第52話 学園生活
学園都市『カラリナ』はとても広い。
各学年ごとに教室ではなく大きな館で分かれている。
その周りには各科で行う実地訓練などに対応できるように闘技場や魔法場など多肢にわたって広い競技場の様な場所がいくつもある。
そこから少し離れると一万人以上の生徒達が住んでいる寮が何棟もあり、
更にその先は生徒専用のショッピング街や路面店など娯楽施設も充実している。
この学園が一つの町となっているのだ。
学園都市と言うだけの事はあるな。
「はぁぁぁぁぁぁ。」
僕は大きなため息をついた。
入学してから一ヶ月半程が経とうとしている。
でも、妹とはまだ再会出来ずにいたのだ。
失敗こいた。
ロイージェさんから、妹がここに居るのは聞いたが、名前や歳を聞いてなかったのだ。
妹は地球に住んでた頃の妹だと、自然と思ってしまった。
転移した妹は姿も違うし、名前や歳も違う。
探せるわけがなかった。
まじ失敗こいた。
「はぁぁぁぁぁぁぁ。」
2度目の大きなため息をついた。
「おい。レイ。さっきからため息なんかついてないで、ぼちぼち行こうぜ。」
サイクスが声をかける。
「サイクスちょっと待てよ。レイ、見ろよ!この間発売した本!めっちゃ可愛くね?」
へーリックが水着を着た女の子の雑誌を見せる。
「あぁ~移動中に強風が吹いてスカートめくれないかなぁ。レイも一緒に念じてよ。」
ヒッキが独り言のように呟きながら僕に話しかける。
今は新しくできた友達と一緒に休憩中だ。
50人ほどいるクラスの中で、彼ら三人は最初に僕に声をかけてくれた。
色々と面白い事をやったり、想像力が半端なかったり、言葉使いがちょっと悪い所はあるけど、根はとてもいい奴らだった。
うん。
だからこの学園生活では、彼ら三人と一緒に行動しようと思った。
「ハハハ。へーリック。後で見せてよ。でも遅刻はまずいから、とりあえず、剣技の講義へ行こうか。」
立ち上がって僕たちは次の授業を受ける為に、剣技場へと歩いていった。
この学園の生徒達の力関係ははっきりしていた。
出身によって決まっているのだ。
皇族や王族が一番上で、一番下は平民だ。
ヒッキはそれは仕方のない事なのだと言っていた。
この世界は王族や貴族の生まれの子は平民の子に比べると圧倒的に身体能力が高く、魔力も高かった。
たまに高い平民もいるが、それはごく稀なのだとか。
う~ん。遺伝子か何かの問題なのかなぁ。
だから必然的に、皇族や王族のグループ。大貴族や貴族のグループ。武士や騎士などのグループ。そして平民のグループと、どこの学年も大体はその集団になっていた。
僕達は平民のグループの一つだ。
まぁプレイヤーだった僕としては、あまり目立ちたくないし、友達も面白い奴らだし、とりあえずいい学園生活がスタート出来てよかった。
「それでは、本日は剣の模擬戦を行う!まずは男からだ!くじ引きで順番にペアを組んで戦ってもらう。相手に決定的な打撃を与えるか降参したら終了だ!」
木刀を使った模擬戦が始まった。
・・・・・しかし、・・・・・なにこれ?
始まってクラスの皆は一応戦ってはいるのだが、何というか、これじゃお遊戯レベルだ。確かに王族や貴族達の方が動きはいいが、レベルが低すぎてあまり変わらない。
「ちきしょ~!俺のスペシャルギャラクシーアタックが火をふく前に終わってしまった!」
サイクスは結構、健闘したが倒されて戻ってきた。
「残念だったなサイクス。俺もスペシャルソードを放ったが倒せなかった。」
へーリックが悔しがっている。
「くっそっ!!僕もあと少しで倒せたんだけどな!スペシャルマジックで!」
三人の中で一番早く倒されたヒッキが言う。
おいおいおい。スペシャルを付ければなんでもカッコイイと思ってないか?なんだよ最後のマジックって。お前はマジシャンか!!
つい、心の中でツッコミを入れる。
「次!レイ=フォックス。前へ!」
呼ばれた。
「レイ!平民だって強いって所を見せてやれ!」
「いけゃ~!!」
「どっこいしょ~!!!」
仲間の声援なのか罵声なのかが響く。
どっこいしょってなんだよ、どっこいしょって。
僕の相手は、キリアン=ハイドとかいう、いつもこのクラスの一番偉そうにしている集団にいるやつだ。
たしか、東にある小国『ライク』の王子様だっけか。
「キャ~!キリアン様~!がんばって~!」
女子の応援が響く。
僕とはえらい違いだ。さすが未来を約束された王子様だ。女子に人気が高い。
「ふむ。留学生。君が相手か。僕はあまり弱い者いじめはしたくなくてね。手加減してやろうか?」
髪をかき上げ、見下すようにキリアンは言う。
「ハハハ。いえ。大丈夫です。模擬戦ですから遠慮なくどうぞ。」
「フフフ。そうか。では一瞬で終わりにしてやろう!」
「始め!!」
教師が声をあげる。
キリアンは始まりの合図と同時に、突っ込んでくる。
隙だらけもいいところだ。
「タァァァァァ!ハッ!ハッ!ハァァァァァ!!」
カンッ。カンッ。カカンッ。
一応は剣を習っていたのだろうか、少しはまともに見えるが、僕にとってはあまりにも遅すぎてあくびがでる。
でもあまり余裕にしていると、変な目で見られるので、頑張っている風にしないと。
平民らしくね。
カンッ。カンッ。・・・・・・
キリアンがずっと攻撃を仕掛けているが、僕はあたかもギリギリで防いでいる感じをだしながら防いでいた。
カンッ。カンッ。はぁはぁはぁ。
カンッ。・・・・・・暫く防いでいると、疲れたのか、攻撃が止まってしまった。
キリアンは手を膝について肩で息をしている。
よし。これはさすがにチャンスだから攻撃しないとな。
「とう!」
僕は優しく木刀をキリアンの肩に軽く当てた。
「それまで!勝者レイ!」
「ラッキー。たまたま当たった~!」
あたかも偶然勝った様に振舞わないと。
お互いに礼をし、見学席へ戻ると仲間が興奮しながら肩を絡める。
「レイ!やったな!王族に勝ったなんて凄いぞ!」
「ふっふっふ。ざまぁないね!」
「あ~。見てて気持ちよかった!」
「ハハハ。たまたまだよ。たまたま。僕は防御が得意なんだ。相手が疲れた所をバシッとね。」
すこし離れたキリアンのいる王族グループを見ると、めちゃめちゃ怖い目で僕を睨んでいた。
その後女子の模擬戦が終わり、全員が集合した前で教師のアラン先生が話始める。
「お前達!はっきり言って全然なってない!もっと剣に励まないと自分の身を守れんぞ!特に冒険者や武官に将来なろうという者は今のままでは到底なれん。そのつもりで学ぶように!」
「はい!」
「・・・・・それと、この中で良い動きをした者がいた。・・・・・レイ=フォックス。前へ。」
えっ?
「ハッ。ハイ!」
僕は皆の前へと出る。
「防御が得意といったな。どの位出来るのか試してやる。私と模擬戦だ。闘技場の中央へ来い。」
まじかぁ~。目立ちすぎたか?しょうがない。
僕はアラン先生と対峙する。
他の生徒はだまって真剣に見ている。
アランは学園長リーネに誘われて、数年前に教師としてやってきた。前は南の大国『ナイージャ』の将軍だった。レベルは170あり、まだまだ若かったが多くの若者に自分の剣を教えたいという夢を持っていた。だからこそリーネに誘われた時は迷わず教師になったのだ。
リーネが言っていたな。一度、レイ=フォックスと剣を交えてみてほしいと。ある知り合いの弟子で相当強いはずだと。
さっきの模擬戦も明らかに手を抜いていたのが分かる。おもしろい。どの位実力があるのか試させてもらおう。
「それではレイ。準備はいいか?」
「はい。先生。大丈夫です。」
「では、行くぞ!!」
カカンッ!!カンッ!カカカンッ!!
今までの生徒達とは明らかに違う剣速と剣圧だった。
・・・・・うん。この先生。結構強いぞ。
受けながら、もっと自分の練習になれる様に、工夫をしてみた。
攻撃をギリギリで躱す練習だ。
最初は30cm。次は20cm。10cm。5cm。1cm・・・・・と躱す。
最後の方は、見ている生徒達は当たっている様にしか見えなかった。
でも当たってない。
「ハッ!お前。凄いな!!!」
アランは一旦距離を置く。
将軍だった時、彼は『抜刀のアラン』と呼ばれていた。離れた距離から凄まじい速さで切り込む事で敵から恐れられた名前だ。
「・・・・・抜刀。」
アランはそのまま一気に踏み出した。
もの凄い速さで木刀がレイへと叩き込む。
カァァァァァン!!
レイが木刀で防ぎながら吹き飛ばされ、尻もちをつく。
「いでっ!!・・・・・先生!降参です!」
アランは茫然としていた。
「・・・・・先生?」
「ハッ!!・・・・・よっよし!これで今日の授業は終わりだ!今後はもっと実戦形式の授業をする!そのつもりで予習をする様に!」
「はい!」
生徒達は、館へと戻って行った。
「レイ!すげ~な!よく頑張った!」
「結構粘ったな!!」
「・・・・・あっ。向こうに可愛い子が歩いてる!!!」
レイは友達3人と一緒に談笑しながら歩いていった。
少し離れた所から見ていたリーネが、アランの元へやってきた。
「アラン先生。お疲れ様。どうだった?彼は。」
「ふ~。学園長。人が悪いですね。彼は何者なんですか?・・・・・あれは化け物ですね。とても勝てる気がしませんでした。」
相対した瞬間に、勝てる気がしなかったのだ。
最初から本気をだして攻撃していても、相手は練習程度しか力をだしていないのが分かる。
ここまで戦っていて無力感を感じた事はなかった。
あの、エリアス=ノートと戦っていた時でさえも。
最後の爆発的なスピードで抜刀し、相手を切り裂く技も、わざと(・・・)受けた瞬間に後ろへ飛んでみせた。
私のスピード以上の速さでだ。
「参りましたね。私以上の者はエリアスを含んで数少ないと思ってましたが、その更に上がいようとはね。世界は広い。・・・・・私もまだまだ修行が足りないな。」
「フフフ。そうでしたか。そこまでの実力でしたか。・・・・・やはり彼の弟子というのは間違いないみたいね。私の見る限り、もう師匠を超えているみたいだしね。」
「!? 師匠と言うのは・・・・・そうでしたか。私では敵わないわけだ。」
「なぜ実力を隠しているのかは分かりませんが、あまり目立ちたくないのでしょう。彼も生徒です。ゆっくりと見守っていきましょう。」
「そうですね。ただ、今年の武の大会に出場しようと思っているんですよ。己を鍛える為にも、たまには呼び出して相手をしてもらおう。」
アランはニヤリと笑う。
「フフフ。ほどほどにね。アラン先生。」
リーネは授業が終わって戻っている彼の後姿を見ながら微笑んでいた。
☆☆☆
剣の授業も終わり、今は昼時だ。
僕達は学園食堂へと来ていた。
食堂だけの館が数件建っている。それぞれが、料理の種類が違う様になっていて、生徒が昼や夜に自由に選んで入れる様になっているのだ。
しっかし、ここの食堂もでけ~な!!
どこの館も入口で、自動で学生服をクリーンにする魔法がかかり、清潔にしてから食堂へと入っていく。
入るととても広い空間に、もの凄い数のテーブルが置かれている。そして奥には料理を受け渡しする場所があり生徒達が並んでいた。
僕達は好きなメニューを選んで、二階へと上がり、一階から吹き抜けになっている中央付近の場所のテーブルで食事をはじめた。
ここからだと、一階がとても良く見える。
「・・・・・しっかし、ほんとここの料理うまいな!」
食べながら思わず僕は言う。
「分かる分かる。ここの学園都市の料理は世界中から腕利きの料理人が集まって作っているみたいだからな。まぁ一万人以上も生徒がいるから、
飽きさせない様にしてるんじゃないかなぁ。」
へーリックが言う。
「ばぁ(まぁ)ぼれが(俺は)ぼいびいぼのがだべばべればぎぎ(美味しい物が食べられればいい)。」
サイクスがガツガツ食べながら言う。
何言ってんだか分からね~よ!!
「おっ!!レイ!見てみろよ!キリアちゃんだ!」
ヒッキが一階に指をさして言う。
・・・・・あ。ほんとだ。
見ると、キリアが料理を受け取りに奥の方へ歩いている。そしてその周りを数人の男女が囲んで何か楽しそうにキリアに喋りながら歩いている。一年生の生徒達かな?
良かった。ちゃんと友達が出来たみたいだ。
「いや~。しっかし可愛いよなぁ~。おかげでこの一ヶ月でランキングが変わったんだよ!」
「えっ?ランキングって何?」
「何、レイ知らねぇの?しょうがないなぁ。僕が教えてやろう!!」
ヒッキが得意げに話し始めた。
この学園では全男子が学年関係なく、月一回投票をして、毎月、女子のランキングトップ30を決めている。
その評価項目は、顔やスタイル、学道、武道、出身等、総合的に点数をつけて合計が高い女子を、男子寮で公表していた。
なんと、キリアはそのトップ30のランキングに入っていたのだ。
「新しくランキングに入った人はねぇ。今下にいる、キリア=ブラックちゃんが7位!あまりいないとても綺麗な黒い髪でお人形さんみたいに可愛いよね!
んでお次は、ラフィン=テンペストちゃん。8位!ショートカットがとても似合っていてこちらも可愛い。しかもとても強いみたいだね!
・・・・・そして最後に、スノー=ホワイトちゃん。これが何と2位!!1位から3位は不動とされていたのをとうとう崩したね。彼女は何といっても美しいし可愛い!!絶世の美女とは彼女の事を言うんだろうね!!そして文武両道だし!!それでな!!それで・・・・・。」
ヒッキはエンジンが入ったのか、食べるのを忘れて喋り続けている。
平民でランキングに入るのはとても珍しい事だった。しかもトップ10内では過去、初なのだと。
出身を抜いたとしても他がダントツで高かったから三人は上位に入れたんだとヒッキは言った。
・・・・・ちなみに、アイドル顔のカイトも男子トップ30に入っていたのは余談である。
「はぁ~。平民の出なら僕でもチャンスあるかなぁ~。」
ヒッキが言う。
「まてまて、それなら俺だろう!」
へーリックがカッコつけながら言う。
「ぼぼぼぼ。ばぶべ!」
サイクスが肉をガッツきながら何かしゃべっている。
だから何言ってんだか分かんね~よ!!
そんな会話をしながら僕は一階のキリアをぼ~と見ていると、目が合った。
キリアは僕を見ると、嬉しそうに両手を広げてブンブン振っている。
ハハハ。
僕は軽く手を振った。
ここでは、皆、仲間ではなく他人という事にしている。
それは、出来るだけ他の人とコミュニケーションを取って沢山友達を作ってもらいたかったからだ。
・・・・・でも、皆そんなに女子レベル高かったのか。だからなのかな?入学してから、ドキドキする女の子がいないのは。
ずっと一緒にいた仲間が綺麗すぎて、それで慣れてしまっていたのか?
それは、やばいな。目が肥えてしまっているのかもしれない。
「おっおい!僕に手を振ったよ!」
「いやいやいや!!俺だろう!!」
「ばびぶべぼぉぉぉぉ!!!」
三人がはしゃいでいる。
はぁ~。今日も平和でいいことだ。
僕達は昼食を平らげ、一階の返却口へトレーを返して出口へと向かうと、見慣れた美しい赤い髪の女性が入口から現れた。
「・・・・・おい!!!この学園、不動のナンバーワンが入ってきたぞ!!!」
ヒッキが小声で嬉しそうに言う。
その女性は、大学病院の教授の様に、取り巻きを引き連れて、はいってきた。
アイリだ。
久しぶりだ。
出口へと向かう僕達は歩いていると、アイリと目が合った。
するとアイリが止まる。
僕をずっと見ている。
アイリの取り巻きが何事かざわざわしていた。
気づいたかな?
僕が笑顔を向けたその時だった。
一直線で、僕の方へとアイリが駆ける。
「レイ!!!!!」
飛びつきながら彼女の両腕は僕の両肩を通り過ぎてギュッと抱き着いた。
柔らかい胸が当たる。
「会いたかった!!!」
僕は彼女を受け止めながら腰に手をまわして言う。
「ハハハ。アイリ。久しぶり。」
答えながら僕はアイリを抱きしめた。
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