第73話 戦争3




「エッジ将軍!只今、第一部隊、

 死傷者約10万!!かたや敵1万!!!」






・・・・・ここまでとは。






世界に名高い『鳳凰の羽』部隊。



世界最強の部隊と言われ、この部隊と相対したらすぐに逃げろと言われるほどの部隊だった。



こちらは200万。

対して『鳳凰の羽』部隊はおよそ30万。



普通なら簡単に突破できる数だが、10倍の犠牲を強いられていた。





さすがと言うべきか。・・・・・こんな所で大事な我が国の兵士を減らすわけにはいかない・・・・・か。





エッジは、副官に指示をだす。



「第一部隊は一度撤退させろ。

 ・・・・・メルミル将軍とライカンド殿をここへ呼べ。」



「はっ!」





第一部隊を撤退させたが、『鳳凰の羽』部隊は追撃をしてこなかった。



流石というべきか。圧倒的数の前で隙を作ることはしなかった。



暫くすると、メルミル将軍がやってきた。



長い髪を束ね、切れ長な目をしている。そして、一見人間の女性の様に見えるが、手の爪は長く鋭く、そして尻尾を生やしていた。





・・・・・彼女は上位の魔族、『魔神メルミル』だった。





「ホホホホホ。随分と早い出番だねぇ。」



「ああ。我々の部隊だと犠牲が大きすぎる。貴方の部隊なら問題ないと思うのだが。どうかな?」



「ホーホッホッホ!しょうがありませんねぇ。それではあの部隊を殲滅いたしましょうか。もちろん。それ相応の報酬は頂きますよぉ。」



「ああ。結果を出してくれれば、好きな報酬を授けよう。・・・・・しかし、その言葉は何とかならないのか?」



「ホホホホホ。食べた人間の性質がそのままでるので、我慢して頂戴♪ 私に合う肉体が欲しかったのでね。ホーホホホホホ。」





すると、シャドウは第一部隊と入れ替わりに、前へと出る。





「さぁ!我々魔族部隊の出番ね!!!

 行くわよ!!!」





すると、ギリア兵の後ろに待機していた魔物達が一斉に前へと現れた。



オーク。オーガ。トロール。ゴーレム。アンデット。グール。キメラ。ミノタウロス。

・・・様々な魔物がどんどんと前へと現れる。




その数、約30万匹。






「・・・・・出番か?」



気づくと、後ろに屈強な男が1人立っていた。



「ええ。ライカンド殿。

相手は世界最強の部隊だ。・・・・・勝てるか?」



「愚問だな。我々に勝てる人間などこの世にいないわ。おもしろい。どこまで抵抗できるか、試してみるか。」



そう言うと、ライカンドの体はみるみるうちに大きくなり、真っ赤なドラゴンへと変わっていった。



その後ろに控えていた1,000人ほどの男達もドラゴンへと変わっていく。



彼らは【竜人】。

魔物の頂点に君臨しているドラゴンだ。





我が兵士は、今は、190万か。出来るだけ兵を失いたくない。

帝国内に入ってから必要になるからな。





・・・・・フフフ。我が国は、魔族や竜人とも秘密裏で取引している。



ここは奴らに任せることにしよう。我々にはこの世界で恐れられている、魔族やドラゴンがいるのさ。



この魔族やドラゴンと戦って、無事でいられるかな?



「第二部隊は魔族の後ろで隙を見つけたら攻撃しろ!そして魔法部隊は後ろから援護射撃だ!!」



「はっ!!!!」



エッジはニヤリと笑いながら、魔族や魔獣、そしてドラゴンが『鳳凰の羽』部隊に襲い掛かる様を眺めていた。










☆☆☆










「エリアス将軍!魔物です!・・・・・ドラゴンまでいます!!!」



出だしは良かった。



おそらく10万近くの敵を倒した。こちらの被害はそんなにださずに。



エリアスは先頭で敵が入れ替わりにこちらに向かってくる魔物達を見ていた。




・・・・・魔物だと?ギリア国は魔族と繋がっていると聞いたことがあったが本当だったか。しかもドラゴンまでいる。





「ひるむな!!!人間だろうと魔物だろうと関係ない!・・・・・叩くぞ!!」





オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!










☆☆☆










「・・・・・しぶといな。」





あれから、まる1日経っているが、ギリア軍は正門まで行けずにいた。



魔物を使って、1日で『鳳凰の羽』部隊をかなり削った。

おそらく三分の一くらいは倒しただろう。



それでも、戦意を欠く事はなく、激しい戦いを繰り広げている。




「やはり、一番邪魔なのは貴様だな。

 ・・・・・エリアス。」




エリアスが先頭で次々と魔物やドラゴンを倒している。まるで練習でかかしや丸太を切る様に簡単に。



その後ろ姿に力を貰いながら他の兵隊達も実力以上の力を発揮していた。




エッジは、副官に指示をだすと、副官は魔法を唱える。すると一本の煙が天高く舞い上がった。





・・・・・俺だけ潜入していたと思うなよ。エリアス。










☆☆☆










「倒れた者はすぐに門内で治療して!右側が押されているわ!すぐに援護を!

ドラゴンは10人一組で対応しなさい!」



「はっ!」



副官ティンクはテキパキと指示を出しながら、エリアスの少し離れた所で戦っていた。



ギリア兵から魔物へと戦いが変わってからは、苦戦していた。



我々は歴戦錬磨の集団だ。人間だけなら戦い方は心得ている。しかし、魔物は違った。種類によって攻撃も違うし体や大きさも違う。




それでいてこの魔物達はレベルも高かった。




更には最強の生物。ドラゴンまでいる。数体ではない。数百体以上だ。



うまく立ち回らないと、どんどん兵が倒され、死んでいく。



何とか被害を最小限にして、魔物達を全て倒さなければ。

・・・・・その後にギリア兵がいるのだから。



すると、敵の陣地の方から一筋の煙が上がった。





「・・・・・ん?あれは・・・・レグル部隊長?」





『鳳凰の羽』部隊。



第三部隊長レグルがエリアス将軍の方へと向かっている。副隊長まで連れて。



彼の部隊は一番右の守りを任されているはず。何かあったのか?





・・・・・ティンクは胸騒ぎがした。今まで様々な所で戦ってきた戦士の勘がそうさせた。





レグルがエリアスの所まで来ると、大声で話す。



「エリアス将軍!右がどんどん押されています!少し兵の増員を!!」



「!!そうか!ならすぐに向かわせる!部隊長がわざわざ報告に来るな!!!すぐに現場へ戻れ!」



「はっ!」



そのままエリアスは敵の方へと向き直り、剣を構える。



レグルと横にいる副隊長は、すぐさま、剣を抜き、槍を構え、エリアスに切りかかっていった。






「これで終わりだ!!!」






シュン。






ザシュッ!!!!!






レグルの剣は右上から左下へと体を切り裂き、副隊長の槍は、真っすぐに胸の中心を突き刺した。






・・・・・副官ティンクの体を。






「なっ!・・・・・ティンク!!!貴様!!!!」






ザシュッ!!!!






レグルが喋った瞬間、その副隊長と一緒に、首がとんだ。



すぐに、エリアスは、ティンクを抱きかかえる。



「ティンク!!!!!」




・・・・・良かった。

・・・・・何かあった時に瞬時に動けるようにレイ君に教わっておいたのだ。




「衛生兵!衛生兵!!すぐに、門内で彼女の手当てを!!!」



ティンクは、心配するエリアスの頬を触ると、小さな声で話す。



「・・・・・隊長。生きてください。

 ・・・・・そして、この国を

 ・・・・・家族を守って。」



「ああ!心配するな!必ず守る!!

 だから・・・・・もう喋るな!体に障る!!

 衛生兵!!!早く!!!!」





衛生兵数人がすぐにやってきて、ティンクを門内へと運んでいった。





「・・・・・ティンク。安心しろ。暫くしたら私も君の所へ行く。

 ・・・・・だがその前に・・・・・死んでも私がこの門を守る。」






そう言うと、エリアスは、魔物へと向かって行った。










今、正門は少しだけ開けて、少人数入れる様にして、負傷者を入れていた。



その門内では、回復士や治療士達が衛兵に守られながら、負傷者を治療している。



その中に、アイリもまざっていた。



アイリは、学園都市『カラリナ』で回復魔法を中心に学んでいたのだ。



命を狙われ、レイが負傷してしまった。私が回復魔法を使えていたら、あそこまで危険にはならなかったのかもしれない。



そう思い、回復魔法を学んだのだが、今ここでそれが生きていた。





次々に負傷してくる兵士達を回復魔法で、癒していき、また戦場へと向かわせた。





「重傷者!重傷者です!!!」




衛生兵が大声で叫ぶ



ここに連れてくるのは、まだ生きている負傷している兵士だけだ。戦いの中、死んでしまった兵士達は運ばれる事はなかった。



すぐに、その場所へとアイリは向かい、見ると足が止まった。






「・・・・・えっ?・・・・・ティンク?」






運ばれてきたのは、副官ティンクだった。



左上から右下へと入った切り跡には大量の血が流れている。

そして、胸の中心には、槍で刺された跡が。






!!!!!






すぐに、アイリはティンクに駆け寄ってひたすら回復魔法をかける。






「ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!

 ヒール!ヒール!!!!!!!」






アイリは、魔力を使って何度も唱えた回復魔法は、血の流れを抑える事は出来たが、そこまでだった。






・・・・・だめ!!傷が深すぎる!!特に胸の傷が!!



アイリは、刺された胸の傷を両手で抑えながら、更に唱える。






「ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!

 ヒール!ヒール!!!!!!!!!

 お願い!!!!治って!!!!」






全魔力を使った魔法をあざ笑うかのように、血が流れていた。






「・・・・・アイリ様?・・・・・何でここに?」



ティンクは、掠れた小さな声で話す。






「ティンク!気が付いたのね!!私がちゃんと治すから!!いい?気をしっかりもって!!!」



「・・・・・アイリ様。・・・・・ここは危険です。・・・・・早く帝都へお戻りください。」



「何言ってるの!あなた達が戦っているのに城になんかいられないわ!一人でも多くの兵士を助けるの!貴方もよティンク!!!」



「・・・・・そうですか。」







ティンクは、目をあき、空を見ながら思う。






・・・・・たしか、こんないい天気だったわね。・・・・・レイ君がエリアス隊長に指導を受けていた時、毎日、迎えに行っていた。



その道中、レイ君が言っていたっけ。何でエリアスさんに告白しないのかって。



エリアスさんは鈍感だからちゃんと言葉にしないと分かりませんよって。







「鈍感ね。・・・・・・・フフフ。

その言葉。そっくりそのまま君にお返し・・・・・・・・・・・。」







「・・・・・ティンク?・・・・・・ティンク!!!!!!!!」








小さく何か呟いた彼女の目には・・・・・・・光がなくなっていた。










「ティンクぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」










アイリの悲痛な叫び声が響き渡った。
























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