第6章

第101話 卒業




男が1人、椅子に座っていた。





見た目は若く、30代前半に見える。



そして、その後ろには執事らしい格好の男が目の前の主を見守る様に立っていた。



はたから見れば、貴族らしい男が執事を連れて誰かを待っている様に見えるが、状況が明らかに違っていた。



男が座っているそこには、部屋でも、

ましてや応接室でもなかった。




周りは真っ暗な闇。




所々に小さな光が輝いている。

・・・・・そう。

まるで宇宙にいるかの様な光景だった。



男が座っている足元には大きな星がある。

青く、地球の様な星だ。




「あら。相変わらず早いのね。

セービット。・・・・・お久しぶりね、メレン。

数十年ぶりかしら。」



その男の目の前にある椅子に、ケイトは座りながら笑顔で言う。



すると、メレンと呼ばれた執事の様な男が答える。



「お久しぶりでございます。ケイト様。・・・・・そして、ロイージェ。お互い無事で何よりだ。」



ケイトの後ろに付き従っているロイージェが笑顔で頷く。



「・・・・・それで、セービット。

 最後の【生き残り】は見つかったの?」



「あぁ。君に連絡した通りだ。ケイト。」



「そう。・・・・・やっとね。何千年かかったかしら。これで私達の目的の一つは達成したわね。」



「そうだな。・・・・・ただ、ひとつ問題があってね。」



「問題と言うと?」



「この最後の【生き残り】なんだが・・・・・。少々気性が荒くてね。他の種族と共存が難しいかもしれないんだ。」



「フフフ。いいんじゃない?とりあえずは私達の『THE WORLD OF TRUTH』へ入れましょう。私が最近連れてきた者達が、何とかしてくれるでしょう。」



「ほう。今回は随分と入れ込んでいるようだね。」



「そうなの。連れてきた中にお気に入りの子がいてね。その子の成長を見てるのが楽しくて楽しくて。」



「ハッハッハッハ!ケイトにそこまで言わせる者が現れるとはね。・・・・・分かった。それでは、最後の【生き残り】を機を見て転移させよう。」



ケイトは座りながら、足元の星を優しそうな目で眺めながら言う。



「目的は一つ達成したわ。私達には時間と言う概念があまりないから、ゆっくりとこの状況を観察しましょう。・・・・・【管理者】としてね。」






ケイトとセービット、その執事達四人を包む空間は徐々に消えていき、最後は真っ暗な宇宙だけが残った。










☆☆☆










「ふぅ。久しぶりに来たなぁ。」




僕はこの都市に入る門を見上げながら呟いた。



ここは、この世界唯一の中立国『ピリカ』にある学園都市『カラリナ』。その入り口に僕はいた。



門からは、続々と生徒達が出てきて親御さん達と抱き合ったり、談笑したりしている。



今日は、この学園都市で学んでいた妹のカザミの卒業式だった。



彼女は1年生から入学して、5年間ちゃんと学び通し、無事、今日卒業を迎えた。



感謝の意味を込めて、親しくなった人達と一緒にバカンスをしてから、数年の時が経っていた。



卒業する妹は19歳で、僕は21歳だ。・・・・・ただ、僕達パーティは周りから、2年前の外見から見た目が止まっているんじゃないかと言われている。



そうなんだよなぁ。あまり見た目が前に比べて変わっていないのだ。皆。



【ハイ】が付く種族になって寿命が延びたのが影響しているのだろうか。



この学園長、伝説の冒険者の一人と言われているハイヒューマンのリーネさんは見た目はとても若く見える。・・・・・おそらくジョイルさんとあまり変わらないから400歳はいっているのにね。




「お兄ちゃん!!!」




そんな事を考えていると、妹が大声を上げて門から出てきた。



飛びつく妹を僕は抱きしめる。



「ハハハッ!お疲れさん。よく頑張ったな。

 この世界の事はちゃんと学べたか?」



「うん!バッチリ学べたよ!お兄ちゃんが、大学の時もそうだし、今回もちゃんと学費の面倒を見てくれたからね。・・・・・ありがとう。

お兄ちゃん。」



「何言ってるんだ?そんなのは当たり前だろ。

 お前の兄なんだから。」



「うん。・・・・・でも、ありがとう。」



「ああ。・・・・・まぁ、とりあえずは近くのお店でお茶でもしようか。」




僕は妹と近くの喫茶店ぽい所で、お茶をする事にした。




「でも、珍しいね。白雪さんがいないなんて。」



カザミは注文したアイスを食べながら言う。



「ハハハ。」



そう。


今日は珍しく女性陣が一緒に行くとは言わなかったのだ。おそらく気を遣ってくれたのだろう。



「・・・・・で?カザミは卒業してこれからどうしたい?」



「うん。その事なんだけど・・・・・。」




カザミは決めていた。



これからどうしたいのか。



アルク帝国で英雄として国民に慕われているお兄ちゃんの所で一緒に住めば、おそらく職も生活も不便しないだろう。



でも・・・・・・。



「お兄ちゃん。私ね。アルメリア国に住みたいの。だから、そこで仕事も探そうかと思うんだけど・・・・・ダメかな?」



レイは少し驚いたが、嬉しそうに笑顔を見せる。



「そうか。・・・・・・・本気なんだな?」



「うん!」



「分かった。じゃ、とりあえず行こうか。」



飲みかけのカップをテーブルに置くと、席を立つ。



「えっ?どこへ?」



カザミは一緒に外にでると、レイはカザミの手をとって帰還紙を使った。






シュン。






「ここは・・・・・?」



今まで人が大勢いた街並みとはうって変わって、

とても静かな場所だった。



周りは木々に包まれ、鳥の鳴き声が聞こえる。



そして目の前には、大きな館が一軒建っていた。



「ここはね、『アルメリア国』の首都【キルギス】のはずれにある屋敷さ。前にここの王、ヒートメア王に褒賞としてこの家を貰ってね。

 僕達は冒険者だから中々この家を使う事がないんだ。アルク帝国に自分の家もあるしね。

だから、カザミ。君にこの家をあげるよ。」



「えぇぇぇぇぇぇぇぇ???いや!

ダメだよお兄ちゃん。流石にこれは貰えないよ!」



カザミは唖然としながら答える。



レイはカザミの頭を撫でながら言う。



「いいかい?僕は兄だ。妹には苦労をさせたくないんだよ。僕のわがままだと思って受け取ってくれないか?」




・・・・・兄はとても優しいが、一つだけ譲らない頑固な所があった。それは私が絡んだ事になると無理をする事だ。私は親の顔も知らない。兄が親であり、兄妹だったから。


だからこそ、私が早く幸せになったのを見せて、兄を安心させたかった。




「・・・・・うん。分かった。それじゃ、遠慮なく貰うね!」



「ああ。」



言いながら、屋敷の中へと入ると、中はとても綺麗で、ちゃんと掃除がされていた。



定期的にお手伝いさんが来て、掃除をしてくれていたのだそうだ。



今後は、執事やメイドを頼む様な事を兄が言ったのだが、それは断った。家を貰っただけで十分だ。



「う~ん。ただ、女の子一人というのはちょっとなぁ・・・・・。」



そう言うと兄は、胸のポケットから顔を出している小さな鳥を出して、地面へと置く。




ボンッ!




すると、そこには一人の少女が現れた。



黒髪で、目は赤い。とても可愛らしい女の子だった。



兄がその女の子に言う。



「クロ。僕からのお願いだ。暫くは妹と一緒に住んで、何かあったら守ってくれないか?」



するとその女の子は悲しそうな顔で言う。



「えっ?ご主人様は僕を捨てるの?」



兄は笑顔で答える。



「ハハハ。違うよ。捨てるわけないじゃないか。僕はね、クロを信頼しているんだ。僕の大事な妹を任せられるのはクロしかいないと思ったから頼んでるんだよ。

 もちろん、クロには【心の腕輪】と【帰還紙】をあげるからいつでも話が出来るし、会いにも来れる。僕も定期的に遊びに来るよ。

・・・・・だから、お願いできないかな?」



「・・・・・分かった!ご主人様の大事な妹を守る!だから安心して!」



笑顔で言うクロの頭を兄は撫でながら私の方を見る。



「・・・・・という事だ。この子が、今日からカザミのボディーガードだ。」



何か勝手にどんどん話が進んでいるんだけど・・・・・お兄ちゃんには逆らえないなぁ。



「それじゃ、クロちゃん?これからよろしくお願いします。」



カザミがクロと握手をしようとすると、クロはカザミに飛びつく。



「わっ!」



「うん!よろしく!カザミは僕が絶対守るね!!!」






その日は、近くの料理屋で3人でゆっくりと食事をしてから、兄とは別れた。



屋敷の外で兄を見送りながらカザミは思う。




・・・・・家も、当面の生活費も貰ってしまった。クロちゃんのボディーガード付きで。早く私も自立出来る様に頑張らないと。


そして、友達のココに、王族や貴族、しきたりや振る舞い、色々と聞かなくちゃね。

・・・・・彼氏に相応しい女性になる為に。




まさかヒッくん(ヒッキ)が、アルメリアの王子様なんて夢にも思わなかった。



でも、私はそんなのは関係ない。たまたま好きになった人の生まれが王族だっただけ。



周りが、世間が許されないのなら、許される様になればいいだけの事。




「さぁ!クロちゃん!今日はゆっくり休んで、明日から色々と頑張りましょう!」



「うん!」



カザミはクロと手をつないで家へと入っていった。










☆☆☆










「ねぇレイ。何で呼ばれたの?」



白雪が言う。



「う~ん。思い当たる節がないんだよなぁ。」



今、僕達【ホワイトフォックス】は、アルク帝国の城へ来ていた。



皇帝に呼ばれたからだ。



僕達は、SSS級冒険者になって、世界の様々な依頼やクエストをしてきた。おかげで、パーティ名は世界で結構、知られる様になっている。



今回もクエストを終えて、家へと帰った所に、

皇帝の使者が尋ねにきたのだ。




謁見の間に通されると、皇帝が玉座に座っている。隣には、皇妃が、そしてアイリやクリスもいる。




僕達は、皇帝の前まで行くと、片膝をつき、頭を垂れる。



「ガイルズ皇帝。お久しぶりです。シャーリー皇妃もお元気そうで何よりです。」



「うむ。レイ殿とは、あのバカンス以来だな。中々顔を見せてくれなくて寂しかったぞ。」



「そうね。たまにはこの国に帰って来た時に、顔を出してくれないかしら。」



皇帝と皇妃が笑顔で言う。



「はい。分かりました。今後は遠慮なくお伺いしますね。」



「そうしてくれ。・・・・・・・所で、今日はレイ殿に頼み事があって呼んだのだ。」



「頼み事ですか?」



「ああ。」




皇帝の頼み事?




何だ?




流石に構えるわ。




僕は緊張した面持ちで言う。




「その・・・・・頼み事とは?」




すると、アイリが片膝を付いている僕の前へと歩き、隣まで来ると、同じように片膝をついた。



それを眺めていたガイルズ皇帝が言う。



「本日、アイリ=レンベルは皇女の立場を辞めてもらった。・・・・・レイ殿。アイリを【ホワイトフォックス】の仲間に入れてくれないか?」













「・・・・はい??????????????」






























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