第48話 旅へ
僕たちは今、隣の国『ルーン』の町に来ていた。
アルク帝国にある小型飛空艇に乗ってきたから二日もかからなかった。
タクシーみたいにお金を払えば、目的地まで乗せて行ってくれるんだもんなぁ。
とても便利だ。
「うぉっ!何だこれ?」
店の前に着くと、とても大きく立派な建物になっていた。
一年前まで小さな薬屋だったとはとても思えない。
恐る恐る中に入ってみると、武具や防具のフロアと薬のフロアが分かれていて、ところせましと商品が並んでいる。
そして大勢いる冒険者や武官らしい人達に販売員さんが慌ただしく説明している。
「いらっしゃいませ。どんなご用件でしょうか。」
僕たちを見て、近くにいた販売員さんが声をかけてきた。
「あ、あの、ジョイルさんに会いに来たんですが居ますか?」
「・・・・・社長にですか?」
社長~?
思わず声に出そうになったが何とかこらえた。
「レイ=フォックスと言います。多分伝えてくれたら分かると思いますが・・・・・。」
「そうですか。ただ、今、社長は他国の要人の方が見えられてますのでお会いできるかどうか・・・・・。一応聞いてみますね。」
「ありがとうございます。もし忙しい様なら後でまた来ますので。」
そう言うと販売員さんは奥の方へと行ってしまった。
「すごく変わったね。」
白雪が言う。
「ああ。」
・・・・・そっか。また武具や防具を作る様になったのか。・・・・・フフ。よかった。
暫くすると、慌てたように販売員さんが僕たちの所へとやってきた。
「レイ様!お待たせいたしました。すぐに社長の所へご案内いたします!」
さっきとは打って変わった態度だ。
「ありがとうございます。」
僕たちは一番奥の部屋へと通された。
「レイ!!」
部屋に入るとジョイルが僕に抱き着いてきた。
苦しいよジョイルさん。
「はっはっは!よく来た!アルク帝国に行ってからもう一年位か!早いもんだな!色々と聞かせてくれ!」
「その前に。どうしたのこの店。」
「はっはっは!武具や防具を売り出したんだがな!それを聞きつけて各地から冒険者や武官どもが買いにきてどんどん売れてしまってな!客どもも入りきれないもんでしょうがない店を大きくしたんだ。」
なるほどね。まぁ~そうなるわな。伝説の鍛冶師が再び作ると聞けば飛んでくるだろう。
「繁盛でなりより。ところでジョイルさんに渡したいものがあってきたんだ。」
僕は師匠のペンダントをジョイルに渡した。
「これは・・・・・。」
僕たちはソファーに促され、座って、ゆっくりと話し始めた。
『天の塔』へ行ったこと。剣神ルネに会った事。弟子になった事。・・・・・そしてルネが息絶えた事。
ジョイルは黙って聞いていた。
「そうか・・・・・。逝ったか・・・・・。」
独り言の様にジョイルは呟く。
「ルネは・・・・・最後はどうだった?」
「うん。とても安らかな顔をしていたよ。」
「・・・・・レイ。お前が最後でほんとに良かった。あの男はな。常に高みを目指して突き進んでいた。弟子なんて絶対にとる男ではないんだが、レイだから弟子にしたんだろうな。・・・・・教えてくれてありがとう。」
ジョイルは優しい笑顔を向けた。
「ところで、何だそのボロボロの防具は!ちょっと見せてみろ!」
着ていたジョイルコートを渡した。
「どうやったら、こんなになるんだ!もうこの防具は使えんぞ。」
おそらく『天の塔』だろう。
一番の激戦だったもんなぁ。強い魔物とずっと戦ったせいでダメになってしまったか。でもこの防具あったからこそ助かった場面もいくつもあった。
ダメになっていたとは。残念だ。
ジョイルは白雪の防具のリーネは何とか修復できそうだと言った。
「でもどうするんだ。新しいの作るか?」
「あっ!そういえば、天界で特別な防具をもらったんだ。デザインが良くないから着てなかったけどジョイルさんちょっと見てくれる?」
そう言って、報酬でもらった『天の衣』を3着だした。
「おまっ!天界ぃぃぃぃぃ?それ、俺達も行った事がないおとぎ話にある世界だぞ!」
あら。そういえば現界で初めて到達したって言ってたっけ。
「ハハハ。まぁまぁ。あとでゆっくり話すから。」
「まったく・・・・・。」
ジョイルが『天の衣』を鑑定すると、目を見開いた。
「これは・・・・・。この防具はこの世界では絶対に作れんな。とりあえず着てみろ。」
「え~。でもデザインがぁ~。」
そうなのだ。貰ったのはいいが、格好が白いローブなのだ。やっぱり冒険者としてはもっとカッコいいのが良かった。
そこはこだわりがあった。
「いいから着ろ!」
ジョイルが三人に手渡す。
渋々僕は『天の衣』を着た。
・・・・・すると不思議な事が起こった。白のローブは着たと同時に形を変えていった。
全体は黒で、ポイントにホワイトやブルーのデザインが施されているコートだ。
なにこれ。カッコいい。
見ると同じように着た白雪は白と青を基調としたハーフコートに。ラフィンは動きやすい格闘系の格好へと変わっていた。
「これは・・・・・。」
「この防具はな。着るとその者の能力に合わせた防具になるって代物だ。しかも、この防御力は俺でもとうてい作ることは出来ないぞ。」
自分の防具を見てみた。
『天使の衣』レイ=フォックスver
防御力+500 速さ+300 状態異常完全無効
まじか。
こんなすごい代物だったとは。・・・・・たしか、エデン国が誇る最強防具とか言ってたな。
天界の王。こんな希少な物をポンとくれるなんて・・・・・しかも3人分。ありがとうございます。
「この防具があれば、俺の防具はお役御免だな。」
ジョイルはそう言って笑った。
その日の夜は、ジョイルと一緒に飲んで食べて再会を喜んだ。
帰りにジョイルは白雪が今まで使っていた防具。リーネを僕に渡した。
「レイ。旅の途中にもし、この防具と同じ名前の者に会う事があったら渡してほしい。なに。会えなかったらそのまま捨ててくれて構わないさ。」
「うん。分かったよ。」
ジョイルと手を振って別れた。
その後に、冒険者協会のシェリーさんに会いに行ったのだが、転勤になったと教えられた。
南の大国『ナイージャ』の冒険者協会へ行ったのだと。
大国への異動は、昇格扱いだと言っていた。
シェリーさんに会えないのは残念だったけど、栄転ならしょうがない。でも必ず会いに行こう。なんたって僕たちの担当者なんだから。
冒険者協会を出ると、『心の腕輪』が鳴った。執事のセメルトさんからだ。
聞くと、僕にお客様が来ているのだという。
僕にお客って誰だ?
「・・・・・分かりました。それじゃすぐに行きますので、待ってもらってください。」
「皆!帰るよ。」
僕たちがジョイルさんに会っている時、キリアだけ、一目散にルーンにある資料館に行って籠っていたので、首根っこを捕まえて帰還紙を使って家へと帰った。
☆☆☆
ジョイルはこの町の近くにある山の頂上にいた。
そこには慈愛に満ちた表情の女神像がたっている。
その裏手にまわり、座って景色を眺めて物思いにふけっていた。
・・・・・。
「皆。今日でこのパーティも解散だ。」
ルネは続ける。
「俺ももうすぐハイヒューマンとしての寿命がくる。だから最後に一人で挑戦したい事があるんだ。」
「おいおい。最後なら付き合うぞ。」
「だな。」
「そうね。」
3人が答える。
「いや。最後は俺一人でやりたいんだ。ジョイル。コイル。リーネ。皆もこれからは好きな事をやってくれ。今までありがとうな。」
ルネが行くのはおそらく『天の塔』だろう。今まで戦った魔物達よりはるかに強いと聞く。付き合わせたくなかったのだろう。
納得はいかなかったが、リーダーの気持ちをくんで、ルーン国のこの女神像の前で別れた。
100年程前の事であった。
・・・・・。
「勝手に行って、勝手に死にやがって。・・・・・でも、満足だったろうな。ルネ。」
レイを弟子にしたと聞いた時は不思議と納得してしまった。
おそらくレイ以外の者だったら弟子にしなかっただろう。
だからこそ、最後の最後に出会い、自分の技と想いを継ぐ事が出来たのは『天の塔』攻略よりも満足したことだろう。
「フッ。・・・・・俺もあと100年は生きてやる。これからは、俺がお前の弟子の行く末を見届けてやるよ。安心しな。」
ジョイルは景色を見ながら一人、酒を飲みだした。
あたかも隣にいる友と一緒に飲んでいるかのように。
☆☆☆
「えっ?」
帰還紙を使って家に帰ってみるとビックリした。
応接室で待っていたのは、何とロイージェさんだった。
あの未踏破ダンジョン『名もなき孤高の城』で戦った執事さんだ。
「ご無沙汰しております。レイ様。」
「ロイージェさん!久しぶりです!」
ロイージェと握手する。
「どうしたんですか?突然。・・・・・ところでケイトさんは元気ですか?」
「はい。我が主、ケイト様は変わらず元気でいらっしゃいます。」
「そうですか~。二人とも元気で良かったですよ。城の方は・・・・・。」
暫く雑談を楽しみ、話が落ち着いた時にロイージェは話始めた。
「ところで・・・・・。レイ様に会いに来たのは妹様の件で話がありまして。」
「!!! 妹??」
まさか妹の話が出るとは思わなかった。
ロイージェが言うには、たまたま通りかかった時に困っていた人が、僕の妹だったと。
しかもレベルが1で、何も知らなかった為、このままだと危険だと思い安全な場所まで送って行ったとの事。
「はぁ~。良かった。ありがとうございます。ロイージェさん。」
数日前に転移してから、一番気になっていた事だ。
「いえいえ。たまたまですから。」
「それで今、妹はどこへ?」
「はい。ピリカ国の学園都市『カラリナ』にいます。」
それを聞いて家の執事のセメルトが答える。
「レイ殿。学園都市『カラリナ』なら安全です。おそらくこの世界で一番安全と言っていいでしょう。」
「へぇ~。そうなんですか。ロイージェさん。何から何まで本当にありがとうございます!」
ロイージェは妹の話をすると、主を一人にあまりさせられないと、帰っていった。
妹が無事だった。
良かった。
たまたまとロイージェは言っていたが、おそらく嘘だろう。気をつかわせない為に言っているのが分かる。
ケイトさん。ロイージェさん。
ありがとう。
いつかちゃんとお礼を言わないとな。
これでルーン国でジョイルさんに会ってから、妹を探すつもりだったが場所が分かった。
次の目的は決まった。
妹を迎えに、学園都市『カラリナ』へ行こう。
たしか、南の大国『ナイージャ』と東の大国『アルメリア』の間にある小国だとロイージェは言っていた。
なら、行く途中に、シェリーさんにも会えるな!
「皆!」
白雪、ラフィン、キリアを呼んで次の旅の話を始めた。
☆☆☆
「ナイージャ国の入口です。まもなく着陸致します。」
あれから一週間たって、僕たちはアルク帝国から飛空艇に乗って南へと移動していた。
お金はかかるけど、地上からの移動と比べたら雲泥の差だ。こういった時はケチらずに使っていこうと思う。
とりあえず準備は整えた。
たしか学園都市はアイリが学んでいる所だ。
アルク帝国の皇帝に話をすると、喜んですぐに4人分の『1年の留学推薦書』をもらった。
これがあれば問題なく入学できるのだとか。
せっかく行くので、一度、ちゃんとこの世界の事。国や情勢。生活とか色々と学んでおこうと思った。
あまり長く滞在するつもりはないので、短期留学という形でお願いした。
しかし学生かぁ~。
もう一回やると思うとちょっと恥ずかしいな。
でも、いい経験になるだろう。
僕たちは、南の大国『ナイージャ』の国境の町サハリにきていた。
この町は意外と大きい。
そして国境といってもアルク帝国のように、壁で覆われているわけでもなく、普通に入れた。
町に入ってみると、あちこち人でごった返している。
すごい人だ。
露店のおばちゃんに聞くと、皆まずはここの町に寄るのだという。
この先は砂漠だ。
歩きは自殺行為なのだ。
移動手段は、この町で専用の馬車を借りるか、魔道車(電車)に乗るか2択しかなかった。
ナイージャの王とアルク帝国の皇帝は、仲が良かった。
アルク帝国の皇帝、ガイルズは友情の印に、魔道車をプレゼントし、この国境の町から砂漠を通り過ぎて首都『ナイラビ』まで行ける様にした。
だから皆、ナイージャの首都へ行く為にこの町サハリに寄るのだ。
僕たちは、色々な露店が建ち並ぶ通りで色々と買い物をしたり食べたりしながら魔道車へと乗った。
色んな国でめずらしい物を見たり、食べたりするのはとても楽しい。
これが、冒険や旅の醍醐味だね!
「うひょ~!きもち~~~!!でもあち~~!!」
魔道車(電車)の窓をあけて顔をだし、外の砂漠をながめながらはしゃいでいる。
さすが南の国。
暑い。
しかも砂漠だ。こんなの見たことないわ!
「私も私も!!アッハッハッハ!あち~~!!」
ラフィンが割り込んで一緒になってはしゃぐ。
「・・・・・私も。・・・・・あちいな。」
キリアがさらに間に割り込んで顔をだし、はしゃいでいる。
二人とも限界の世界は初めてだから、すべてが新鮮だろう。嬉しさが伝わってくる。
よかよか。
楽しそうでなによりだ。
そして一人冷静な白雪は美味しそうにアイスを食べていた。
しばらくはしゃぎながら楽しんでいると、ずっと先で砂煙がまっているのが見えた。
ん?
徐々に近づいてくると、様子が分かった。
砂漠専用の馬車が3台。その周りにこれまた砂漠専用の馬が数頭走っている。おそらく護衛だろう。
その後ろで、とても大きな魔獣が追っている。まだ遠いいが、でかい。おそらくゆうに8mはあるだろう。
すると、車内の定員が歩きながら大声で話始める。
「ただいま、この魔電車の数キロ先で魔獣に襲われている商団がいます。助けて頂ける冒険者はいらっしゃいませんか~!!」
車内はざわついている。
近くの冒険者らしいパーティ達から声がきこえる。
「おいおい。あれは無理だろ。」
「あれ。ガラクじゃないか?」
「ガラク~?たしかレベル100以上ある砂漠の化け物じゃね~か!」
騒いでいるが、誰一人、名乗り出る者はいなかった。
ゆっくりと立ち上がる。
「・・・・・行くの?」
白雪が尋ねる。
「そうだね。ちょっと軽い運動をしてくるよ。」
「私も行こうか?」
「まぁ。あれ位なら僕一人で大丈夫だよ。三人はゆっくり休んでてよ。」
「ん。分かった。」
「了解!」
「・・・・・うん。」
僕は手をあげた。
魔道車は、追われている商団を通り過ぎ、しばらく進んで停止した。
僕は、魔道車から降りて、商団が通る所まで歩く。
後ろで声が聞こえる。
「おいおい。一人?無理だろ。」
「死にに行くようなもんだ。」
近づいてくると、とてもでかい。
何というか、サソリをとてもでかくした感じだ。やっぱり8m以上はある。
商団が徐々に僕の方へと近づいてくる。
僕は剣をゆっくりと抜いた。
右手に持つ剣が徐々に青白く光をはなつ。
商団の馬車を引いている髭をはやしたおやじが大声をだす。
「おい!そこの青年!!逃げろ!!一人じゃ無理だ!!」
そう言いながら、僕の横を通り過ぎる。
他の護衛も後へと続く。
「ギィィィィィィィィ!!」
そしてガラクと呼ばれる魔獣が奇声をあげ、僕の方へともの凄い勢いで突進してくる。
青白く光っている剣を、ゆっくりと上段に構える。
「奥義。大斬。」
ザンッ!!!!!!!!!
振りぬくと、巨大な青白い斬撃がガラクを真っ二つに切り裂いた。
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