第51話 学園都市


「カザミ!早く行こ!」


手をつないで、友達になったココ=ファームスと一緒に学園食堂へと向かっていた。





この学園に入学して三か月がたった。





ロイージェさんと一緒に旅をして着いたのが、ここ、ピリカ国の学園都市『カラリナ』だった。


私達が着くと、ちょうど今年度の入学があと一週間後に控えているとの事で、ロイージェさんが色々と手続きをしてくれて晴れて入学する事ができた。


後で聞いた話だったけど、普通の平民が入学できるのは相当の学費とコネが必要だったみたい。


ロイージェさんに半年分の学費を先払いしてもらって、今に至っている。


別れ際に、後はお兄さんが残りの学費位は払ってくれるでしょうと言っていたが、この世界ではそんなに兄は裕福なのだろうか。


ちょっと不安になったが、とにかくロイージェさんには感謝しかなかった。


いつかこの御礼は絶対にしようとカザミは思った。





前は大学生になりたてで、ほぼ現役の女子高生だったから、学園生活はなんの抵抗もなくとけこめた。





ここは学園食堂の一つだ。


数百人が一同に食事ができる所とあって、とても広くて大きい。




私はココと一緒に人気のある定食を頼んだ。




ココとは入学当初から意気投合して、この世界で初めての友達だ。


彼女は貴族の出身の出だ。


周りからは何で私と一緒にいるのかよく言われているみたいだが、そういうのはあまり気にしない性格の子だった。


だからかな?


そういった所が私とよく似ていて、気が合ったのは。





「あっ!・・・・・カザミ。アイリ様よ。」




振り向くと、皆の視線を集めている女性がいた。




アイリ=レンベル。




1年生から5年生まであるこの学園の2年生。



この学園都市は、入学が厳しく、選ばれた者しか入れない所もあってか、家や生まれで差別する所があった。


私みたいな平民の出は、一番下のグループ。


そして、今、食堂の入口から数人の王族や貴族らしい取り巻きと一緒に歩いているアイリ様は、この学園のトップカーストだった。




容姿端麗。勉学や魔術、剣術も成績優秀。




そして、アルク帝国の皇女様。




非の打ち所がないお方だった。




私とはあまりにも遠い存在だ。




「ココ=ファームスさん!あと、カザミ=フォックスさん!料理が出来ましたよ!」



「出来たみたいね。ココ。行こ!」



ココと一緒に席を立つと、ふとアイリ様と目があった。



すると、アイリ様が真っすぐにこちらにやってきた。





えっ?



周りがざわめく。





私の前まで来ると、アイリ様は言う。



「・・・・・ごめんなさいね食事時に。ちょっと聞きたいんですけど、貴方のお名前は?」



「私ですか?私はカザミ=フォックスといいますけど・・・・・。」



「フォックス・・・・・。珍しい名前ですね。ちょっと知り合いと同じ名前でしたものですから・・・・・。貴方にご兄弟はいますの?」



「はい!兄がいます。」



「そう。お兄さんが居るのね。差し支えなければお兄さんのお名前を教えてくれないかしら。」



「兄ですか?・・・・・私の兄の名前は、(たしか・・・・・。)レイ=フォックスと言いますけどなにか?」




!!!




アイリ様は目を見開き、とても驚いている感じだった。




「・・・・・そうですか。ごめんなさい。もう一度貴方のお名前を教えてくれるかしら。」



「私はカザミ=フォックスといいます。よろしくお願いします!」



「そう。カザミさんね。よろしく。今度二人だけでゆっくりとお話をしたいんですけど、いいかしら?」



取り巻きの王族、貴族の女性達や、隣にいるココが驚いている。




アイリ様は、今まで一対一で誰かを誘う事はなかったからだ。




当然、そんな事、私は知らなかった。



「はい。私で良ければよろこんで!」



すると、とても綺麗な笑顔で



「そう。では、後でお誘いしますね。それではまた。」



アイリはそのまま取り巻きを連れて、一番高い料理のあるゾーンへと消えていった。





「ちょっと!カザミ!何なの!」



「いや。私にも分かんないよ!」



何で平民の私が誘われたのか。全然分からないけど、今は、お腹が空いて定食の事で頭がいっぱいだ。



「ねぇココ。とりあえず、食べてから検討しよう?」



「はぁ~。貴方のそんな所がほんと好きよ。」



ココは、突然に起きた凄い事よりも、定食を大事にする友達と笑いながら食べる事にした。











☆☆☆










僕たちは、今、ピリカ国にいる。


ピリカ国は世界で唯一の中立国だ。


そして、この国の大部分を占めているのは、学校・・・・・学園だった。






学園都市『カラリナ』


15歳~19歳の選ばれた男女が世界中の国からやってきて学ぶ。



生徒達は、皇族や王族、大貴族。そして商人の子から平民まで、幅広く受け入れている。



しかし、入学ができるのはほんの一握りの生徒のみ。


それほど入学できる試験は難しかった。


そして、安全な都市でもある。


世界中の皇族や王族の子までいるのだ。警備は厳重そのものだった。武器や防具、アイテムなどは一切この学園都市で携帯する事ができない。


だからこそ、今まで事故もなく、世界で一番安全な場所と言われている所でもあった。






まず、カラリナへ入る巨大なゲートで受付を済ませると、支給された制服に着替える。


更衣室で鏡を見ながら制服を着た自分を見る。



「ははは。まさかもう一度、学生生活が送れるとはな。」



前の時は、ずっとバイトに明け暮れていて、学校ではほとんど寝ていたせいか、友達もいなかったし、どんな学生生活を送っていたかあまり覚えてなかった。・・・・・今度はちゃんと学園生活をしよう。友達は出来るだろうか。好きな女の子とか出来ちゃったりなんかして。




妹を迎えに来たのが大前提だが、とても楽しみだ。





そして、武器や防具、アイテムは全て空間収納へいれないといけなかった。


しかも、学園都市から出るまでは、空間収納は封印される。


その中で携帯が唯一許されたのは、僕以外の三人が持っている『身代わりの指輪』だけだった。


攻撃性がなく、レアアイテムとして知られているこの指輪だけは許された。





最初に案内されたのは、学園長の部屋だった。




僕たち4人はアルク帝国皇帝の紹介状があったが、カイトは別のルートでちゃんと事前に用意してあったのは余談である。





「あら。いらっしゃい。あなた達ね。噂のパーティは。」


そう言って学園長は両手を広げて迎えてくれた。



たしかシェリーさんが言うには、今の学園長は2代目だ。


最初は小さな学園だったのを、2代目の学園長がここまで大きくしたのだとか。


100年以上も前の話である。



それにしては、とても若くて大人の女性を感じさせる人だった。




「僕達は冒険ばかりしていてここの世界の事をあまり知りません。ここで色々な事を学べればと思いまして来ました。」


「ええ。歓迎するわ。ここは学びの場。本当は試験とか必要なんだけど、この紹介状なら問題なく入学できるわ。」


「そうですか。良かった。ではこれからよろしくお願いします。」


「ええ。よろしく。・・・・そうそう私の名前を言ってませんでしたね。リーネと言います。よろしくね。」




・・・・・えっ?




「リーネさん?あの、もし間違っていたらごめんなさいだけど、ルネさんやジョイルさんを知ってますか?」


「えっ?ルネ?・・・・・ジョイル?何であなたが知ってるの?」

リーネは驚いた顔で僕に尋ねる。


「少し長くなりますけどいいですか?」


「ええ。聞くわ。皆さん、こちらへ座って。」





僕は話した。





ジョイルの出会いと、ルネとの別れを。





「・・・・・そう。そんな事があったのね。・・・・・そっか。逝っちゃたんだルネ。」

リーネは、寂しそうな顔で窓から外を見ている。


「あの。ジョイルさんから預かっている物があります。少しだけ、空間収納の封印を解除できますか?」


「ええ。いいわ。」


解除してもらって、ジョイルから会ったら渡してほしいと頼まれていた防具【リーネ】を渡した。


「フフフ。懐かしいわ。あの頃と少しも変わってない。」


リーネは受け取った防具を眺めながら、もの思いにふけっていた。





・・・・・ジョイル。彼と出会って、また作り始めたのね。



・・・・・ルネ。良かった。最後に弟子が出来て託せたのね。彼に。




「レイ君。学園長としてではなくて、ルネ達の仲間として・・・・・ありがとう。」


「はい。」



この人が伝説のパーティの一人だったなんて。師匠やジョイルさんといい、やっぱり凄い人達だな。






「それでは、ここ学園都市の説明をしますね。」





学園都市『カラリナ』は5年制で、1年制は15歳。2年制は16歳といった形だ。


それぞれ生徒数も多く、学園都市というだけあって、一年生だけでも50クラスある。全般を学べる普通科から、専門分野を学ぶ剣術科や武道科、魔法科など多肢にわたる。科や年によって学ぶ館が分かれていた。




短期留学生として、1年位と聞いていたが、リーネさんに1年半から2年位は居てもらいたいと言われた。全てを学ぶのに1年は短いからだ。


ならしょうがない。別に急いでいるわけじゃないからいいか。


そして、好きな学科を選んでいいとリーネさんが言ってくれた。




僕は17歳だから三年生である。全般を学べる普通科にした。


白雪は二年生で普通科へ。


ラフィンは二年生で武道科へ。


キリアは一年生で魔法科へ。


そしてカイトは弓科だが、何と四年生だった。僕より年上かい!・・・・・そういえばゲームの時だったら同じ年だったのか。





そうして色々と手続きが終わって、最後にリーネさんが特別に他にも装備で必要なら身につけていいと言ってくれた。



ルネの弟子の貴方なら信用できると。



でも出来るだけ同じ条件で他の生徒達と過ごしたかったので、何かあった時の為に仲間達に連絡がとれる『心の腕輪』だけ所持を認めてもらった。





リーネは立ち上がり、両手を広げる。



「さぁ。あなた達は今日から私の生徒です。色々な人達と接して、学んで、青春を謳歌してください。何か困ったことがあったらいつでも声をかけてね。」



「はい!」










中立国。ピリカにある学園都市『カラリナ』。



世界中から集まった同じ年の生徒達と学園生活をおくれる。



妹もここに居るなら必ず会えるだろう。



前に出来なかった学園生活。





今度はちゃんとしよう。そして、楽しもう。









僕たちは学園長へ挨拶をして、それぞれの教室へと向かった。






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