第72話 戦争2





この日の夜は、とても綺麗な満月が夜を照らしていた。




アルク帝国の国境から数キロ離れた森の中に二人の男女が佇んでいる。




「ふぅぅぅぅぅぅぅ。長かった。・・・・・・・本当に長かった。」




国境の高い壁を遠巻きに見ながら、北の大国『ギリア』の将軍エッジは呟く。




「そうねぇ。貴方からしたら、10年は経っているかしら?」



美しい緑色の長い髪を触りながら、その女は答える。





「ああ。」






・・・・・長かった。






信頼を得る為に一からアルク帝国の兵士となり、ずっと仕えてきた。



実力は最初からあったからコツコツと信頼を集め、5大部隊の一つの副官にまで上り詰めたのだ。



それからは、この隣にいる女と長い年月をかけて、見つからない様に慎重に、そして時間をかけて着実に準備をした。



・・・・・終わった後は、アルク帝国から戦争を始めさせる為に、

皇妃の暗殺。内部の混乱。皇子の誘拐。そして、自分がギリアの将軍だという事をリークするなど、様々な事を仕掛けた。



途中、邪魔が入って中々アルク帝国は重い腰をあげなかったが、この間の皇女の暗殺未遂でとうとう火が付いた。





「おそらく、あちらさんは、俺が失敗したとでも思っているだろう。・・・・・あの時。すでに俺の作戦は完了していたのにな。

 まぁ、戦争をさせるきっかけには苦労したが。」



「・・・・・そろそろ時間ね。いいかしら?はじめても。」



「ああ。よろしく頼む。」




女は、両手を天にかざし、何かを呟く。




すると目の前に、とてつもない大きな門がゆっくりと地面から現れたのだ。それが、順番に1kmおきに現れ、森の中に全部で7つ。





パンッ。





そしてその女は、両手を音を立てて合わせると、その門の中の空間が虹色に渦をまいた。




それは・・・・・・・【ゲート】だった。




「すごいな。これがアルメリア国でしかないと言われている【ゲート】か。・・・・・ミッシェル。お前と出会えて本当に良かったよ。」



「フフフ。ジョアンの弟ですもの。協力するわ。お兄さんには色々と借りがあるしね。」




見えない所で、兄貴の世話になっているのを感じるな。・・・・・今度会った時には礼を言うか。




この計画を実行するには、ミッシェルの協力が絶対条件だった。そしてその依頼を受けてくれた時点で、我々の勝利は確定した。



美しい緑色の長い髪をした女は、不敵な笑みを浮かべながら将軍エッジに話しかける。




「これで私の仕事は終わりね。報酬はいつもの場所へ入れてくれればいいから。・・・・・さて、後は、ゆっくりと貴方の隣で見物でもさせて貰いましょうか。」



「ああ。俺の隣の特等席で、ゆっくりと見物していってくれ。・・・・・アルク帝国の滅びる様をな!」






スマイルスケルトン。3大幹部の一人。肩書は、創造と破壊のスケルトン。






そして、アルメリア国、精霊王の娘、ミッシェル=スピーチは緑色の髪をなびかせながらエッジの後に付いていった。










☆☆☆










西の大国『アルク帝国』の国境には、高い壁があり、その上には魔法障壁が展開されている。



虫一匹入ることが出来ないと言われているほどに強固な作りだった。



そして、帝国に入るには2箇所の正門からしか入る事が出来ない。



その一つの正門の高い壁の上に数人の帝国兵が見張りについていた。





「ほら。」



「あっ。ありがとうございます!」



先輩の帝国兵は、暖かい紅茶が入ったコップを後輩に渡す。



紅茶を飲みながら後輩に話しかける。



「どうだ?もう慣れたか?」



「はい!最初は大変でしたけど、先輩達に教えてもらったので今は問題なくやれてます!」



「ハハハ。そうか。まぁあまり気張らなくていいぞ。この門を許可なく突破する者など、今までいなかったからな。」



そう言いながら、紅茶をすすり、国境の外を眺めている。



後輩に話をしている帝国兵は、ここに配属されて10年経っている。その間、事件らしい事件などほとんどなかった。



年に数回、外の魔獣がこの正門へと入ろうとする時があったが、我々がことごとく殲滅していた。



この門を突破するにはそれ相応の準備が必要になるだろう。・・・・・それこそ軍をだす程に。






もうすぐ夜明けだ。






闇に覆われた空が徐々に太陽の光で明るくなっていく。





カランッ・・・・・・・。





その帝国兵は飲んでいたコップを落とした。



壁の上の手すりに身を乗り出すと、目を見開き、体を震わせる。




「・・・・・なっ・・・・・これは・・・・・なんだ???」




後輩も、その周りにいる帝国兵も皆、国境の外の光景に愕然としていた。






数キロ先には、所々にギリアの国旗をはためかせながら、見渡す限りの兵士の群れがひろがっていた・・・・・。










☆☆☆










「急報~!!!急報~~~!!!!!」



帝都の城、その謁見の間に慌ただしく、兵士が入ってきた。



皇帝ガイルズの前まで来ると、跪き、声をあげる。



「只今!国境の正門前に、ギッ・・・・・ギリア兵が!!!森の中にある見た事のない【ゲート】を利用してどんどん集結しております!!!

・・・・・そっ・・・・・その数、およそ200万!!!!!」



「!!!200万だと?」



ガイルズは王座から立ち上がる。



その横にいたエリアスはすぐにガイルズの前まで移動して跪き、話す。




「ガイルズ皇帝。私が出ます。今、この国にいるのは、我々『鳳凰の羽』部隊のみ。出来る限りこの国の侵入を防ぎますが・・・・・万が一の事を考えて、

・・・・・どうぞ逃げる準備を。」




エリアスはそう言うと、すぐに謁見の間を後にした。




急いで城を出ると、入口で副官ティンクが待っている。



エリアスは城の外に止めてあった愛馬にまたがり言う。



「ティンク。すぐに『鳳凰の羽』部隊、全軍を正門へと向かわせてください。私は先に向かいます。」



「はっ!」




そう言うと、疾風のごとく馬を走らせた・・・・・。








皇帝ガイルズは誰もいない謁見の間に立ち尽くしていた。



「・・・・・何という事だ。【ゲート】だと?あれはアルメリア国の精霊王しか作る事が出来ないのではないか?

 まさかアルメリア国が協力を?・・・・・いやそれはありえん。

・・・・・しかも、【ゲート】を作り設置するには7,8年はかかると言われているのになぜ・・・・・。」




皇帝は独り言の様に呟きながら、暫くすると、ハッとし、手を震わせ、怒りをあらわにする。




「・・・・・エッジよ。まさか貴様の目的は・・・・・これか!!!!!」



そう言うと、皇帝ガイルズは、力なく王座へと座り、頭を抱える。



「何という事だ。ここまで計画していたとは・・・・・。」



 

我が軍は、ギリア国を攻める為に、ほぼ全軍を向かわせてしまった。今この国を守れるのは、唯一残った『鳳凰の羽』部隊の30万のみ。




今から急いで戻そうとしても一週間はかかる。その間には、アルク帝国は滅ぼされてしまうだろう。とてもだが間に合わない。




・・・・・何という計画。・・・・・何という執念。




「お父様!!!」




謁見の間に勢いよく入ってきたアイリは、すぐに皇帝へ言う。




「私も、エリアス達と一緒に行きます!私でも何か手伝える事があるはずです!!」



「・・・・・そうか。たしか、レイ殿に貰った帰還紙を持っておったな。危険を感じたらすぐに戻るのだぞ。」



「はい!!!」



そう言うと、飛び出すようにアイリは出ていった。




ガイルズは、ゆっくりともう一度立ち上がり、外を見る。




・・・・・娘も、エリアスもまだ諦めていないのに、・・・・・王が諦めてどうする。




入口にいる衛兵に向かって叫ぶ。




「すぐに、大臣をここに呼べ!!!緊急会議をすぐに行う!!!」




皇帝ガイルズのその顔は、いつもの不敵な顔に戻っていた。










☆☆☆










「あら。・・・・・まだ攻めないの?」



大軍の中央にいるミッシェルは、隣にいる、この大軍を任されている将軍エッジに声をかける。



「ああ。相手もバカじゃない。全ての兵をギリアへ送り込んではいないだろう。・・・・・教皇は綺麗なままのアルク帝国をご所望だ。

 なら、まだいる軍をおびき出して、ここで叩いた方がいいと思ってね。

・・・・・まぁ、それも昼までだが。来ないなら門を破壊して攻め入るのみ。」






・・・・・このアルク帝国に潜入していて、分かった事は、入ることができるのは、この正門と呼ばれている2つの門だけだ。



1つの正門は周りに何もない平原や砂地がひろがっている。

そしてもう一つは、ここ。



国境から数キロ先に広がる森があり、正門から帝都まではもう一つの門より近い。【ゲート】を作り、設置して攻め入るにはここが最適だった。



もちろん、正門を狙わず、適当な壁を破壊して入る事も出来なくはないが、時間がかかりすぎる。





さて。どうでるか。





将軍エッジはほくそ笑みながら、正門を眺めていた。










☆☆☆










アイリが正門へ着いたのは、昼頃だった。



すぐに近くの衛兵に状況を聞くと、案内されて、壁の上へと登った。



ここは魔法障壁で守られていて安全で、見下ろせば戦況の状況も見れるとの事。




壁の上まで来て、国境の外を見ると、アイリは愕然とした。




数キロ先には左から右まで見渡す限り、ギリア兵がいた。そして、その後ろにある森に突出する様に、大きな門【ゲート】が7つ均等に建っている。



いったい何人いるのだろうか。



そして、真下を見ると、正門の前に、大勢の真っ白なマントを羽織っている兵士達が陣を敷いて並んでいた。・・・・・『鳳凰の羽』部隊だ。



その先頭には、アルク帝国5大将軍でいて、『鳳凰の羽』部隊の隊長。エリアス=ノートが。そしてその隣には、副官ティンクがいた。





エリアスが大きな声で叫ぶ。





「皆!!!前を見ろ!!!敵兵の数はおよそ200万だ!!!対して私達『鳳凰の羽』部隊は30万!普通に考えたら勝ち目は薄いだろう!


 しかし・・・・・目を閉じて考えてくれ!あの軍勢がこの正門を破って我が国を攻める様を!愛する妻や家族、恋人が殺される様を!!


 そしてアルク帝国が滅びる様を!!!私達が抜かれれば間違いなくそうなるだろう!・・・・・だから、絶対に抜かれるわけにはいかない!!


 負傷しても立ち向かえ!腕や足が切られても立ち向かえ!!

・・・・・死んでも立ち向かうんだ!!!」





ウォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!










☆☆☆










「・・・・・チッ。」



将軍エッジは舌を鳴らした。



守りにある程度はいるとは思っていたが、まさかあの『鳳凰の羽』部隊が残っていようとは。いつもは先陣をきる部隊がここにいるのは誤算だった。




「フフフ。何か不満みたいね。」



ミッシェルが正門前にいる軍隊を見ながら言う。



「ああ。あまり兵力を消費したくないんだが、そうも言ってられなそうだな。世界最強と謳われている『鳳凰の羽』部隊がどんなものか、まずは試させてもらおうか。」



そう言うとエッジは右手を高らかに上げた。



そして大声で叫ぶ。




「第一部隊。攻撃開始!!!!!!」






ウォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!










エッジはニヤリと笑い、呟く。










「さぁ。アルク帝国よ。・・・・・・・蹂躙のはじまりだ。」










・・・・・西の大国『アルク帝国』・・・・・北の大国『ギリア』

・・・・・後世に残る壮絶な戦いが今始まった。・・・・・













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