第87話 海国




「レイさん!・・・・・会いたかった!!!」





ミーシャは僕に抱きついて顔をスリスリしている。





「ハハハハハ。ミーシャ。久しぶり。」





胸がダイレクトに当たってますよ~。胸が!!!





僕は、人魚のミーシャと久しぶりに会った。



前に、未踏破ダンジョン『ミラー海の洞窟』の中に囚われていた所を助けた時以来だ。



その時、ミーシャと別れ際にこの笛を貰ったのだ。



この笛を吹くと、どんなに遠くに離れていても、

人魚だけがその音色を聞きとれる事が出来る。



渡したのは僕だけみたいなので、笛の音が聞こえた時にすぐに僕だと分かり、仲間を連れて来てくれたのだ。





我慢できなくなったのか、黙って見ていた白雪が、抱き着くミーシャを僕から離すと、僕の方をジト目で見る。





ハハハハハ。もうしばらく堪能しようとしてたなんて思ってないよ?





すると、海に戻ったミーシャが話す。



「レイさん!所でどうしたんですか?

 私を呼んで。」



「あぁ。そうだった。ちょっとミーシャに聞きたい事があって呼んだんだ。」



「えっ!そうなんですか?・・・・・それじゃ、

私の国に来ませんか?いつかお礼をしようと思っていたんですよ!!!その時に分かる事ならお答えします!」






えっ? 海国に行けるの? まじで???

もの凄く興味があるんだけど。






「でも・・・・・僕達は海に入ったら息が出来ないからなぁ。」



「フフフ。大丈夫ですよ。・・・・・さっ!皆!」



ミーシャがそう言うと、他の人魚達が、

仲間一人一人にペンダントをかけはじめた。



ミーシャは僕に、同じ様なペンダントを首にかけながら言う。




「これはですね。私達の国にある秘宝の一つ。

【神海の息吹】という物です。これがあれば、海中だろうが、どこだろうが、快適に呼吸が出来ますよ。」





まじか!!!


それは凄いな!!!


こんなアイテムがあるんだ。

・・・・・これはかなりのレアアイテムだろう。





「そんな貴重な物・・・・・借りていいの?」




仲間を含めて5個借りた事になる。




「はい!レイさんは私の命の恩人なんですよ?国の秘宝の一つや二つ。・・・・・全然足りませんよ!」



「ハハハ。ありがとう。それじゃ遠慮なく使うね。・・・・・これなら、君の国へお呼ばれできるかな。」



「ええ!・・・・・さっ!行きましょう!!!・・・・・皆もお客様を連れて付いてきてね!!!」



「はい。王女様。」





すると、ミーシャは僕の手を取ると、海の中へと入っていった。





ん?????


王女様?????





今さらながら、そのフレーズが引っ掛かったが、海に入ると、すぐに海の光景を見て忘れてしまった。










☆☆☆










海の中をミーシャと手を握りながら泳いでいる。





・・・・・凄い。



・・・・・凄いとしか言いようがなかった。





太陽の光を浴びた海中は、様々な魚が泳いでいて、とても美しく、神秘的だった。



地球の時に一度だけ、会社の旅行でスキューバダイビングをやった事があったのだが・・・・・そんなレベルではなかった。



酸素ボンベもスイムウェアもない、そのままの姿で息が出来る快適さ。そして魚の様な速さで泳いでいる光景。



まるで自分が魚になったみたいな感覚だった。



僕は手を握りながら、その光景に感動しながら、

黙って息をのんで見ていた。



手を引きながら泳いでいるミーシャは僕が海の中を見とれているのを見ると、嬉しそうに話しかける。





「へへへへへ。どうです?レイさん。

凄いでしょう!・・・・・これが海の世界です!」





あっ。そうか。普通に喋れるんだ。





「ああ。こんな光景、生まれて初めて見たよ。

ミーシャ・・・・・ありがとう。

こんな光景を見れただけでも僕は満足だよ。」






おそらく、この世界で息をしながら海中へ入って、人魚と一緒に泳いだ冒険者はいるのだろうか。





初めての光景・・・・・初めての感動・・・・・これだよ・・・・・こういう冒険がしたかったんだよね!!!





僕は後ろを見ると、仲間達も僕と同じように

目をキラキラさせながら、海中を見ていた。





「さぁ!海の中は楽しんでもらえましたか?私の国はもうしばらく先なので、そろそろスピードを上げますよ!!!」



「ほえっ???」






グンッッッッッッッッ!!!!!





そう言うと、ミーシャは泳ぐ速度を一気に上げた。







「ノォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!」






言葉にならない僕の声が響き渡った。










☆☆☆










「ほわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



僕は思わず感嘆の声をあげる。



あれから数時間かけて着いたそこは真っ暗な海底に一際輝いている街や城だった。



街全体の灯りを照らすように、凄い数の大きなあんこうみたいな魚が、頭に付いている丸い電球みたいな物で照らしながら泳いでいる。



そして、街や城の所々に生えている大量の珊瑚も光っていて、その場所だけ別の空間みたいな感じに思えた。



ミーシャに手を引かれながら、海底の街をゆっくりと泳ぎながら奥にある城へと向かって行く。



行きかう人々は、人魚や魚だらけだ。





こんなに大勢の人魚がいるとは思わなかったわ。・・・・・凄いな!!!





皆、僕達を興味津々に見ている。



ハハハ。そりゃそうか。お互い様だ。



そんな美しい街並みを堪能しながら、

城へと僕達は入っていった。



するとミーシャが城の入口で僕を降ろす。




「さっ!レイさん。着きましたよ。

 私達、人魚の国へようこそ!」




ミーシャを筆頭に、仲間達を連れてきた他の人魚達も一緒にお辞儀をする。




「招待してくれてありがとう。ミーシャ。」




僕もお礼を言う。




「それでは、まずはお母様。・・・・・私達の女王様に会っていただきます。どうぞ後へ付いてきてください!」



僕達は、ミーシャの後へとついて行った。



まさしくおとぎ話に出てくるような竜宮城の様な城を泳いでいると、奥にとても大きな扉があり、門番だろうか、二人の槍を携えた人魚が

ミーシャを見ると、会釈をし、扉を開ける。





そこは、地上にある城の謁見の間と同じ位、

大きな空間だった。





見たことのない様々な珊瑚が絵画の様に飾られ、中央のこれまた珊瑚で作られたであろう玉座に、

一回り大きな、美しい人魚が座っていた。




僕達は、王座の前まで来ると、片膝をついて、頭を垂れた。



するとミーシャが王座に座っている人魚に言う。



「お母様。この人が私を助けてくれたレイよ!!!」



僕は頭を垂れながら、挨拶をする。



「・・・・・お初にお目にかかります、女王様。

僕は、地上で冒険者をやっているレイ=フォックスといいます。そして後ろに居るのは僕の仲間達です。」





すると女王は優しい声で話す。





「そうですか。貴方がレイね。頭を上げてください。・・・・・私はミラクリアといいます。

 ずっとお礼を言いたかったのよ。・・・・・私の娘を助けてくれて本当にありがとう。

何かお礼をしないといけないわね。」



「いえ。お気になさらないでください。

 僕が助けたかっただけですから。」



「フフフ。無欲なのね。・・・・・でも、それでは私の気が済まないわ。何か欲しい物はない?」



う~ん。これでまた何もいらないと言ったら、それはそれで失礼にあたるな。



「・・・・・それでは僕がここへ来るときにミーシャが付けてくれた、【神海の息吹】を頂けないでしょうか。これがあれば、海の中で息ができるので大変感動しました!」



「えっ?それでいいのですか?・・・・・それは、最初から貴方達にあげるつもりだったのよ。」



「いえ!国の秘宝を頂けただけで十分です!

 ありがとうございます!」





やった!!!

このアイテムが貰えたのは大きい!!!

これからの冒険の幅も広がるもんね!!!






あっ。・・・・・そうだ。

大事な事を聞かないと。






「あの・・・・・僕がここへ来たのは、実はある物を探してまして・・・・・もし知っていたら教えてほしいのですが。」



「ええ。私が知っている事ならお教えしますわ。」




僕は、【水神の花】の特徴が書いてある紙を渡し、この花を探している事を話した。



それを見た女王ミラクリアは言う。



「この花ですか?・・・・・この花ならいくらでもありますよ?」








「・・・・・はっ???????」










☆☆☆










この花は、深海にある一定の場所でないと咲かない花なのだそうだ。



そして、この花の咲く場所は、この人魚の国でしか咲かない。



女王は、側近達に合図をすると、すぐに、その花を持ってきてくれた。・・・・・大量に。






まじか。






随分と簡単に手に入れてしまった。





「こんなに頂いてありが・・・・・。」



僕が女王にお礼を言おうとした時だった。



後ろにある大きな扉が勢いよく開くと、この国の兵士だろうか、上半身鎧を着た人魚が素早く僕の隣へと移動すると、頭を垂れながら報告をする。



「謁見中失礼します!!!

只今、連絡係によると、あの海国王が、

兵を連れて国を離れたそうです!!!」





!!!!!





女王はその報告を聞くと、勢いよく立ち上がる。



「・・・・・そう。報告ありがとう。

 すぐに、準備を進めてちょうだい。」



「はい!」



そう言うと、その兵士はすぐさま部屋を後にした。





僕達は、ゆっくりと立ち上がると女王に聞く。



「女王様。一体何があったんですか?」




ミラクリアは、娘のミーシャを見ると、

ミーシャが頷く。



「・・・・・そうね。お答えしましょう。」






そう言うと、女王ミラクリアは、

この海の世界の事を教えてくれた。








この世界には、円の様に陸があり、

内海。・・・・・そして外海がある。



そして外海には、海の者が生きる世界があった。





その名も『海国』。





『海国』には、4つの海で成り立っていて、

それぞれの海には支配する種族がいた。



北の海【ジキル海】を支配している海国人。



東の海【マイル海】を支配している魚人族。



南の海【ミラー海】を支配している魚人族。



西の海【アイラ海】を支配している人魚。





そして、ずっと戦乱続きだったこの『海国』も

近年終わりを迎えた。



海国人が東の海の魚人族を倒し、

そして、人魚が・・・・・僕達が南の海の魚人族を倒し、今は、2つの種族が支配する世界となっていた。





北東の海を支配する海国人。



南西の海を支配する人魚。





この二つに。





そして、今、報告によると、

海国人が陸地の北東の国を攻めると情報がはいったのだ。



攻めて自国が手薄な所を見計らって、捕らえられた者を救出するつもりなのだとか。




それを聞いた僕は話す。



「・・・・・という事は、戦争をしに行くのではなくて、救出に向かうという事ですか?」



するとミーシャが言う。



「レイ。私達は争いごとなんてしたくないのよ。ただ、自分達の国を守りたいだけ。・・・・・そして、妹を助けたいだけなの。」





えっ?





「囚われている人って・・・・・。」



すると女王ミラクリアが言う。










「私の娘。そしてミーシャの妹、サリュウよ。」
























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