第50話 海の魔物

未踏破ダンジョン『砂塵の神殿』を攻略し、そこから専用馬車で外海へと向かっていた。



野営をしながらすでに2日かかっていた。




走っていると徐々に潮の香がしてくる。


そして草木が生い茂る草原を馬車でかけ抜けると、突然、真っ青な海が広がっていた。





「うぉ~!!海だ~!!」



こりゃテンション上がるわ!






「・・・・・すごい。・・・・・これが限界の海・・・・・。」


目をキラキラしながらキリアが馬車から乗り出している。




もうちょっと東の方にいけば、ナイージャ最大のリゾート都市がある。




ちょっと行ってみたい気もするが、また今度にしよう。


今回の目的はダンジョンだ。




しばらく進むと海辺に着いた。


その海辺にある大きな岩の下に洞窟がある。まるで海の底へと続く入口の様だった。








ここだ。








未踏破ダンジョン『ミラー海の洞窟』 推定レベル未定 





その名の通り、ここナイージャの外海はミラー海と呼ばれている。


暖かく、天候にも恵まれたこの海は、この世界では一番の海と言われている。





ラフィンとキリアが海辺でキャッキャキャッキャしている。



「皆~。行くよ~。」



「は~い。」



何とも緊張感のないパーティだ。




僕は、皆を連れて洞窟へと降りて行った。








☆☆☆








「シッ!」



ザザンッ



僕は剣を持った魚人を次々と切り伏せる。





「はっ!」



ガンッ!



その中で一回り大きな魚人をラフィンが殴り飛ばしながら叫ぶ。






「雪!そっち!」



「ん。」



白雪はラフィンが倒した大きな魚人のまわりにいた魔物達を二刀で倒していく。






「キリア!前!」



「・・・・・あい。」



先頭をいく僕の前に現れた武器を持った魚人数十匹。それに対し鋭い風をおこし、小さい台風の様な魔法で全てを切り刻んだ。





うん。





だんだん、いい感じになってきたな。





あれから数時間経っただろうか、洞窟の奥まで進んでいた。



ここの魔物は魚人が中心だった。だいたい平均でレベルは190~200位。





パーティの連携を試すにはもってこいだった。





先陣をきって僕が戦い。白雪とラフィンが追撃。キリアは後ろで敵の数が少ない場合は補助にまわり。多い場合は、魔法で殲滅する。





この流れが一番良かった。





キリアはとてつもない魔力を持っているが防御力が低い。


それが不安で、僕の『天使の衣』を譲ろうとしたが、シャインから貰ったという特別な防具『黒の法衣』があるからいいと言われた。


見るとこれまたすごい性能だった。



黒の法衣 防御力+500 魔力+500


天の衣と同等位の性能だ。



しかも、常に強力な防御魔法をかけているから平気だとも言っていた。






僕たちは戦いながら奥へ奥へと進んでいく。






どれ位進んだだろうか、奥に進むにつれて、魔物は徐々に強くなっていったが問題なく倒せた。





しばらく倒しながら進んでいくと、目の前に大きな扉が現れた。



その扉を開くと、景色が一変した。



開けた途端、広い通路があり、天井から左右の壁まで透明のガラスの様な作りで覆われていた。



見上げると、海の底なのだろうか。さまざまな魚が泳いでいる。



さながら巨大な水族館だ。





「はぁ~。綺麗だ!」


おもわず感嘆の声をあげる。





すごい!こんなの初めて見たわ!





一歩一歩進むと、まるで海の中を歩いているような感覚だった。



見ると他の三人もとてもはしゃいでいる。



こんなの感動しない方がおかしい。



僕たちは景色を眺めながら進んでいくと、通路が一気にひらけた。



そこはとても広いドーム状になっていた。



周りの壁や天井は変わらず透明だ。



その広いドームの中心に4m位ありそうな魚人が座っている。その周りに、鎧などを着た魚人が4人ほど左右に立っていた。



僕は座っている魚人の10m手前で止まる。





「ギャギャギャギャギャ。」


何かしゃべっている。





あっ。そういやスキル使えば喋れるんだっけ。



最初の頃に獲得した【言語の泉】を使った。





「・・・・・聞き逃したから、もう一回言ってくれないかな?」



「!!ほう・・・・・。我々の言葉が喋れるとはな。」



その魚人は驚いている。



「しかし、現界の者が来るとは何者だ?ここまで辿り着く程の強者は現界には居ないと思っていたがな。」



「・・・・・何。ただの冒険者だよ。」



「フッ。ただの冒険者が百人はいた我の同胞達を倒してここまで来たと。・・・・・せっかく海国の拠点の一つにしていたが、大誤算だ。しかたない。お前達を殺した後にまた練り直しだな。」



そう言うとその魚人はゆっくりと立ち上がり、立て掛けてある大剣を持ち上げる。





「我は、海の支配者の一角。ダンテ。我の同胞を殺したお前はただで死ねると思うなよ。」




僕は天眼で見た。




ダンテ レベル250





250!!高い!





その周りの幹部達も230前後だ。





これは油断するとこっちがやられるな。





「・・・・・皆。気を引き締めて。僕はボスと戦う。皆は他の魔物を頼む。」



「了解!」






真っすぐにボスに向かって駆けた。


左右から鎧を着た魚人が、僕めがけて剣や斧で切り込んでくる。



僕は止まらずにそのまま駆ける。



キィィィィン!



すると素早く白雪とラフィンが左右に現れ剣と斧を止める。





「フンッ!!」


ダンテの前まで来た瞬間、大剣が振り下ろされた。




ギィィィィィン!



僕は剣で受け流して、そのまま懐まで飛び込み切り込む。




ザンッ!




浅い!




ダンテは素早く左に飛んだ。


すると、後ろに控えていた魚人が詠唱を終えて魔法をはなつ。




「水爆撃!」


大きな水の玉が僕めがけて襲ってくる。




シュン。




僕は右に飛んで避けると、地面に落ちた水の玉は大きく弾け、無数の小さな水の玉となって襲い掛かってきた。




「チッ!」



ジュッ。





防ごうと構えると、目の前で水の玉が蒸発する。



「なっ!」



唱えた魚人が驚いている。





もう一人の魚人が唱える。



「波強流!」



唱えると、突然津波が現れた。



やばいな。大きすぎて逃げる場所がないぞ。



ならば先に・・・・!





ジュッ。





僕が動こうとすると、目の前の津波が一瞬にして蒸発する。




「はっ?」



唱えた魚人が呆気にとられている。





「居合。光。」



一瞬。



一筋の光の様に、後ろにいた二人の魔術師をまとめて切る。



じゃまな魔術師を先に倒そうと思ったのだが、キリアが熱魔法で対応してくれた。






「グォォォォォ!!」



魔術師を切った瞬間に横殴りの大剣が飛んでくる。






ギィィィィィン!





それを剣で防ぐと、ダンテの口から大量の液体を僕めがけて吐き出す。



「カウンター。」



バァァァァ!!



吐いた瞬間に懐に飛び込みながら一刀。





ザンッ!!





「グッ!!バカな!・・・・・ヒューマンがこんなに強いとは!」



吐いた所をみると、地面が溶けていた。消化液か何かなのだろう。





「まだだぁぁぁぁ!!」


大剣を僕めがけて投げる。




避けると同時に、先ほどより広範囲に消化液を吐き出した。





シュン。





広範囲の消化液は地面を溶かしたが、その青年はいなかった。





ハッ!


ダンテはすぐに後ろを振り返る。






「・・・・・奥義。17閃。」





ピシュン。





バババッ!!





一瞬にして、ダンテの全身が細切れになった。





そして戦っていた二人を見ると、魚人の幹部達が倒れている。




よし。



終わった。





「皆。お疲れ!」


僕は剣を鞘に納めながら声をかけた。




戦いが終わり、ダンテ達からのドロップアイテムや素材を取っていると、ふと気づいた。




あれ?




奥に小さな扉がある。




「皆。ちょっと扉の奥に行ってくるから、素材集めよろしく。」




「は~い。」




僕は奥の扉を開けて中に入った。



そこは牢屋だった。



左右に牢屋が並んでいる。しかし、中にいる魔物達は全て息絶えていた。







一人を除いて。







「・・・・・人魚?」



一番奥の牢屋に傷だらけになりながら首に鎖をつけられて横たわっている人魚がいた。



すぐに剣で牢屋を切り、近づいて息を確かめるとまだ生きている。



僕は首輪を切り、皆の所へと運んだ。





「キリア。回復魔法は使えるの?」



「・・・・・なんでも・・・・・オッケ。」



「そうか。じゃ~この子を回復してあげてほしいんだ。」



「・・・・・分かった。」




そう言うと、キリアは人魚に手をかざす。すると緑色の光が人魚を包み込んだ。


みるみる内に傷がなくなり、顔色が良くなっていった。


意識を取り戻したのか、人魚は目を開け、僕たちを見る。




「大丈夫?もう痛い所はないかな?」



「えっ?言葉・・・・?」



「ああ。僕だけ喋れるんだ。ところで具合はどう?」



「あっ。・・・・・体の方は大丈夫です。」



「そうか。じゃ~良かった。」





彼女はミーシャと名乗った。




今、海国は戦乱の真っ只中らしい。・・・・・ってなに?海国なんてあるの?まじで?ミラー海を支配しているダンテの兵隊に襲われ、捕まって捉えられていたそうだ。





「そうなんだ。大変だったね。でも、もう大丈夫だから安心して。君を入口まで運ぶよ。」


僕はそう言うとミーシャをお姫様抱っこして持ち上げる。



「あっ。ありがとうございます!」



「はは。いいさ。」



他の三人が頬を膨らませている。



しょうがないだろ。足ないんだから。



素材集めを終えた僕たちは、洞窟を後にした。








洞窟を出て、ミーシャを海へと返す。



すると、一回海の中へと潜り、暫くして顔を出し、手を振りながら叫んだ。





「レイさん!!この御恩は一生忘れません!ありがとうございます!」



「ハハ。気をつけて帰るんだよ。」



僕も手を振り返す。



すると、ミーシャは海の上で大きく跳ね、海の底へと潜っていった・・・・・。





うん。よかよか。





「さて。目的も達成したし、帰ろうか。」




僕たちは、首都『ナイロビ』へと戻った。






・・・・・レベルが上がりました。海国の・・・を助ける。・・・・・


無機質な声が響く。








☆☆☆







「はぁぁぁぁぁぁぁ?」


シェリーさんが素っ頓狂な声をあげる。



「ちょっ。ちょっと待ってください。レイさん?未踏破ダンジョンを2つも攻略したんですか?」



「はい。ちょっと物足りなかったもので・・・・・。てへっ。」



「てへ。じゃない!」




怒られてしまった。




「・・・・・はぁ~。すぐに調査員を派遣しますので分るでしょう。とりあえず、依頼主のイーサさんにはお伝えしておきます。明日にでも、直接依頼品を届けてください。さて。これで今回のクエストは終了です。お疲れさまでした。」



「ありがとうございます!・・・・・ちなみに、夜、祝勝会やりますけど、シェリーさん。一緒にどうですか?」



「えっ。いいんですか?それじゃ、終わったらおすすめの店を紹介しますね!」



シェリーさんはうれしそうだ。



「はい。お願いします。」



僕たちはシェリーさんが終わる頃にまた迎えに来る事を約束して、とりあえず、冒険の疲れを癒すために、銭湯へ入りに行った。









「あぁ~!気持ちい~!!さいこ~!!」






家の近くの温泉に比べれば、やっぱりもの足りないが、それでもそこそこ広いし、気持ちいい。



まだ、夕方だからなのだろうか、そんなに人がいないのも良かった。



すると、一人の美青年が入ってきた。



その美青年は僕を見ると真っすぐに隣にきて銭湯に浸かる。




「あぁ~!気持ちい~!!さいこ~!!」




・・・・・この光景。何か前にみたな。





って言うか。何でいる。カイト。






「レイ!久しぶり!会いたかったよ!」



カイトが裸で抱き着く。




「ハハハ。久しぶりだな。でもどうして居るんだ?天界の王子様が。」



「ああ!僕は君の仲間だからね!父上を説得して現界へ来たんだ!」



そう言うと、手紙を僕に渡す。



すごいな。水に濡れても全然平気な紙だ。



読むと、・・・・・まぁ~簡単に言うと、天王の後継者として、もっと僕と一緒に色々な冒険をして経験をつんでほしいとの事だった。



最後に「よろしく頼む。」と綴られてあった。




「そういう事ね。まぁ僕たちは仲間だ。頼まれなくても、カイトが望むのなら大歓迎だよ。」



「!!!・・・・・そう言ってくれると思ったよ!それじゃ、これからは僕もパーティ仲間だ!よろしく!」




・・・・・ホワイトフォックス。4人から5人パーティになったな。ちょうど、夜にシェリーさんの所に行くから手続きしておこうか。



男が僕一人なのも心細かったしね。





ゆっくりとカイトと銭湯を楽しんだ後、外に出て夜風にあたって涼んでいると三人がやってきた。




「皆。突然だけど、今日からパーティの仲間になるカイトだ。仲良くしてやってね。」



白雪が睨む。



「あぁ!白雪ちゃん。久しぶりに僕を見るその目!ご褒美さ!!」



ハハハ。相変わらずだな。



「あれ。カイトじゃん。仲間だったんだ。んじゃよろしく。」



「ラフィンちゃん!そんな素っ気ない!でもよろしく!」



ハハハ。めげないな。




するとカイトはキリアを見て天を仰いで話す。



「何と可愛い子だ!お人形さんみたいだ!君は初めてだね!僕はカイトさ!よろしくね!」



「・・・・・誰?・・・・・むしろいらない。」



ハハハ。キリアは一言が強烈だな。






カイトは『天の塔』を攻略した後、自分の弱さを痛感して、レベルを上げる為に冒険に出たのだと言う。




たった一人で。




僕たちのパーティに相応しい男になる為に。




見るとレベル203だった。




女好きで、おちゃらけてはいるが、妹想いで、努力家。



そんな所が、なんか僕に似ている。



だからなのかな?性格が全然違うのに気が合うのは。





そんな感じで、僕はカイトをメンバーに迎え入れた。





その日の夜はシェリーさんおすすめの店で楽しく祝勝会と歓迎会を開いた。









☆☆☆









未踏破ダンジョンが2つも攻略されたと冒険者協会から発表があった。


攻略したのがなんと登録したてのGランクパーティだという事も。


その功績で、前例のないGランクから一気にSランクへと昇格が決まった。




そのパーティ名は、『ホワイトフォックス』。


リーダーを除く4人は全てレベル200オーバーという前代未聞の最強のパーティ。




すぐにこの事は、冒険者協会を通じて全世界へと発信された。


今まで9組しかいなかった、SSSランクになるであろうパーティに注目が否応なく集まっていた。







シェリーは朝。受付で、肘をついてニヤニヤしていた。


最初は本当に心配だった青年が、ここまで成長して会いに来てくれた事が嬉しかった。


これからもずっと僕の担当をお願いしますと言ってくれた事に対しても。


頼ってくれているのなら、ちゃんと応えようと思った。





青年のパーティ『ホワイトフォックス』。





冒険者としてどこまでの高みまで行くのか。




最後まで担当として見届けようとシェリーは心に誓った。









僕たちは、報酬を受け取る為に、依頼主、イーサさんのお店に来ていた。



でかい。



首都ナイラビの中でも一際大きな店だった。



僕が店に入ると、すぐにイーサさんが来て出迎えてくれた。



「おお!レイ君!待っていたよ。先日は助けてもらってありがとう。しかも、ワシの依頼を受けてくれたんだってな!」



「そうなんですよ。たまたまイーサさんの依頼と重なって。え~と・・・・・素材とドロップはこれですね。」



そう言うと、2つのダンジョンでドロップした素材やアイテムをテーブルに置ききれない程の量を一気にだした。



「なんと!これだけの量を!」



そりゃそうだ。2つのダンジョンで二百匹近い魔物を倒したからね。



「カネックの尻尾・・・・。ガライブの針・・・・。魚人の鱗・・・・。すごい。こんな貴重な素材をこんなにたくさん・・・・。」



イーサさんは独り言の様に呟いていた。




「いやいやいや。レイ君。ありがとう。十分の出来だ。それでは、前の分と合わせた報酬を受け取ってくれ。」




そう言うと、2億3千万ゴールドをもらった。



まじか。



ここまでの報酬とは。



未踏破ダンジョンの素材はめったに販売はされないらしかった。それほど入手は困難らしい。



その中でも、特に貴重な魚人の素材はとても高値で売買している。



「・・・・・ワシの店は世界中にある。本社はここだがね。どうだろうレイ君。今後ももし、ダンジョンや色々な冒険をした時はドロップした素材をワシの所へもってきてはくれぬか?他の店より3割増しで買い取ろう。」




嘘を言っていないのが分かる。




これも何かの縁だな。




「分かりました。それでは今後ともいいお付き合いをお願いしますね。」



「!!。そうか。ああよろしく。」




僕はイーサさんと握手して別れた。




まさかイーサさんの店が、世界で5本の指に入る商会だとは今は夢にも思わなかった。






さて、シェリーさんにも会えた。


帰還紙を渡したから、いつでもシェリーさんのいる冒険者協会へと戻れる。


この国はとても感じが良かったから、落ち着いたら海辺にあるリゾートにでも観光に皆で行こう。






でもまずは、妹を迎えに行かないとね。






「それじゃ行こうか。ピリカ国へ。」




シェリーさんに別れを告げて、僕たちはピリカ国へと向かった。







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