第55話 腕試し


レイモンド先生が唖然としながら立っていた。




「ねぇねぇねぇ!主様!どうでしたか?ちょっと簡単に倒しすぎましたかねぇ?もうちょっと遊んであげれば良かったでしょうか!」


ロイカは僕の後ろで抱きつきながら、はしゃいでいる。




はぁ~。ちょっとやりすぎじゃない?ロイカさん。






圧倒的だった。






レイモンド先生が召喚した3体を、あっという間に倒してしまったのだ。






そりゃ~ねぇ~。



他のどんな召喚獣や天使も悪魔も敵うわけがないのだ。


だって、スキル【天眼】でみたら、僕より遥かにレベルが高いんだもん。シャインさんの側近というだけあるなぁ。


黒の一族は他の種族に比べると群を抜いて強った。




「・・・・ロイカさん。助かりました。ありがとうございます。また何かありましたらよろしくお願いしますね。」



「ああ!主様。勿体ないお言葉!呼んでいただければ、私達黒の一族は、この命。いつでも主様の為に捧げます!」




だめだよ。簡単に命を捧げちゃ。




僕は解除魔法を唱えると、ロイカは徐々に姿が薄くなっていく。そして手を振りながらロイカさんは魔界へと戻っていった。






ガクッ!!!






レイモンドは、片膝をついて、うなだれていた。


倒されたせいで、魔力が大量に減ったからだ。




・・・・・ありえない。ほんとに一瞬だった。一瞬で私が召喚した最強の3体を倒してしまったのだ。




こんな事は今までになかった。



しかも、私のフェニックスは、その名の通り不死鳥。


倒されてもすぐに蘇るのに、最後まで蘇ることはなかった。



3体分の魔力がごっそり削られているのが分かる。



完全に倒されたのだ。



何も出来ずに。




・・・・・彼が召喚したあの者はとても危険だ。闇そのものだった。・・・・・後で学園長に報告をしないといけないわね。




レイモンドは先生ではなく、一人の召喚士として思った。





先生はゆっくりと立ち上がって手を2回叩きながら話しかける。



「はい~。皆さん~。これで今回の授業は終了です~。召喚できた生徒は、常に召喚できる様に、訓練を怠らないようにね~。あと、レイ君は後で話があるから先生の部屋へ来るようにね~。それでは解散です~。」






「おいレイ!何だよ。あの黒い美人さんは!後で召喚してデートさせて!」


ヒッキが食いついてくる。



「まてまてまて!!まずは一緒にお茶だろう。お茶!!」


へーリックも食いついてくる。



「・・・・・完全ウルトラストライィィィィィク!!!頼むレイ!!!後で話だけでもさせてくれ!!!」


サイクス・・・・・ウルトラストライクだったらしい。お姉様が好みなんだ。





結局他の召喚した生徒達は戦わせる事が出来ず、次回の授業に持ち越しとなった。



僕は、初めてシャインさん達を召喚できる事が出来たので、大きな収穫だった。


これでいつでも召喚できる事が分かった。



後で、レイモンド先生には、僕の召喚は危険すぎるから、ここでは絶対に召喚しない様に言われてしまったのは余談である。









☆☆☆









「おい。レイ。あの子、可愛くね?」



「いやいや。あっちだろ!!」



「・・・・・どすこい!!!」



学園生活は順調そのものだ。


半年経った今も、友達と楽しく講義を受けている。




そんな時だった、学園長から呼び出しを受けたのは。




「失礼します。」



「どうぞ。」



扉を開けるとリーネ学園長が僕を見ながら学園長らしい大きな机に座っている。



入学の時以来だった。



久しぶりだ。



リーネが笑顔で話しかける。



「レイ君。だいたい半年位かしらねぇ。貴方が入学してきたのは。学園生活はどう?」



「そうですね。半年位経ちました。今も充実した生活をおくらさせてもらってます。」




この学園都市『カラリナ』へ来て本当に良かったと思っている。




今まで知らなかったこの世界の理や歴史。


どんな国があってどんな生活をこの世界の人々は送っているのか。そして種族や生態系。魔法や召喚など様々な事を学ぶ事ができている。


唯一の不満といったら、剣での実戦が出来ない事位か。周りがあまりにも弱すぎて訓練にもならないのだ。


皆、まだ未熟な学生だからしょうがないが。


だから、一人、朝早く隠れて訓練をしている位しか出来なかった。


まぁ~たまに剣の教師のアラン先生が来て相手をさせられる事があるから、それで我慢している。


この世界の事を学ぶのには最低2年位はかかると学園長が前に言っていたが、たしかにその位はかかるだろう。


だから2年間はこの学園でしっかりと学ぼうと思っている。




「・・・・・ところで、アルク帝国の皇帝から書簡をもらいましてね。来月にある武の大会にぜひレイ君も参加してほしいと書いてあったわ。ご丁寧に参加証も一緒にね。」





世界唯一の中立国というだけあって、『ピリカ』には3つの顔があった。



1つ目は、全世界の選ばれた学生を集めての学び場である学園都市『カラリナ』。


2つ目は、3年に一度開催される、全世界の王が集まる会談。そして紛争や戦争があった時に使う会談等の場所に。


3つ目は、天武祭の開催地だ。





天武祭。



毎年、年一回行われる最強を競う武の大会。


全世界から種族とわず腕自慢がやってきて、最強を競う大会だ。


そこには、有名な剣士や武闘家や大魔術師、ここで名を上げようと参加する者。はたまた各国の将軍クラスの者まで参加している。


とても有名な祭で、各国の王や閣僚が見に来たりしている。


そして、全世界の冒険者協会に設置してあるアルク帝国が提供した魔法鏡でその雄姿を見れるという仕組みになっていて、この期間だけは、冒険者協会は一般の来場も開放している。


個人戦とパーティ戦があり、それぞれの優勝者には、賞金や賞品はもちろんの事、一番は【最強】と言う名の『名誉』がつく。


この名誉を手にする為に世界中の強者たちがやってくるのだ。



・・・・・そして今まで、個人戦はエリアス=ノートが8連覇中との事。



やっぱりすごいな。エリアスさんは。



そこにぜひ参加してほしいと、わざわざガイルズ皇帝が書簡を送ってきたのだ。



こういうの、結構面白そうだよね。



個人的には目立ちたくないが、パーティは有名にしたい。




ふむ・・・・・。




「分かりました。それではパーティとして参加します。」



「そう! なら、生徒が出場するのでしたら見に行かないとね。」



リーネは楽しそうに頷く。



ちなみに、この学園の教師、アラン先生も個人戦に出場するらしい。頑張ってほしいものだ。




後で考えたら、もし、僕達が優勝なんかしたら、個人戦でエリアスさんが優勝したとするとアルク帝国出身者の総なめになる。


皇帝はそれを狙っているのかもな。



帝国の強さを誇示する為に。



まぁ~でも、楽しみだ。



すでに転移して半年以上たっている。


この大会はすごく有名みたいだから、僕と同じプレイヤーもきっと参加してくるだろう。情報交換もできるし、これでプレイヤーの中で、自分の強さがどの位の位置にいるのかが分かる。






僕は学園長の部屋を出て、すぐに、心の腕輪で皆に参加する意思を伝えた。









☆☆☆









小国。ピリカ国の西側にある首都『ミューズ』。ちなみに、東側の海の方が学園都市だ。


そこで、天武祭は毎年開催されている。


会期は1週間で、会期を含む前後の期間の警備は、異常すぎる程に警備が厳重だった。武器どころか、小物ひとつ首都に持ち込む事はできない。


全世界の要人が見に来る為、準備は万全だった。




「はい!次はこちらで、この魔法陣に立ってください!」



首都に入る検問で働いている私と大勢の職員は、次々と来る国の要人や、大会に出場する者、大会を見に来る観光客のチェックを何重も行っていた。


不審者の排除や、不審な持ち物を没収する為に。


大会期間を含めてこの一ヶ月はとても忙しかった。


すると、ある冒険者パーティが検問へと入ってきた。


その者達は16歳~19歳位だろうか、若いパーティだ。


全員特徴のある服を着ていて、リーダーらしき男の腰には、とても美しい剣が見える。


参加証を見ると、今世界の冒険者で話題のS級パーティ『ホワイトフォックス』だ。




「このパーティが・・・・・。」


私は独り言のようにつぶやく。




リーダー以外の4人は全てレベル200オーバーという。今、もっともSSS級に近いと言われているパーティだ。



全員が、仮面をつけていて、顔がわからない。


しかし素人の私でもこのパーティは他と比べて雰囲気が違った。




「入ってもいいですか?」


リーダーらしき男が言う。



「あっ。はい!問題ありませんでした。どうぞお通り下さい!」


首都へと入っていくその者達を私は後ろで見ながら、今回の大会はあのパーティに賭けようと思った。









☆☆☆










「レイ!外はどこもすごいね!お祭り騒ぎだ!」


仮面を外したカイトは窓の外を見て、楽しそうに喋っている。



大会会場のある首都『ミューズ』に来た僕達は、まずは宿へ行ってチェックインを済ませた。


最上階のパーティが泊まれるとても広い部屋を借りた。


ここでなら、仮面を外しても問題ないだろう。


僕達は今は学生だ。顔ばれして、騒ぎになりたくなかったし、そもそもパーティ名は有名にしたいが、個人は目立ちたくないからだ。





「・・・・・あの。ところで君達?何をしているのかな?」


白雪、ラフィン、キリアが立っている僕を囲んで抱き着いている。





「・・・・・しばらくくっついてなかったからね。」


ギュッと僕を抱きしめ、僕の胸に顔をうずめながら白雪が言う。




「ん~!このぬくもり!この感触!久しぶりだ~!」


ラフィンが後ろから抱きしめながらはしゃいでいる。




「・・・・・スー・・・・・スー・・・・・久しぶりのレイの匂い。・・・・・堪能。」


キリアが横から抱きしめて、匂いを嗅ぎながら言う。





・・・・・理性が飛ぶ前にやめて下さい。皆の胸の感触がぁぁぁ!





「ハハハっ!相変わらず、レイはモテモテだね!」



「いやいやいや。何言っちゃてるの?カイトは学園じゃすごいじゃん。」



そうなのだ。学園だと、一つ上の学年だが、たまにカイトを見かけると周りにはいつも女の子がいっぱいいた。


さすが、男子ランキング5位の男だ。


背は少し低いけど、アイドル顔だし、出身もどこかの国の王子という事になっている。(まぁ~ある意味嘘じゃないけどね。)


しかもあの優しい性格だ。もてるわけだよ。



「そうだね!女の子が居るとつい愛を語らいたくなっちゃうんだ!」




とりあえず、女子3人が落ち着くのを待ってから、お茶をしながら話始めた。




「この大会で、僕達ホワイトフォックスはパーティで優勝を目指します!どうかな?」



「おお~!」



「そうね。有名にするんなら、いいんじゃないかな。」



「サンセー!」



「・・・・・いいね。」


四人が賛同する。




「よし!じゃ~明日に備えて、皆でパァ~と飲み食いしますか!」



「わーいわーい!」



僕達は、仮面を付けて夜の繁華街へと向かって行った。










☆☆☆









首都『ミューズ』にある、繁華街の一つの飲み屋にその者達はいた。




「・・・・・シュバイン博士。やはり『ホワイトフォックス』が出場するみたいですね。」


昔、助手をしていた女性が言う。



「・・・・・リンさん。私はもう博士ではないよ。」


シュバインはお酒を飲みながら言う。



「あっ。失礼しました。我がクランマスター、シュバインさん。」



「やはり情報は間違いなかったみたいですね。無駄足にならなくて良かったです。話によると仮面を付けているみたいですね。」



・・・・・という事は、まだ顔を知られたくはないのだろう。でもパーティは有名にしたいと言った所か。



まだ、他のプレイヤーとの接触がないのも知っている。我々のクラン『アークス』情報部のおかげだ。



シュバインは天武祭に出場する参加者リストを見ていた。



「この大会に出場する他のプレイヤーで目立つ者達はと・・・・・『7剣星』ですかね。」



ゲームとしてVRMMOの時からのトップクラン『HEAT(ヒート)』の上位パーティだ。



おそらくこのパーティが『ホワイトフォックス』との決勝相手となるだろう。



たしか今の彼らのレベルは200前後だったかな。



「フフフ。ゲームの時はこのパーティは10位以内にいるトップクラスのパーティだとネットや掲示板で騒いでいましたが、さらに遥か上をいくプレイヤーがいるとは彼らは思ってもみないでしょうね。・・・・・さて。現実世界となって、プレイヤー達のPVP。どんな戦いになりますか。」





私達がこの天武祭に来た理由は一つだけ。



『ホワイトフォックス』のリーダー、レイ=フォックスに会うためだ。



「ふむ・・・・・。この一週間で何とか会えるといいのですが・・・・。とりあえず、まずは、ここまで来たことだし、皆さん飲みましょうか。」



クランの一部のメンバーと一緒に来たシュバインは、食事が来たのを見計らってゆっくりとお酒を飲み始めた。












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