第56話 天武祭


「レイ君!」



「レイさん!」





「久しぶりです!エリアスさん!・・・・・そしてクリス!」



僕達は人目をはばからず抱き合いながら再会を喜んでいた。




ここは、要人が泊まる最も厳重な宿の最上階。




その大きな部屋の中には、アルク帝国皇帝ガイルズ=レンベルと皇太子のクリス。そしてアイリもいた。



そして護衛として、将軍のエリアスとマルカスが守っている。



外には大勢の武官がこの階を行き来していた。





天武祭前日。





皇帝にお呼ばれされて来てみると、懐かしい人達がいたのでついはしゃいでしまった。



すぐに、皇帝の前で片膝をついて話す。



「失礼しました。皇帝。お久しぶりです。」



「ハハハ。なに気にするな。我らの英雄よ。招待状を受け取ってくれたのだな?」




英雄じゃないから、ほんとその呼び名、やめてほしい。




「はい。こんな大会があるなんて知りませんでしたので、ぜひパーティで参加しようかと。」



「ハッハッハ!そうかそうか!参加してくれるか!」



皇帝は近くまで来て僕を立たせると、肩をバンバン叩いて喜んでいる。



「ここ数年、個人戦はエリアス将軍がいるから問題はなかったんだが、パーティ戦となると我らアルク帝国は参加できなかったのでな。」



あぁ。そういえば、冒険者がアルク帝国には居ないんだっけか。ならパーティもいるわけないか。



「レイ殿が我が帝国、初の冒険者パーティだ。ぜひ、いい試合を見せてほしい!」



「ハハハ。何とか頑張ってみます。」



「うむ。期待しているぞ。なぁ、アイリ。」



アイリは少し頬を赤くしながら僕を見ると楽しそうに言う。



「そうね!私はエリアスを応援しに来たんだけど、しょうがないからレイも応援してあげる!」




ほんと素直じゃないなぁ。




「・・・・・しかし、本当に強くなったね。レイ君。どうやったらあの頃の君からこの数年でここまで強くなれたのか。ぜひ聞きたいものだ。」




部屋で最初に彼と会って、エリアスは驚いていた。




前に一緒に行動を共にしていた時は、剣の腕も動きも粗削りでいてレベルもそんなに高くはなかった。


しかしどうだろう。今の彼は、剣を交えなくても分かる。自分と同じ剣を極めた者のオーラを放っていた。


私はあれからこのままでは王を守れないと思い、強さを更に求め己と向き合い、難関な試練を幾度も乗り越えて、周りにはレベル200ちょっとと偽っているが、本当はレベル248まで己を高めていた。



でも足りない。



彼はそれよりも遥か上の高みにいるのが分かる。成長スピードが異常だ。


この世界で一番の高みにいると思っていた自分が恥ずかしい。


数年前に出会ったこの青年は、想像もつかない程の試練をくぐり抜けたにちがいない。


「エリアスさん。僕もあれから色々とあったので・・・・・今度落ち着いてゆっくりと話ましょうよ!」


「ああ!そうだね!・・・・・でも、レイ君は個人戦は参加しないのかい?君とならいい試合が出来ると思うんだけどな。」


「ハハハ。個人ではあまり目立ちたくないんですよ。今回参加したのはパーティをもっと有名にしたかったからなんですよね。」


「そうか。ならしょうがないか。では。アルク帝国の為。そして己の為にお互い頑張ろう!」


「はい!」


エリアスは今まで自分を高めるのは己との戦いと思っていたが良かった。これで、生まれて初めて目標ができたのだ。





レイ=フォックスという名の君に。





エリアスは僕と固い握手を交わした。




「お父様。もういいでしょ?ねぇ。せっかく来たんだから、ちょっと付き合ってよ。」


「おっと。」


アイリが僕の腕を掴んで引っ張る。


「この天武祭はね!始まる数日前から色々な出し物がいっぱい出るの!絶対に楽しいから見に行こ!クリスも来る?」


「えっ?いいの?・・・・・行く!!」


「ふむ。レイ殿がいれば安全か。レイ殿二人をよろしく頼む。」


「ハハハ。分かりました。」



僕はアイリとクリスに引っ張られながら、お祭り騒ぎの街並みへと歩いていった。









☆☆☆









天武祭の開催期間は一週間の為、その期間は学園も休みになり、希望があれば見に行くことができた。


同じピリカ国にあり、世界中の様々な実力者が集まる大会は、見るだけで勉強になるからだ。




今日は天武祭当日。




僕達は会場へと来ていた。



しかし・・・・・会場がとにかくでかい!



ドーム位はあろうか。とてつもなく大きな闘技場だった。控室から覗いてみると観客席はすでに満席だった。



所々に制服を着た生徒達もいる。



ははは。もしかしてヒッキ達も見に来てたりしてなぁ。・・・・・やめとこう。そういうフラグを立てるとだいたい当たるからな。



午前中は個人戦で、パーティ戦は午後からだ。



AからDブロックまであって、各ブロックで勝ち進んだパーティが準決勝へと駒を進める事が出来る。



そして僕達はDブロックだ。



さて。おそらくプレイヤー達も参加しているだろう。僕がどの位の位置にいるのかこれで分かるといいんだけどな。



気合入れていきますか!



僕達は控室で役割を確認した後、仮面を付けて闘技場へと向かって行った。





午前中の個人戦が終わり、午後のパーティ戦が始まっている。



個人戦は一対一の為、緊張感が高く、観客も固唾をのんで見守っているが、パーティ戦の雰囲気はまた違った。


団体戦なのでとにかく派手なのだ。色々な攻撃が入り乱れるので見ていて楽しく、とても盛り上がっていた。




「さぁ~!皆さん!次はDブロォォォォック!!最初のパーティはいきなりS級パーティ同士の対決だ~!まずは、どんな魔物も近づかせない堅実なパーティ『ウオッチドッグス』!!」



入口から5人組の大柄な男達が現れた。その手には剣や斧。杖などを持っている。剣士から魔法使いまでバランスのいいパーティだった。



この大会は基本、持っている武器の使用が認められている。


しかし、剣や槍、斧など殺傷能力が高い武器は、ある特殊なアイテムを付けられ、武器の周りに見えない膜を張り、切れない様になっている。


しかし、切れないだけで、普通に切り込めば木刀以上に痛いし、大けがを負う事もあった。


それ以外の魔法や遠距離武器などは、自由だった。


だからこそ、当たりが悪ければ死人もでる大会だった。



そして、勝つ条件は、パーティリーダーが倒されるか、パーティが全滅するかのどちらかだ。



「続いては、今回の台風の目になるか!メンバーのほとんどがレベル200オーバー!SSS級に今最も近いとされているパーティ~。『ホワイトフォックス』!!!」




僕達が現れると、ボルテージが上がり、もの凄い歓声が響き渡っている。




うぉぉ。凄いな。こんな所で戦うのね。ちよっと緊張しちゃうな。




僕達とウオッチドッグスが一列に並び向かいあう。



そして、一礼した後に50m程離れて開始の合図を待った。





「始め!!!」





ウオッチドッグスのリーダー、ケイがまずは相手の様子を見る。



・・・・・両サイド前衛に二人。少し後ろの中央に一人。さらにその後ろ後衛に二人か。・・・・・5人組でうちと同じだ。



表情は全員仮面を付けているので分からない。


そして、真ん中でポケットに両手を入れている男がおそらくリーダーだろう。


情報として、やはり問題なのが、リーダーを除く4人がレベル200オーバーという事だ。


これが本当なら、俺達の平均レベルは130程度。


普通に戦ったらとてもじゃないが勝てない。


ホワイトフォックスのリーダーはレベル100と聞いている。



ならば、作戦は一つのみ。



俺達が倒される前に、あちらのリーダーを倒す!!



ケイは他のメンバーと目を合わせ、頷くと叫ぶ。



「いくぞ!」



「オォォォォ!!」



1人が後ろで魔法を唱え始め、4人が一気に相手のリーダーめがけて駆ける。




「やっぱりそう来るよね。」


僕めがけて駆けてくる4人をポケットに手を入れたまま呟く。



フフフ。なんか真ん中で余裕を演出しているとカッコいいよね!





「・・・・・白雪。」



シュン。



僕が一声かけた瞬間に右にいた白雪が消える。





「・・・・・消えた?」



先頭を駆けているケイは、相手のリーダーの左にいた白い髪の女が消えるのが見えた。



「構わず行くぞ!」



リーダーをやってしまえば終わりだ。何か仕掛けられる前に終わりにしてやる。



向こうのリーダーの10m手前まで来た時だった。



長年冒険をやってきた経験だろうか。



ケイはふと左側から悪寒がはしり、持っていた盾を左に構えた瞬間だった。



ギィィィィン!



盾と一緒に横に吹き飛ばされる。



「なっ?」



何が起きた?



見ると、先ほど消えた白い髪の女が立っていた。両手に美しい剣を持っている。



「ちっ!危なかった。でも防いだからな。おい!早くこの女の相手を・・・・・。」



後ろから付いてきていたであろう仲間達を見て愕然とした。



全員倒されていたのだ。



後ろの魔術師も一緒に。



この一瞬でだ。




「うそだろ・・・・・。」



思わずケイは声を出していた。



こっちは駆けて向かっていたのだ。それを一瞬で4人を倒して俺まで攻撃しただと?



ありえないスピードだろ!



「・・・・・まだやりますか?」



ポケットに手を入れているリーダーらしき男が言う。



このまま向かってもとてもじゃないが辿り着く前に倒されるだろう。



・・・・・でも!!!俺はウォッチドッグスのリーダーだ!




「うぉぉぉぉぉ!」




ガンッ!!!




右手にもった剣を投げようとした瞬間、瞬時に距離をつめて、白い髪の女の剣がケイの後頭部を叩いた。






「勝者~!ホワイトフォックス!!!」



「オォォォォォォ~!!!」



歓声が鳴り響いた。






僕達は控室に戻ると、仮面を外して話す。



「よし!とりあえずは初戦突破だね。二回戦は明日だから今日はこれにて解散!夕方宿で落ち合って祝勝会でもしようよ!」



「いいね!」


カイトが賛成する。



「は~い!」


それに合わせて3人も声をあげる。




僕達は、仮面を外してばれない様に一人づつ闘技場を後にした。




さて、夕方まで時間があるから露店でも見てまわろうかな。



本当だったら皆と一緒にまわりたかったがしょうがない。自分で決めた事だ。がまんがまん。




「すみません。レイさんですか?」



歩いていると声をかけられた。



振り向くと、そこには、長身で長髪のカッコイイ男の人とメガネをかけた綺麗な女の人がいた。



「えっ。なんで僕の名前を?」



その男の人は笑顔で言う。



「・・・・・プレイヤー。と言えば分かるかな?」



!!!



僕が驚いていると彼は続ける。



「ここでは何ですから、どうでしょう。少しお茶でもしませんか?」



「・・・・・そうですね。分かりました。」



「良かった。それでは行きましょうか。」



僕は長髪の男の人についていった。









☆☆☆









僕達はお祭り騒ぎなメイン通りから少し外れた落ち着いた店でお茶をしていた。



あれ。この飲み物は何と言うか、紅茶に近いようでそうでないような面白い味だな。



僕はお茶を飲んでいると、長髪の男の人が話しかけてきた。



「まずは、自己紹介からしましょうか。私はシュバインと言います。そして隣にいるのがリンです。」



「あっ。ご丁寧に。私はレイ=フォックスといいますが・・・・・何で知っていたんですか?」



「ハハハ。貴方はVRMMOの時から有名ですからね。」



「・・・・・有名?」



何を言ってるんだこの人は。



「どうでしょう。プレイヤー同士、情報交換しませんか?」



「えっ!いいんですか?ぜひお願いします!」



・・・・・今、僕が一番欲しいのは他のプレイヤーの情報だ。VRMMOの時から一切プレイヤーと会えずに今日まできた。

今、自分がどんな位置にいるのか。そして他のプレイヤーはどんな事をしているのか。とても興味があった。



「それでは、まずは私の方から話ましょう。」



シュバインは話始めた。





まずは、レベルの事。


『101の壁』にプレイヤー達が直面した時に最初は大変だったが、上げるやり方が分かったのだ。


それは、『イベントをこなす』か『新しい事を開拓する』の2つだ。


通常だとどんなに魔物を倒してもレベルは上がらないが、何かの頼み事やイベントなど、攻略するのに『意味がある』ものに対してはレベルがあがる。


その内容によって、レベルが1上がる時もあるし、一気に上がる時もある。


冒険者協会が設定する魔物の適正レベルという物がなく、分からないので危険は高かった。


しかし、それが分かってからは、上位プレイヤー達はどんどんレベルが上がる様になったそうだ。


そして、プレイヤー達はそれぞれクランで基盤を作り、運営をしているのだとか。


今この世界で五大クランと言われているクランの4つはプレイヤー達のクランだそうだ。


「数年前に魔物のレベルが飛躍的に上がってしまいましたからね。それに合わせて冒険者ランクの適正レベルもあがったんですよ。特にS級以上はね。」


A級以下はそんなに条件は変わらないのだが、それ以上のランクがかなり厳しくなった。


S級がレベル120以上。SS級が150以上。SSS級が190以上と、レベルだけでなく実績も必要になり、昇格する難易度が大きくあがったのだそうだ。



そうでないと、今の強い魔物に対応できないからだった。



「・・・・で、今の上位プレイヤー達は君と同じ様にレベルを世間に公表していないプレイヤーもいてね。レベル200オーバーのプレイヤーは私が知っているだけで10名はいるかな?そして一番高いプレイヤーが、最強と言われているクラン『HEAT(ヒート)』のトップパーティ『ゴースト』のリーダーが249だね。」




・・・・・えっ?たった10名?・・・・・えっ?249がプレイヤーで一番高い?




「フッ。驚いているね。だから君は有名だと言ったんだよ。レイさん。」



シュバインは笑みを浮かべながら話を続けた。



シュバインさんは、アークスの開発に携わっていた人だったのだ。


だから、レベルが一番高いプレイヤーが誰なのか知っていた。


しかし、僕は他のプレイヤーと一切プレイしていなかった為に、噂や名前がネットや掲示板にのらずに今まできていたのだとか。



「しかし、レベルの偽装が見事ですね。唯一調べられる魔法『アイズ』を唱えると君はレベル100だ。どんな魔法を使っているのやら。」



基本、相手のレベルが分かる魔法『アイズ』は自分より高いレベルの相手には見れないのだ。だから、実力を隠そうとしているプレイヤー達は、相手のレベルを見た上で


低く言っているのだとか。



「でもね。今はトップパーティの『ゴースト』でも、レベルは足踏み状態が続いているらしいね。250位になってくると簡単なイベントじゃ上がらないらしいし、魔物も強敵だ。今まではゲームとして何回もリトライできたけど、今は現実だからね。一回死んだら終わりだ。慎重にもなる。」



たしかに。



シュバインさんはあともう一つ。情報を教えてくれた。



プレイヤーの見分け方だ。



「これはね。至って簡単だよ。僕を調べられるかい?」



僕は『天眼』でシュバインを見た。



「君が使っているのもおそらく魔法『アイズ』と同じ様に、名前と種族とレベルが表示されていると思うんだ。その名前の右に小さな丸いマークがついていると思う。」



・・・・・ほんとだ。シュバインと表示されている横に地球の様なマークがついている。



「たしかに付いてますね。」



「このマークが付いていれば僕達と同じプレイヤーなんだよ。付いてない場合は、現地人だね。」



はぁ~。なるほどねぇ~。これは助かる。



シュバインさんから貰った情報はどれも素晴らしかった。



「・・・・・それでは、僕が知っている情報を話しますね。もしかしたら運営の人だったのなら知っているのかもしれませんけど。」



僕は、天界の事。魔界の事を話した。



「・・・・・へぇ~!私は開発の時に良く君を見ていたから天界や魔界に行ったのまでは知っていたんだけど、その世界の中身までは知らないんだよ。

ふむ。・・・・・この我々がいる世界が現界というのか。様々な国がある様に、天界や魔界にもあるのだと。そういう事ですね?」



「ええ。それで・・・・・。」








☆☆☆








「いやぁ。いい情報交換が出来ました。レイさん。ありがとうございます。」



「いえいえ。こちらこそ。ありがとうございます。シュバインさん。」



「天界には興味がありますね。しかし、アルク帝国にはなかなか入国はできないでしょうし、何とか他のルートを考えないとな。」



「僕も今度天界へ行った時にでも、他のルートがあるのか聞いてみますよ。」



「ほんとですか!助かります。私達は貴方に会えて目的も達成したし、クランの事もあるので、明日この国を発ちます。今度、ぜひ私のクランに遊びに来てください。」



「はい。近くに寄った時にはぜひ。」




僕達はガッチリと握手を交わした。




「・・・・・ああ。そうそう。今回のパーティ戦。ぜひ優勝してくださいね!おそらく同じプレイヤーもいると思いますので、ぎゃふんと言わせてください。」



シュバインはいたずらっぽく笑う。



「ハハハ。頑張ってみますよ。」



「それではまた。」



シュバインが手を振り、横にいるリンさんが会釈をして去っていった。





シュバインさん達に会えてよかった。



プレイヤーの状況も分かったし、本当にためになる事ばかり教えてもらった。



シュバインさんが住んでいる国も教えてもらったし、今度そっちに冒険に行くときにはぜひ寄らせてもらおう。



・・・・・プレイヤーで今最強なのがレベル249か。ここまで僕のレベルがあがったのは、やはり師匠のおかげだろう。・・・・・ルネ師匠。ありがとうございます。



そして、シュバインさんも人が悪いや、スキル『天眼』でみたら、あの人のレベルは247だった。



ほぼ同じトッププレイヤーだ。



開発の時と同じ会社の名前で、クラン名『アークス』。そのクランマスターか・・・・・。







僕はシュバイン達が人混みに消えていくまで眺めていた。







さぁ!明日から優勝目指して頑張りますか!!!










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