第53話 妹
S級パーティ『ホワイトフォックス』。
この、美男美女パーティの中で、僕の容姿はいたって普通だ。
このゲームをはじめる時に、キャラメイクでなるべく感情移入出来る様にと、自分にかけ離れた容姿ではなく普通に作ろうと思ったのだ。
2時間位かけて作った時に、若い時の自分に結構似ていて、改めて自分は普通顔なんだなと、ヘコんだ記憶がある。
アイリと会ったその日の夕方、僕は自分の部屋で正座をしていた。
その前には、三人の仲間達が仁王立ちしている。
ヒッキが真っ赤になって鬼のような形相で喋る。
「・・・・・あ、の、お、か、た、は!!!!!この学園のトップカースト。ランキングでも今まで1位の座を明け渡した事がないキングオブクイーンなんだ!!!!!」
「・・・・・はい。そうみたいですね。」
僕は正座をしながら答える。
「容姿端麗!学業、武道全てにおいて超優秀!そして出身もアルク帝国の皇女ときたもんだ!!!!」
「きたもんだ!」
「きたもんだぁぁぁ!!」
へーリックとサイクスが便乗する。
「大勢の王族や貴族の男どもがどんなに求婚しても首を縦に振らなかったお方だ!!ましてや、あのお方から飛び込んで抱き着くなど!!!!・・・・・・くぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
ヒッキは血の涙を流しながら天を仰いでいた。
「あの・・・・・。ヒッキさん?もう少し落ち着いた方が・・・・・体に悪いですよ?」
「うるさいっ!!!!」
「はい。すみません。」
「しかも、こっこんな普通顔でどこにでもいそうな男に・・・・・なぜだぁぁぁぁぁぁ!!!・・・・・俺も行けるのかぁぁぁぁぁ?」
「いやいや。俺だろ??」
「行けちゃったりなんかしてぇぇぇ???」
へーリックとサイクスがまた便乗する。
「はい!ヒッキ先生!少し弁解の時間を頂きたいんですが!」
僕は手をあげて訴える。
「ふぅぅぅぅぅ。よろしい!レイ君。喋りたまえ。」
「僕はアルク帝国出身で、アイリは・・・・・アイリ様は!!たまたま昔に助けた事がありまして、それで良くしていただいているのであります!!じゃなければ、こんな普通の平民を相手にしてくれませんよ!」
「ふ~む・・・・・。たしかに、あのお方はとてもお優しいので有名だ。助けたからとても感謝しているのだろう。まぁ、平民と皇女のラブロマンスなんて未だかつて聞いたことがない。天地がひっくり返ってもありえないもんな。・・・・・ヨシ!分かった。許そう!!」
あれ?これやっぱり責められていたんだ。
「ついでに今度紹介するように!!!」
「紹介するように!」
「紹介してね。」
「はいはい。」
三人をなだめるのが大変だった。
☆☆☆
少しさかのぼった、次の講義がはじまる前の事。
広い休憩室の一つのテーブルに、学生達、皆が注目していた。
そこには、アイリ=レンベルとスノー=ホワイトが座ってお茶を飲んでいた。
女子人気ランキング、トップワンツーが一つのテーブルにいるのだ。
注目しない方が嘘だった。
アイリが言う。
「はぁ~。白雪?どうしてこうなったの?」
「・・・・・ごめんなさい。」
白雪がすまなそうに謝っている。
「彼に悪い虫がつかない様に、あなたが見張るという約束だったでしょ?それが、なんでまた可愛い子が二人も増えてるのよ。」
そう。
アイリが学園に戻る時に、二人で協定を結んだのだ。
お互い居ない時に先に手をだしたりしない。対等の立場で正々堂々と好きな彼を射止めようと。
・・・・・それが、白雪と久しぶりに会ったら、パーティを組んでいて、他に二人の女の子がいるという。
白雪に案内してもらってその二人に会ったら、直感で分かってしまった。
彼女達も彼の事が好きなのだと。
「も~。あなたが彼の決めた事に逆らえないのは知っていたけど。・・・・・はぁ~。ライバルを増やしてどうするのよ。」
「・・・・・ほんと。面目ありません。」
白雪が珍しく何度も謝っていた。
でも、しょうがない。それなら、もっと他の子に負けないくらい、いい女になればいいだけの事。
「フフフ。」
アイリは笑いながら立ち上がり、白雪の手を掴む。
「さぁ。ここでは、スノーさんね。同じクラスになった事だし、色々と案内するわ。行きましょう。」
この学園では、アルク帝国の皇女として、固定の友達は作らずに体裁を整えていたが、やっぱり気の合う友達は一人はいないと面白くないわね。
白雪と手をつないで、学園内へと歩いていった。
☆☆☆
今日は休日。
僕は今、人と待ち合わせの為に、オシャレなテラス付のカフェの前で立っていた。
寮から少し離れた所にある、学生専用の大きなショッピング街の通りにあるカフェだ。
「お兄ちゃん?」
見ると、アイリの他に、二人の女の子が立っていた。その内の一人が声をかけてきた。
「・・・・・風美か?」
「お兄ちゃん!!!」
カザミは僕に抱き着く。
「ハハハ。ごめんなぁ~。ロイージェさんに名前も容姿も聞くの忘れててさ。数か月前には入学してたんだけど、誰なのか分からなくて困っていたんだ。」
「もう!相変わらずのおっちょこちょいなんだから!・・・・・でも会えてよかった!」
「ああ。・・・・・アイリ。助かったよ。ありがとう。」
「フフフ。どういたしまして。」
先日、アイリに会った時に、アイリから妹を知っていると聞いたのだ。
ほんとに助かった。
この出会いがなかったら、まだ当分見つからなかっただろう。
「とりあえず、ここのカフェでお茶でもしようか。」
「サンセー!」
カザミが勢いよく手をあげる。
僕達はテラスの下の大きなテーブルの椅子に座った。
「え~と。カザミはアイリの事は知っているのかな?」
「うん!アイリ様とは前から良くしてもらっているよ。」
「カザミちゃん。様は前からいいと言っているでしょ?」
「いえ!先輩ですし、一国の皇女様ですからダメです!ちゃんとその辺はしっかりしとかないと!」
「ハハハ。アイリ。妹はこうと決めると頑固だから、まぁいいんじゃないかな。」
「そう。分かったわ。でも、私と二人だけの時はせめて、さん付けにしてちょうだい。」
「分かりました!」
「え~と。それと君は?」
僕はカザミの隣にいる女の子に声をかける。
「あっ。わっ私はカザミちゃんの友達で、ココ=ファームスと言います。よっよろしくお願いいたします。」
この面子で緊張しているのか、声がうわずっている。
「うん。よろしくね。・・・・・それじゃ~。カザミ。どうやってここまで来たか教えてくれるかな。」
この世界で目覚めてすぐに魔獣に襲われて、ロイージェさんに命を助けてもらった事。
そしてここまで一緒に旅をしてくれて、入学費や半年分の学費まで払ってくれた事。
なるほど。
ロイージェさんやケイトさんは妹の命の恩人だ。頭があがらないな。
「・・・・・分かった。それで、カザミはこれからどうしたい?」
「うん。この世界の事。全然まだ分かっていないから、出来るならここで色々と学びたい。」
「そうか。・・・・・よし。それなら卒業まではこの学園でお世話になるといい。」
僕もその方がいいと思っていた。
ここなら安全だし、カザミはちょうど一年生で、これから5年かけて全てを学べるだろう。
「えっ?いいの?でもお兄ちゃん。ここの学費が・・・・・。」
「ハハハ。心配しなくてもいいよ。妹が卒業するまでは、ちゃんと面倒見るから。・・・・・前の時もそうだったろ?」
「フフフ。カザミちゃん。大丈夫よ。彼、こう見えて冒険者として成功しているから。」
アイリが悪戯っぽく笑う。
「そうなんだ!分かった。ありがとう!お兄ちゃん。・・・・・そしてココ。アイリ様。これからもよろしくお願いします!」
カザミは嬉しそうに笑顔で答えた。
・・・・・もの凄い視線を外の建物と建物の間から感じる。僕は手をあげた。すると勢いよく三人がこちらへ走ってくる。
「アイリ。カザミ。ココちゃん。僕にも男友達ができたんだ。紹介していいかな。」
「あら。珍しい。レイは女の子しか友達を作らないかと思ったわ。」
アイリが皮肉をいう。
あれ?何か怒ってる?どうしてそんな印象になってるんだ?
男ども三人は同じテーブルに来ると直立不動で、喋り始めた。
「わっワタクシは、サイクスと申します!とっ特技は何でも食べれて頑丈な事です!」
たしかにいつも食べてるよな。
「わっわっワタクシは、へーリックと申します!!とっとっ特技は手先が器用な事です!!あと魔法も使えます!!」
へぇ~手先器用なんだ。たしかに魔法は僕達の中で唯一使えるんだよなぁ。
「わっわっわっゴフッ!!!ヒッキと言います!!!とっとっとっ・・・・・トゥ!!!」
何だよ。トゥって。ウルトラマンか!
アイリの前だからか三人とも緊張して言葉になってなかった。
カザミは緊張をほぐす為に色々と声を三人にかけてくれている。
「ささ!皆、デザートがきたから食べようか!ところでココちゃんは・・・・・。」
僕達はカフェでデザートを食べながら楽しい時を過ごした。
☆☆☆
その日の夜。
僕はゆっくりとベットで横たわって天井を眺めていた。
妹が名前を憶えやすい様にとカザミ=フォックスにしてくれたのには、嬉しかった。
兄想いのいい子だ。
とりあえず、妹の無事も確認できたし、これで一安心だ。
ピロン♪・・・・・ピロン♪
頭の中で音がなる。
心の腕輪だ。
「はい。」
レイ?
「うん。そうだよ。その声は白雪だね。今日一日どうだった?」
えっとね。今日はね・・・・・。
緊急の時に使えればと思って、リーネさんに許可をもらったが、なぜか毎日夜に連絡がきた。
三人で決めているのか、重なる事はなく、夜寝る前に必ず連絡がくる。
たわいのない話をしていつも最後におやすみを言って切っていた。
これじゃ、憧れた恋人同士でやっているという夜電話だ。
でも、正直外では話せないから、こうやって仲間と心の腕輪で毎日話すのも悪くなった。
・・・・・でね。でね。
「うん。うん。」
さて。妹も見つかって心配の種もなくなったし、明日からは気兼ねなく学園生活を送るとしよう!
満足して話し終わると、白雪はおやすみを言って心の腕輪を止めた。
僕はベットで横たわり、一人、窓を見ながら言う。
「おやすみ。」
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