3章
第47話 新しい世界へ
・・・・・ピロン♪・・・・・
音が鳴って私は気づいた。
何か体が宙に浮いている様な気分だった。
『・・・・・あなたはこれから『真実の世界』へと転移します。新規加入なので、設定することは出来ません。あなたの性別は女性。年は15歳。能力はランダムです。名前のみ設定する事ができます。名前を決めてください。』
えっ?
そうだ。私は新しい世界。『真実の世界』という所へ転移するんだ。
お兄ちゃんから、色々と教えてもらった。
良かった。名前だけは決められるんだ・・・・・。
たしかお兄ちゃんは、新世界では名前を、レイ=フォックスとしているって笑って言ってたっけ。
なら私は決まっている。
私が生まれた時にお兄ちゃんがつけてくれた名前。
そして、聞いたらすぐに分かる名前に。
「カザミ=フォックス・・・・・でお願いします。」
『・・・・・設定しました。それでは、新しい人生を。』
視界がまた暗くなっていった・・・・・。
目を開ける。
すると目の前は真っ青な空が広がっている。
「ん・・・・・。」
ゆっくり身を起こすと、ここはとても広い平原だった。随分と先にうっすらと町が見える。
「ここが真実の世界・・・・・。」
自分の顔は見えないが、手や体を見ると随分と小さくなっている。
「15歳の体じゃしょうがないよね。」
ポツリと独り言を喋っていると、近くで悲鳴が上がっている。
「うわぁぁぁぁぁ!!ふざけんな!せっかく生き返ったのになんで!やめろぉぉぉぉ!!」
見ると、数十メートル先で、男の人がとても大きい狼?・・・・・野獣?3匹に囲まれている。
あ・・・・・。
男は逃げようとしたが、すぐに腕を噛まれ、残りの2匹の野獣が追随し、食べられている。
逃げなきゃ。
すぐに気づかれる。
カザミは立ち上がろうとすると、野獣がこっちを見ている。そして一斉に向かってきた。
・・・・・っつ!!!
すぐに全力で走ったが、どんどんと追いついてくる。
町まで遠い。間に合わない!
「いたっ!」
走りながら後ろを振り向いた時につまずいて転んでしまった。
3匹の大きな野獣は、カザミに飛びかかっていった。
「お兄ちゃん!!!」
目をつぶってカザミは叫ぶ。
「・・・・・いけませんね。少女を襲うとは。」
野獣とカザミの間に入った男は、両手を少しだけ動かすと、3匹の野獣が細切れになって地面に落ちる。
「大丈夫ですか?お嬢さん。」
「あなたは・・・・・。」
見ると、その男は背は高く、髭を生やし、真っ白な長い髪はオールバックにして後ろで縛っている。そしてスーツを着込んでいた。
まるで執事のようだ。
「あぁ。そうでした。私の名前はロイージェと申します。」
名を名乗りながら、カザミに手を差し伸べる。
「私はカザミ=フォックスと言います。助けて頂いてありがとうございます。でも何で・・・・・。」
するとロイージェという男は話始めた。
レイ=フォックス。
お兄さんとは知り合いで、ほおっておけなかったのだと。
もしいやじゃなければ、安全な所まで連れて行くと言った。
「ほんとですか!助かります!よろしくお願いします!」
即答した。
「ハハハ。いいのですか?そんな簡単に信じて。もしかしたら騙しているのかもしれませんよ。」
「自分の目を信じろ。といつもお兄ちゃんに言われています。それでもし裏切られたとしてもそれはしょうがないですから!」
「・・・・・いいお兄さんですね。そうですか。分かりました。それでは、行きましょう。少し旅をしますので、まずはあの町で準備をしましょうか。」
ロイージェは町を指さす。
「はい!」
お兄ちゃん。私待ってるから。迎えに来てね。
ロイージェの背中を見ながら、カザミは後に付いていった。
☆☆☆
・・・・・ピロン♪・・・・・・
音が鳴る。
ん?
『・・・・・レイ=フォックス様。あなたはテスターの為、性別や能力は全て今までのを引き継ぎます。そして、テスターとして参加して頂いたボーナスで年齢を最初に設定した歳より1歳若く設定いたします。なので、レイ=フォックス様は17歳となります。』
おう。更に若くなるのか。それはいい事だ。
『そして、今までの全ての事象は引き継ぎます。こちらで全てのつじつまを合わせますのでご安心ください。それではレイ様。良い人生を。』
視界が暗くなっていった。
目を開く。天井だ。
とりあえず、手で自分の頬をつねってみた。
・・・・・痛い。
VRMMOでは、確かにリアルに近かったが、さすがに痛みまでは感じなかった。
そして、何というか・・・・・前より色も何もかもがクリアに、綺麗に見える。
隣を見ると、白雪が縮こまって寄り添うように寝ていた。
「・・・・・ん。おはよう。レイ。」
目をこすりながら僕を見る。
白雪も今までより更に綺麗で可愛く、クリアに見える。
・・・・・転移したんだ。・・・・・まじで。
「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
叫びながら、隣で寝ている白雪を抱きしめる。
「!!!!!!!!・・・・・えっ?」
やった!やった!転移できたんだ!
白雪を抱きしめながら、自分の顔や頭を触っている。
リアルの時と変わらないこの感触!!!
本物だ!!!
「・・・・・あの・・・・・。レイ?」
ハッ。
嬉しすぎて我を忘れていた。
抱きしめていた白雪をゆっくりと離すと、透き通る真っ白な肌が、ゆでだこの様に顔から体まで全身真っ赤になって、生まれたての小鹿の様に小刻みに震えている白雪がいた。
「ごめん!!つい舞い上がってしまった!」
「ん・・・・・。いいよ。何かいい夢でも見たの?・・・・・やじゃなかったし。むしろ良かったし。」
最後の方は声が小さすぎて聞き取れなかった。
「うん。とりあえず、朝食にしようか。」
僕は白雪を連れて食堂へと降りて行った。
食堂へと行くと、皆揃っていた。
ラフィン。キリア。執事やメイド全員だ。
僕が居る時は出来るだけ全員で食事をしようと決めている。
うぉぉぉぉ。クリアだ。皆、二割増しで可愛いし、綺麗だ。
ゲームからリアルになったのだと感じた。
「どうしたの?レイ。皆の事ジロジロ見てにやけて。なんか変。」
ラフィンが不思議そうな顔で言う。
「うん。・・・・・何か。・・・・・変態?」
キリアが追い打ちをかける。
「・・・・・オホン!ままま。僕の事は気にしないで。とりあえず皆、食べようか。いただきます!」
「いただきま~す!」
皆で朝食を食べて、食後にゆっくりと紅茶を飲んでいる。
さて。
今までずっとバタバタしていたから、現状を全然理解出来てなかった。
だから、まずはリアルになった事だし、自分の事。仲間の事を確認しようと思った。
僕は自分のステータスを久しぶりに確認した。
すると、ゲームの時は細かいスキルや能力まで表示されていたが、リアルとなった今はレベルと基本能力値しか表示されなくなっていたのだ。
レイ=フォックス ヒューマン 年齢17歳 男 レベル300
攻撃力1,000 防御力1,000 体力1,000 魔力1,000
そして剣。
白雪 WHITE SNOW
攻撃力 300+1,000 速さ 100+1,000
世界に7本しかない伝説の武器の1本。この剣は主と共に成長する。
そして、白雪と分離した事により、完全なるレイ=フォックスの専用武器となる。他の者は使えない。
・・・・・何か、すごい事になっている。普通の計算なら841位なんだけと・・・・・途中に何かボーナスとか入ったのか?しかも、剣の補正を入れたら、攻撃力なんて1300だ。どんだけこれが強いのか見当がつかない。
仲間たちも了解を得て見てみた。
白雪 精霊人 年齢16歳 女 レベル270
愛情が2,000になった事により精霊化が可能となり、精霊人となった。
愛情が3,000になった事により共に仲間として戦える事ができる。
愛情が5,000になった事により剣と分離し、完全な精霊人となる。
ステータスは全て主の90%の能力となる。
剣へ戻る事はできない。主と共に成長する。
ラフィン 天竜人 年齢16歳 女 レベル250
攻撃力700 防御力1,200 体力800 魔力200
キリア 黒の一族 年齢15歳 女 レベル290
攻撃力200 防御力500 体力500 魔力2,100
うぉぉぉ。皆すごいな!
白雪はいつのまにか、僕の80%ステータスが90%になってる。しかも、完全に一人の精霊人になっていた。
ラフィンは、さすが戦闘民族でもある天竜人。魔力はあまりないけど、全体のステータスはすごく高い。
そしてキリア。なにこの魔力極振りは。僕の倍以上だ。
・・・・・でも、これからは僕も白雪も死んだらリスタートできない。
絶対に仲間は守らなければ。
まずは、白雪は一つ持っているので、僕の分とあと一つストックがある『身代わりの指輪』をラフィンとキリアにあげた。これで、何かあっても一回は致命傷を防いでくれる。
「キリア。あとこれとこれをあげるよ。」
じつは『天の塔』で数多くの魔物を倒した時にドロップした魔導書が数冊あった。僕はあまり魔法には興味がないからキリアにあげた。
「あともう一つ。これも。」
僕は【大魔法使いメガリテのブレスレット】をキリアに渡した。
「えっ!?・・・・・これは・・・・・いいの?」
「ああ。これでキリアも大好きな魔法をもっと使えるでしょ?」
魔力が2倍になるブレスレットだ。
魔力4,200がどんなもんかは分からないが・・・・・。
キリアはブレスレットを手に付けた。すると一瞬もの凄いオーラの様なものが出たような気がした。
「・・・・・すごい。魔力だけならお母様に負けないかも・・・・・。レイ・・・・・。こんなに沢山の魔導書。・・・・・ブレスレット・・・・ありがとう!」
キリアがダイブして抱き着いてくる。
僕にくっついて満面の笑みを浮かべるキリア。
それを一生懸命に引きはがそうとしている白雪とラフィン。
「どういたしまして。」
キリアの頭をなでる。
喜んでくれて良かった。
正直、ゲームの時は一回も他のプレイヤーと情報交換してなかったし、ネットで調べもしなかったからレベルの基準が分からなかった。師匠との出会いのおかげで、この世界の冒険者や武人に比べれば実力があるというのは分かる。しかし同じプレイヤーは分からない。僕は仕事もあったから毎日一日中プレイできたわけじゃない。他のプレイヤーがレベル『101の壁』をどう攻略しているのか分からないが、まぁ~おそらくプレイヤー間なら平均位なのかな。と思っている。
今度同じプレイヤーがいたら聞いてみよう。
あとは・・・・・カイトからもらった『偽りの指輪』をはめた。自身のレベルを偽れる優れものだ。
あまり目立ちたくない僕としてはとても助かる。
レベル表示を100にしとこう。101になかなか行くことができない上級冒険者って感じでいいだろう。
仲間だからなのか、基本能力値までみれたが、執事のセメルトや他のメイド達をスキル『天眼』を使ってみてもレベルと名前しか表示されなかった。
「さてと。」
新しい旅に出る前に、やり残した事をやっておかないと。
「レイ殿。行かれるので?」
セメルトが聞く。
「ええ。少し出てきます。だいたい3~4日位で戻ります。」
セメルトと仲間の3人には『心の腕輪』を渡している。
天界の報酬でもらった物だ。これを付けていると離れていても必要な時に連絡がとれるのだという。
帰還紙といい、天界は便利なアイテムが色々とあるなぁ。
これで、家で何かあったとしても対応できる。
「それでは行ってきますね。」
「いってらっしゃいませ。」
僕たちが出かける時は必ず家の皆で見送ってくれる。
ほんといい人達だ。
この人達を紹介してくれた皇帝に感謝しながら僕たちは家を後にした。
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