第63話 生還
「くっそっ!!なんなんだ!!」
『スマイルスケルトン』のメンバーであるその男は、島内を走りながら吐き捨てた。
ボスのいる館に行ったが、なんと館内は全員殺されていた。
かまいたちでもあったのか、全員が切り刻まれていたのだ。・・・・・ボスも死んでいた。
探したが敵はいなかったので、加勢しに島の入口へ行ったが、すでにドラゴンも消えていた。
数千人はいるだろうか、他の構成員達も集まったがどうしていいか分からずに途方に暮れていた。
「おっおい!空を見てみろ!!」
その中の一人が叫ぶ。
男は空を見ると、今まで真っ青な晴天だったのが、みるみるうちに空が黒く染まっていった。・・・・・雲ではない。うまく表現が出来ないがとにかく空が黒く染まったのだ。
「・・・・・黒い・・・・・雨?」
すると、ポツ、ポツと雨が降り出した。
しかも、雨粒がまっ黒い。
その男は、たまたま近くの店の入口にいたので、手をだしてその黒い雨を受けた。
「がぁっ!!」
その黒い雨を手で受けた瞬間、激痛が走った。
手を見ると、黒い雨粒を受けた所が溶けて貫通していたのだ。
「なっ。なんだぁぁぁぁぁぁ?」
その男は驚き、痛みを堪えながら、皆が集まっている所を見た。
「ゲハァ!」
「アグラァ!!」
「バハァ~!!!」
そこは地獄絵図だった。
人間がどんどんと溶けていく。
そして、黒い雨は小雨から、どんどんと強くなっていった。
ザァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!
数十分程振っただろうか。
止む最後の方は、まさに豪雨だった。
黒い雨が止んだ。
空は元の真っ青な晴天に戻る。
そして島は・・・・・何もかもなくなっていた。・・・・・生い茂る木々も。岩も。鉄の門も。館も。そこにあった街も。・・・・・そして人も。
全て溶けたのだ。
上空でそれを眺めていたキリアが言う。
「・・・・・まだ、海へ逃げた者・・・・・いるかも。・・・・・どうする?」
白雪が答える。
「そうね。まだ生き延びている者がいるかもしれないから・・・・・」
話している途中に三人の【心の腕輪】がなった。
ピロン♪・・・・・ピロン♪・・・・・・・・・もしもし?・・・・・白雪?ラフィン?キリア?
!!!!!!!
・・・・・今、目が覚めたんだ。聞いたら三人がどこかへ出かけたと聞いてね。状況を詳しく聞きたいんだ。・・・・・戻ってきてくれるかな?
三人は顔を見合わせた。
そして同時に答える。
・・・・・すぐに戻る!!!!!
学園都市『カラリナ』へと、もの凄い速さで帰っていった。
・・・・・三人の頭には、生き残りの残党達も、怒りも、復讐する気持ちも、もうそこにはなかった。
ただ一人。
目を覚ました彼に会いたい。・・・・・・・・・それだけだった。
今の白雪やラフィン、キリアの表情は、氷の様に冷たい目や憎悪に満ちた顔ではなくなっていた。
そこにいるのは、喜びと嬉しさにみちた、一人の恋した女の子だった。
☆☆☆
・・・・・犯罪ギルドの拠点を壊滅・・・・・レベルが上がりました・・・・・
無機質な声が頭に響き渡った。
「ん・・・・・。」
僕は目を覚ました。
目を開けると、天井がある。ベットで寝ていたらしい。・・・・・そうだ。爆破をもろに食らったんだっけ。・・・・・でも、生きているという事は誰かが助けてくれたって事だ。
ゆっくりと、上体を起こす。
見ると、僕の右手には両手でしっかりと握りながら寝ているアイリがいた。
他の人はこの部屋には誰もいない。
・・・・・ふむ。・・・・・頭の整理が必要だな。
たしか、一回目の爆破は何とか耐えられたけど、2回目の巨大な爆破は厳しかった。
それでアイリに向かっていた敵を倒して、白雪に薬を飲ませてから記憶がない。
おそらく、そこで倒れたのだろう。
それで、この部屋で休んでいたと。・・・・・でも、いつものレベルアップの声が頭に響いた。・・・・・という事は、白雪が何かを達成してレベルアップしたのか?
僕か白雪、どちらかが片方でもレベルが上がれば一緒に上がる。
それで負傷して眠っている僕のレベルも上がって、ライフがなかったのが、一気に全快したという所かな。
空いてる手を軽く回し、自分の体を見る。
うん。問題ない。絶好調だ。
僕はうずくまって寝ているアイリの綺麗な赤い髪を撫でる。
「ん・・・・・。」
「あっ。ごめん。起こしちゃったか。」
「・・・・・えっ?・・・・・レイ?」
「ハハハ。そうだよ。おはようアイリ。」
「レイ!!!!!!!!!!!!」
アイリは上体を起こした僕に抱き着いた。
ハハハ。嬉しいんだけど、あまり強く抱きしめないでね?胸が思いっきりあたって、やばいんですけど・・・・・・。
アイリの大声を聞きつけたのか、外にいた仲間や友達が一斉に病室へとなだれ込んできた。
☆☆☆
「はぁ。はぁ。はぁ。クソっ!何だったんだあれは。」
『スマイルスケルトン』第5支部があった島から一番近い小島に上陸したのは、ナンバー2のトロイだった。
トロイは黄金のドラゴンの元へと行ったが、あまりの強さに逃げたのだ。
構成員数百人で、剣や斧で切り込もうが、魔法を打ち込もうが、傷一つ負わせられなかった。
トロイの危険察知能力はとても優れていた。
やばい事には首をつっこまない。
だからこそ、第5支部のナンバー2まで上りつめる事ができたのだ。
トロイは勝てないとふんで、すぐに島から小舟を使って逃げたのだ。途中、遠くから島を見ると黒い雨が降っているのが見えた。
部下達はどうなったのか。気にはなったが自分の命にはかえられない。
さて、暫く待って襲撃が落ち着いたら第5支部へ戻るか。
そんな事を思っていると、声が聞こえた。
「おやおや。生存者を残すとは。彼らはあまいですねぇ。詰めがたりない。」
見ると、暗殺に失敗した殺し屋がいた。・・・・・たしかジョアンと言ったか。
すると、ジョアンの両側から二人の助手が音もなく現れ報告をする。
「・・・・・ジョアン様。他にあの島から逃げた者が数名いましたが、ただいま全て処理を致しました。」
「フフフ。ご苦労様です。」
「ジョアン!!どういう事だ!我々『スマイルスケルトン』を裏切るつもりか!!」
トロイが怒鳴る。
「・・・・・裏切る?いえ、そんな事はしませんよ。・・・・・ただねぇ。私が失敗したという事は誰にも知られたくないんですよ。私にもプライドがありますからねぇ。ですから、私を雇ったあなた達は全員死んでもらう事にしました。」
「!!!」
「ジョアン様。私が。」
クリストが前に出る。
「いえ。クリスト。私が出ましょう。たまには体を動かさないと運動不足になりますからねぇ。」
そう言うと、ジョアンはゆっくりとトロイの元へと歩いていく。
「・・・・・なめるなよ殺し屋。俺は第5支部のナンバー2だぞ。」
トロイは背中に背負っていた斧を2本両手に持った。
頭がそんなに良くなかったから、支部のトップにはなれなかったが、戦闘力でいえば俺が一番だ。
こんな殺し屋ごとき、簡単に屠ってやろう。
トロイはニヤリと笑う。
するとジョアンは歩きながら右手を横に出すとその右手の周りに黒い物が現れた。
「・・・・・鎌か?」
相手の武器を見たトロイがつぶやく。
後ろで見ているクリストは思った。
久しぶりに見た。ジョアン様愛用の武器。
【ANGEL OF DEATH(死の天使)】
その武器の見た目は真っ黒い大鎌。まるで死神が持っている鎌のようだった。
そして、世界に7本しかない伝説の武器の1本。
ふん!相手が動く前に、終わらせてやる!
「くらえぃ!!」
トロイはまだ離れている相手に向かって、両手の斧を振った。
すると、その2つの斧の大きな衝撃波がクロスしながらジョアンへと向かっていく。
「はっはぁ~!この斧の衝撃波をくらって生きている奴はいない!」
ジョアンは大鎌をゆっくりと天へとかかげ、そのまま振り下ろした。
ザンッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
振り下ろした大鎌はそのまま相手の衝撃波を切り裂き、トロイを真っ二つにし、さらにその先の海まで二つに割った。
「ふむ・・・・・。つまらないですねぇ。もう少し強い相手でないと運動にもなりませんね。」
・・・・・全てを切り裂き、闇へと帰す。・・・・・
そんな伝説の武器をもち、最高の頭脳と強さと慎重さを持っているジョアン様に勝てる者などいるのか。
そんな事を思いながらクリストは尊敬の眼差しでジョアンを見ていた。
「さて、これで全て終わりましたから、当初通り、南の国へバカンスに行きましょうか。」
そう言うと、ジョアンは闇の空間を作り出し、そこへ助手の二人を連れて入っていった。
☆☆☆
ここは病室。
そこには、なぜかまた僕は正座をしていた。
前には、いつもの悪友達3人が仁王立ちしている。
へーリックが言う。
「おい!レイ!なにカッコつけて無茶してんだ!・・・・・・・・・・ヒッキを助けてくれてありがとう。」
サイクスが言う。
「おいおい!!レイ!!なに調子にのって無茶してんだ!!・・・・・・・・・・お前は最高だ。」
ヒッキが上を向きながら言う。
「レイ!!!投げ飛ばすんなら最初から言えや!!!・・・・・・・・・・グスッ。泣いてなんかないぞ。・・・・・・・・・・お前は命の恩人だ。」
三人とも最後の言葉が小さくて聞き取れない。
すると、そのまま後ろへ下がり、入れ替わりにさっき来た、白雪、ラフィン、キリアが前にでて仁王立ちしている。
白雪が言う。
「無茶ばっかりして。どんなに心配したか分かってるの?・・・・・・・・・・ほんとによかった。」
ラフィンが言う。
「レイ!僕はね怒ってるんだよ!もっと自分の事考えなよ!・・・・・・・・・・助けてくれてありがとう。」
キリアが言う。
「・・・・・レイ。・・・・・バカ。・・・・・アホ。・・・・・マヌケ。・・・・・・・・・・大好き。」
やっぱり三人も最後の言葉が小さくて聞き取れなかった。
「はい。なんかすみません。・・・・・うわっ!」
三人は言うと、正座している僕に向かって飛び込んできた。
三人が僕を抱きしめる。
「ほんとに・・・・・ほんとに・・・・・心配したんだから!!!!!」
「え~ん。え~ん。レイ~!!」
「・・・・・レイだ。」
いや。ほんと悪かったけど、やめて下さい。みんなの胸があたって理性が保てなくなるので。
その様子を見ながら涙を流しそうになったアイリは、隠すように後ろを向いて言う。
「ふんっ!とりあえず・・・・・良かったわね!死なれちゃ遊び相手がいなくなるから困るのよ!」
・・・・・ほんと素直じゃないなぁ。
そしてカザミが言う。
「お兄ちゃん。お兄ちゃんの事だから人助けしたんだろうけど、あまり危険な事はやめてね。この世界で私を一人にしたら怒るよ!」
「・・・・・そうだな。分かった。」
・・・・・今回は無茶をしすぎたかな。みんなに心配をかけてしまった。・・・・・ここはもうゲームじゃない。リアルの世界だ。
お腹もすくし、眠くもなる。そして今回みたいに攻撃を受ければめちゃめちゃ痛い。
死ぬかと思ったもんな。
でも、この【真実の世界 THE WORLD OF TRUTH】。ここでは、思った事をやろうと決めているんだ。
地球では出来なかった事を。
だからこそ、今後は皆に危険が及ばない様にもっと注意しないとな。そして・・・・・
強く・・・・・もっと強くなって皆を守ろうと思った。
☆☆☆
あれから一週間たった。
ここは学園都市『カラリナ』の中央広場。
都市の中心の広場というだけあって、とてつもなく広い。
そこに、全教員と1万人以上いる学園の全生徒が集まっていた。
中央には大きな石碑が建てられている。
その石碑には、今回亡くなった学生達の名前が刻まれていた。
周りからはすすり泣く声や、亡くなった人の名前を呼んでいる人など様々な声が聞こえる。
壇上に、学園長が上がり、皆に話しかける。
「皆さん。今回は非常に痛ましい事が起きました。・・・・・彼ら、彼女らの生きるであろう輝かしい未来が奪われました。・・・・・だからこそ!!!亡くなった人達を決して忘れず、その人の分まで私達は生きていかないといけません!・・・・・皆、その事をしっかりと胸に刻んで今後の学園生活を、そして未来を過ごして下さい。それでは全員・・・・・・・黙祷!!!」
僕を含む全員が黙祷をした。
死亡者211名。生存者5名。
痛ましいこの出来事をきっかけに学園内は更に厳重に、そして野外講習は中止となった。
その後、学園長リーネは事故の責任をとり辞めようとしたが、出資している各国の権力者達に止められ、続投する事となった。
一番の決め手は亡くなった親族から続投を依頼されたのが大きかったらしい。
そして、亡くなった学生達には小国の王族や貴族の学生達もいた。
その親族はすぐに犯人を探った。実行に移した犯罪ギルド『スマイルスケルトン』。更にそのバックに見え隠れしている『大国』の存在を・・・・・。
この事件をきっかけに、この世界は大きく動く事となる。
そしてもう一つ。
表社会も裏社会も、それぞれの国や数多くある犯罪ギルドも、ある冒険者パーティに注目が集まった。
今、その名前を重要な議会や会議で聞かない事はなかった。
天武祭を優勝し、その後に3大犯罪ギルドの一つ『スマイルスケルトン』の支部を完全に壊滅させたパーティ。
その『ホワイトフォックス』の名を。
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