第58話 決勝戦

「ライン・・・・・どうする?」



仲間がリーダーに問いかける。





ライン達『7剣星』はVRMMOからずっと上位を走ってきた。



フランスの学生仲間で作ったパーティ。



学業以外の時間は全てこのゲームに費やしただけあって、レベルも実力もあった。間違いなく上位チームと思っていた。



そして、トップクラン『HEAT(ヒート)』に誘われた時は皆して喜んだものだ。



だが、そのクランに入るとまだまだ上がいると思い知らされた。



ついていくのに必死だった。



レベルがいくら高くても、実力が伴わないと、レベルが4,50差あっても同じクランチームに負けた。



だからこそ、リアルでゲームの為になるものは何でもやった。



仲間と一緒に格闘技を習ったり、日本の武道。剣道までをも学んだ。



そして転移してからは、もっと自分達を追い込み、鍛えたつもりだ。



だから、今の実力を試してみたいからこそ、この大会へ参加したのだ。





「さて・・・・・どうしようかな。」





ラインは考える。



『7剣星』の平均レベルは200前後だ。そしてリーダーのラインが210だった。



相手をみるとリーダーを除いて、金髪で弓を武器に使う男、1人しかレベルが分からなかった。しかもほぼラインと同じレベルだ。



レイと言ったか。あのリーダーは間違いなくレベルを偽装している。100なんてありえない。



という事は、4人は僕達よりレベルが高いとみていいだろう。



だが、こっちはゲームが始まった時から、俗にいうガチ勢だ。



レベルだけじゃなく、技も、スキルも覚えた。そして様々な冒険をしている。



そこそこレベル差があったって負けるつもりはない。






「なに?」






『ホワイトフォックス』が動いたのだ。






今までずっと中央で、ポケットに手を入れたまま微動だにしなかった相手のリーダーがゆっくりと前に出る。



そして仲間を残してこちらへ歩きはじめた。






ほう。そうくるか。






ならば・・・・・。






「キューブ。頼む。」



「ああ。」



『7剣星』の一人、キューブが前に出て相手に向かう。




我々はその名の通り、全員剣士だ。



常に剣のみで魔物と戦ってきて倒してきた。相手のリーダーも腰に剣を携えているからおそらく剣士だろう。




なら我々は負けない。




何といっても場数が違う。レベルだけじゃない。剣の実力はレベル以上にあると自負している。なぜならば、剣一本でこのパーティはここまで上りつめたのだから。






キューブが歩く。相手のリーダーは歩きながらゆっくりとポケットから手をだし、腰にある剣の柄を握る。



そして、歩きながらお互い交差する瞬間だった。



キューブが剣を取ろうとして柄を握ったまま止まった。



相手のリーダーはそのまま通り過ぎてこちらへと向かっている。





・・・・・ドッ。





するとキューブはそのままの体制で前のめりに倒れた。






!??? 何が起きた? ・・・・・切ったのか?






相手が柄を握った所までは分かった。しかしその後の動きが見えなかった。






「ちっ!ボイル!!セイレーン!!ロミオ!!」



3人が同時に腰を低くして剣の柄を握る。




「瞬歩!!」




ダンッ!




まだ数十メートルあった距離を一瞬で三人は縮め、同時に切り込んだ。




「・・・・・カウンター。」




相手リーダーの顔、胴、腕。三人誰もが切ったと思った。



しかし、全ての剣がその体を通り過ぎていく。まるで幻像を切ったかの様に。



そしてその瞬間、三人とも意識がとんで倒れこんだ。






何だと!?





何をした?





ラインはずっと動きを見ていた。



三人がスキル【瞬歩】を使ったスピードのまま切り込んだ剣が、空を切るのを。



しかも相手は普通に通り過ぎる様にしか見えなかった。



そして彼は我々と10mほど近づくと、腰にある美しい剣をゆっくりと抜いた。






「ライン!俺達が行く!」



二人が剣を抜いて、もの凄い速さで切り込んでいった。






「はぁぁぁぁぁ!」





キキキキキキキンッ!!キンキンキンキンキンッ!キキンッ!



二人が左右に分かれて、相手のリーダーに切り込んでいく。



上下左右。縦横無心に切り込む。






キキキキキキキィンキィン!!キンキンキキキキキンッ!!



相手リーダーはそれを全て受け流していた。






数分経っただろうか。



観客席は静まり返っている。



二人の剣げきは周りから見ても凄かった。



他の冒険者なら最初の数撃で切られて終わっていただろう。




しかし、届かない。




あざ笑うかのように全て受け流していた。



二人の動きが止まる。






「はぁはぁはぁ・・・・・。全然届かないだと?・・・・・ふっ。ふざけるな!!!」



二人同時に後ろへと下がる。そして構えた。






「なら!これを喰らえ!!スキル・・・・・。」



言おうとした瞬間だった。



相手が消えたのだ。





ドッドッ。





二人はラインがいる後ろを振り向きながら倒れた。



「・・・・・居合。光。」



気づくと、相手のリーダーはラインの目の前にいた。






明らかに違った。



レベルもそうだが、実力が違いすぎた。



同じプレイヤーでどうやったらここまで剣術を極める事ができるのか。






「ははは。これは驚いた。剣術だけは私達は自信があったんだけどね。まだまだ上がいるという事か。」



「・・・・・。」



相手は仮面をつけていて表情が分からない。




しかし、プレイヤーとして、これで終わるわけにはいかない。しっかり相手の情報を持ち帰らないと!!次に活かすために!!



PVPの基本だ。



ラインはゆっくりと腰にある2本の剣を取り出した。その刀身はダイヤモンドの様に輝き、透けていて芸術作品の様な剣だった。




【破双剣】



ラインの愛用の剣だ。





「フッ!」



ラインは吐く息と共に相手のリーダーに切り込んでいった。






ギギギギィィィン!ギャンギャンギギギャャャャン!!






・・・・・・早い!



ラインの双剣がもの凄い速さで切り込む。



それを僕はギリギリで受ける。



さすが上位パーティのリーダー。僕とレベル差があってもここまで実力があるとはね。VRMMO時代はガチ勢だったに違いない。やるなぁ。



受けながら僕はニヤリと笑う。



ラインが右手の剣を切り込み。僕がその剣を防いだ時だった。



キィィィィィィン!



剣と剣が当たった瞬間、まばゆい光がほとばしった。



一瞬目がくらむ。



「奥義。破壊双刀!!!」



ラインが僕の後ろへと回り込み、逆手に取った二本の剣を僕めがけて交差する。






ギャィィィィィィィィィン・・・・・。



二本の剣圧におされ後ろへと飛ばされる。






ザザザザザァァァァ



防いだ剣を横で構え、足で踏ん張り、止まる。






「・・・・・何だと?・・・・・折れてない?」



ラインは驚いていた。





ラインの剣【破双剣】は、VRMMOの時に手に入れた特別な剣だ。



ダイヤモンドの様に輝くその双刀は、どんな固い物も切り裂く。



剣をもった魔物などは、その刃でぶつかれば間違いなく相手の刀身が折れた。



そして奥義『破壊双刀』はその名の通り、相手の武器を確実に破壊する技。一本でも折れる刃を2本同時に一点にぶつける技。



この技を受けて相手の武器が折れなかったり、破壊されなかった事はなかった。・・・・・ハルバートや斧でさえも。



相手の武器がなくなれば勝ったようなものだ。



・・・・・しかし、相手の剣は折れてなかった。彼の持っている怪しく光る白くその長い刀身はヒビ一つ、刃こぼれ一つ入ってなかった。






「・・・・・うそだろ?」



ラインが言った瞬間だった。






彼はゆっくりと防いでいたその白く長い刀身を地面の方へと向ける。






「奥義。17閃。」



複数のきらめきが走った。




17ヶ所の急所を同時に切り込む技。17閃。




ラインは双剣で4つは防ぐことができたが、同時に切り込まれた攻撃を全て防ぐことは不可能だった。そして1ヶ所だけでも切り込まれれば急所の為、致命傷になる恐ろしい技だ。






「・・・・・私の剣はかなりのレア物だったんだけどな。・・・・・そっちの剣もよほどの物らしい・・・・・。ハハハ。」



ラインは笑みを浮かべながらゆっくりと地に倒れた。







観客席はずっと静まり返っていた。パーティ戦は派手だ。見ていてとても盛り上がるのだが、この戦いは違った。



こんなすごい戦いを少しでも見逃さないと固唾をのんで見守っていたのだ。



審判が倒れたラインを見た後、片手をあげて大声をあげる。






「勝者!ホワイトフォックス!!!」






ドッ!!!!!



ウォォォォォォォォォォ!!!!!



一斉に歓声があがった。






その歓声と視線は、パーティの中で最弱と言われていたホワイトフォックスのリーダーへと向けられていた。









こうして、今回の天武祭は、個人、パーティともにアルク帝国の独占という形で幕がおりた。







S級パーティ『ホワイトフォックス』。







プレイヤー、現地人、この世界にいる実力者達すべてがその名を覚えた瞬間だった。









☆☆☆









ここは南の大国『ナイージャ』の外海。


この世界をぐるっと囲んでいる大陸の外側にある海。


そこには大小さまざまな島があり、独自の文化をもっている民族もいる。


その数多くある中の一つの島にそれはあった。




犯罪ギルド『スマイルスケルトン(笑う骸骨)』。その第5支部。




世界の犯罪ギルドの中で3本の指にはいる大きく凶悪なギルドだ。



そのギルドは数年前に現れ、一気に勢力を広げた。


前は5大ギルドだったのを、なんと3つも壊滅させ、一躍躍り出た犯罪ギルドだった。



今では残り2つの巨大犯罪ギルドも手を出さず、見て見ぬふりをしている。



この『スマイルスケルトン』は何でもやることで有名だった。


誘拐、強盗、暗殺、傭兵、破壊工作・・・・・なんでもだ。



その第5支部の応接室。


第5支部を任されている幹部の一人、チャーチの前に来客が来ていた。



「ほう・・・・・。来客と言うから来てみれば、これはこれは。」



独特な白い法衣をきた集団がそこには居た。


その集団の前にいる、ソファーに座っている男が話しかける。



「久しぶりですね。チャーチ。商売が順調そうでなによりです。」



「まあ。ボチボチだな。・・・・・しかし、こんな所に何しにきたんだ?わざわざ北の大国『ギリア』のお偉いさんが。」



5大国の1つ。雪に覆われた教国『ギリア』。その大臣の一人だ。



その男は出されたお茶を飲みながら話す。


「・・・・・久々にあなた達『スマイルスケルトン』に依頼をしたいと思いましてね。」



北の大国『ギリア』は『スマイルスケルトン』にとって顧客の一つだった。


『ギリア』の法王とうちのボスが仲がいいのもあって、この国のさまざまな裏の依頼を受け、報酬をもらっている。


しかし、この第5支部は南にある為、わざわざ北の大国からの依頼などなかったのだ。


前に第2支部にいた時に会った以来だった。




ふむ。今はそんなに忙しくないし、ボスからの評価を上げるのも悪くない・・・・・か。




「いいだろう。受けようじゃないか。して、その内容は?」








北の大国『ギリア』の大臣の一人は、うすら笑いを浮かべながら一言だけ話した。














「・・・・・アルク帝国皇女アイリ=レンベルの暗殺。」








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