第65話 親友
「失礼します。」
「どうぞ。」
僕達『ホワイトフォックス』は学園長リーネさんに挨拶に来ていた。
あれから半年たった。
妹のカザミに会う事。そして、この世界の事をちゃんと知りたいと思って入学したが、もう早1年半がたっていた。
その間、生活環境や風習、歴史、魔法など様々な事を学んだ。リーネさんには2年はいてほしいと言われていたが、この半年、集中して学んだおかげで十分な情報を得られた。
・・・・・流石に我慢が出来なくなってきたんだ。冒険の欲求に。
「・・・・・そうですか。行くのですね。」
「はい。色々とこの世界の事を学ばさせて頂きました。ありがとうございます。」
「フフフ。あなた達レベルだと、座学はためになったでしょうけど、武術や魔法などの実技は物足りなかったでしょうね。」
確かに。
「でも、冒険者という職業はとても危険がつきものです。私がやってて言うのもなんですが、命だけは大切にしてくださいね。人を守る前に、まずは自分の事を最優先に。」
ハハハ。これに関しては何も言えないな。
「はい。分かりました。」
「あなた達『ホワイトフォックス』がこれからもっと活躍する事を期待しているわ。・・・・・頑張ってね。」
「はい!」
僕とリーネさんはガッチリと握手を交わした。
リーネは、レイ達が館を出て、歩いているのを窓から眺めながら思う。
・・・・・きっと近い将来、世界中の冒険をした私達のパーティが、かすむ程の事をやってのけるのでしょうね。・・・・・フフフ。ジョイル。
「私もあの子達を見届けるわ。」
窓の外を眺めているリーネは優しそうに呟いた。
☆☆☆
学園都市『カラリナ』の入口で制服を返却して、元の装備へ着替えた。
最後に【剣神の指輪】をはめながら思う。久しぶりの装備だ。やっぱりしっくりくるし、安心感が半端ないな。
・・・・・そして、この相棒。
僕は剣【WHITE SNOW】を触る。
お前がいてくれるだけで、僕はもっと強くなれる。これからもよろしくな。
その白い剣は優しく光っていた。
僕達は全ての受付を終えて、入口から出ると、見慣れた三人組が待っていた。
「・・・・・皆。待っててくれたんだ。落ち着いたら僕から会いに行こうと思ってたのに。」
「ああ~ん?何言ってんだレイ。旅立ちの日に親友が見送らないでどうするよ!」
ヒッキが笑顔で言う。
「そうそう。」
「んだんだ。」
へーリックとサイクスが頷く。・・・・・サイクス。たまに方言がでるよな。わざとか?
ヒッキが僕の周りにいる仲間を見ながら言う。
「やっぱりなぁ~。留学生が同時に入学してきたから、あやしいと思ってたけど、やっぱりつながってたんかい。」
「ハハハ。ごめんごめん。嘘つく気はなかったんだけど、学園じゃそれぞれ他人という事で生活してたんだ。」
「・・・・・んで?結局、皆はどんな間柄なの?」
もう、学園から卒業だし、友達に隠す必要はないか。
「うん。僕達は冒険者なんだ。でも、この世界の事がまだあまりよく知らなかったからね。その為に学びに来たんだよ。」
「まじかぁ~!どうりで実技が強いと思ったわ。なるほどなぁ~。それなら納得だ。」
へーリックとサイクスが頷いている。
「それで、これからどこ行くんだよ。」
「そうだなぁ~。アルク帝国にはいつでも帰れるからね。せっかくここまで来たから、このまま北上して東の大国『アルメリア』に行こうかと思ってるんだ。」
「!?・・・・・へぇ~そうなんだ。」
ヒッキが嬉しそうに答える。
ん?何かおもろい事言ったかな?
まぁ~いいか。
僕もヒッキ達に言いたいことがあったしね。
「ところで、ヒッキ達は、卒業したら農業をやるんだろ?」
「えっ?・・・・・まっまあな!」
・・・・・前に、夢を語り合った時に、卒業したら三人は一緒に大きな農場を買って、そこで経営をしながら一山当てようと言っていた。
まぁ~僕も誘われたんだけどね。
「ヒッキ。これとこれをあげるよ。」
僕は、【帰還紙】と【心の腕輪】をヒッキに渡した。
「僕は冒険者だからさ、ある程度は腕に自信があるんだ。まぁ~ないとは思うけど、三人が卒業して、もし、何かあったり、ピンチの時があればそれを使って呼んでよ。真っ先に飛んでいくからさ。」
三人は顔を見合わせてから僕を見る。
「・・・・・おっ。お前というやつはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ヒッキが叫びながら僕に抱き着く。
「レイぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっぃぃぃ!!」
同じくへーリックが抱き着く。
「この普通顔がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
・・・・・おい。サイクス。ディスってないか?
僕達はしばらく抱き合っていた。
「・・・・・さよならは言わないぜ!俺たちは親友だ!・・・・・また会おうな!」
ヒッキが握手をしながら言う。その握った上から二人が手をのせる。
「・・・・・ああ!それじゃお別れだ!・・・・・またな!!」
僕が言う。
「またな!」
「おう!!またな!!」
「おうおう!!!またな!!!」
僕はヒッキ達と別れた。
しばらく歩いていると、白雪が僕に声をかける。
「・・・・・ヒッキ君達に聞かなくてよかったの?」
「ああ。ヒッキ達にも言えない事はあるんだろう。僕達も『ホワイトフォックス』だというのは黙っていたしね。」
今、僕達は良くも悪くも有名になってしまった。もし、僕の友達だと知られると犯罪ギルドから狙われるかもしれない。だから言えなかったんだ。
・・・・・ヒッキはおいといて、へーリックとサイクス。あの二人は相当な実力者だ。一生懸命とぼけて隠そうとしてたけど。
・・・・・今度会った時にはお互いちゃんと本当の事が話せたらいいな。
・・・・・・・・・・・またな。親友たち。
☆☆☆
ヒッキ達はレイが見えなくなるまで見送っていた。
暫くするとヒッキがつぶやく。
「・・・・・はぁ~。いるんだろ。出て来いよ。」
シュッ。
すると、独特な緑の防具を着たエルフが、100人はいるだろうか、突然、ヒッキの前に現れた。
「なんで、『アルメリアの弓』がここにいるのよ。」
現れたのは東の大国の4大主力部隊の一つ。『アルメリアの弓』の幹部達だった。
その内の一人が前に出て、ヒッキの前に跪くと、一斉に全員が跪いた。
「・・・・・ヒッキ=クラウス=アルメリア様。王が戻ってこいとの事です。」
「なんで?」
「・・・・・この間の事件を受けて、貴方様に危険がおよんだことに王は大変お怒りです。」
「あ~そこかぁ~。なるほどなぁ~。でも、学園の外の事だったから、もう大丈夫と言っといてよ。・・・・・たしかにホントは親友と別れたら戻ろうかと思ったんだけどね。
・・・・・今は愛しのカザミちゅわぁぁぁぁぁぁんがいるから!愛を育みたいんだよ!!君達!!分かるかなぁ~!!」
へーリックが口をはさむ。
「サミュー将軍。ヒッキ様がそうおっしゃったらもう考えは曲げませんよ。」
サイクスが言う。
「だな。悪いが、そう王に報告をしてくれないか。」
「・・・・・分かりました。『アルメリアの杖』のへーリック将軍と『アルメリアの盾』のサイクス将軍がそう言うならしょうがない。これで引きあげます。ただ、もしまた同じ様な事が起こるようならすぐに帰ってきてもらいますよ。」
へーリックが口を挟む。
「あぁ。サミュー。すまない。今回の件はそばに居なかった俺達の責任だ。」
「・・・・・では。」
言った瞬間。100人いたエルフ達がフッと消えた。
「全く、オヤジも心配性だなぁ。」
ヒッキが言う。
「いやいやいや。無傷だったけど、死にそうになったでしょう!もっと深刻に受け止めないと・・・・。」
「まぁまぁ。へーリック。俺達もいなかったんだ。何も言えんよ。」
へーリックとサイクスが言い合っている。
ヒッキは二人のやり取りを見ながら思う。
北の大国『ギリア』・・・・・間違えました。じゃ~これはすまないよ。覚えておくからな。
・・・・・君が助けてくれなかったら間違いなく僕は死んでいただろうな。
・・・・・レイ。君が入学した時に最初に隣に座った相手が僕だったね。
最初にお互い挨拶をした時だったんだ。何でだろう。とても感じのいい奴だなって思ったんだ。
・・・・・立場上、へーリックとサイクス以外につるむつもりはなかったんだけど、気づいたら君と一緒に楽しんでたね。本当にうれしかったんだよ。
・・・・・友達として見てくれていた君に。
・・・・・今度会ったらお互い本当の事を話そう。
それまで元気でな。・・・・・・・・・・・親友。
「さ~て!戻るか!明日はカザミちゃんとデートだ!うひょ~!!!」
「はいはい。」
「はぁ~隠れて警護する身にもなってもらいたいもんだ。」
ヒッキ=クラウス=アルメリア。
東の大国『アルメリア』の第一王子。
そして、『ホワイトフォックス』リーダー。レイ=フォックスの親友。
その未来の王は、数年後、ヒッキをめぐり、王宮で多数の王族、貴族の女性達がドロドロの王妃争いを繰り広げる中、たった一人の平民の子・・・・・親友の妹が勝ち取り王妃になった物語はまた別のお話。
☆☆☆
僕達は、学園都市を離れ、とりあえず隣町まで向かって歩いていた。
町で一晩ゆっくりしたら、ピリカ国を離れて、東の大国『アルメリア』に行こうと思っている。・・・・・たしか、僕達の担当のシェリーさんの故郷だったかな。
とりあえず、『アルメリア』に着いたら、帰還紙にインプットしてから、『ナイージャ』の冒険者協会へ戻ってシェリーさんに色々と情報を聞きに行こう。
そんな事を考えながら歩いていると、後ろから聞きなれた声が聞こえた。
「レイ~!」
振り向くと僕に向かって抱きついてきた。
アイリだ。
「アイリ!どうしたんだ?こんな所に!」
「どうしたんだじゃないでしょ。何も言わず出ていくなんて薄情じゃないの?」
「あぁ。そういう事ね。だって、アイリとはいつでも会えるしさ。」
アイリにも、【帰還紙】と【心の腕輪】を渡してある。
「そういう問題じゃない!」
「グフッ。」
アイリがお腹にパンチを入れる。
「分かった。分かった。僕が悪かったけど、ダメだろ。一人でこんな所まで来ちゃ。去年あった事、忘れたわけじゃないでしょ。」
「・・・・・うん。でも、会いたかったから。」
アイリはシュンとしている。
まぁ~。あまり責められないか。何も言わないで出ていった僕も悪いしな。
「白雪。悪いけど、翼を使ってアイリを送り届けてくれるかい?僕達はこの先の町の入口で待ってるよ。」
「ええ。分かったわ。」
「・・・・・アイリ。これからアルク帝国も騒がしくなると思うんだ。いいかい。もし何かあったら必ず連絡するんだよ。すぐに君の所へ行くから。」
「うん。分かった。多分、『カラリナ』には卒業まではいられないと思うわ。故郷に戻ったら連絡するね。」
「ああ。・・・・・それじゃ白雪。頼むよ。」
アイリの頭を撫でながら白雪に話す。
白雪は真っ白い羽を広げ、アイリを掴もうとした瞬間だった。
カァッ!!! ゴオォォォォォォ!!!
天から続く柱の様に、光が僕達を覆った。
「キャッ!」
「うわっ!」
「なっ何だ?」
その光は、天から真っすぐに僕達パーティとアイリを覆った。
眩しすぎて僕達はしばらく動けなかった。
でも、光があたった瞬間。攻撃じゃないのが分かったからそのまま立ち止まっていたのだ。
しばらくすると、その光はゆっくりと消え、天へと戻っていった。
僕は周りを見て皆を確認した。
うん。全員無事にいるな。
「皆。無事かい?」
全員が頷いた。
しっかし、ビックリしたわ。何だったんだ?今の光は。
皆も動揺したのか、暫くは動けなかった。
全員近くに集まってもらい、確認したが、体調も問題なく、皆元気だった。
「う~む。何もなければ、まぁいいんだけど。何だったんだろうか。さっきの光は。」
思わず僕はつぶやく。
するとカイトが僕に提案する。
「なぁレイ。一応、皆のステータスを確認してみたらどうかな。何も変化がなければ、ただの光だって事でいいんじゃないか?」
そうか。僕は【天眼】をもってるから、すぐに皆のステータスが見えるんだっけ。
「そうだな。じゃ~見てみるよ。」
僕は【天眼】を使った。
レイ=フォックス ハイヒューマン 年齢18歳 男 レベル310
白雪 ハイ精霊人 年齢17歳 女 レベル279
ラフィン=テンペスト ハイ天竜人 年齢17歳 女 レベル260
キリア=ブラック ハイ黒の一族 年齢16歳 女 レベル300
カイト=ヘンギス ハイ天界人 年齢19歳 男 レベル213
アイリ=レンベル ハイヒューマン 年齢17歳 女 レベル40
「うん。何もなかっ・・・・・・ん?皆、種族の前に何か・・・・・ハイ?・・・・・ハイィィィィィィィィィィィィィ?????」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
僕達全員、声にならない言葉を叫んだ。
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これにて第三章は終了です。ここまで読んで頂きありがとうございました。
まだまだ続きます!今後ともどうぞよろしくお願いいたします!
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