第71話 戦争
西の大国【アルク帝国】と北の大国【ギリア】の
ちょうど中間にある無法地帯【サルミル】。
そこは、周りの小国がこの地を獲得しようと昔からずっと続いている争いの絶えない場所だった。
この無法地帯の中心にある、世界でも有名な広大な平原。
【ベラミアム平原】。
そこにアルク帝国5大将軍マルカスがいた。
「報告します!敵の数、およそ50万!!」
「・・・・・50万だと?・・・・・フッ。舐められたものだな。」
この【ベラミアム平原】にアルク帝国の軍と教国ギリアの軍が対峙していた。
アルク帝国が進軍し、数週間たった。
その数、歩兵、騎馬、飛空艇含む180万。
今回の戦争は、牽制ではなく、完全にギリアを滅ぼす為に皇帝ガイルズは進軍させたのだ。
その大軍の将軍に任命されたマルカスは、数キロ先で陣取っているギリアの軍を見ながら思う。
・・・・・最初に激突する場所は、この無法地帯しかない。それは当たっていた。
しかし・・・・・相手の数が少なすぎる。相手も同じ位の兵力はもっているはずだ。
分散して徐々に戦力を減らす作戦か?・・・・・まぁいいだろう。それならこちらは堂々と蹴散らすのみ。
ここにはいない空挺部隊が先に行って情報を持ち帰ってくれるだろう。
マルカスは前へと出て大声で叫ぶ。
「『漆黒の虎』部隊!!そして我がアルク帝国の部隊よ!!!!
皇子、皇女・・・・・そして皇妃にまで手をかけ、さらには我が国を混乱に陥れたギリアを決して許すまじ!!我々の力でギリアを滅ぼそうぞ!!!!」
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「進軍!!!!!!!」
「キュリアス将軍!相手の数、およそ180万です!!」
「そうか・・・・・。」
アルク帝国の大軍を見ながら、対峙しているギリアの将軍キュリアスは思う。
・・・・・やはり、ほぼ全軍で来たか。バルバッサ大臣。いや、参謀の言ったとおりだな。・・・・・・・ならば、覚悟を決めるしかない・・・・・か。
キュリアスは前に出て大声で叫ぶ。
「よいか!我がギリア軍よ!!我々の死は決して無駄にはならない!!!!
我々が1人でも多くの敵を倒し、一分、一秒でも敵を足止めする事で大きく勝利に導くことができるのだ!!!!
教皇は、愛する家族や恋人にはそれ相応の報奨を約束されている!!皆!!・・・・・ギリアの勝利に命を!!!!!!!!!」
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!」
「進軍!!!!!!!」
無法地帯【サルミル】。
その無法地帯の中心にある、世界でも有名な広大な平原、【ベラミアム平原】。
アルク軍180万。ギリア軍50万の戦いが始まった。
☆☆☆
時を同じくしてベラミアム平原から更に数十キロ先の上空。
そこには、アルク帝国の誇る飛空艇1,200隻が浮かんでいた。
その中央には真っ赤な深紅の飛空戦艦が一隻。5大将軍の一人、ジョディが乗っていた。
「ジョディ将軍!敵はかの有名な『ワイバーン部隊』です!およそ2,000!!」
「フフフ。相手も本気の様ね。情報局通りなら2,000はギリアの空部隊で最大数。おもしろい。どちらが空を制するか。最強を決めましょうか。
・・・・・私の『紅の鷹』部隊が全て殲滅してあげるわ。
・・・・・行くわよ!!!!」
「ハッ!!!!!」
「ナガーリ将軍!アルク帝国の飛空艇が前進を始めました!」
ナガーリは、人一倍大きなワイバーンにまたがり、あごひげを触りながら不敵な笑みを浮かべる。
「フン。空は通すわけにはいかんのでな。全力で相手をさせてもらおう。・・・・・せっかくだ。アルク帝国ご自慢の飛空艇『紅の鷹』部隊がどんなものか。
試させてもらおうか!・・・・・
行くぞ!!!!!」
「ハッ!!!!!」
雲の上、上空5,000メートルの戦いが始まった。
☆☆☆
5大国の1つ。雪に覆われた教国。
北の大国『ギリア』。
この国は、アルク帝国ほど閉鎖的ではないが、秘密が多い国と言われている。
好戦的で支配力が高く、ここ数年、近くの小国を攻め落とし、国を拡大していた。噂によると悪魔を使役しているともいわれている。
その首都『ハアム』の中心にある大宮殿。
そこに教皇、アラミアム=ローマがいた。
隣に立っている大臣が教皇に話しかける。
「空。陸。共に開戦したそうです。そして、こちらの全ての兵の準備が終わりました。」
「そうか。・・・・・して、計画は問題ないな?」
「ええ。計画は順調です。空の部隊は全戦力を投入しましたから、問題ないでしょう。そして陸は・・・・・私の計算なら問題なくしばらく足止めが出来るでしょう。
キュリアス将軍とその兵達の家族や恋人には、それ相応の報奨を出します。」
「ふむ。分かった。・・・・・やっと。やっとだ。長い年月をかけて、そなたが計画した事が成就し、我が念願のアルク帝国を手に入れる日が遂にきたのだ!!!」
教皇は片手を握りしめ、興奮した面持ちで言う。
「ええ。アラミアム様。私の計画は完璧です。
99%成功するでしょう。あと数日でアルク帝国は貴方の物です。」
「・・・・・100%と言わない所がお主らしいな。我が腹心、バルバッサよ。・・・・・さて、勝利した後の体制を話し合うぞ。」
そう言うと教皇は、大臣であり、参謀のバルバッサを連れて会議室へと歩いていった。
二人はすでに勝利を確信している顔だった。
☆☆☆
僕は、子供達を連れて首都『キルギス』へと戻ってきた。
とりあえずは、冒険者協会へ行ってクエストの達成と子供の無事を報告しないとね。
冒険者協会の前まで来ると、仮面をかぶり、子供達に話す。
「皆。これで僕達とはお別れだ。いいかい。前に言ったように、僕達の素顔を周りに絶対に話さないようにね。約束だよ。」
「うん!分かった!」
子供達全員が頷く。
「じゃ、行ってくるね。皆は子供を見ててくれ。よろしく。」
皆には、外で子供を見てもらって僕は冒険者協会へと入っていった。
「ふぅ。」
ここは、一階に設置してある喫茶店。
受付の女性ミューリは、冒険者の対応が一通り終わり、休憩をしていた。
大国の首都というだけあって、冒険者協会の中は相変わらず大勢の冒険者で賑わっていて、とても忙しかった。
ミューリは窓の外を見ながら呟く。
「・・・・・見つかるといいな。」
数日前、この冒険者協会へとやってきた
SS級パーティ『ホワイトフォックス』。
彼らの活躍はめざましく、全世界の冒険者協会関係者で知らない者はいなかった。
そんな彼らが選んだクエスト。
過去、どのパーティもコンプリート出来なかった【禁忌の森】への探索。
今は誰も挑戦しようとしなかったこのクエストを、彼らが選んでくれた事がとても嬉しかった。
・・・・・もう3年も経っている。
生存は絶望的だった。でも子供達のご家族は諦めきれないでいた。何も見つかってないから。
あのパーティなら、もしかしたら何か見つけてくれるかもしれない。
そんな期待があった。
・・・・・ミューリとサイクスは小さい時からずっと一緒に遊んでいた幼馴染だった。
自然とそれぞれの妹とも仲良くなり4人で楽しい時を過ごしていた。
ミランが行方不明になった時、妹は友達を失った悲しみでしばらく家から出ようとしなかった。
そしてサイクスは・・・・・将軍として何もなかったかのように仕事に従事していた。
それがたまらなく辛かった。
将軍として泣くことも、悲しむこともできない。
私と一緒にいる時でも、無理をしているのが分かる。
「ホワイトフォックス・・・・・。」
お茶を飲み終わったミューリは、窓の外を見ながらそのパーティの名を呟いた後、席を立つと、
受付の方へ歩いている彼を見かけた。ホワイトフォックスのリーダーだ。
!!!!!
ミューリは急いで彼の方へと駆ける。
「ホワイトフォックス様!!!」
「あっ。どうも。クエストが終わったので、報告にきました。」
「!!!・・・・・そっそうですか!それではこちらへ!」
まだ休憩中だったミューリは、すぐに自分の受付へと彼を促す。
「それで・・・・・終わったと言う事は、クエストは達成できたのでしょうか。」
「はい!子供達は無事、保護しました!!」
「・・・・・・・・・・・はっ?」
ミューリは茫然と立ち尽くしていた。
☆☆☆
東の大国『アルメリア』の国内はとても騒がしく、そしてお祭り騒ぎになっていた。
それは、あの行方不明になった子供達が保護されたと一報が入ったからだ。
精霊王の息子。ウインド。
弓のアルメリアの娘。メリア。
剣のアルメリアの弟。ミカエル。
盾のアルメリアの妹。ミラン。
そして、この国の第二王子。ライト=クラウス=アルメリア。
軍も諦め、他の冒険者たちも匙を投げたクエスト。
その誰もが諦めていたクエストをやってのけたのがSS級パーティ『ホワイトフォックス』だった。
彼らを一目見ようと首都『キルギス』へ民衆が押し寄せてきたのだ。
その為、国は後日、正式に褒賞の場を設け、このパーティを民衆が見れる様にする事で、この混乱を静めた。
「・・・・・何か、凄い事になってないか?」
あれから数日後、僕達はアルメリアの首都『キルギス』にある王城の控室にいた。
冒険者協会で、報酬をもらうつもりが、気づいたら王との面会という話になっていたのだ。
なんでそうなった?
「レイ。しょうがないだろ。保護した子は皆、偉い人の子供だったんだから。」
カイトが笑いながら言う。
そうなんだよなぁ。
僕はサイクスの妹の生存が知りたいだけだったのに、保護した他の四人はこの国の権力者の子供や兄弟だったなんてね。
しかも、この国の王子がいるとは思わなかった。
すると、応接室の扉が開き、文官らしき人が僕達に声をかける。
「それでは、準備が整いましたので、どうぞこちらへ。」
文官の後に付いていくと、謁見室へと通された。
そこは、とても広く、開放的な場所だった。
その中央の玉座に、国王。
ヒートメア=クラウス=アルメリアが座っていた。
その横の同じ大きさの椅子には、精霊王。
ワールド=スピーチが座っている。
そしてその周りには大臣や将軍。武官、文官の人達が立っている。
僕達は王の前まで来ると、片膝をつき、頭を垂れた。
王の横にいる大臣が声をあげる。
「この度、我が国の王子や精霊王の王子、
そして将軍の子供や兄弟達を救ってくれた冒険者『ホワイトフォックス』に対し、褒賞の儀を行う。
・・・・・まずは、クエスト達成報酬として
10億Gと秘宝【奇跡の薬】を。そして、この首都にある屋敷を一軒。又、王と精霊王の謁見の権利を渡す。」
「へっ?」
思わず変な声を出してしまった。
するとヒートメア王が言う。
「『ホワイトフォックス』よ。・・・・・せめてリーダーだけでも素顔を見せてはくれないか?」
・・・・・流石に失礼か。仕方ない。
僕は、仮面をはずして王を見る。
「すみません。礼儀を欠きました。『ホワイトフォックス』の時は、あまり素顔を見せたくないので。」
「フム・・・・・。すまんの。無理を言って。ちゃんと今はお主の顔を全国民に見れない様にしているから安心してほしい。
・・・・・どうしても、顔を見て、話をしたかったのだ。」
すると王は立ち上がり、深々と頭を下げた。
「『ホワイトフォックス』よ。我が息子。ライトを救ってくれてありがとう。」
「いやいやいやいや。頭をあげてください!
僕達は冒険者です。ちゃんと報酬をもらったので遠慮なさらずに。」
すると精霊王が立ち上がり言う。
「・・・・・我々はもう諦めていたのだ。
それをそなた達は救ってくれた。我の子を。
こんな報酬など、小さき物だ。」
続けて王が言う。
「『ホワイトフォックス』よ。・・・・・いや、
レイ=フォックスよ。そなたには大きな借りができた。もし、何か困った事や必要な時は我が国を頼ってくれ。
このアルメリア国が・・・・・いや、私も、隣の精霊王もよほどの事でなければ協力を約束しよう。」
ハハハ。何で僕の名前を知っているのか。やっぱり大国となると情報量が違うんだろうな。
僕達は立ち上がり、深々と頭を下げる。
「ありがとうございます。」
「うむ。・・・・・さぁ、堅苦しい話はこれでお終いだ。別室で盛大な宴の準備がしてある。この喜びをここにいる皆で分かち合おうではないか!」
周りから歓声があがった。
・・・・・アルメリア全国民がこの謁見室の様子を魔法鏡で見ていた。この国の王子、精霊王の王子、そして将軍たちの子供や兄弟を救ってくれた冒険者パーティを。
3年が経ち、絶望的な状況で【禁忌の森】へと入って救ってきた英雄を。
・・・・・この事をきっかけに、全国民はこのパーティの姿を見て、そして名前を覚えた。
・・・・・5人の仮面を被った英雄達。
『ホワイトフォックス』と。
☆☆☆
「あ~。頭が痛い・・・・・。」
昨日の宴は夜遅くまで続いた。
アルメリアの料理は今まで食べた料理とはまた違った味で美味しかった。
そしてお酒もとても美味しいので、グイグイいけるいける。・・・・・結局、飲みすぎてしまった。
帰りはフラフラで、白雪に肩を貸してもらいながら帰った。
んで、結局二日酔いだ。
ピロン♪・・・・・ピロン♪
ん?
腕輪が鳴った。
出ると、ヒッキだった。
・・・・・どうした?
・・・・・どうしたじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
ねえよ!!魔法鏡で見たぞ!!顔にボカシが入ってたけど、どう見てもレイ!!お前だろ!!!!
・・・・・(あら。ばれてた。付き合いが長い友達なら分かっちゃうか。)
ハハハ。ばれちったか。
・・・・・ばれちったかじゃねぇぇぇぇぇよ!!!いいかぁぁぁぁぁぁ!!!
後でちゃんと説明してもらうからな!!!
・・・・・ハハハ。はいはい。
・・・・・あっ!おい!ちょっ・・・・・・・・・レイィィィィィィィィィィ!!!!!!
・・・・・(ん?その声はサイクスか)
なんだ?サイクス?
・・・・・この普通顔がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!・・・・・俺わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!・・・・・お前をぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
・・・・・・心の底からぁぁぁぁぁぁ!!!
・・・・・愛することを誓います!!!!!!!!
いやいやいやいや。愛の告白をするんじゃねぇよ!!!しかもさり気なくまたディスったろ。
・・・・・とにかくぅぅぅぅぅぅぅ!!今はお前にぃぃぃぃぃぃぃ!!会えないから!!一言だけ言わせてくれぇぇぇぇぇぇぇ!!
ありがとう!!!!!!!!!!・・・・・うぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!!!!!
・・・・・ハハハ。
喋るか泣くかどっちかにしなよ。
・・・・・おいっ!!もういいだろっ!!
・・・・・レイぃぃぃぃぃぃぃぃ!!俺だ!!ヒッキだ!!
俺からもお礼を言わせてくれぇぇぇぇぇぇぇ!!
この国の第二王子を救ってくれた事を!!!
国民全員がお前達『ホワイトフォックス』に感謝してるってな!!!
・・・・・ああ。分かったよ。
・・・・・オイオイオイオイ!!声が冷静だな!!伝わらないかなぁぁぁぁぁぁ!!
この感謝の気持ちがぁぁぁぁぁ!!!
・・・・・そうそう!!!
そういえば昨日カザミちゃんと・・・・・。
プツッ。
何かムカつく話になりそうだったので、僕は心の腕輪を切った。
朝からすごい勢いで話されたから一気に目が覚めたわ。
まぁ、サイクスがとても嬉しそうだったからよかった。よかった。・・・・・ヒッキも同じ位、嬉しそうなのが気になるが、サイクスの妹が無事なのが嬉しかったんだろう。
さて、とりあえず朝飯を食べて二日酔いを覚ましますかね。
しかし、報酬にまさか家を一軒もらえるとは思ってもみなかった。王がアルメリアに来た時はこの屋敷を是非使ってほしいと言われた。
たしかに、この国も広いから拠点があるのは嬉しい。
せっかく貰ったんだ、第二の拠点としてありがたく使わせてもらおう。
朝食を食べて、やっと頭の痛みも治まり、ゆっくりとお茶をしているとまた心の腕輪が鳴った。
ピロン♪・・・・・ピロン♪
ん?
今度は誰だ?
・・・・・もしもし?
・・・・・レイ?
(アイリだ)
・・・・・アイリか。どうしたんだい?
(たしかアイリは戦争がはじまるから帰国しているはずだ。)
・・・・・レイ。・・・・・・レイ。
・・・・・レイ。
・・・・・・貴方に求めるのは間違っていると思っているの・・・・・・・・
でも・・・・・・・・・
貴方しか思い浮かばないの・・・・・・・
アイリは一言。僕に言った。
お願い・・・・・・・・・助けて。
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