第45話 重大発表


僕たちは大きな修道院の中に通された。


見るとロビーの様な広いフロアの中央に僕があげた大きな塊の『浄化光石』があった。


そこに列をなして、大勢の獣魔の子供たちや魔物が並んでいる。





「レイ様。貴方様のおかげで、またこうして弱った人々を救済できています。しかも、お母様の力を借りずに。」





浄化光石は瘴気から身を守るだけではなかったのだ。なんと、直接触ると今まで取り込んだ瘴気も浄化された。今後は弱った人々をこの施設で保護をしなくても、定期的に取り除けば耐性が弱い魔物も、その内体が馴染み普通に生活できるようになると黒の一族の女性は言う。






良かった。






シャインさんがまた瘴気を取り込んで体を悪くするのなら、あげた意味がない。






「そうですか。良かった。・・・・・ところで、こちらの国にいるあなた達は、とても元気そうですね。しかも建物も大きくて立派だ。隣の国で見た黒の一族の方は、栄養が行き届いてない少女がほとんどで、建物も小さかったので、びっくりしました。」





すると黒いフードを被った綺麗な女性は笑顔で言う。



「フフフ。今は全ての黒の一族が、私と同じ様な姿をしていますよ。一か月前までは魔力がほとんど底をつきて、弱っていたお母様でしたから・・・・・。でもレイ様のおかげでお母様の魔力も体力も戻りました。それに合わせて私達も元の姿に戻ったんです。」





シャインがどんどんと弱くなっていくにつれて、黒の一族も全員が同じように弱っていった。


その為、魔力と体力をできるだけ消費しない様にと、大人の女性から少女へ。そしてシャインと同じくやせ細っていったのだと。






少しでも生きながらえる為に。






1人でも弱った子供を、お母様が救済できる様に。






「なるほど。そういう事だったんですね。」



「あと建物は全ての拠点で急ピッチに改装や増築をしました。できるだけ各国の弱った子供や魔物を受け入れられるようにとお母様が言われたので。」





はぁ~。何ていうか、志がすごい。





一ヶ月前の隣の国で僕が見た建物とはまるで比べ物にならない位、立派な建物だ。





うん。話を聞けて良かった。





「ところで、シャインさんに落ち着いたら必ず寄ってほしいと言われてたんですけど、今はどこに居ますか?あと、キリアにも会えればと思いまして。」



「はい。お母様から聞いております。ささ、主様。どうぞこちらへ。」






・・・・・んん~?主???






僕たちは綺麗な女性の後に付いてく。



ロビーを通り過ぎて、しばらく歩くと一番奥の部屋まで通された。



部屋へと入りながら女性が話しかける。



「私、レイ様には個人的にもお礼をしたかったんです。・・・・・あの時はお金をありがとうございました。レイ様だけでした。私達に救済をしてくれたのは。皆、どんなにうれしかったか。」





隣の国で、ゴールドをあげた少女の一人なのだと、彼女は言う。





「いや。あまり気にしないでください。思った事をしただけですから。」


ボリボリと頭をかく。




「フフフ。さあ。こちらになります。」



その部屋は何もなく、正面の壁には4m程の高さの大きな黒い空間があった。




「ではお入りください。」



僕たちはその空間の中へと入っていった。











入ると、そこは小さな草原が広がっていて、林があり、小川が流れている。


黒の一族の人だろうか、黒いフードは被ってなく、美しい女性が行きかっている。


そしてその先には大きく立派な城が建っていた。


ただ、他と違うのは、左も右も先は真っ黒だった。そして空も。でも昼間の様に明るい。


表現をするのなら、この土地だけを切り取って持ってきたかの様な感じだった。


僕たちはそのまま城へと向かった。








城内に入ったが・・・・・広い!城内の庭もかなり広く沢山の花が生けられている。




「はぁ~!この大きさは、アルク帝国の王城並みだな。不思議だ。ここは何なんだ?」


思わず感嘆の声をあげる。




「ここはお母様が作った空間。そして我々の住処であり、城となっております。」



「へぇ~!」





すごいな!





「この空間は黒の一族と許された者しか入ることはできません。なのでここは我々にとって一番安全な場所。・・・・・もちろん。魔界の者も誰一人知る者はいません。」



歩きながら案内をする綺麗な女性は、嬉しそうに説明をする。





シャインさんは、魔王と同等の力を持つって食堂の店主が言ってたけど、本当なんだろうなぁ。空間を作り出すなんてすごいわ。



他にも色々と説明を受けながら、城へと入り、謁見の間へと通された。





するとそこには、大きな椅子に腰かけているシャインと周りに数人の美しい女性たち佇んでいた。





「ああ!待ってましたよレイ。用事はもう終わったの?」



シャインが嬉しそうに立ち上がり僕の方へと駆けよってくる。




髪は漆黒のように黒く艶やかで、顔立ちや3m程もある体もモデルの様に美しい。そして背には大きく美しい羽が付いている。少し前まで、やせ細って年老いた感じだったのがうそのようだ。




「約束通り会いに来ましたよ。」



僕は見上げながら、笑顔で答えた。







しばらく雑談した後に、シャインが呼んだ目的を話す。



「レイ。あなたを呼んだのは2つあるの。キリア。キリア!」





すると横にある扉が開き、キリアがぴょこっと顔をだした。






・・・・・あれ?・・・・・変わってなくね?






他の黒の一族の女性たちは、皆、やせ細った少女の格好から、綺麗な大人の女性になっているのに、キリアはあまり変わってない。



たしかに、やせ細ってなく普通な感じだが、その、何というか、大人の女性というより、会った時と変わらず、可愛らしいまんまのキリアだった。






「ゴフッ!」



僕と目が合うと、まっすぐに僕の方へ駆け寄って、頭から僕のお腹へダイブした。





「・・・・・レイ。何か期待した顔してた。・・・・・スケベ。」




「えぇ~。」





白雪とラフィンが冷たい目をしてみている。






「レイ。キリアを一緒に連れて行ってくれないかしら?」



「えっ?」



「キリアはあなたといたいそうなのよ。どうかしら。キリアは、黒の一族の中で一番の魔法使いよ。きっと役にたつわ。」





僕はキリアをみる。





「・・・・・レイ。私。魔界の魔法は全て覚えた。・・・・・でも、もっと知りたい。覚えたい。・・・・・現界や天界の世界へ行って魔法を覚えたい。」





キリアの頭を撫でながらシャインに言う。



「キリアが望むのなら、僕は全然いいですよ!」



「そう! それではお願いね!」



「レイ。・・・・・ありがとう。」



キリアが笑顔で僕を見つめる。






「それじゃ、レイ。キリアと主従契約を結んでもらいます。」



「えっ?」




通常、魔界の者が現界へ。ましてや天界へなどは絶対に行けない。だいたい行けるのは、非常に弱い魔物が現界へ行ける位だ。



普通の魔物や強い魔物は行くことはできない。環境があわず、すぐに体が滅んでしまうのだ。




しかし、2つだけ行ける条件があった。その一つが主従契約だった。




それをする事で、魔界の者や魔物は自分よりレベルの高い者に従う事ができる。



契約することで、主人に環境が引っ張られ、現界で生きる事ができるのだとか。






う~ん。でも主従関係か。





「・・・・・分かりました。そうしないと現界へ行けないのでしたらしょうがない。ただ、キリア。契約は結ぶけど、僕たちは仲間で対等だ。これだけは覚えておいて。」



「言うと思った。・・・・・うん。・・・・・わかった。」



「それで、どういう風に?」



「・・・・・まずは、・・・・・キスを・・・・・。」



キリアがそう言いかけると、僕の左右にいる白雪とラフィンがもの凄い殺気を放つ。







脅すの、やめてください。







「・・・・・冗談。・・・・・おでこだして。」





キリアはおでこを僕の額に付けると呪文を唱えた。





そして契約が完了した。







「・・・・・それじゃ、レイ。・・・・・これからよろしく。」



「ああ!よろしく!」






僕たちは、笑顔で握手した。








「さて。あともう一つね。」



シャインが契約が終わるのを見て話しかける。



「レイ。あなたがどこかで困った時に私が助けられないか考えたのだけれど、貴方と私だと、主従契約はできないから現界へ行けないのよ。」






だろうな。おそらく実力が全然違うのだろう。






「だからね。召喚という形で契約を貴方としたいの。」





主従契約は、レベルが低い者と認め合って契約ができるが、召喚という方法を取れば、自分より上の者も呼べるのだそうだ。



ただ、召喚する者と召喚される者は高い信頼関係と絆が必要で、そして魔力や体力を使うのだとか。





・・・・・僕がシャインさんなんか呼べるのか?





「フフフ。大丈夫よ。貴方は自分を過小評価しすぎ。」



「でも、いいんですか?僕なんかと契約をして。」



「何を言ってるの?貴方は私を、そして黒の一族すべての娘たちを救いました。レイの力になりたいと思うのは当然の事よ。魔界の事があるから、無理な時は召喚に応じられない時もあると思う。だから気楽な気持ちで呼んでくれたら・・・・・ね。それじゃダメかしら?」






流石シャインさん。僕の性格を掴むのが早い。





「分かりました。助かります。それじゃよろしくお願いします。」



「ええ!よろしく。」










僕はシャインと召喚の契約を結んだ。








「さて、契約もすんだ事だし、娘たちが外で待ってるの。いいかしら?」



すると、シャインは黒い翼を広げて、僕を抱えて大きな窓から飛び立った。後ろから白雪たちも、抱えられて飛んでいる。







城から出て、空からとても広い庭園へと向かうと、そこにはシャインや周りにいた数人の女性たちと同じように黒い髪。そして黒い羽を背にした女性が大勢立っていた。






多い!!

何人いるんだろうか。すごい数だ。ざっと一万人位はいるだろうか。





シャインはその人たちの前へ僕たちを下ろし、皆へ話しかける。





「娘たちよ!皆も知っている命を救ってくれたレイ様よ。今日から、黒の一族の主として支えます。娘たちよ。よろしくお願いしますね。」





すると、一万人近い女性たちが片膝をついて頭を垂れる。





「よろしくお願いします!! そして、主様と共に!!!!!」
















・・・・・開いた口が塞がらなかった。















現界へと帰ったのは、それから2日後だった。





シャインの城で挨拶が終わった後は、皆で盛大に宴会だった。





いや~飲んだ飲んだ。





皆さん綺麗な人だらけで、お酌してきてくれるので、男として飲まないわけにはいかない。


案の定、次の日は二日酔いして寝込んだ。


聞くと、黒の一族は女性のみで、一族の母と呼ばれているシャインが新しい子を誕生させるのだそうだ。


ふ~む。どうやって誕生させているのか気になるが、あまり詮索するのはやめとこう。






そんな感じで、一日休んだ後に、魔界を後にして自分の家へと戻ってきた。






「・・・・・現界。・・・・・レイの家。・・・・・感動!」



キリアはあまり表情にださないが、とても喜んでいるのが分かる。







よかよか。








キリアを家の人達に紹介して、簡単な歓迎会を開いた。そして今はゆっくりと部屋のベットでくつろいでいる。







「はぁ~。・・・・・色々と冒険したなぁ~。」





独り言をつぶやく。







これでしばらくはインが出来ない。




リアルで、運営からメッセージが数日前にあり、この日、あと数時間後に、長期のメンテナンスが入るからだ。



だから何とかして、きりのいい所までやっておきたかった。

 


とりあえず、納得がいく所までできた。



ヨシとしとこう。






すると、いつもの様に、白雪が僕の部屋に入ってきて、ベットへモゾモゾと入り込んでくる。


最初は緊張してたけど、今は隣にいないとログアウトできない気持ちになってきている。



白雪がピョコっと布団から顔をだす。


僕は頭を撫でながら




「おやすみ。白雪。」


「うん。おやすみ。レイ。」







僕は白雪におやすみの挨拶をしてから、ログアウトした。









☆☆☆










レイたちが帰った後、天界では、王女リョーカの無事に帰還を祝して、お祭りが一週間ほど続いていた。


天界人の国『エデン』は国をあげてのお祭り騒ぎだった。



そして、天竜の国も、王子のフィアンセが戻った事で国民は喜びに沸いていた。






二国の国民は、誰しもが喜び、そして感謝していた。






一番弱いとされている、現界のヒューマンが、魔界へ行って王女を心も、体も救った事を。






二国の全国民が、彼の名前を話題にだし、そして敬った。










英雄、レイ=フォックスと。











☆☆☆










「今、魔界では、あのシャインが復活したと、もちきりです。」



魔王サタンの側近、3大魔人の一人、ジュラレリアが言う。



「みたいだな。」



一ヶ月ちょっと前に、突然、強大な魔力がヴァンパイアの国から放出されたのを魔王は感じ、直感した。




シャインが復活したのだと。



数百年前から徐々に弱っていくシャイン。



自分を犠牲にして弱き者を助けるという志は共感しないでもなかった。だから、相手にならないほど弱くなっても手はださなかった。





まさか、復活しようとは。




調査によると、一人の獣魔人が助けたのだという。




「レイ=フォックス。・・・・・何者だ?・・・・・余計な事を・・・・・。」





魔王は独り言の様に呟き、王の座を後にした。

















☆☆☆













「ふぅ~。」




電源を切って、ヘッドセットをはずす。



時間をみると午後の5時だった。



立ち上がろうとすると、部屋の扉が開いた。



「お兄ちゃん!」



妹が顔をだす。




「ああ。分かった。今行く。」





リアルでは今年3月から歳の離れた大学生の妹と二人暮らしをしている。



妹は親の顔を知らない。



母親は妹を産んですぐにいなくなってしまったからだ。



その後、餓死寸前で僕たちは保護されて、施設へとおくられた。




妹も今年、高校を卒業して施設を離れ、すぐに僕の所へやってきた。兄想いのとても出来た妹だった。



僕が働きだした時に連れて行きたかったが、最初は自分の生活でいっぱいいっぱいだった。



妹も気を使い、友達もいるから高校までは施設にいると言ってくれた。



だからこそ、妹だけは幸せにしたいし、幸せになってほしいと思っている。






今は、ある程度の役職もついたし、一人や二人、十分に養える程収入も落ち着いた。まぁ~その分おっさんになったんだけどね。





「お兄ちゃん。またゲーム~?ほどほどにしなよ~。とりあえず、今から夕飯作るね。」



「おう。手伝おうか?」



「だ~め!お金を稼いだり、大学の費用を払ってくれてるんだから、炊事洗濯は私の担当だよ!」



「はいはい。」



妹に手伝うのを止められて、おとなしく居間へと移動した。




テレビをつけてニュースを見ながら言う。



「あ~。そういえば今日か。午後の7時だっけ?」



「うん。そうだね。」







今日は日本の全国民が休む日だった。



電車やバス、飛行機など交通機関も動かず、もちろんデパートやスーパーもやってない。全ての国民が特別に休まなければいけない日だった。



午後の7時に総理大臣から重大な発表があるのだとか。






「うん。うまい。どんどんうまくなるな。」



「へへ~。ありがとう。」





妹が作ってくれた夕食を食べながら、ニュースを見ている。







もうすぐ午後の7時だ。






7時になり、急に全てのチャンネルが、同じ画面に切り替わった。



そこには、武藤総理大臣が座っている。





総理大臣は話始めた。





「日本国民の皆様。こんばんわ。これから日本にとって、いや、世界にとって重大な発表をします。」




「まず最初に。あと3年後に・・・・・日本。いや、世界・・・・・地球は・・・・・。」





















「滅亡します。」







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