第88話 海国2
「バルバロンよ。何て事をしてくれたのだ・・・・・。」
『オロプス』の王、レギアス=バインが言う。
ここは、4大国の1つ『オロプス』にある
首都『サイン』の中央にある王城の謁見の間。
そこには、この国を治めている重要人物が全て集まっていた。
王を筆頭に、フォーフェン家の主、バルバロン=フォーフェンとその妻ヨランダ。
他6つの【7大貴族】の主達。
そして、トップクランの【ヒート】、
【アークス】、【レッドパワー】、【流星】、
【たぬき】のクランマスターがいた。
中央に、片膝をついて、今にも泣きだしそうな
ヨランダが言う。
「こっ、この度は、すっ、すみませんでした!!!まさか、あのホワイトフォックスのリーダーだなんて思わなくて・・・・・。」
「ここにいる皆には、情報を共有しただろう。我々は政治や経済を任されている身。だからこそ、国民の為、外から来るお客様の為に尽くさなければいけないのではないか?」
【7大貴族】の一つ、
ブローネ家のキム=ブローネが言う。
「そっそれは、もちろん存じ上げてましたわ。でも、彼らはいつも仮面を被っているのよ。素顔で来られたら分かりませんわ・・・・。」
ヨランダが言い訳を言うと、キムが怒鳴る。
「そう言う事を言っているんじゃない!!!貴方がもっとちゃんと対応していれば、こんな事にはならなかったと言っているんだ!!!」
「ヒッ!」
レギアス王は、無言で手で言い争いを収めると、
皆に言う。
「今、話していても仕方がない。・・・・・とりあえずはお呼びしてから決めようではないか。」
そう言うと、扉にいる兵士をみて頷くと、
兵士は扉を開ける。
すると、数人の紳士達が中へと入ってきた。・・・・・アルク帝国大使のミリアム達だった。
ミリアム達は、レギアス王の前まで来ると、片膝をつき、頭を垂れる。
「お久しぶりでございます。レギアス王。この度は謁見の許可を頂き、ありがとうございます。」
「うむ。・・・・・して、アルク帝国の皇帝は何と?」
「我が皇帝ガイルズ=レンベルに報告した所・・・・・・・私はここへ来るまでは、ずっとお傍でお仕えしていましたが・・・・・・・今まで見たことがない程にお怒りになりました。
あの『ギリア国』との戦争を決断した以上に。」
ザワッッッッッッッ!!!!!
レギアス王や【7大貴族】達が青ざめる。
「通常でしたら、我が国の魔法鏡で話し合いを持つのですが、それさえも皇帝は拒みました。お顔を見たくないからです。・・・・・代わりに書簡をお預かりしましたので、ここで読み上げさせて頂きます。・・・・・よろしいでしょうか。」
レギアス王が頷く。
ミリアムは封を開け読み上げる。
「・・・・・レギアス王よ。
我が国の英雄に土下座をさせたと聞いた。レイ殿は我が国の英雄にして救世主。その御方に屈辱的な行為をさせたという事は、
我がアルク帝国全帝国民を、そして我を侮辱したも同じ。
怒りで我を忘れそうになったが、私も国を預かる身。
レギアス王よ、今後どういう対応をするのか
『オロプス』側にゆだねる。
その結論が出るまでは、輸入、輸出一切の交易を中止する。
レギアス王よ。これだけは覚えておくのだ。
これは、戦争に値する程の出来事だという事を。・・・・・・・・・・・以上です。」
全員が静まり返っていた。
すると、【アークス】のクランマスター、シュバインが言う。
「今、この国は、好景気でとても賑わっています。それは、アルク帝国との交易がはじまって、様々な技術の提供を受けて、生産系のクランがそれを元に開発しているからです。これが、ストップするとなると、我が国は多大な損害をこうむるかと思います。」
「シュバイン殿。それは私も同意見です。今、経済はアルク帝国の技術提供で急発展しています。それを中止する事は出来ません。」
【7大貴族】の一つ、ペルシナ家の主。エリッツ=ペルシナが言うと、シュバインは頷きながら続ける。
「まずは、我々全員でレイ=フォックス殿に謝罪をしてから、どうするか決めるべきではないでしょうか。」
「・・・・・うむ。そうだな。まずはそこからだな。・・・・・あい分かった。アルク帝国の大使殿。レイ=フォックス殿に謝罪をしてから書簡を送ろう。・・・・・それでいいか?」
「分かりました。・・・・・それでは、皇帝にはそうお伝えしておきます。・・・・・・・それでは、また。」
そう言うと、ミリアム達は、謁見の間から出ていった。
「ふぅ。・・・・・まったく。」
レギアス王は、玉座に座りながら大きくため息をつくと、扉が勢いよく開き、兵士が飛び込んできた。
そして、王の前まで駆け寄り、跪くと、皆に報告する。
「急報!!!!!急報です!!!!!・・・・・海から・・・・・海から魔物が大量に攻めてきました!!!!!!!」
「何だと???????」
レギアス王は目を見開き、その場にいるトップクランのマスター達は顔を見合わせた。
☆☆☆
「レイさん。着きました。」
「あぁ。ありがとう。ミーシャ。」
僕達は今、北の海【ジキル海】に来ていた。
隣にはミーシャが。そして後ろを振り向くと、数万の上半身に鎧を纏った人魚達がいる。
「・・・・・しかし、このアイテム、
【神海の息吹】は凄いな。」
思わず僕は呟く。
北の海だから水温が低いと思っていたのだが、寒さも、冷たさもまるで感じなかった。
膜の様に体全身に覆われているこの空間は、常に一定の気温で保たれていた。
そして、僕達の着ている防具も全然濡れていない。
「フフフ。これが我が国の秘宝。【神海の息吹】たる由縁ですよ。どんな場所や環境でも、快適に息が出来ます。」
ミーシャが自慢気に言う。
こんなにいい物を貰ったんだ。
しかも、大量の【水神の花】まで。
・・・・・ちゃんとお返しをしないとな。
しかし・・・・・あれが、海国人の城か。
僕は、北の海の中にある、大きな城を離れた場所で見ながら思った。
~~~~~~~~~~~~
「囚われている?」
僕は聞き返した。
「えぇ。私の娘。そしてミーシャの妹よ。」
近年まで戦乱続きだったこの海国は、戦に勝つ為に、相手の弱みを突くことは常套手段だった。
人魚の国に海国人が攻めてきた時、女王が防衛に向かったその隙に、東の海と南の海の魚人達が本城へと攻めてきた。
ミーシャとサリュウを中心として何とか守り抜いたのだが、その時に二人とも捕らえられてしまったのだ。
それを聞くと僕の顔色が変わった。
・・・・・人質・・・・・ミーシャの時もそうだが、カイトの妹、リョーカの時の事を思い出してしまう。・・・・・
最愛の人を捕らえて利用する・・・・・そんな手段、僕はどうしても許せなかった。
仲間達は僕を見て頷く。
「・・・・・女王様。この国の秘宝を頂き、更に探している花も頂きました。冒険者としてその対価を払わないと納得がいきませんので、
どうでしょうか。僕達にサリュウさんの救出をさせてもらえませんか?」
ミラクリアは驚きながら言う。
「えっ?しかし、これはミーシャを救ってくれたお礼に・・・・・・・いや、レイ様。ありがとう。
それでは、囚われている城に侵入が出来る様に私達が出来る限りのサポートを致します。」
僕の目を見たミラクリアは、意志が伝わったのだろう。言いかけた言葉を止めた。
「それではすぐに行動します!レイ様達・・・・・そして皆の者よ!救出に向かうわよ!!!」
「はい!!!!!」
女王が席を立つと、側近の者が心配なのか、
小声で話しかける。
「ミラクリア様。・・・・・いいのですか?あの者達に任せて。」
「フフフ。ミーシャが連れてきたあの者達は、とても強いわよ。特にレイ様は本当にヒューマンなの?ありえないレベルだわ。・・・・・おそらく私は勝てないでしょうね。」
側近は驚きながら言う。
「ええっ!!!そこまでですか?」
「ええ。・・・・・彼は、【ミラー海】を支配していた魚人、ダンテを倒しています。無傷でね。そんな御仁なら我々よりも成功率は高いでしょう。安心してお任せできるわ。・・・・・しかも、ミーシャが懐いているんですもの。フフフ。間違いないわ。」
「・・・・・確かにそうですね。・・・・・あのミーシャ様が彼に向ける顔は見たことがないですから。」
「そういうこと。さっ!準備をするわよ!!!」
~~~~~~~~~~~~
「敵に動きはないですね。」
ミーシャが海国人がいる城や町を見ながら話す。
女王には、国にとどまってもらった。
前に離れた時に狙われたのを聞いたからだ。
女王が居れば、いざ裏をかいて海国人が攻めてきても大丈夫だろう。
兵士達も多くは連れてきていなかった。
陽動だけしてくれればいいからだ。
僕はミーシャに言う。
「ミーシャ。それじゃ、僕達は行ってくるね。・・・・・君達はあまり無理をしないで、ヤバそうになったらすぐに逃げるんだよ。」
「はい。分かりました!危険になりそうな時はすぐに撤退します!でも、それまでは出来る限り注意を引きつけますので。・・・・・あっ!そうそう!これを皆さんにあげようと思ってたんです。」
そう言うと、僕達にバンダナみたいな布を渡す。
「これは、体のどこでもいいので、巻き付けていると、海の中で浮いたりしません。地上にいる状態と同じように動けると思います。」
僕は、腕にその布を巻き付けると、水中で浮いていた体が、重力で引っ張られる様に地に足がついた。
「おぉ。普通に歩けるな!これは大分楽になったよ。ありがとう。ミーシャ。・・・・・それじゃ、行くか!!!」
仲間達が頷く。
「気を付けて!!!」
シュン。
ミーシャが言うのと同時に僕達は妹のサリュウが囚われている城へと向かった。
☆☆☆
北東にある4大国の1つ『オロプス』。
別名『冒険者の国』。
冒険者が大多数いるこの国は、他の国に比べてクエスト量もダンジョンの数も比較にならない程多かった。
様々なクエストやダンジョンがあるこの国は、初心者冒険者から最上級冒険者まで対応が出来る、数少ない国であった。
その外海にある町【ローカル】。
この町は漁業が盛んで、とれた魚は世界各地へと卸されている。東北の海は水温も低い為、魚の身が締まっていてとても美味しいと有名だった。
もちろん、この町の周りにもダンジョンがあり、漁師達だけでなく、冒険者達もこの町を拠点にする者が多い。
冒険後の飲み屋で、獲れたての魚を食べながら飲むのがハマり、この町に居すわる冒険者も多かった。
「あ~。ちくしょう・・・・・頭がいてぇ。」
朝、【ローカル】にある海辺を歩きながら、一人の冒険者が呟く。
すると、もう一人の冒険者が呆れた声で言う。
「そりゃそうだろ。あんなに飲めば頭も痛くなるわ。」
「だってよ~。昨日のダンジョンで結構いいアイテム、ドロップしたじゃん?皆で気分良くして飲み屋に行けば、そりゃ~酒も進むだろ~よ。魚もうまいしさ。」
「まぁ、それは否定できないけどな。・・・・・・・ん?」
何かを見つけたのか、一人の冒険者が海の方を見ている。
まだ、二日酔いで頭痛のしている冒険者が、頭をかかえながら、同じようにその方を見ながら言う。
「・・・・・・何だありゃ。」
どの位先だろうか、朝日に照らされた数キロ先の海面が、見渡す限り真っ白くなっている。
先に見ていた冒険者が徐々に青ざめていった。
あれは・・・・・海面が白いんじゃなくて、何者かが泳いで水が跳ねているのだ。見渡す限り白くなっているという事は・・・・・一体何匹いるのだろう。
「おいおいおいおいおいおい!!
こりゃやばいぞ!!!おい!すぐに本部に連絡だ!!!
あと、この町にいる冒険者全員集めるぞ!!!
あれは・・・・・・・魔物だ!!!!!!!!!」
そう言うと、すぐに本部へ連絡できる駐屯所へと駆けた。
頭が痛がっていた冒険者もその後に続く。・・・・・・・すでに、二日酔いなど、完全に忘れた顔だった。
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