第61話 暗殺
ドン!!!!!!!!!!
地響きと共に、煙が周りを包み込んでいる。
丘の上にいるジョアンはその光景を笑顔で眺めていた。
「さて・・・・・。普通ならあの一帯にいる人達は全て息絶えますけど、どうでしょうかね。」
クリストは筒の様な物を取り出し、先端に目をあてて爆発した場所を見ている。
「・・・・・。ジョアン様。どうぞ。」
クリストは確認した後に、ジョアンへ筒を渡す。見た事を報告しないのは、先に結果を報告すると嫌がるお方だった。
だからクリストはよっぽどの事態が起きない限り先に報告をしない。
「・・・・・なんと。フフフ。対象が生きてますね。これは素晴らしい!!」
ジョアンが喜んでいる。
「なっ。なんだと!!どうするん・・・・グッ。」
チャーチの部下が言いかけていた所をジョアンが手で遮る。
ジョアンが続ける。
「クリスト。ミューズ。最初の暗殺に失敗した場合はあなた達ならどうしますか?」
ミューズが前に出て答える。
「はい。ジョアン様に教えられた様に、【保険】を使います。」
「フフフ。正解です。・・・・・数人生きてますね。この爆発に耐えうる学生は皇女様含めていないはずです。となると、答えは一つ。【身代わりの指輪】を付けていたのでしょう。しかし、あの指輪は滅多に流通しない貴重な品です。よく持っていましたねぇ。」
ジョアンは感心しながら小声で何かつぶやいた。
すると、爆発した場所にとてつもない大きさの魔法陣が地面の中から現れた。数か所設置した一回目の魔法陣に比べるとその大きさは比ではなかった。
クリストはその光景を見ながら思う。
・・・・・ジョアン様は、毎回一回で殺しを成功させている。でも必ずどんな案件にもかかわらず【保険】として二重に仕掛けを施していた。しかも、一回目よりも数十、数百、数千倍の威力の仕掛けを。
ジョアン様の恐ろしく、そして尊敬する所だ。そして確実に獲物をしとめる。こちらはリスクゼロで。
今まで、この二回目の仕掛けを発動する事はなかったが、初めて見る事になるな。
「もし、まだ【身代わりの指輪】を持っていたとしても、新しく付けて発動するには1時間程かかります。この仕掛けには間に合いませんねぇ。」
ジョアンは笑みを浮かべながらとてつもなく大きな魔法陣を眺めている。
「・・・・・今度の爆破は強力ですよ。人や魔物はもちろん、魔神でさえ骨も残りませんからねぇ。フフフ。」
そして、そのままゆっくりと左手を前に出し指を鳴らした。
パチン。
☆☆☆
もの凄い爆発が起きた。
土煙で周りは真っ白だ。ゆっくりとその煙が晴れていく。
すばやく僕はスキル【天眼】で周りを見渡す。
白雪。アイリ。ラフィン。
【身代わりの指輪】の効果だろう、見ると全員無事だ。
良かった。
他の生徒達も、もしかしたら生きている人もいるかもしれない。とりあえずは生存者を探すべきだろう。
僕はゆっくりと立ち上がると同時に、地面が少し揺れた。
すると、地面の中から魔法陣が現れた。
大きい!!
その魔法陣の大きさたるや、直径数百メートルはあろうか。最初に見た魔法陣とは桁が違った。
これは・・・・・・・ヤバい!!!!!!!!!
もう【身代わりの指輪】は皆ない!
どうする?!
「へっ?なななななんだぁ~?」
僕はすかさず、ヒッキの両足を掴んでジャイアントスイングの様にぐるぐる回した。
まわしながら言う。
「ヒッキ!!川に落ちたら絶対に顔を出すなよ!・・・・・飛んでけぇ~!」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」
ヒッキをそのまま小川に向かって投げた。
言葉にならない声が響き渡った。
間に合うか?!
ここから僕に近いのはラフィンだ!・・・・・白雪!アイリを頼む!!
僕は目で白雪に合図する。
シュン。
同時に白雪が消えた。
シュン。
僕もスピードMAXでラフィンへ向かう。
・・・・・間に合えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!
ズンッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
地響きと共に真っ赤な閃光が光った。
☆☆☆
「すっ、すごい・・・・・。」
ミューズは丘の上でその爆発を見て思わず声を上げる。
下は真っ白で何も見えない。
そして天高く入道雲の様に爆破後の煙が上がっている。
こんなの受けたら、骨一つ何も残らないだろう。
あまりにもすごい光景を見て、助手であるミューズは改めてジョアン様のすごさを知った。
ジョアンは両手を広げて嬉しそうに話す。
「フフフ。何度見ても美しいですねぇ。・・・・・この爆破を受けて生存する事はまず不可能でしょう。」
暫くすると白い煙が晴れていく。
すると爆発後であろう、とてつもなく大きな円が地面を削ってなくなっていた。クレーターの様に。
クリストはずっと筒の様な物をもって様子を見ている。
「・・・・・なっ!・・・・・ジョ、ジョアン様!・・・・・これを!!」
クリストはジョアンに筒を渡す。
ジョアンはそれを受け取り見ていると、目を見開いた。
「・・・・・なんと。あれをくらって生きているだと?・・・・・ありえない。」
このトラップはジョアンにとって最高傑作の一つだった。
威力、範囲も申し分なく、仮にどんなにレベルが高い250の相手でも一瞬で殺せるのだ。・・・・・という事は、考えられるのは一つ。
私が想定しているレベルより遥かに上の者がいたという事だ。
未知のレベル300以上の者が。
そうとしか考えられなかった。
「フゥ。」
ジョアンは大きく一つ息を吐いて助手たちに言う。
「・・・・・今回は失敗ですね。クリスト。ミューズ。帰りますよ。」
「はい。」「はい。」
ジョアンは後ろに真っ黒な空間を作り出すと、そこへ二人を連れて向かって行く。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
チャーチの部下が呼び止める。
「なんですか?」
「失敗?そんな事ないだろう!もう下には生きている奴は少ない。しかもあの爆発をくらってかなり弱っているはずだ!とどめを刺すべきだろう!!」
「・・・・・リスクが発生した時点で計画は中止です。そんなに殺りたいのでしたら、どうぞお譲りしますよ。」
・・・・・こんなチャンス滅多にない。これで俺が殺れれば昇格間違いないだろう。
「分かった。じゃあ後は俺がやる!」
そう言うとチャーチの部下は下へと駆けて行った。
「・・・・・馬鹿ですねぇ。あの爆発で生き残ったという事がどういうことなのか分かってないのでしょう。欲に目がくらむというのはこういう事なのでしょうねぇ。さぁ。帰りますよ。」
・・・・・あの爆発で生き残った者。皇女をいれて4人はいたか。どんな者なのか。後で調べましょうかね。でも面白い。私の計画を破る者がいるとは。初めてですよ!
「フフフフフ。ハハハハハハハハ!!!」
ジョアンは初めて失敗した事など、まるでなかったかの様に高らかに笑っていた。
ミューズはその横顔を見ながら思った。
まるで楽しみが一つ増えた子供の様な顔だと。
☆☆☆
ハッ。
アイリは我に返った。
最初の爆発。
とても驚いたが、無傷だったのだ。
レイに貰った指輪が一瞬光ったのが分かった。
そしてその指輪は粉々になって消えていった。
土煙の中、ゆっくりと見渡すと他の生徒達だろうか、真っ黒に焦げている死体が所々に転がっていた。
「ひどい・・・・・。」
思わず声がでた瞬間だった。
シュン。
目の前に白雪が現れた。
「えっ?白雪?」
すると白雪は私の上に覆いかぶさった。
そしてつぶやく。
「守りの精。」
ズンッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
何が起きたのだろうか。
もの凄い音と共に地面が揺れた。
あまりの音に、暫く耳鳴りがして何も分からなかった。
何分、何十分たっただろう。
耳鳴りも収まり、景色も晴れやかになっていく。
見ると・・・・・何もなかった。
草原も、周りにあった木々も、黒焦げになった死体も、何もかもだ。
「ん・・・・・。何があったの?・・・・・白雪?」
覆いかぶさっていた白雪を抱きしめると、ぬるりとした感触がした。
自分の手を見ると、真っ赤な血だった。
「えっ?・・・・白雪。・・・・・白雪!!」
すぐに白雪を見ると、目を覆うような状態だった。
右手、右足は吹き飛ばされ、美しい顔は焼けただれている。
息も絶え絶えで今にも死にそうだ。
そんな!!!私をかばって?!!!
どうすればいいの?こんな状態じゃどうにもできない!!
顔が浮かんだのは一人しかいなかった。
「・・・・・レイ!・・・・・レイ!!・・・・・お願い!白雪を助けて!!!」
アイリは大声をだした。
「オイオイオイ~。こいつか。皇女を守ったのは。」
すると左の方から聞きなれない声が聞こえた。
見ると、剣を片手に大柄な男が向かってくる。
この爆破を仕組んだ犯人だろうか。
まずい。
剣はテントに置いてきていたから武器は何もなかった。
男は近くまでくると剣をゆっくりと振り上げる。
「まぁ~。そのおかげで俺に幸運が舞い込んだんだけどな!」
アイリは、倒れている白雪の背中を膝にのせて顔を両腕で守る様に掴みながらもう一度叫んだ。
「・・・・・レイ!!!」
「ん?」
剣を振り下ろす瞬間。その男の首が飛んだ。
「居合。光。」
その剣圧に耐えられなかったのか、支給された剣は切った瞬間に折れてしまった。
僕は剣を投げ出し、アイリの元へと駆けた。
「レイ!!!白雪が・・・・。白雪が!!!」
見ると、片方の腕と足がなく、息も絶え絶えだ。僕の合図でアイリを守ったのだ。
「白雪。分かってくれたんだね。ありがとう。」
近づいて白雪の髪を撫でながら状態を見る。
まだ生きている。
これならあと一本ある【奇跡の薬】を使えばなんとかなるだろう。
「大丈夫。助けるよ。」
今にも泣きそうなアイリに話しかけ、僕は真っ黒な瓶を取り出した。
「さぁ。白雪。飲んで。」
瓶を白雪の口につけたが・・・・・飲もうとしなかった。
えっ?
何でだ?
まだ意識はあるはずだ。
「白雪?どうして?」
白雪は息も絶え絶え、喋れない代わりにゆっくりと首を横に振った。
なぜ???・・・・・このままではまずい!
ならば・・・・・。
「白雪。ごめん!」
僕は、【奇跡の薬】を口に含むと、白雪にキスをした。
白雪は目を見開く、そして目には涙がこぼれ落ちていく。
僕はゆっくりと口に含んだ液体を白雪の口へ流し込んでいく。
コク・・・・・。
白雪が薬を飲んだ瞬間に、体が光っていく。
すると、みるみるうちに吹き飛ばされた腕が、足が生えていき、焼きただれた顔も元通りになっていく。
抱きしめていたアイリはそれを見てほっとした様に話しかける。
「白雪、良かった・・・・・。私をかばってくれて、ありがとう。」
すると、レイの後ろからラフィンが泣きながら歩いてきた。
「え~ん。え~ん。え~ん。・・・・・レイ~。・・・・・レイ~。・・・・・レイ~!」
えっ?どうしたの?
見た感じラフィンは傷もなく無事そうだ。
アイリは不思議に思いながら見ていると、白雪が回復したのか、手も足も顔も全て元に戻っている。すぐに起き上がり、涙を流しながら彼に話しかける。
「なんで!!!!!・・・・・なんで私に薬を飲ませたの?!」
「えっ?どうしたの?白雪を助けるためじゃない。」
アイリが不思議がっていると、涙を流しながら白雪は続ける。
「私達は!!!あなたから貰った【身代わりの指輪】があったから、一回目は無傷で2回目も何とか耐えられたの!・・・・・でも貴方は最初から何も持ってないじゃない!!!」
「・・・・・貴方に飲んでもらいたかったのになんで・・・・・。」
えっ?
アイリは彼の方を見る。
彼は笑顔を見せながらつぶやいた。
「・・・・・皆、無事でよかった。」
ドッ。
そう言うと、彼は前のめりに倒れた。
「なっ!」
見ると、彼の背中は焼けただれ、肉は飛ばされ、骨が見えていた。
「レイ・・・・・???レイ!!!!!!!」
アイリは言葉にならない叫び声をあげた。
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