王が呟く。



あの者が入って数時間は経っている。



中の様子が分からないから今どんな状態なのか・・・・・。もう少ししたら、部隊を突入させて報告させるか。




ズンッッッッッッッッ!!!!




そう思っていると、突然、地響きが鳴る。



「なっ!!!!!」



祠の前で唱えていた大勢の術者が慌てている。



「どうした!」



「ほっ祠が・・・・・。」



見ると、白い空間の両側にあった祠の様な物が砂の様に崩れていく。



「何だと?いったい何が・・・・・。」



カイシス王が驚いていると、隣にいる竜王が言う。



「おいカイシス。・・・・・あれを見ろ。」




崩れた祠から白い空間へ見直すと、白い空間から一人の青年が出てきた。・・・・・体中、血だらけで。




青年が出ると、大きな白い空間は徐々に小さくなっていき、消えていった。



天界の王3人は消えていく白い空間を見て唖然としていると、その青年がカイシス王に話しかける。



「・・・・・カイシス王。僕の事は分かりますか?」



「ああ。・・・・・君はレイ殿だね?我々だけは、把握しておかないといけないのでね、君を忘れても大丈夫なように手紙に事の成り行きを書いておいたのだ。」



「そうだったんですか。」



「それで・・・・・白いこの空間が消えてしまったが、結果は?封印できたのか?」



レイは笑顔で言う。



「封印は出来ませんでしたが・・・・・倒しちゃいました。」




「倒したぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?????」



三人の王は素っ頓狂な声をだした。






鳳凰の女王が、青年を魔法で治療しながら言う。



「確かに、白の空間が消えたのですから何かあったのでしょう。しかし、遥か昔、天界の王達がまとめてかかっても倒せず、やっと封印した古代人をレイ殿は一人で倒したというのか?」



「色々ありまして・・・・・。まぁ運が良かっただけですよ。」



すると、カイシス王が僕の前まで来て肩を掴んで言う。



「レイ殿。君のおかげでこの天界は救われた。エデン。テンペスト。サクシアリ。・・・・・天界で生きる全ての者を代表して言おう。・・・・・ありがとう!!!!!!」



「はい。」



僕は笑顔で答える。




カイシス王は片手を上げて叫ぶ。



「ここに!・・・・・レイ殿のおかげで、負の遺産は断たれた!!!!!」





ウォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!





王を含む、大勢の術者達がそれに呼応する。




「さぁ!レイ殿!城へ戻って祝杯をあげようぞ!」




僕は三人の王に聞く。




「先に聞きたいんですが、僕の事が分からなくなるのは、どこまで広がっているのですか?」



竜王が答える。



「レイよ。おそらく、天界、現界関係なく、全ての世界でお主の事は忘れられているはずだ。」



「そうですか・・・・・。」



僕はカイシス王に言う。



「お願いがあります。今回の件は、私がやった事ではなくて、白雪達、ホワイトフォックスがやった事にしてもらえますか?」



「!!!・・・・・良いのか?」



「ええ。あと、僕の事を知るのは、ここにいる人達だけにしてください。」



「仲間に事実は伝えないのか?」



「はい。」




・・・・・僕の事で仲間が苦しんでほしくないからね。




「僕はこのまま天界を去ります。出来ましたら祝杯はホワイトフォックスとお願いします。」



「・・・・・分かった。レイ殿がそれを望むならそうしよう。ただ、これだけは覚えておいて欲しい。レイ殿が何か困った事や助けが必要な時は必ず相談してくれ。我が国。・・・・・いや、この天界全ての者がレイ殿に力を貸す事を約束する!!!!!」






ウォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!






ここにいる全ての人達が僕に向かって大声で叫んだ。






僕は三人の王と握手をして別れた。




去り際に、鳳凰の女王が頭の中に直接話しかける。



・・・・・我が娘を育ててくれてありがとう。この恩は今回とは別で必ず返すわ。・・・・・



僕は振り返り、女王を見て笑顔で頷いた。







頭の中で無機質な声が響き渡る。



・・・・・天界を救い、〇〇〇の者を配下にしました。レベルが大幅に上がりました。・・・・・










☆☆☆










『天の塔』から現界へと降りて、僕一人、草原に立っている。



周りに誰もいないのを確認すると僕は言う。




「もういいですよ。」




すると、僕の中から一人の美しい女性が出てきた。



エメリアルは両手を広げて叫ぶ。





「外!外!外!外!外!!!何て!何て素晴らしいのだ!!!!!そしてここが・・・・・ここが現界!!!!!」





草原に立つエメリアルは、飛び跳ねながら喜んでいる。



数千年ぶりの外だ。



言葉では言い表せない程だろう。




僕はしばらく喜びが収まるまで待った。




暫く経つと、落ち着いたのか、エメリアルが僕に言う。



「そういえば、あの空間でお主が言っていた、400歳とはどういうことだ?お主はヒューマンだろう。確かヒューマンの寿命は良くて100歳だと思ったが。」



「ああ。その事。・・・・・前に突然光を浴びて、種族がハイヒューマンになっちゃったんですよね。」



「ハイヒューマン?????・・・・・フフフフフ・・・・・ハハハハハハハ!!!・・・・・なるほどな!納得したわ!!・・・・・・・あ奴の【選ばれし者】か。・・・・・フッ。皮肉よの。まぁこれも運命。・・・・・面白い。」



ん?最後の方は呟いたのか、よく聞き取れなかった。



「・・・・・さて、主よ!これからどうするのだ?」



「まず、その主というのはやめて欲しいな。主従関係もなしで。これから僕達は、対等の仲間でいきましょう。だから僕の事は【レイ】と呼んでください。

・・・・・貴方の事はそうだな・・・・・名前が長いから【エメ】と呼びますね。」



エメリアルはキョトンとしている。



「【エメ】か・・・・・面白い!よかろう!これからは我は【エメ】だ!お主の事はレイと呼ぼう!」



しかし、とても綺麗な女性なのに、その言葉使いは何とかならないものかねぇ。



僕は続ける。



「エメ。ちょっと聞きたいんだけど、あの空間にいたせいで、僕の出会った人達は僕の事を忘れてしまったらしいんだ。治す方法は知っているかな?」



「・・・・・あぁ。【忘却の宝玉】の事だな。我を封印した時に、天界の王達が使っているのを見たな。フム・・・・・元に戻す方法はないわけではないぞ。」



「本当に?!!!!」



「その【忘却の宝玉】を壊せばいいのだ。・・・・・確か、あの王達が去り際に天界に置いておくのは危険だからと、現界へどうとか聞いた様な気がしたな。」





・・・・・治るのか!!!!それを聞けただけでも、希望が見えてきた。・・・・・今後の目的は決まったな。





「ありがとう。エメ。その情報はとても助かったよ。・・・・・とりあえず今後の事は、帝都まで行ってから考えようか。」





僕達は帰還紙を使って帝都『アルク』へと飛んだ。






「モグモグモグ・・・・。これは旨いな!レイよ!旨いぞ!!」



「はいはい。」




帝都に着いて歩いていると、エメは路面店のいい匂いに誘われて、手当り次第に欲しがった。



まぁ~数千年もまともに食事が出来なかったのだ。感動も一押しだろう。



適当に美味しそうな物をエメに与えながら、目的地に着いた。




アルク帝国で僕が前からずっと使っていた信用できる情報屋だ。




この状況で僕の事は覚えてないだろうけど、ちゃんと情報料を払えば嘘をつかない人だ。会えるといいんだが・・・・・。



僕は食べるのに夢中になっているエメの手を引いて、裏路地にある『羊の森亭』へと入っていった。




入ると、アルク民の人達がお酒や食事を楽しんでいる。



僕達はそのまま奥の個室の前まで来ると、個室の前に立っている、いかつい大男に言う。



「・・・・・羊たちは眠る。」



それを聞いた大男は、黙って扉を開けた。



昔から使っている合言葉だ。



個室へと入ると、テーブルに一人の男が座ってお酒を飲んでいた。後ろにはボディーガードだろうか、二人の強そうな男が立っている。



僕達は男の前で座る。




「・・・・・初めて見る客だな。」



その男が言う。



「リトさんですよね。・・・・・ある人から教えてもらって来ました。この世界で5本の指に入る程の情報屋と聞いています。」



「そうか。・・・・・俺の顧客はそんなに多くない。・・・・・誰の紹介だ?」



「教えてもらった人を裏切る事は出来ませんので、それは教えられません。」




リトは思う。



・・・・・何だ?この男は。・・・・・初めて会ったが、何故か昔からの友人の様な感じがするのは・・・・・不思議な男だ。




「なるほどな。俺は、自分が気に入った者しか情報を提供しない。だから、顧客の紹介は受け付けないんだが・・・・・まぁいいだろう。今回は特別に聞こう。」



「!!! リト様!いいのですか?」



後ろにいる男達が驚いている。会った事もない客の依頼を聞くなど初めての事だったからだ。




「リトさん。ありがとうございます。」




今後、【忘却の宝玉】を探すにしても、まずは生活費を稼がないといけない。蓄えは冒険者の時のお金がそこそこあるが、そのお金は出来ればあまり使いたくない。


さて、どうすればいいか。・・・・・新しく冒険者として登録はしたくないな。・・・・・何か別の職をしながら探索が出来ないだろうか。




リトに相談してみた。




「ふぅん。冒険者にはなりたくないが、何か旅をしながらギルを稼ぎたいねぇ。・・・・・なら、傭兵はどうだ?」



「傭兵?」




魔物を倒したり、困った人を助けたり、クエストをこなしたりと、表で活躍する者を冒険者とすると、


警護やボディーガード、縄張り争いの手助けや戦争、汚い仕事もギル次第で何でもやる。


裏の世界で活躍している一つが傭兵だった。




「まぁ~簡単に言うと何でも屋だ。このアルク帝国は、ご存じの通り、冒険者は入国できないが、先の戦争の時もそうだが、傭兵は別だ。この国も傭兵は雇っている。俺は情報屋だが、色々とやっていてね。・・・・・傭兵の登録業務や斡旋も出来るがどうする?」




・・・・・傭兵か。傭兵なら冒険者と同じ様に、自由に自分の好きな依頼をこなせるし、世界を周る事も出来る。・・・・・丁度いいのかもしれないな。




「それでは、傭兵になりたいので登録をお願いできますか?」



「そうか。なら、俺が手続きを代行する代わりに1000万Gだ。」




1000万???たけぇな!!!・・・・・でも、リトは昔から嘘は言わない。提示した金額をちゃんと払えば、責任をもって最後まで面倒を見てくれる。そんな男だ。




僕は黙って1000万Gを机の上に置いた。




「・・・・・見ず知らずの男なのに疑わないんだな。」



「僕は、自分の目を信じてます。貴方の言葉に嘘はないと思いましたので払います。」



「ハハハハハ!!!お前面白いな!・・・・・気に入った!1000万Gに見合うだけの面倒はみよう。」



「お願いします。」




リトは、すぐに書類をだす。




「ここに名前と・・・・・二人組だな?ならパーティ名かコンビ名を書いてくれ。」



「名前・・・・・・。」




レイ=フォックスは、冒険者としてずっとやってきた名前だ。




今は違う。




これからは、裏の世界で傭兵としてやっていくんだ。




ならば・・・・・レイ・・・・・数字で言うなら0・・・・・。




僕は名前を書く。





【ゼロ】と。





そしてコンビ名を【シルバーアイ】とした。






「レイ!何だ【ゼロ】って?」




『羊の森亭』を出るとエメが面白そうに聞く。




「あぁ。今までの名前は皆の記憶を取り戻すまでは使いたくなくてね。・・・・・だから今日から僕は【ゼロ】だ。エメもそう呼んでくれ。」



「ハッハッハッ!面白い男だ。・・・・・よかろう。ならこれからはゼロと呼ぼうではないか。」



「あとエメ。君の魔法で僕の髪も君と同じ銀色に出来ないかな?」



「ん?そんなのは簡単だ。・・・・・ほれ。」



そう言って、僕の髪を触ると、髪がエメと同じ銀色になっていった。




「これでよし。さて・・・・・この世界で僕達を知っている人は、まだほとんどいない。・・・・・これから、【忘却の宝玉】を探しながら僕達の名前をこの世界に覚えてもらおうか!!!」






そう言うと、僕達は夜の街へと歩き出した。
















ここに一人の青年がいた。








その青年は、ある時は強大な魔物を倒し、ある時は国を救った。








同じプレイヤー達。現界や天界、そして海国でもその名前を知らない者はあまりいない。








その青年の名前はレイ=フォックス。










今は、その名前を知る者は誰もいない。










































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