第106話 天界4



神殿の中を暫く歩いているとそれはあった。




一番奥にそびえ立つ白く大きな岩。


そこに、複雑な模様が施された一本の剣が刺さっている。


そして体を埋め込まれ、上半身だけ見えているのは・・・・・一人の女性だった。




長い髪はとても綺麗な銀色。

容姿は白雪に引けを取らない程に美しかった。




僕はゆっくりとその女性に近づく。



!!?



背後から気配を感じ、すぐに前に飛びながら振り返り、剣を抜く。




ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン




ギリギリ間に合い、一刀を剣で防ぐ。



「・・・・・ほう。あれを躱すか。」



目は海の様に青く。長い髪はとても綺麗な銀色。肌は透き通る様に白く、モデルの様な体形。片手には自分の背と同じくらいの美しい長剣を持っている。



そこにいたのは、白く大きな岩に埋め込まれている女性と瓜二つだった。



「貴方は?」



「フム。・・・・・我の世界に入り込んだのは貴様だ。まずはそなたが名のるべきではないか?」



「確かにそうですね。失礼しました。

 僕はレイ=フォックスといいます。」



「レイか。・・・・・我の名は、エメリアル=ホワイト。ここへ何しに来たのだ?」



白い岩に埋め込まれている女性を見ながら言う。



「封印が弱まっていると聞いて、もう一度、封印をしにここへ来ました。」



エメリアルは、埋め込まれている女性を見て言う。



「そうか。・・・・・確かに、封印は弱まっているのだろう。力は半分くらいだが、我が分身を出せるのだからな。・・・・・で、我をどうするのだ?」



「天界の王達は、貴方がとても恨んでいて、出てきたら滅ぼされる可能性があると言っていました。

 僕はこの天界を気に入っています。滅ぼされる訳にはいかないので、貴方を封印します。」



「フッ。恨んでいる・・・・・か。まぁそんな事もあったが、とうの昔にそんな気持ちも失せたわ。・・・・・だが、我を封印するか。貴様にそれが出来るか?」




白いオーラが出る。




僕は天眼を使って彼女を見た。




エメリアル=ホワイト レベル ???




・・・・・マジか。僕も結構レベルが高くなっているのに、分からないって、どんだけ高いんだよ。




彼女はゆっくりと長剣を構える。



「久しぶりに体を動かせるのだ。簡単に死んでくれるなよ。」




フッ




ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン




一瞬、体が揺れたと思ったら、あっという間に間合いを詰めて攻撃してきた。




速い!!!




キィン!キィン!キィン!キィン!キィン!



キィン!キィン!キィン!キィン!キィン!



キィィィィィィィン!!!



ザァァァァァァァァァァァァ




剣撃の最後の一刀を、剣の圧力に逆らわなない様に後ろへと飛ぶ。



僕の体の所々に薄く切り傷がつき、血がにじむ。




・・・・・速いな。おそらくまだ本気じゃないのにこの速さか。しかもあの長剣。リーチが長いから間合いに入りずらい。長剣であの剣速は反則だろ。




「・・・・・防いだか。では次行くぞ!」




ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!



ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!



ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!




更にギアを上げたエメリアルの剣撃を受け流しながら大振りを待つ。



そして、何撃目かでエメリアルは中段から上段へと構えを移す。




ここ!




僕は一刀を入れようと、一歩踏み込んだその瞬間。




ヒュッ!!!




ギィィィィィィィィィィィィィィィィィン!!!




ドンッッッ!!!




エメリアルの剣が床へと刺さり、石が飛び散る。




バッ!




すぐに後ろへと僕は下がる。




…感だった。




一歩踏み込んだ僕の頭上に、上段の構えに移したエメリアルの一刀が、ありえない速度で振り下ろされたのだ。



一刀を入れようとした僕は、そのまま流れる様に剣を頭上へと移し、その一刀をギリギリ流した。




速すぎる!!!




全然見えなかった!!!




「・・・・・こりゃヤバいな。」



僕は彼女が床に刺さった剣を抜くのを見ながら呟く。




するとエメリアルは楽しそうに言う。



「お前・・・・・何者だ?力が半分とはいえ、我の剣をここまで防いだのはお前が初めてだ。・・・・・しかも天界人ではなく現界のヒューマンだと?

・・・・・ハハハハハハ!面白い!

いいぞ・・・・ならば本気で戦ってやろうではないか!」



「ハハハ。出来れば遠慮してもらいたいんですがね。」



僕は封印している彼女本体を見る。



彼女の攻撃の隙をついて、本体のどこでもいいから封印の剣を突き刺す事が出来ればと思ったが、とてもじゃないが無理だ。




・・・・・今の僕では普通にやったら勝てないな。・・・・・仕方ない。




僕は、ゆっくりと構え、防御姿勢を取る。




「ゆくぞ!!!」




ドンッッッッッッッッッ!!!




エメリアルは一気に間合いを詰める。






「・・・・・カウンター。」






僕は小さく呟いた。










☆☆☆










ババババババババババババババッ!!



ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!ザシュ!!



ババババババババババババババッ!!



ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!ザシュ!!



ババババババババババババババッ!!



ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!ザシュ!!




・・・・・こやつ・・・・・何なのだ?




エメリアルは戦いながら思う。



5分?10分?いやそれ以上か?



いったいどの位の時間が経ったのだろうか。



上段からの一刀をギリギリで防いだのを見て、青年の大体の実力は分かった。本気でいけば、まずついてこれないだろうと。



力が半分でも、目の前の青年より遥かにレベルが高いからだ。



しかし・・・・・これは一体何だ?



ギヤを上げて斬りこむ剣を、その青年は嘲笑うかのように躱すのだ。



しかも、躱すと同時に合わせる様に一刀を入れてくる。



エメリアルがいくら身体能力が高くても、斬り込んだと同時に来る攻撃を全部かわすことは出来なかった。



エメリアルの白く美しい体に細かい切り傷が増え、赤い鮮血が舞う。



青年も、速い剣撃に合わせる為なのか、致命傷にならない程度に斬られながら攻撃をしている為、同じように赤い鮮血が舞っている。




何故だ?・・・・ありえん!!!




「シッ!」



今までで一番速い上段の剣を振り下ろす。




斬った!!!




その青年の頭上に振り下ろされた剣は、体を真っ二つに斬りさく・・・・・様に見える程の速さで半身を下げながら右によけ、さける。




ザンッッッッッッ!!!!




同時に横からの一刀を入れる。




後ろへと飛んだエメリアルは、斬られたお腹を押さえる。




手には血がにじんでいた。




斬ったと思った渾身の一刀を避けられ、合わせる様に一刀を入れてきた攻撃に反応が遅れたのだ。




「・・・・・貴様。」




「ブハァァァァァァァ!!!!」



僕は大きく息を吐き、片膝を床に付ける。




フゥゥゥゥゥゥゥゥ。

何とか今回は意識を保てた。

・・・・・毎回、このスキルを発動すると、体を酷使するので意識が飛んでいた。


でも、僕自身レベルが高くなって身体能力が上がったおかげか、体はスキルに任せたが、目で追う事が出来た。


初めて意識が飛ばないで自分の動きを見たけど・・・・・うん。無理。



同じ動きは絶対に出来ないな。



スキルさまさまだった。



僕は相手を見ながら、ゆっくりと立ち上がる。



最後の一刀は、致命傷ではないにしろ、結構深く入った。



僕の体は全身傷だらけだ。



戦いはまだ終わっていない。

・・・・・僕は体が壊れてもスキルを発動させる。・・・・・何度でも。

・・・・・ラフィンやカイトの故郷を守る為に。




ブワァッッッッッ!!!!!!!




暫く動かなかったエメリアルは、今まで見た事のない、とてつもなく大きなオーラを出す。



なっ!!!

・・・・・まだ全開じゃなかったのか?

・・・・・これはまずいな。

勝てる気がしない。・・・・・でも!!!




エメリアルは構えている僕の方を見ると突然笑い出した。




「フフフフフフ

 ・・・・アッハッハッハ!!

 ・・・・・見事!

 この我とここまで戦えた者はお主が初めて   だ!!!」



そう言うと、長剣を地面に刺す。



僕はそれを見て、剣を収めながら言う。



「・・・・・諦めて、封印させてくれるという事ですか?」



「フム。・・・・・それなのだがな。・・・・・我に提案があるのだが。」



「提案?」




・・・・・というか、こんなに綺麗な女性が、なぜ男みたいな言葉使いなのかが気になるわ。違和感ありすぎだよ。




エメリアルは封印されている本体へと近づくと、手を本体の胸の中へと入れる。



その手を引き出すと、手には真っ赤な液体が入った瓶を握っていた。



そして僕の方へと歩き、その瓶を僕に手渡す。




「お主にこれをやろう。」



???



その瓶を受け取って見ると表示される。




【エメリアル=ホワイトの命】 


これを飲むと、エメリアル=ホワイトの主となる。飲んだ者が死んだ場合は、エメリアル=ホワイトも絶命する。そして主の命令は絶対である。




「???・・・・・何ですかこれは???」



エメリアルは話始めた。




「・・・・・我はな。数千年この空間の中で一人で動けずに生きてきた。それがどんな事かお主には分かるか?・・・・・死よりも苦痛だったのだ。

何度自害しようと思った事か。

・・・・・最初は、我を封印した恨みで生きようと思っていたが、そんな恨みはいつしか薄れてしまってな。

それからは・・・・・・一度でいい。一度でいいから、この空間から出て、外の空気を吸いたい。

人と話したい。・・・・・それが生きがいになったのだ。だから・・・・・。」



エメリアルは、深々と頭を下げる。



「我を開放するというのは危険で出来ないのは分かる!だから頼む!!!我の命をお主に捧げよう!

どうか・・・・どうか!封印するのではなく、一緒に連れて行ってはくれぬか?それが無理なら・・・・もう疲れたのだ。・・・・・ここで殺して欲しい。」




「・・・・・。」



僕は黙って聞きながら、赤い瓶を見る。




何千年もの間、一人で何もできずに生きてきた彼女の苦痛は、考えただけでも想像を絶する。



だからといって、あまりにも強大な者を開放するには危険すぎる。



何も方法がなければ、いくらこの話を聞いたとしても、僕は封印しただろう。でも・・・・・・



「・・・・・エメリアルさん。いいんですか?これを僕が飲むという事は、僕が貴方の命を握るという事です。しかも、僕が死んだら貴方も死ぬ。死なないで、どんなに長生きしたとしてもあと400年位です。永遠に生きられていたであろう貴方がそれでいいんですか?」



「フッ。・・・・・こんな所で永遠に生きてられんよ。この空間から出られるのなら、1日で死んだとしても、我は満足だよ。」




それを聞いた僕は赤い瓶を開けると、迷わず一気に飲み干す。




!!!!!




「お主・・・・・。」




【エメリアル=ホワイトの主】




ステータスを見ると、スキル欄に、新しく追加されていた。




僕はエメリアルを見て言う。




「貴方を開放します。」



「・・・・・いいのか?」



僕は笑顔で答える。



「僕は、自分の目を信じてます。

 ・・・・・だから貴方を信じます。

 ・・・・・それだけですよ。」



エメリアルの美しい目に、一粒の涙がこぼれた。



「さて。・・・・・それでは、どうやって封印を解けばいいんですか?」



「あっ、ああ・・・・・お主は、我を再度封印するのに何か持ってきてはいないのか?」



僕は、空間収納から、封印の剣を取り出した。



「これの事ですか?」



「ああ。それだ。既に我に刺さっている剣に、その剣をぶつけるのだ。」




なるほどね。同じ威力の封印の剣をぶつけて相殺するという事ね。



僕は、エメリアル本体の方へと歩むと、目の前で止まり、刺さっている剣に向かって、封印の剣を斬り込んだ。






ザンッッッッッッ!!!!!!!!!



カッッッッッッッッ!!!!!!!










当たった瞬間。辺り一面、眩い光に包まれた。




























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