第42話 救出
「ふむ・・・・・こっちかな?」
今、僕たちは獣魔の国に来ていた。
街並みはヴァンパイアの町に比べるとお世辞にも綺麗とは言えなかった。それでいて治安も悪そうな感じだ。
獣魔人に変装しているためか、怪しまれる事なく普通に街並みを歩く事ができた。
天界の王が言うには、攫われたのは王女なのだが、一緒に護衛としてお供していた者も魔界へと潜り込んだらしい。
その者に助力をもらえるように、ビー玉の様な透明な玉をもらった。
これが赤くなればなるほど、その人が近いという事だった。
ヴァンパイアの国ではまだ透明だったのだが、この国に来てから徐々に赤くなっていった。
そして今はかなり赤い。
一軒の小さな飲み屋の前に、僕たちはいた。
ここかな?
僕は入口の扉をたたく。
しばらくすると扉が開き、一人の大柄な熊の獣魔人が現れた。
「すまないね。まだ昼だから準備中だ。夜に来てくれ。」
「・・・・・マキシさんですか?」
「!!・・・・・早く中へ入ってくれ。」
男は周りを見渡して僕たちを中へと入れた。
中を見ると小さな飲み屋といった感じだ。テーブルのある椅子に促され座っている.
「私の本当の名前を知っているという事は、あなた達は・・・・・。」
「はい。現界から来ました。僕はレイと言います。天界の王。そしてカイトに頼まれて王女を救出に来ました。」
!!
マキシは驚いた後に、目に涙を浮かべていた。
「そうですか。来てくれたんですね。ずっとこの時を待ってました。」
マキシは護衛として、現界で王女と一緒に旅をしていたが、人の格好をした魔物に騙されて魔界へと落ちたのだそうだ。
幸いだったのが、天界人は他の世界へ行くには、現界だろうと必ず浄化光石を身につけないといけなかった為、魔界へ行っても生きる事ができた。マキシは得意な術の1つに、変身ができる術を持っていたため、ここで獣魔人として情報を探って、いつか助けが来た時に行動を起こせるようにしていたのだという。
王女が捉えられているのは、獣魔王のいる城の右塔の最上階。
そして月に一回、各国の王が魔王と会談をするのが決まっていて、5日後がその日だった。
その日は1日中獣魔王は居ないため、救出をするならこの日がいいとマキシが教えてくれた。
「では、5日後の寝静まる夜に救出に向かおう。・・・・・ところでマキシさん。ここは飲み屋でいいんだよね?魔界のお酒って興味あったんだよね!もらえますか?」
「あ~僕も僕も!お腹空いてたんだよね~!」
ラフィンが便乗する。
緊張した面持ちのマキシだったが僕の言葉で肩の荷がおりたのか、笑って答える。
「ハッハッハ。任せてください。ここへきて美味しいお酒と料理の腕は鍛えましたからね。ゆっくり英気を養ってください。」
マキシさんと4人で他の情報も聞きながら食事とお酒を堪能させてもらった。
☆☆☆
町から3日かけて王女のいる城へとたどり着いた。
下見をした後、城下町の宿で1日休んで、決行の日を迎えていた。
今は城の城門の近くにいる。
「それではマキシさんはここで待機を。・・・・・じゃ、行くよ。」
「お気をつけて。」
マキシは城の外を警戒してもらう事にした。レベル的にもし戦闘になったら厳しいと思ったからだ。
「すみません~。僕、入りたいんだ~。」
「ん?小娘。今は夜だ。明日に・・・・・」
ガガン!
「がっ!」
ラフィンが一瞬で門番二人をボディブロー2発で気絶させた。
ラフィンは武器は使わず、素手で戦う格闘家だった。
しかも、相当強い。
流石、天竜の王女様といった所か。
「ラフィン。後は頼んだよ。」
「うん。任せて!」
ラフィンには入口で敵が来たら排除を頼んだ。
白雪が白い羽を広げ、僕を抱えて城内へと入っていった。
城の庭園で降りて、白雪が唱える。
「深い眠りの精。」
すると、霧の様な物が辺りを包み込んでいった・・・・・。
「レイ。今の私のレベルなら、おそらくこの城全ての獣魔に効くと思う。右の塔だけは対象を外しておいた。私はここで唱え続けるから、今の内に救出を。」
この間見たら、白雪のレベルが261だったのだ。これじゃ、天界の3大天将の一人、テイルさんより高い。あれ?僕の80%レベルなんだから、232じゃね?って思ったのだが・・・・・後でよく調べよう。
「分かった。じゃ白雪よろしくね。」
シュン。
僕は急いで、城へと入っていった。
白雪が言ったように、城の中も全ての獣魔人が眠りについていた。
すごいな。
右の塔まで難なく辿り着くと、入口に獣魔が2体。
構わず突き進もうとする僕に対して、剣を抜いて襲い掛かってくる・・・・・が、そのまま素通りした。
すると、僕の後ろから2体の倒れる音が聞こえてくる。
相手は切られた事すら分からないで死んでいた。
そのまま塔を駆け上ると、頑丈な鉄の扉があった。
「シッ!」
それを目にも止まらぬ速さで切る。
すると、鉄の扉がスライスの様に崩れ落ちた。
僕はゆっくりと部屋の中へと入っていった。
見渡すと、部屋の隅に小さなベットがあり、そこにうずくまる様に人がいた。
「・・・・・誰ですか?」
か細い声が響き渡る。
ドクン。
はっ。
ドクン・・・・・ドクン。
はっ。はっ。
落ち着けレイ。・・・・・・落ち着くんだ。
そこに横たわっていたのは、足を2本切られ、両目ともなくなっている女の子だった。
なんてことを!!
おそらく逃げられない様に、足を切りとったのだろう。
はっ。はっ。
胸を手でおさえる。
今は耐えろ!!・・・・・落ち着くんだ。
僕は血が出るほど唇をギュッと噛んで言葉を絞り出した。
「ふぅ~・・・・・。リョーカちゃんでいいのかな?僕はレイ。君のお父さんとカイトに頼まれて助けに来たんだ。」
「お父さんとお兄さん?・・・・・助けに来てくれたんですか?本当に?また騙しているのではなくて?」
リョーカは肩を震わせている。
僕はゆっくりと近づいてやさしく背中をかかえて抱きしめた。
「ああ。もう大丈夫だよ。帰ろう。」
頭を撫でながら声をかける。
「この匂いとこの感じは・・・・・本当に助けに来てくれたんですね!」
リョーカは僕の胸に顔を押し付けながら、目はなくても涙をながした。
「それじゃ、すぐにここを出るよ。いやかもしれないけど、しばらくは我慢してね。」
僕はリョーカをお姫様抱っこして、城外へと走っていった・・・・・。
城の庭園まで行くと白雪が魔法を行使していた。
「白雪!行くよ。」
「レイ!成功したのね。・・・・・この子が?」
白雪の顔が苦悶の表情に変わる。
「・・・・・とにかく行くよ。」
「うん。」
そのまま入口を守っているラフィンと警戒しているマキシと合流した。
「リョーカ様!」
「マキシ?・・・・・良かった。無事だったのね。」
「な、なんてお姿に・・・・・。リョーカ様・・・・・。ウッ。すみません。私が不甲斐ないばかりに・・・・・。」
マキシは茫然としていた。
「マキシさん。とにかくすぐに現界へ戻りましょう。リョーカちゃんの治療はそれからです。」
「わっ分かりました。」
城の前で帰還紙を取り出そうとすると、声が聞こえてきた。
「おい。そこの連中。」
見上げると、幻獣に乗った兵士達が僕たちの目の前に着陸した。
ざっと20人位か。
先頭にいる一回り大きい立派な鎧を着た獣魔人が睨みつけながら話す。
「王を送った帰りに見てみれば何している?お前が抱えている物は王のペットだろう。なに勝手に盗み出してるんだ?」
僕の表情が変わる。
「・・・・・物?・・・・・ペット?」
「将軍!さっさと捉えましょう。」
周りの獣魔人が先頭にいる将軍と呼ばれている獣魔に話している。
「捉える?王の物を盗んだ者は死刑さ。」
ニヤリと笑う。
「・・・・・皆。僕の後ろへ。」
マキシにリョーカを渡し、前に出る。
「悪いが、お前達にかまってられないんだ。すぐに終わりにするよ。」
剣を抜き、だらりと下げ、立ち尽くす。
「・・・・・奥義。ゾーン。」
「はっ。すぐに終わり?何言って・・。」
言った瞬間に首が飛んでいた。
「へっ?」
「なっ何が起きて・・・・・あっ」
他の者も同時に首がどんどんと飛んでいく。
「ちっ!」
バシュ!!
将軍と呼ばれている者が剣を取ろうとした瞬間に首が飛んでいた。
一瞬で20体もの死体が転がっていた。
「すごい・・・・・。」
ラフィンとマキシが唖然としている。
「さぁ。皆。僕の体にさわって。」
皆が掴んだのを確認すると僕は帰還紙を切った。
☆☆☆
すぐに、魔界の入口から限界へ戻り、帰還紙で僕たちの家へと戻った。
執事のセメルトが指示をだし、メイド長のリンやコウ達がテキパキと動く。
リョーカは客室のベットで手当てを受けていた。
白雪やラフィンが心配そうに見ている。
部屋の外ではマキシがうなだれて床に座っていた。
マキシは僕に気づくと、
「今回はありがとうございました。・・・・・でも、リョーカ様があんなお姿になってしまって。なんで守れなかったのか。うぅ・・・・・。」
「マキシさん・・・・・。」
言葉がみつからない。
僕はマキシの肩に手を置いた。
「大丈夫ですよ。助けます。」
「えっ?」
そう言って僕は客室へと入っていく。
メイドたちが看病している所へと近づと、
僕は黒い薬を取り出した。
それを見た白雪が何か言いたそうだったが黙っていた。
・・・・・分かっているよ。『奇跡の薬』はこれで最後だ。僕もラスト一本は取っておいて、仲間に何かあった時に使いたかった。白雪も同じ事を思ってるんだよね。ごめんね。
やさしくリョーカの背中に手をまわし、ゆっくりと起こす。
「リョーカちゃん。薬を飲んでくれるかな?」
手に薬を渡すと、リョーカはゆっくりと薬を飲んだ。
すると、目と足のない先が光だした。
みるみるうちに足が生えていく。
すごい!ここまでの薬とは。
光が消える頃には足は元通りに。そして真っ青な綺麗な目がそこにはあった。
「リョーカちゃん。どう?」
「・・・・・レイさん?・・・・・目が見えます。そして・・・・・えっ?足がある!」
リョーカとその周りにいるメイドたちは信じられない顔をしている。
「そうか。良かった。」
「レイさん!」
リョーカは僕に飛びついて抱きしめた。
「ありがとうございます!ありがとうございます!・・・・・うれしい!」
僕の首に手をまわしながら泣いている。
「・・・・・リョーカ様?」
マキシが茫然と立ち尽くしていた。
「マキシ!レイさんが治してくれたの!」
マキシはその場で大声をだして泣き崩れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます