第46話 運命の日
「シュバイン博士。とうとう発表ですね。」
「そうですね。」
アークス本社にある巨大スクリーンをシュバインは見ながら物思いにふけっていた。
明日、地球が滅亡すると全世界で各首脳陣が発表する日だ。
・・・・・10年前。
その女性は、突然、従者を1人連れてやってきた。
アメリカ大統領の執務室へだ。
ホワイトハウスとその周辺の地域の人々は全て眠りに落ちていた。
そして、プレジデントにその女性は話した。
今から10年後に、巨大な隕石が多数落ち、地球は滅亡すると。
そして、それを防ぐ手段はこの星にはないと。
その女性がいる星は、魔物や魔獣、そして争いが多く、死亡率が高い。その為、人口が急激に減っていた。
だからこそ滅びるのが避けられないこの星に来て、必要人数だけ転移してもらう為に来たのだと。
そして、受け入れる条件は、女性が決める。
もちろん、最初は大統領含む誰もが信じなかった。
しかし、アバターに転移し、その世界を体験した事。
国家機密の宇宙観測機を使って調査すると巨大な隕石が多数この地球に向かっている事。
全てが事実だったのだ。
信用するしかなかった。
そして、すぐにプロジェクトチームが発足された。
その中心が私。
シュバインだった。
彼女が出した条件は以下の通り。
・受け入れは3億人。
・ゲームという娯楽を使って人を集め、こちらの世界・・・・・『真実の世界』をアバターを使って体験させる。
・体験している人を監視する為の施設を作る。
・体験する為の機械(ヘッドセット)は必要数、こちらから提供する。
彼女は、プロジェクトチームと9年かけてアメリカと協力し施設を作り、プロモーション活動をし、スタートさせた。
結果、10ヶ月たった今は2億人近い人達がプレイしている。
そして、協力してくれたアメリカ大統領に1,000名、選ぶ権利を。
さらに、プロジェクトチームに参加した人と家族は全て『真実の世界』へ行くことが許された。
それを差し引いた残りの人数は、先進国を中心に、各国100名、選ぶ権利を。
更に残った人数はランダムで選ぶとの事だった。
そして明日が、各国の首脳が国民に発表する日だった。
全国民を『真実の世界』へ3年かけて転移すると。
・・・・・しかし、実際はあと2ヶ月で地球は滅びる。
3億人が新しい世界で生きて、74億人が死ぬ。
それが現実だった。
「あら。シュバイン博士。うかない顔ね。」
気づくと、あの女性と、従者がいつの間にか隣で佇んでいた。
「そうですね。明日、とうとう発表ですからね。・・・・・そして2ヶ月後にはこの星がなくなるんですから。」
「お気持ちは察するわ。ただ、これは運命。どうしようもない事よ。あなた達だけでも助かる事を神に感謝するのね。」
「・・・・・。」
シュバインは周りにいる大勢の助手達に声をかけた。
「君達。我々は先行で明日『真実の世界』へ旅立つ。準備はいいね?」
「はい!シュバイン博士!」
私達はすでにクランを設立している。
上位のクランだ。
レベルも皆100前後まで成長している。
真実の世界へ行ったら、もっと強く、安定的な土台を作らねばならない。
・・・・・そして、あの青年。
現界。天界。魔界を渡り歩き、レベル300というありえない高みにいる者。
レイ=フォックス。
情報は隠さずにアメリカを含む、各国へ共有している。
誰もが思うだろう。
彼を取り込もうと。
それだけで、真実の世界のパワーバランスが大きく変わるだろう。
彼を何としてもこちらへ引き込みたい。
シュバインは、女性に頭を下げると、皆を連れて出ていった。
女性は従者に話しかける。
「ねぇ。・・・・・彼には家族はいるの?」
「はい。妹が1人います。」
「そう。その子は対象に入っているの?」
すると従者は空間に画面を映し出すと調べ始める。
「・・・・・入っておりませんね。」
「そう。・・・・・では、その子は対象に入れなさい。彼の悲しむ顔は見たくないわ。」
「同感です。」
彼女は誰もいなくなった監視ルームを見渡しながら言う。
「さて、私達ももうやる事はないわ。帰りましょうか、ロイージェ。」
「はい。ケイト様」
執事の格好をしたロイージェは、主の後に付いていった。
☆☆☆
地球滅亡の発表があって一日がたった。
朝起きて、テレビをつけると、全てのチャンネルがその話題だった。
まだ信じられなかった。
武藤総理大臣が一時間ほどテレビで話をしたが、かいつまんで言うとこんな感じだった。
地球滅亡まで、あと3年。
VRMMO『真実の世界』は、ゲームではなく現実にある別の星の世界であり、プレイヤーはアバターを使って真実の世界で生活していた。
まずは、すでにテスターとして生活していたプレイヤー約二億人と、ランダムで一億人の合計三億人を転移すると発表があった。
現プレイヤーとランダムで選ばれる人は、明日から今年12月24日までに一回でもヘッドセットを着用して起動すれば『真実の世界』へと転移ができるのだそうだ。
体と年齢は現プレイヤーはすでに使っているアバターに。その他の者は管理者が決めるのだそうだ。
心と精神と命を転移させる。
ランダムで選ばれる人は、ヘッドセットは今から一週間以内に届くとの事。
他の人のを使って起動したりしても転移する事はできない。更に奪ったりすれば、その者専用のヘッドセットは与えられないと言っていた。
まぁ~。待ってれば3年以内に転移できるのだから、わざわざ奪って自分が行けない様な事はしないだろう。
第一弾の人達は、必ず24日までに起動する様に言っていた。もし、忘れてそれを過ぎてしまうと起動しないのだと。
そして今は10月18日。
「お兄ちゃん!何か届いたよ!」
妹が大きな箱を玄関から持ってきた。
見るとヘッドセットだった。宛名が、妹の名前になっている。
「・・・・・はぁ~。ほんとに良かった・・・・・。」
僕は、安心して床に腰を下ろした。
昨日は心配で眠れなかったのだ。
全員転移できると言っても、この目で見るわけじゃないから、分からない。
僕が先に転移して、妹を後に残したくなかった。
まさか、こんなに早く妹の分が届くとは思ってもみなかった。
でもこれで、見送ることが出来る。
まだあと2ヶ月。しかし、出来るだけ早めに起動して転移するように総理大臣は言っていた。
それは僕も賛成だ。
途中で何があるか分からないし、もしかしたら犯罪に巻き込まれるかもしれない。
身辺整理をして、一ヶ月以内に妹は行かせるつもりだった。
☆☆☆
「風美。心の準備は大丈夫か?」
ヘッドセットを妹の頭にセットする。
「うん。大丈夫だよ。お兄ちゃん。」
「いいかい。自分と同じなら、おそらく転移場所はランダムだ。だから、起きたらまずは、近くの町に駆け込む事。そしてその町で生計をたてる様にね。
間違っても冒険者になって生計をたてようとしないように。命がいくつあってもたりないから。必ずお兄ちゃんが迎えに行く。だからそれまで待っている事。分かった?」
「ハハハ。分かったよお兄ちゃん。信じて待ってるから、早く来てね。」
「ああ。約束だ。」
僕は握っていた妹の手を話すと、ヘッドセットを起動させた。
すると、ヘッドセットは変形し、布の様に体を巻き付ける。
ミイラの格好の様になったかと思ったらそのまま中身が消えて、布だけになっていた。
ちゃんと転移できただろうか。
妹の事となると、心配でしょうがなくなる。
さて、次は僕だ。
僕はマンションのベランダに出て、空を見上げた。
会社に連絡したら、発表があった一週間後には皆退職していた。
まぁ~そうなるわな。
今の生活も嫌いではなかった。
辛い事もあったが、ちゃんと今は自由に生活ができている。
妹を迎えるために、がむしゃらに仕事をしたせいで、恋愛がほとんどできなかったが、それはしょうがない。
今度は恋愛も結婚も出来るだろうか。
・・・・・『真実の世界』で、新しく生きる事ができる。
これほどの魅力と喜びを感じた事はなかった。
白雪やラフィン、そしてキリアと一緒にずっと旅や冒険ができるんだ。
サラリーマンとしてではなく、冒険者として。
僕は自然と笑みがこぼれていた。
楽しみだ。
妹を無事見送ったので、早く行くか。
第二の人生へと。
真実の世界 『THE WORLD OF TRUTH』へ!!
僕は部屋へ戻り、ヘッドセットを付けて起動した。
☆☆☆
・・・・・とある国・・・・・。
「大統領!隕石が・・・・隕石が!!!!」
慌ててきた幹部たちが報告をする。
「宇宙開発の責任者が観測した所、すぐに地球に到達すると!!」
「ばかな!まだ発表後2ヶ月しか経ってないのだぞ!」
大統領は信じられないといった様な顔をして空を見た。
「・・・・・そういう事か。パニックを防ぐ為に。・・・・・先進国ども!!!」
言った瞬間。光に覆われた。
・・・・・アメリカ・・・・・。
ふとジョンは目が覚めた。
今はまだ真夜中だ。
隣には愛する妻と可愛い子供達が寝ている。
ふぅ。のどが渇いたな。
ジョンは、妻や子供達が起きない様に。
ゆっくりと静かに起き上がり、台所へと向かい、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して飲み始めた。
今、とても幸せだ。
家族にも恵まれてこれからという時に、新しく生まれ変わらないといけないとは。
だが、姿は違くても、また同じ様に生活が出来ればそれでいい。
「ふっ。もし生まれ変わったら、僕が女で妻が男だったら困るな。」
1人ほくそ笑みながら、窓の外を見る。
まだ、真っ暗だ。
「ん?」
一瞬で、目を覆うほどの光に覆われた。
・・・・・日本・・・・・。
クリスマス。
男は、夕日に染まった海の近くにある公園を歩いている。
付き合って3年になる彼女と今日はクリスマスデートだ。
見つけた。
少し先のベンチに座って待っていた。
男は手を振って近づく。
「ごめん。待った?」
「ううん。私も今ついた所よ。」
そう言って立つ彼女に、男はリボンの付いた小さな箱を渡す。
「えっ?」
彼女が驚く。
「クリスマスディナーに行く前にどうしても渡したかったんだ。」
開けると、ダイヤモンドの指輪だった。
近いうちに、僕も彼女も新しく姿を変えて、違う世界へ転移される。
でも、どんな姿になっても君と一緒にいたい。
その覚悟の誓いだった。
「受け取ってくれるかな?」
彼女をみると、男を通り過ぎて後ろの空を見上げている。
男は彼女が見ている方へと後ろを向き、見上げる。
ドン!!!!!!!
鈍い大きな音と、眩い光で包まれた。
《2031年12月25日》
地球は滅亡した。
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